かっこいい教師を増やし日本の教育を変えたい!
世界で一番働きたいと言われる「教室」とは。

アメリカで理想の就職先1位にも選ばれる「Teach For America(ティーチ・フォー・アメリカ)」の日本版「Teach For Japan(ティーチ・フォー・ジャパン)」を20代で立ち上げた松田さん。中学生の頃より教師を目指し、日本の教育をより良いものに変えたいと志を掲げる背景には、どんな体験があったのか。「子どもがなりたい職業1位を教師にしたい」と語る松田さんにお話を伺いました。

松田 悠介

まつだ ゆうすけ|次世代教育のため、日本の教育を良くする
Teach For Japan創設者 / 代表理事 / CEO(最高経営責任者)
日経ビジネス「今年の主役100人」(2014年)に選出。世界経済会議(ダボス会議) Global Shapers Community 選出。 経済産業省「キャリア教育の内容の充実と普及に関する調査委員会」委員。奈良県奈良市「奈良市総合計画審議会」委員、「奈良市教育振興戦略会議」委員。共愛学園前橋国際大学「グローバル人材育成推進事業」外部評価委員。京都大学特任准教授。著書に「グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」(ダイヤモンド社)」。

どこまでも生徒と向き合ってくれる 先生との出会い


私は千葉県で生まれ、東京で育ちました。小学校では同級生からいじめを受けたこともあり、中学校は中高一貫の私立学校に進学。中学校では、もう絶対にいじめられたくないと思っていました。

ただ、入学直後の定期テストから成績は最下位。身体が小さく、運動もできなかったからか、徐々にからかわれ、いじめられるようになってしまいました。そして、2年生になると本格的に暴力を振るわれるつらい日々を送るようになりました。

いじめっ子に立ち向かうこともできず、学校に行きたくないどころか、この世から消えてしまいたいと思うことさえありました。

しかし、ある時、所属していた陸上部の顧問の先生に、「いじめは、いじめる方が絶対に悪いし、先生も許せないと思う。でも、どうしたらいじめられなくなるか、自分にできることはないかということも、先生と一緒に考えてみようよ」と言われたんです。

この時、自分のことを見てくれて、親身になってくれる人がいることに、私は素直に嬉しい気持ちになりました。


先生はいじめが解決できるように、私の気持ちに寄り添い、実際につきっきりになって話を聞いてくれました。また、これから何をしていくとよいかについて指導をしてくれました。いじめっ子に対して毅然と振舞うことや、そう振る舞えるように自分に自信を持てるようになること。そのために、体力を付け、学力を付けていくことなどです。

先生の指導のおかげで、いつしか、私へのいじめはなくなっていきました。また、自分に自信が持てるようになり、それまでは正直苦痛でさえあった学校生活に対して前向きになることができたのです。

そして、私は教師になることを決意しました。自分も教師になって、あの先生のように、周りが気づかないところで苦しんでいる生徒を助けられるようになりたい、と。

苦手だった体育も、その先生のおかげで好きになることができました。しかし他方では、先生によって嫌いになってしまう教科もありました。こうしたことから、教師という存在の重要性を実感していたんです。

子どもの過去から未来を引き出す教育


こうして、体育教師になるために、大学進学を目指すことにしました。とはいえ、成績は高校3年生の夏時点で、学年の中では「下の上」くらいでした。

そこで、3ヶ月間、起きている時間はほぼ勉強していたといっても良いほど死に物狂いで勉強することで、最終的には日本大学の文理学部に進学しました。

大学の学費は自分で払うと決めていた私は、大学で学ぶ時間を少しでも無駄にはしたくないと思っていたので、毎日図書館にこもって勉強していました。

その一方で、母子家庭の子ども向けの無料の学習塾も立ち上げました。ただ、複雑な家庭で育った子どもたちは自己肯定感が低く、何のために勉強するのか意味を見出せない子ばかりでした。そこで、勉強を教えるのではなく、勉強に対するモチベーションを高めてもらうことが大事だと思い、最初はひたすら子どもたちと向き合って、話すことから始めました。「夢を明確にして、そのために勉強しようと思ってもらおう」と。

いきなり「将来の夢」を聞いても出できませんが、これまでどんなことが楽しかったか、感情はどんな時に動いたのか、過去を深く掘り下げることで、一緒になって、その子どもの将来の方向性を見つけていきました。目標ができると、目の前の勉強も意味付けることができ、ようやくやる気が出るんです。

学習塾では、学校の「外」で教育に関わることで子どもが変わる瞬間を感じられ素敵な仕事だなと思いました。ただ、私はあくまで学校の教師になることにこだわっていました。学習塾では、たまたまその子たちに出会ったから機会を提供できたけど、本来それは義務教育の中で行うべきだと考えていたんです。





理想の学校を作るために留学を決意する


大学卒業後は、夢が叶って体育教師に。都内の中高一貫校で働き始め、充実した生活を送っていました。常に生徒のことを考え、生徒に何をすればよいかということばかり考えていました。

ただ、そんな私は、周囲からすると「熱すぎる教師」だったのか、同僚から「私は松田くんのようにはできないよ」と言われることもありました。もちろん、色々な考え方があり、全ての教師が私のように「熱さ」を全面に出す必要がないと思いつつも、私は本当に暑苦しい男だったので(笑)、「すべての教師が、200%の情熱を持って子どもたちの教育に臨めれば、どれだけ素晴らしいだろうか」と考えていたんです。

そして、どうすればそんな教師を増やせるか考えた時、「共感してもらえる人を集めて、理想の学校を自分の手でゼロからつくり上げていきたい」と思ったのです。先生たちの情熱が常に絶えない学校をつくっていこう、と。

そのためには、学校内でのリーダーシップやマネジメントを学ぶ必要があると感じました。学校内には、「教諭」という現場の教師か、何十人もマネジメントする「校長」や「教頭」などの管理職のどちらかしかなく、マネジメントを段階的に学べる環境ではありませんでした。そして、国内には学校組織の運営について専門で学べる場所はほとんどなかったので、ハーバード教育大学院を目指すことにしたんです。

そして寝る間も惜しんで受験勉強をし、希望の大学院に留学できることが決まり、2年ほどで教師を辞めることにしました。その後、留学準備期間に知り合いからご縁をもらい、教育委員会で数ヶ月間働いた後、2008年9月、25歳でハーバード教育大学院に進学しました。





Teach For Americaとの出会い


大学院では、「教育の本質とは何か」を学ぶことができました。そこでは「何かを教える」のではなく「学びの場を作る」ことを目的としていて、入試の段階から仕組みが違うんです。科学的な分析から、価値観の違いによって議論や学びが生まれると証明されているので、あえて異なる意見を持つ人が同じクラスに入るように設計されていました。

私自身、入試では合格点を大きく下回っていたのですが(笑)、持ち合わせている背景や、教育に対する問題意識や考え方が、議論の場で価値を発揮しそうだと評価されて合格することができました。

授業でも、「宿題」として課された論文は、事前に全て読み込んだ上で議論していきます。大学院は、論を「知る」のではなく、自分なりの論を「作る」ための場だったんです。

また、何よりハーバードでは、アメリカで有名な教育NPO「Teach For America(ティーチ・フォー・アメリカ、以下TFA)」の創設者であるウェンディ・コップの講演を聞き、衝撃を受けました。

TFAは教育格差を無くすことをミッションに掲げ、大学を卒業した優秀な人材を、教育が十分に機能していない貧困地域などの学校に2年間教師として派遣するプログラムでした。2年間の間に現場で問題解決能力を磨かれるので、内定を出してから2年間待つ大企業も少なくなく、全米の文系大学生の就職希望ランキングでもGoogleや投資銀行を抜いて1位に選ばれる年もあるほどでした。

このプログラムを聞いた時、まさに自分が理想としていた教育と完全に一致していたんです。私は学校単位で教育を変えようと考えていましたが、社会の仕組み単位で変化を起こしていることに正直驚きもありました。そして、日本でもこの仕組を取り入れたいと考え、どうすれば導入できるかを調べることにしました。

しかし、日本で寄付文化が未だ充分ではないため、お金を集めることは難しい。しかも、新卒採用の仕組みがあるので学生も卒業時にプログラムへ参加しづらく、また教員免許や採用試験の仕組みがアメリカとは決定的に違うことも分かっていました。そのため、この仕組みは「日本では導入できない」と結論付けることになりました。

課題さえ乗り越えれば実現できると考えるように


しかし、学校に視察に行った時に目の当たりにした、現場の教師と子どもの姿が頭に焼き付いて忘れられませんでした。むしろ、お金、人、仕組み、この課題を乗り越えられさえしたら日本でも実現できると考えるようになっていったんです。

「できない」理由をたくさん挙げたり、それを理論的に説明しても意味がない。「できる」と思うかどうかは自分次第で、「やる」ための方法を考えよう、と。

1年で大学院を卒業して帰国した後、今度はビジネスの現場で実践力をつけるため、経営コンサルティング会社に入ることにしました。同時に、Teach For Japan準備会を立ち上げ、土日は同じ志を持つ仲間と準備を始めました。

会社での仕事は充実していましたが、いつしか、平日の5日間よりも週末の方を楽しみにしている自分、そして、平日も週末も関係なくTeach For Japanについて考えたいと思うようになっている自分に気がついてしまったのです。

それだったら自分の挑戦を始め、試行錯誤しながら力をつけていけばいいんだと思い、思い切って1年ほどで会社を辞め、Teach For Japanの準備に専念することにしたんです。

そして紆余曲折を経て2011年にパイロットプログラムを開始し、2013年には「Next Teacher Program」の1期生を、学校の現場に送り出すことができました。

プログラムでは学校に入って1年目は何が課題か見つけるための期間で、2年目にそこで見つけた課題解決に取り組んでもらいます。「施し」のような教育をするのではなく、その子どもたちが10年後に、経済的にも人間的にも自立するための基礎を築ける教育になっているのか、厳しく確認しています。

「教師」の仕事の素晴らしさをもっと発信していきたい


2015年4月には、1期生はプログラムを終え、2期生は2年目、そして新たに3期生が現場に入っていきました。実際にプログラムを始めたからこそ見えてきたことは少なくありません。

元々は、社会がこれだけのスピードで変わっているのに、教育は旧態依然として変わっていないと、私自身が現場について少し批判的に考えていたのも事実です。しかし、これは猛省せねばなりません。決してそうではないということに気づかされたからです。

日本の学校教育は、諸外国と比べて優れたところがたくさんあります。その良い点をきちんと残しながら、変えるべきところだけを変えていくようにしないとなりません。教育現場には、多くの素晴らしい先生方がいますし、世界的に見ても、日本の先生方のレベルは非常に高いと思います。現場の教師と一緒になっていけば、必ず日本の教育は変えられると確信を持てました。

今後、このプログラムで得た効果を着実に測定し、失敗を次に活かすことで、教師が学び続けられる仕組みをつくれたらと思います。そして、教師育成の仕組みはTeach For Japan内に留まらせるだけでなく、教員養成や教師の研修体系など、様々な育成の現場に転用していけるようにしていきたい。

近年、教師は不祥事が多く取り上げられ、ネガティブなイメージを持たれることは少なくありません。ただ、それは決して全体を反映しているわけではなく、99%以上の教師は、毎日、私たちの頭が下がるほどの努力をされ、真剣に子どもたちに向き合われています。

だからこそ私は、教師という仕事の魅力を伝える活動にも注力していきたいんです。近い将来、教師という仕事を、子どもたちが将来なりたい職業でも、大学生の就職人気ランキングでも1位にしたい。そう思っています。

そして、より多くの人が教師になりたいと思い、多様な経歴と教育への強い情熱を兼ね備えた教師が増え、その多様さを生かした教育が日本のあちこちで行われている。そんな未来をつくっていきたいと思います。Teach For Japanはまだ小さな組織で、ほんの一歩を踏み出したにすぎないですが、これからも、そのために歩んでいきます。

2015.05.07

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