店とお客さんの関係を越えて共創を。 “らしさ”を集めて「世界一遊べる店」を創る。

渋谷スクランブル交差点にあるランドマーク、SHIBUYA TSUTAYAの店長を務める清水さん。大学時代から企画に携わり、自信を持って入社しましたが、1年目で「何もできないと痛感した」と言います。自信家だったという清水さんが変わったきっかけとは?そして今、つくりたいお店とは?お話を伺いました。

清水 悠佑

しみず ゆうすけ|SHIBUYA TUSTAYA店長
2003年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。大阪、兵庫、福岡などの店舗でCD・DVD担当や店長を経験し、2013年よりSHIBUYA TSUTAYAに着任。2015年より店長。 2016年には渋谷センター街初のゲリラファッションショーを開催、22019年には、店舗のプライベート出版レーベルを立ち上げるなど、新しい挑戦を続ける。

自分の存在を認めてほしい


京都府京都市で生まれました。両親と弟2人の5人家族です。元気はつらつとして、みんなを引っ張っていくタイプでした。スポーツが得意だったので、運動会などのイベントでは周りを盛り上げていましたね。

一方で、漠然とですが長男としての自覚があり、親の期待に応えたい、弟二人に背中を見せなければ、と思っていました。勉強して良い学校に行って良い会社に入る、敷かれているそんなレールを進む責任を感じていたんですよね。成果を出さなければという気持ちがありました。

しかし、小学校から始めた野球は自分の期待ほどうまくなりませんでしたし、偏差値が高いからと入った高校の理系のクラスでは、テストでまったく良い点を取れませんでした。

高校では、ラグビー部に入って部活に熱中し、学校にはあまり行きませんでしたね。ただやっぱり4年制の大学に行かなければという使命感があったので、勉強してなんとか家の近くの大学に進学。結局、敷かれたレールの通りに進みました。でも、成績や進んできた道ではなく、自分自身を見て欲しいという思いが強くありました。自分自身の存在を認めて欲しかったんです。

世界一の企画会社に惹かれる


大学は、授業は面白く感じられず、新歓をきっかけにサークルに夢中になりました。テニスを真面目にやりながら、学園祭では一番目立つ、面白いテニスサークルに入ったんです。毎日遊びの企画をして、楽しく過ごしましたね。後輩も慕ってくれて、やがてサークルの中で花形の企画担当になれました。

学園祭恒例のダンスコンテストに出場を決め、笑ってもらえるようなコメディダンスをみんなで考えて、揃えるべきところはしっかり揃えて真剣に練習。優勝することができました。さらに、テニスそのものでも、出場した大会でチーム優勝することもできて。楽しかったですし、自信になりました。

サークルだけではなく、いろいろなバイトも経験。特に長く続いたのは町のおもちゃ屋さんでのバイトでした。毎年、全国のおもちゃ屋さんの売り場づくりコンテストで入賞するようなお店で、僕も売り場づくりを担当。段ボールなどを使って、実際にアニメなどのキャラクターを作っていくんです。キャラクターの再現性や、おもちゃの醸し出す世界観の表現を大事に売り場づくりをしました。僕の代でもコンテストで入賞することができ、売り場づくりや企画の面白さを感じました。

将来については考えていませんでした。でも、就活の時期になると周りの人たちはどんどん就職先が決まっていって。自分だけ残ると、流石に就職するしかないかという気持ちになり、ようやく重い腰をあげました。

とはいえ、自分の将来を誰かに選ばれるのは嫌でした。自分が行きたいところに行きたいと思い、3社だけ選考を受けたんです。その中で、「世界一の企画会社を目指す」というビジョンを掲げていた、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社から内定をいただきました。企画はなんとなく自分の強みかなと思っていたので、そのビジョンに共感し、入社を決めたんです。

入社1年目での大きな挫折


入社後は、大阪で開店準備中のTSUTAYAに配属になりました。渋谷の店舗に次ぐ規模の店で、会社の中でもこの出店はビックプロジェクト。新入社員の中から選ばれてそこに配属されたことや、大学で様々な企画をしていたことで、自分に自信がありました。

CD・DVDの担当として配属されましたが、最初に任せられたのはカード会員の獲得でした。オープン前にどれだけ会員を増やせるかで、オープン後の売り上げが大きく変わるからです。まだ店舗もできていない4月、これから7月までの3カ月間で、事前入会の会員を5万人獲得することが目標に掲げられました。

まずどうしようか考え、アルバイトの方々の採用から着手。採用した方々に事前入会していただくための教育をしたり、どこでPRしてもらうかの計画を立てたり。5万人を目指して、様々なアクションをしていきました。でも、なかなか数は増えなくて、どんどん追い詰められていったんです。

様々な場所で交渉して、会員になっていただくための手続きをする入会ブースを増やし、そこにスタッフさんを配置してみました。それでもまだ足りません。じゃあ街へ出ようと、体の両側に大きな看板をつけて、スタッフさんを十人くらい引き連れて道頓堀を練り歩いて入会受付。それでもまだ足りないんです。

どうしようもなくて、僕一人で深夜の街に出て、ナンパ橋と呼ばれる橋でお客さんをキャッチしようと立っている、ホストの人たちに入会をお願いしにいくこともありました。

そんなことをやっている中で、スタッフさんとの関係は悪化してしまいました。みんなを前向きな気持ちにできないまま、「もっと声出そうよ」「今日も練り歩くぞ」と指示していたので、スタッフさんたちから嫌われたんです。100人ほどのスタッフさんたちが、だんだんいうことを聞いてくれなくなっていきました。

一方で、同期や先輩たちは、お店づくりのプランニングや商品作りをしていて。みんなキラキラして見えました。辛かったです。なんとか2万5千人を集めましたが、5万人には届きませんでした。

オープンしたらしたで、僕は店頭販売の担当に。雨の日も風の日も、雪の日も真夏日もずっと外で、売り上げを作ろうと奮闘しました。でも、スタッフさんとの関係はやはりうまくいかなくて。上司がアドバイスをくれましたが、自分の意思を通したいという気持ちがあって受け入れられませんでした。

なんでもできると思っていたのに、自分一人では何もできない。結局、店舗の中の誰よりも早く、12月に異動することに。店内のことは何一つ覚えられていませんでした。

調子に乗っていた自分は崩れ去り、何もできないダメなやつとレッテルを貼られたのを感じました。頑張っているのに、それが認められないのが本当に悔しくて。俺の考えていることは正しい、なんでわかってくれないんだ、という気持ちでいっぱいでした。必ずリベンジすることを決意したんです。

再起、リベンジ


その後配属されたのは、大阪府内の社員が3人の店舗でした。CD・DVDの担当社員として配属されると、その領域に関しては自分で考えてできることが多くて。売り方を考え工夫しました。

前の店でスタッフさんとうまくいかなかった経験から、反省して接し方も変えました。僕の目標=スタッフさんの目標ではないんですよね。当然僕と同じ目標を持っていない人もいるし、頑張りたくない人もいる。それをわからずに雑に接して失敗していたので、自分の目標を押し付けないよう気をつけるようになりました。すると、今度はスタッフさんと良い関係を築くことができて。みんな楽しんで働いてくれるようになりました。

売り場づくりも工夫しました。僕は特別音楽や映画に詳しいわけではないですが、そのエリアのお客さんが好きそうな商品はどれだろう?という視点で売り場を作っていったんです。あまり自分の好きな作品を押し出してもエゴを主張する売り場になってしまうと思っていたので、お客様と同じ目線で考えることを重視しました。

すると、そうして手がけた売り場の中から、全店舗を通してもっとも売れる商品を作ることができて。売れると、僕の手法をみて作品を紹介したいとおっしゃるスタッフさんも出てきました。嬉しかったですね。どんどん売り場が変わっていくのを実感しました。

数年売り場を担当した後、次は福岡に異動することになりました。新しくできる、全国で3番目に大きな店舗の立ち上げの、CD・DVDの担当責任者を務めることになったのです。最初の店舗の時のリベンジの気持ちで、意気込んで行きました。

責任者はやったことがなかったので、わからないことはたくさんあります。以前は上の人からの助言を聞くことができませんでしたが、今度は積極的に前任者や先輩に教えてもらいに行きました。結局、物事を前に進めることが一番大事なんだとわかるようになったんです。

自分のエゴや主張を押し通すことがプラスになる局面もあるかもしれませんが、すでにオープン日が決まっていて、みんなと進めるプロジェクトの進行においては、黒子に徹することも必要。周囲に頼ることも大事と考え周りと一緒に進めていきました。

一生懸命考えた店舗プランとスタッフチームで、無事お店がオープン。開店までの一連の流れを自分で進められたことは、大きな自信になりました。

知的資産を吸収できる、店舗の可能性


その後、大阪の以前いた店舗に戻って店長を経験。さらに、ショッピングモール内の新しい店舗の立ち上げも担当しました。一通り、できることはやりきった感がありましたね。1年目の悔しさへのリベンジは果たせたなと。でもまだ、チームの中では認めてもらっていても、会社の中全体で認めてもらえるところまで至っていないと感じたんです。

このままじゃダメだと危機感を覚え、上司に東京に行かせてくださいと頼みました。より社内で認められるためには、東京で仕事をすべきだと思ったのです。なんでもいいからとお願いしたところ、渋谷の店舗のCD・DVD担当として配属が決まりました。

店長まで経験しているし、できるだろうという思いがありました。しかし、行ってみると他の店舗とスケールが全く違って。お客さんの量もスタッフさんの量もかなり多いので、自信がまた一気に崩れましたね。最初は電話対応すら難しくて。まずはこれができなければ始まらないと、ひたすら電話をとる日々でした。

一方で、スタッフさん一人ひとりと常に話すようにして、関係性を築いていきました。すると自ら動いて助けてくれる方、アドバイスをくれる方が出てきて。多くの人と利害関係を一致させ、一つの目標に向かって進む。そんな進め方がわかってきて、いろいろなチャレンジができるようになったんです。2年ほど働いたのち、2015年から店長になりました。

あるとき、スタッフさんの制服を変えることになり、プロジェクトとして進めていました。スタッフさんたちに、どんな制服を着たいかヒアリングして決めようとしていましたが、250人もいるので全然意見が揃いません。悩んでいた時、知人にフリーランスの企画ディレクターを紹介してもらいました。ファッション業界でキャリアを積んできた方に、プロジェクトに入ってもらうことにしたんです。

すると、俄然進みがよくなったんですよね。コストとの兼ね合いを見ながら制服の製造を進めつつ、社内のムードをどう作ろうか、どうアプローチしていくかも提案してくれて。いろいろな企業に知人がいる方だったので、他社の事例も交えながら様々なアドバイスをくれました。結果として、スムーズに制服の変更ができました。

自分たちの会社が外からどう見えているのか、発見もありましたし、違うやり方を学ぶ中で自分たちに足りない部分も教わりました。社外の人に相談しながら進めることで、見えるものが増えると気づいたんです。社外の方々の知的資産を、店舗として吸収できるとわかりました。そこから、外部の方と連携して企画を考えるようになったんです。

お客様と店の関係性を変える


店の外の方々と、何ができるか。いろいろな可能性を考える中で、店舗を基盤にしたコミュニティを作る、というアイデアが浮かびました。

渋谷は、昔から何かをやりたい人が集まる街です。ライブハウスの数が日本一多かったり、アメリカのシリコンバレーのようにIT企業を集めるビットバレー構想を推進したり。何かを試したい若者と、その最先端の流行に触れたい企業が集まる。この二者をうまくつなぐ取り組みをしたいと考えたのです。

我々が店舗で扱っているのはCDやDVD、コミックや書籍などの商品ですが、本当の主役は商品ではなく人なんですよね。お店の作り手であるスタッフさんたちが、売り場を作りオススメを発信していくことが価値なんです。店の外の方々にスタッフさん側に入ってもらうことで、新しい場が生まれるのではないかと思いました。

これまでのお客さんとお店との関係性を変えて、一緒にTSUTAYAを作り上げる。そんなコンセプトで、「SHIBUYA NEST」というコミュニティを立ち上げました。

目指すは「世界一遊べる店」


今は、SHIBUYA TSUTAYAの店長として店舗の運営、営業を行っています。この店は、テレビ中継でほとんどの日本人が見たことがあり、外国人でも案内なしでたどり着ける、スクランブル交差点、渋谷の入り口にあります。多くの人に知られている最高の場所にあることが、僕たちの持つ強みです。

渋谷センター街初のゲリラファッションショーの開催や、店舗でのプライベート出版レーベルの立ち上げなど、これまでもお客様の価値や楽しみにつながる新しいチャレンジをしてきました。個人の方だけでなく、企業の方々の発信の場としても連携していきたいです。

NESTというコミュニティの取り組みも始まっています。NESTでは、会員になっていただいた方々とTSUTAYAでやりたいことを考えながら、様々な試みをしています。CDコーナーに会員の棚を作ってもらう試みをしたり、コロナ後の幸せを考えるイベントを開いたり。これからも、新しいチャレンジを続けていきたいと思っています。

僕が目指すのは、「世界一遊べるお店」。社内外のビジネスパーソンも、渋谷に集まる彼ら、彼女らも、自分の可能性を自由に自分らしく試せる場所にしたいと考えています。大きなことでも小さなことでも、試した物事には共感が生まれます。個人の熱狂が火種になり、それが集まって文化になる。商品を売るのではなく、挑戦や「好き」や表現、想いをつなぐ店になりたいと思っています。

僕の根底にあるのは、最初から同じ、みんなに認められたいという思いです。自分の考えた物事で、みんなが喜んでくれて、みんなの役に立てたと感じる風景や情報があることが嬉しいんです。そんな嬉しさを積み重ねられるよう、社内外関わらず、多くの人たちと楽しみながら遊べる場所を作っていきたいですね。

2020.12.25

インタビュー・ライティング | 粟村千愛
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