世界中の情報に触れて、人生の視野に広がりを。
プログラマーが院進学、本に見い出した可能性。

厳選した書籍のハイライトを3,000字で紹介するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を運営する藤井さん。大学を卒業後、プログラマーとして仕事に充実した日々を過ごしながらも、ある違和感から退職を決意することに。ビジネスパーソンが本業以外にも前向きな興味を持つきっかけとなるサービスで起業を決めた背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

藤井 徳久

ふじい とくひさ|厳選した書籍のダイジェスト紹介サービス運営
厳選した書籍のハイライトを3,000字で紹介するサービス「SERENDIP」・3分で新刊本をサクっと知るためのアプリ「Quickreads」等を運営する株式会社情報工場の代表取締役を務める。

ゼミに入らずインターンに没頭、好奇心をかきたてる世界に浸った大学生活


私は東京都目黒区に生まれ育ち、小さな頃から興味関心の幅が広く、色々なものを調べることが好きな性格でした。小学校の社会のレポートでは、友達と一緒に歴史上の人物をA4で1枚×100人分作って提出してみたり、商店街の看板の写真と売っている商品をまとめたレポートを自由研究としたこともありました。じっくり深くというより、色々なことをつまんでいくことが好きだったんです。逆に、同じことを人が始めてしまうと、次の新しいことを探すようなタイプでしたね。

その後、高校生になってからは部活で陸上に打ち込んだり、コンピューターへの関心から自作のPCを作ってプログラミングをしてみたり、好きなことに打ち込んで過ごし、卒業後は何となくの関心から慶應義塾大学の経済学部に内部進学で進みました。

大学では、授業は最低限やってサークルやバイトに打ち込む日々。時間はあったので、相変わらずコンピューターをいじっていましたね。たくさんあるパーツの中から選んで組み立て、動かすというプロセスに面白さを感じていました。

その後、大学3年生になると、個人的に興味を持った株式投資の勉強会に参加するようになりました。ちょうど、個人投資家と呼ばれる人々が現れ始めた時期で、経済学部で学んだ授業の延長からも関心を持つようになったんです。そのままのめり込むように米系投資顧問会社でインターンのアナリストとして働くようになりました。

それ以来、大学3・4年はとにかくインターンに没頭して過ごしました。主に投資のための情報のリサーチ業務を担当していたのですが、ビジネスを何も分かっていない学生の身分ながら、様々な会社の経営層にヒアリングのためにお会いでき、本当に貴重な勉強をさせていただきました。大学の授業よりも、より実社会に即したことを学ぶことができ、充実していましたね。

そして、あまりに楽しい日々だったため、大学ではゼミに入らず、インターン一本に集中するようになったんです。本来ならゼミで出会うようなOB・OGの先輩が出来ず、自分にとっての先輩は勉強会やインターン先の社会人の方でした。なんだか、自ら判断し選択をしたことで、これまでの延長線上にない新しい世界に足を踏み入れたような感覚でした。

プログラマー就職を経て大学院進学へ


就職活動の時期を迎えると、日経平均が1万円を割るような不景気だったこともあり、どんな業界・規模の会社に行こうというよりは、自分がやりたいことをしようというのが基準に近かったです。特に、インターンながらアナリストとして大企業の内部を見ていたこともあり、日本の大企業に対し、思うところもありました。

また、卒業後も金融アナリストの仕事を行うという選択肢もあったのですが、ずっと他社の分析を続けて来たからこそ、今度は自分が当事者で何かをしたいという感覚もあったんです。良い会社を見つけるたびにもっと主体的に事業に携わりたいという気持ちが強くなりました。

そんな背景から、改めて自分のやりたいことを見つめ直した結果、「アナリストにならないならプログラマーになろう」とすぐに決心がつきました。これからはプログラミングの知識があることがビジネスパーソンに不可欠になるだろうと思っていたこと、また、もともと技術に関心があったことから、自ら手を動かしてプログラミングができるところに行こう、と。迷いは無かったですね。そして、法人向けのシステム開発を行うソラン株式会社(現:TIS株式会社)に入社を決めました。

実際にプラグラマーとして働き始めてからは、金融機関の仕組みを作るプロジェクトに携わるようになり、システムの設計をして実際に開発をして運用をしてと、一連の流れを任せてもらい、非常に充実していました。規模の大きなシステムにも携わらせてもらい、とても恵まれた社会人生活を送ることができました。

ところが、そんな生活を2年ほど送るとある違和感を持つようになったんです。社内で新しい提案を企画しなければいけないことがあったのですが、その時にまるで何もアイデアが浮かばなかったんですよね。以前まではむしろアイデアが良く浮かんでくるタイプだったのでショックでした。プログラマーの生活は残業続きで、気づけばテレビも見ていないし、友達にも会っていない、もちろん本を読んでいないという生活になっていたため、気づけば自分の中にインプットされた蓄積がなくなっていたんです。最初は「あれ?」と違和感を抱くだけだったのが、すぐに危機感に変わっていきました。

そこで、このまま専門職で突き詰めていくのかどうかを考えた結果、どうせならもう一度大学に入って勉強をしたいと考えるようになりました。せっかくだからそれまでとは異なる理系の学部に進学して、新しい分野について学んでみようと。加えて、どうせなら新しい学校に行ってみたいという関心も重なり、会社を退職し、東京工科大学大学院のバイオ・情報メディア研究科のアントレプレナー専攻に、第一期生として入学を決めました。

書籍のダイジェスト紹介に感じた可能性


大学院では、アントレプレナー専攻という、技術を用いたビジネススクールのような学科に所属していたため、バイオやITから経営の話まで、気が多い私にはぴったりの環境でした。

すると、大学院に通ううちにある客員教授の方と仲良くさせていただくようになり、その方が行っている本を紹介する活動に関心を持ち始めました。具体的には、その教授が選んだ書籍について、「ダイジェスト版」というA4で2・3枚の文章にまとめて紹介するようなものだったのですが、読み手にとっては自分が知らなかった分野に関心を持つキッカケになるし、本の売り手としても、新しい販売プロモーションの手法として有効なんじゃないかと感じたんです。私自身、視野が狭くなってしまう危機感で退職していたからこそ、新しいことに関心を持ち、視野を広げる手段として書籍の紹介を行うことに、非常に魅力を感じるようになりました。

そこで、入学して半年ほど経った25歳のタイミングで株式会社情報工場という会社を立ち上げ、メールで週に3冊新しい書籍を紹介するサービスを開始しました。特に、書評でも要約でもなく、「ダイジェスト」を届けるという点にこだわりをもってサービスを設計しました。例えば、書評を紹介することで本を読もうという気づきにはつながるものの、誰かが主観的に書いた文章なので、実際に本を手に取るとギャップを感じてしまうこともあります。また、要約にした場合、その分野に詳しい人であればあらすじを読むと、今までの自分の知識を踏まえて効率よく理解することができますが、その分野の素人には、背景もわからないので関心を持つことができない恐れがありました。そうではなく、本業以外の分野に対しても興味を持つきっかけを提供したいと思ったんです。一度興味をもてば、その情報に対するアンテナが立ち、自然と目にする情報量が増え、多くのインプットが得られます。自分の今までの経験・知識と、それだけではカバーしきれない他の分野についての新たな情報がミックスされた時に、新しい発想が生まれるのだという思いがあったんですよね。それには、あらすじを追うのではなく、その分野に詳しくない人でも「へぇー!」と思える部分を集中して伝えることが有効だと思い、ダイジェストでは、冒頭の簡単な要旨と末尾の編集部のコメント以外のメイン部分は書籍本文からの抜粋としています。イメージしているのは本屋の店頭でパラパラ読むような体験で、「面白そうだ」という気づきを得るために最も効果的な作りになるよう意識しました。例えて言うならば、映画の予告編に近いかもしれません。

思い立っての学生起業でしたが、不安や迷いはありませんでしたね。部活やコンピューターに打ち込むのと同じように、ひたすら熱中するような感覚でした。そして、在学中はアナリストの副業もしていたのですが、2007年に卒業するタイミングで、会社一本でやっていくことを決めたんです。

世界中の良書を全世界に届けるプラットフォームに


今年で会社は10年を迎え、これまで以上に、社会に「イノベーション」や「発想力」が謳われるようになった実感がありながらも、本業に時間を取られ、本業に関係のない情報収集に時間を割くのが難しいのも現状です。だからこそ、本業以外にも前向きな興味を持つためのキッカケとして身近な手段である本の紹介を幅広い分野で行うことの意義は大きくなっていると感じています。

また、出版不況とはいえ、日本では一週間に1000冊以上が出版され、いざ気が向いた時に、どんな本を読んだらいいか分からないこともあります。本屋に並んでいない良書はたくさんあるので、売れていなくても価値があるものを発掘し、付加価値の高い加工をしてお届けすることが出来れば、それはとても意味が大きいんじゃないかと思うんです。

そんな背景から、現在は「SERENDIP(セレンディップ)」という、厳選した書籍のハイライトを3000字で紹介するサービスを、個人・法人のお客様に提供しています。特に、「本当に良い本」を選ぶための仕組みについてはこの10年来、試行錯誤を繰り返しており、20代から60代までの社内のメンバーが発掘作業を行うのに加え、クライアントである各業界のエグゼクティブ層からオススメの本を聞いて周ることも行っています。売れていないけれど、ある業界では必読書になっていたり、局地的に流行っているマニアックなものを、現役のビジネスパーソンの声をもとに収集しているんです。直近では、出版社からの献本も増えており、それらを毎週行っている編集会議で議論して決めています。

ご利用いただいている方は企業の管理職の方が多く、海外赴任している方が日本の情報のキャッチアップのために導入するケースもあれば、営業の方がより付加価値を高めるために情報収集の一環として導入していただけるケースもあります。要約ではなくダイジェストにお金を支払う層ということもあり、情報をもとにご自身で考えることを積極的に行う方が多いですね。

導入にいたるチャネルで多いのは、ある部署が導入したら好評で、そこから横の部署に口コミで広がっていくものです。ちなみに導入の意思決定をしていただいた担当の方々はその後社内でもステップアップされていく傾向にあります。ある種、導入前に費用対効果を数値化しにくい部分がありながらも、「これは大切だ」と周りを説得し、周りの方も納得してしまう力を持った方がSERENDIPを導入してくださることが多いのかもしれません。

また、直近では、書店の平棚に並んでいる本を手軽にチェックしたいという方に向けたエントリーサービスとして、「Quickreads(クイックリーズ)」という、3分で新刊本をサクっと知るためのアプリも提供しています。

正直、独立後は資金面を中心に苦労する点が多かったですが、ある点を越えてからは、最近では倍増ベースで事業が伸びており、手応えも感じています。書店とコラボレーションした棚では売上が常時の2.2倍を超える反響もありました。

今後は、国を超えて書籍ダイジェストを配信する領域にも進出し、世界中の良書が世界中の人に紹介できるようなプラットフォームを築いていきたいですね。そういったサービスを通じて、たくさんの人が人生をより豊かにするお手伝いができればと考えています。

2015.07.14

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