科学と社会を繋ぎ、どこまでも遠くへ。
宇宙を彩る「人工流れ星」に込めた思い。
好きな時に好きな場所で流れ星を見ることができる、「人工流れ星」を作るプロジェクト「STAR-ALE」を運営する岡島さん。宇宙と研究者に憧れて天文学の博士課程まで進学するものの、進路を一転、新卒ではゴールドマン・サックスへ。「科学と社会を繋ぐ」というミッションで流れ星を作る事業をスタートするまでには、どのような思いがあったのでしょうか?
岡島 礼奈
おかじま れな|人工の流れ星を作る
好きな時に好きな場所で流れ星を見ることができる、「人工流れ星」を作るプロジェクト「STAR-ALE」を運営する株式会社ALEの代表取締役を務める。
※本チャンネルは、TBSテレビ「夢の扉+」の協力でお届けしました。
TBSテレビ「夢の扉+」で、岡島 礼奈さんの活動に密着したドキュメンタリーが、
2015年11月22日(日)18時30分から放送されます。
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「研究者に向いていない」という気付きと、ビジネスへの手応え
私は鳥取県鳥取市に生まれました。父は会社員、母は専業主婦という家庭でしたが、小さい頃から研究者への憧れを強く抱いており、アインシュタインやホーキングがすごく好きな子どもでした。研究者が一番カッコいいと思っていたんです。
特に、小学生の頃に「相対性理論」の漫画で宇宙に関心を持ち、中学生になりホーキングの量子宇宙論が流行っていたことで、一層興味を深めていきました。ブラックホールやビッグバン等に面白さを感じるのはもちろんのこと、価値観は時代によって変わり、人に付随するものは移り変わっていくのに対し、自然科学の法則はどこでも通用することが良かったんです。物事の本質に神秘性を感じ、好奇心をもとに真理を探究していく性格でしたね。
その後、高校の卒業を控えると、宇宙論の先生が登壇するということで参加した数学オリンピックのセミナーで東京大学のお兄さんお姉さんに出会い、勉強をする環境や研究予算の比率について話を聞くことで関心を持ち、結果的には一浪はしたものの東京大学に進学することができました。
しかし、実際に入学してみると、周りは頭がいい人ばかり。私は成績がすごく悪く、留年すら危惧しており、志望していた天文学科に進むには到底及ばぬ状況でした。
ところが、なんと私が専攻を決める年だけ何故か天文学科が定員割れを起こし、本来であれば進めない成績の私も入れることになったんです。運良く研究室に潜り込んだような感覚でしたね。
とはいえ、やはり周りは頭が良く、ますます落ちこぼれていく日々。特に、学会に行ってご飯を食べていてもみんな研究の話をしているようなタイプで、研究は面白く感じながらも、自分は研究者に向いていないなと感じてしまいました。周りの友人を心から尊敬するものの、私は寝食を忘れられない。その時点でダメだと。
ただ、一方で、研究者が研究に打ち込むためのお金を持ってくることには向いているかもしれないという感覚もありました。というのも、大学生になって家庭教師のバイトを始めるも、それよりも家庭教師を派遣する方が儲かると思い、友人と家庭教師の派遣ビジネスを起こしていたんです。時間を売るルーティーン的な仕事が本当に苦痛で向いておらず、仕組みを作る側のほうが楽しさを感じるという部分もありました。結局、その事業はうまくいかなかったものの、企業からプログラミングの仕事をいただくようになり、IT方面に舵を切ると、大学生の片手間ながら売上が1億円規模になっていきました。なんとかできるかなという成功体験でしたね。
また、私の研究室の指導教官が、数十億の寄付金を募って望遠鏡を作るような方で、その先生の影響も受けていました。研究者は研究だけしているわけではないのか、と驚いたのですが、一方、研究環境を整えることにも力を割かねばならないことにもったいなさも感じていました。天文学はお金をかけると成果に繋がる側面もあるため、遠い将来、基礎科学に還元するお金を持ってくることができたら、と考えるようになっていったんです。
流れ星を人工的に作ってみたい
そんな大学生活を過ごしていたある時、2001年の獅子座流星群、2002年のペルセウス流星群と、続けて流星群が地球に接近する機会がありました。そこで、最初は同じ天文学科の同級生と千葉で、翌年は高校の友達と地元鳥取に星を見に行ったんです。
実は天文学科に進みながらも、物理学への関心から入っているので、星座などについては全く知識もなく、星を見に行くのも初めての経験でした。しかし、実際に見てみると、すごく綺麗に見えたこともあり、とても感動しました。「うわー!」としか言いようが無い感覚でした。
そこで、興味本位から、天文学科の友人に流星群の仕組みを聞いてみると、宇宙空間にある数ミリから数センチ程度のチリの粒が地球の大気に飛び込み、激しく衝突することで気化して光を放つという説明をされたんです。その話を聞いて、「チリが原因なら、人工的にできるんじゃないの」と感じました。人工で流れ星を流せるなんてすごく面白い、やってみたいと。そんな風に盛り上がりつつも、そのままなんとなく話は妄想で終わってしまい、自分の中にとどめることになりました。
その後、天文学を研究しながらビジネスをしてという居心地の良さから、大学院の博士課程までは迷い無く進学したものの、そこまでいくと、やはり研究者に対する諦めの気持ちは強くなっていきました。かといって、就職についても具体的なイメージは持てていなかったのですが、知人からゴールドマン・サックスが人を募集しているという話を聞き、次第に関心を持つようになりました。
私が興味を持ったのは、戦略投資部という部署で、一般には「ハゲタカ」としても知られているものの、実際は様々な会社に投資をし、役員として中に入ることもしながら事業を立て直す仕事でした。元々、3年くらい働いて貯金を資本にして、何か理系の題材で実業をしたと考えており、さらには、その実業で成した資本をもとに、長期的には研究者向けのファンドを作りたいという思いがありました。そのため、ここにいたら起業するのにも、ファンドを作るのにも役に立つという手応えがあったんです。
そんな背景から、28歳のタイミングでゴールドマン・サックスへの就職を決めました。
キャリアに摸索しながらも、出産を機に独立を決意
実際に新卒で働き始めると、大学院との環境の変化が大きかったですね。天文学の研究は早くても5年から10年で結果を出すのに対し、飛び込んだのは3ヶ月で結果を出す世界、非常に大変でした。また、性格的にサラリーマンが向いていないことも再認識しました。睡眠時間が少ないのは大学院の論文前も同じなのですが、作業系の仕事になるとミスも多く、あまりうまく価値を提供できない日々が続きました。
そんな折、入社してから1年経たぬうちにリーマンショックが金融業界を直撃。マーケットが冷え込み、結局1年で退職することになりました。その話を聞いて、「これでずっと寝られる」とほっとした部分はありつつ、どうしようという不安もありましたね。
それからは転職活動に苦労する日々が続きました。博士課程まで進学して勤務歴は1年間のみ、学生時代のビジネス経験は履歴書に書いても評価してもらえず、30歳という年齢もあり、エントリーシート落ちも多数経験しました。ドクターを取ったのは間違いだったかなと思うことすらありましたね。その後、結果的には仲間と一緒に自ら会社を立ち上げることに決めました。
新しく立ち上げた会社はエルエス・パートナーズ株式会社という、日本企業の新興国進出コンサルティングを行う会社で、私は副社長としてゼロからイチを作っていく部分に注力しました。個人的に英語で仕事をする経験を積みたいと考えていたことに加え、やはり仕組みを作る仕事のほうが向いている感覚がありました。
また、ゴールドマン・サックスを退職してから、少し時間ができたこともあり、以前からやりたいと思いながら手を付けられてなかった「流れ星」のプロジェクトも始めることにしました。自分たちで立ち上げた会社ということもあり、働き方は以前より自由になっていたので、95%は本業に、残りの5%で少しずつ進めていきました。
すると、2年ほど働いた32歳のタイミングで、結婚した夫の間に子どもを授かったことが分かりました。そこで、これから動けなくなるかもしれないと思い、先に会社だけ作ることに決めたんです。人工流れ星をビジネスとして行う会社、株式会社ALEを登記しました。
その後、無事出産を終えて職場に復帰したのですが、新興国進出の業務でインドの案件が多く、時差の兼ね合いもあり、子どもを預ける働き方とも段々マッチしなくなっていきました。そんな背景から、これは好きなことをやらなければいけないなという思いもあり、ALE一本に注力をすることに決め、32歳で退職・独立を決めました。
科学と社会・研究とビジネスの両輪でより遠くまで行きたい
実際に退職して一本に絞ってみると、なんだか運気が変わっていくような感覚がありました。メンバーや環境に恵まれ、自分の好きなことをやっていると人が集まってくるんだなという引力のようなものを感じましたね。
現在は、好きな時に好きな場所で流れ星を見ることができる、人工流れ星を作る「STAR-ALE」というプロジェクトを運営しています。具体的には、人工衛星の中に流れ星のもとになる粒を千個ほど詰め込み、衛星が一定の軌道で回転している間に、注文があった時に大気圏に放出します。時間や場所を正確に放出する仕組みづくりに注力しており、1粒の流れ星から沢山の流星群まで、上空70〜80キロで光り輝きます。
まずは一つの人工衛星でサービスを始める予定です。仕組み上、人工衛星の軌道に併せて注文を受けるため、どの場所をいつ通過するかは時刻表のように決まってしまいますが、衛星自体が複数になっていくことで、時間も場所も問わずに流れ星を見ることができる環境を目指しています。
利用者としては、最初は法人利用を想定しており、特に観光に注力している政府に、世界規模でヒアリングを行っています。当日の天候も重要な要素となるため、相性の良さそうな地域のプロモーション利用から提案していく予定です。また、炎色反応を生かして色も付けられるので、大規模なスポーツ大会やフェス等のイベントも相性が良いのではないかと考えています。
元々は、宇宙システム関連の専門家の方や、メカニック周りの専門家の方、流れ星専門の研究者の方等、技術チームから作っていき、現在は研究の実用化を進めつつ事業化も進めています。来年にはエンジニアリングモデル(試作機)を作り、2017年には1号機の打ち上げ、2018年にはサービス開始を目指しています。それからは2号機・3号機とどんどん数を増やしていければと考えています。
やはり、「4つも5つも続いている流れ星を見たい!」という純粋な好奇心が強いですし、大きなテーマとしては、天文学とビジネスを繋ぐことで、科学と社会を繋ぐことができればと考えているんです。
実は、人工で流れ星を作ることは理学的な意味も大きいんですよね。天然の流れ星についてもよくわかっていないことが多いため、物差しができることで研究の進展につながりますし、流れ星の発生元である小惑星帯の物質について分かると、今度は太陽系自体を紐解いていくことにも繋がるんです。大げさに聞こえるかもしれませんが、人類の起源を知ることにつながる可能性もあると思うんです。実際に、現在の実験室レベルでも今まで分からなかったものが見つかることなどもあり、事業のプロセスでアカデミックに貢献し、アウトプットのビジネスで社会に貢献するという両輪を回していきたいと考えています。一度は後悔したこともあったものの、今では博士課程まで行ってよかったなと思います。
天文学の用語で、地球から発射されたロケット等が、他の惑星の引力を借りて加速したり減速したりして遠くに運ばれることを「スイングバイ」と呼びます。私は、会社についてもまさに同じだと考えていて、流れ星プロジェクトの引力でたくさんの人が集まり、そのまま色々な事業にスイングバイしていくのも面白いし、この引力をいかして長期的に個人でスピンアウトしていくのも良いと思うんです。会社としては、色々な惑星がある中の一つが流れ星。様々なプロジェクトが生まれ、多くなって、引力に導かれ、より遠くまで行きたいですね。
2015.11.16
岡島 礼奈
おかじま れな|人工の流れ星を作る
好きな時に好きな場所で流れ星を見ることができる、「人工流れ星」を作るプロジェクト「STAR-ALE」を運営する株式会社ALEの代表取締役を務める。
※本チャンネルは、TBSテレビ「夢の扉+」の協力でお届けしました。
TBSテレビ「夢の扉+」で、岡島 礼奈さんの活動に密着したドキュメンタリーが、
2015年11月22日(日)18時30分から放送されます。
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