全ての人にスポットライトを当てて輝かせたい。日本一かっこいい介護福祉士ができる貢献とは。

介護施設の施設長として自立支援介護を広めながら、「日本一の介護福祉士」として介護の上級資格の策定にも携わる杉本さん。もともとはモデルを目指していながら介護の道に歩まれるにはどんな背景があったのか。根底にある「かっこいい」生き方とはどんなものなのか、お話を伺いました。

杉本 浩司

すぎもと こうじ|自立支援介護の指導者・介護施設施設長
介護福祉施設「ウエルガーデン伊興園」の施設長を務めながら、
自立支援介護の普及のため、全国の介護施設や大学に教えに行っている。

2016年12月18日イベント登壇!
ウエルガーデン伊興園

かっこよくなりたい


私は年の離れた兄と姉がいる家庭の末っ子として生まれました。母は昔ミスコンに出ていたような綺麗な人で、兄も姉も背が高かったのですが、私は背が小さく、背の順もいつも前の方でした。

家が洋服屋をやっていたので、母や兄弟が学校で制服や体操服の採寸に来るのですが、その時、あまりにも私と容姿が違いすぎていて、「捨て子じゃないか」といじめられるようになりました。また、自分に自信がなく、いつも母や兄弟の自慢ばかりしていたので、「お前はどうなんだよ」と更にいじめが加速されましたね。

無視をされるとかそういった類ではないのですが、よくボコボコにされていて、自分は一体何なんだろう、死にたいとも思っていましたがそんな勇気もありませんでした。

そんな生活を送っていた中学生の頃、母のことはみんな褒めるのに、なんで自分は褒めてもらえないのか考えた時、母は綺麗だからみんなに好かれているのではないかと思ったんです。この時、それを自分に当てはめると「かっこいい」ことが大事だと気づいたんです。

かっこよくなればいじめられないと考え、この時から全ての行動は「かっこいいかどうか」を指針に考えるようになりました。「かっこいい奴は簡単に諦めない」「かっこいい奴は優しい」「かっこいい奴は苦手なことから逃げない」と言った感じで、常に自分の行動はかっこいいのか問い続けていきました。

保育士への挫折


高校生になり、将来はかっこいい仕事であるモデルになりたいと思っていました。そこで、大学に行きながらモデルを目指そうと思い、高校3年生になり受験勉強を始めました。

それまで勉強はほとんどしていなかったのですが、みんなと同じことはしたくないという変なプライドがあり、予備校には行かず学校の図書室で勉強するようになりました。毎日図書室にいたのですが、夏休みのある日、図書室が閉まっていることがあって、進路指導室で勉強をすることにしたんです。

そこでは赤本が置いてあったので過去問などをやっていたのですが、しばらくすると飽きてしまい、置いてある大学や専門学校のパンフレットを眺めていました。すると保育士の専門学校の資料が目に止まり、そういえば小さいころ保育士になりたいと考えていたことを思い出したんです。この時、何故かすごい惹かれてしまって、保育士になりたい気持ちが内から湧いてきたんですよね。

モデルを目指しながら学校に通うつもりに変わりはありませんでしたが、この日に、親にも保育士の専門学校に行くと言い、大学受験ではなく保育士の専門学校を目指すことにしました。

それまで大学受験の勉強をしていたため、専門学校の入試試験は正直楽勝で、また面接でもかなり良い感じで「4月からよろしく」と言われるほどだったのですが、
ピアノを演ったことがないと言った時に、面接官の顔が曇ったんです。とは言え、専門学校にピアノの練習室もあったし、今からがんばるつもりだったので、まさか落ちるわけないと思っていましたね。

ところが、結果は一枚のペラペラの紙で、不合格通知が学校に届いたんです。これにはショックだったし、恥ずかしさもあったので相当落ち込みました。その日は学校から帰っても家の前に立ちすくんでいて、中に入ることができなかったですね。

個性がない顔


その後、結局介護の専門学校に行くことにしました。

改めて大学を目指す気力も湧かなかったし、保育と介護が併設されている専門学校もあったので、きっと似てると思ったんです。また、お年寄りに対して苦手意識を持っていて、克服したいと思ったんですよね。

そして専門学校に行きながら、モデルの仕事も少しずつ始めました。2年生になり少しずつファッションショーなどにも出られるようになり、最大手メンズファッション雑誌の専属モデルのオーディションを受けることにしたんです。

その時の応募人数は5000人位いて、その中の30人に残ったので、正直合格すると思っていました。しかし、実際にオーディション会場に行って愕然としました。

そもそも自分は身長が高くないこともあったのですが、それ以上に顔に個性がないと感じてしまったんです。周りの人は、目が鋭いとか、鼻や口が大きいとか何かしらの特徴があったのですが、自分の顔は、良く言えば整っているのかもしれませんが、色がなかったんです。

そして、そのオーディションの結果は不合格でした。

ただ、そんなことを感じながらもモデルの仕事は続け、専門学校は2年で卒業して介護福祉士としての仕事も始めました。

スポットライトを当てる


そして仕事を始めて少し経った頃、あるレセプションパーティーに招待されたのですが、この時に出会った人が強烈でした。

とても綺麗な女性だったのですが、初対面の私に対して、1番になるための努力もするから、モデルとしてある程度活躍できるだろうけど、「えびちゃん」みたいなスターにはなれない、と言ってきたんです。

突然そんなことを言われて正直むっとしましたが、自分自身がオーディションの時に感じたことを見事に言い当てられてしまったんですよね。

さらにその人にモデルの楽しさを聞かれて、自分が注目されているのが好きだと話していたら、介護の方が向いているんじゃないかと言われたんです。介護施設でもお年寄りの方は「邪魔者」扱いされているんじゃないかと聞かれて、確かにそういう一面もあることを伝えたら、

「あんただったら、その人たちにスポットライトを当てられるんじゃない」

と言われたんです。

この時になぜか、自分がお年寄りの人たちの良い部分に光を当て、お年寄りの人も自分もすごく幸せになっている姿がイメージできました。

スポットライトの当てられ方を知っている自分だからこそ、人にどうやって光を当てたら良いのかも分かるし、その瞬間って最高だと感じたんですよね。そして、それはお年寄りに限らず出会った人全てにできることだと思い、この時に私のミッションとして「その人にあったスポットライトを当てる」ことが浮かんだのでした。

それからはモデルの仕事は辞め、介護の仕事一本に集中するようになりました。誰にも負けないよう努力したので、数年経った時には出世もしていたし、さらにある大学院教授と出会い「自立支援介護」を知り、働きながら大学院に行き博士課程までいきました。

介護って、できないことが増えてしまったお年寄りをサポートをするイメージが強いのですが、もう一度できることを増やす「自立」を支援することもできるんです。一人ひとりにきちんとスポットライトを当てることで、ご飯を一人で食べられなかった人が食べられるようになったり、徘徊をしていた方が歩きまわらなくなったりするんですよね。

介護から日本を変える


今はこの自立支援を、私個人だけではなく色々な介護職ができるように、自分の介護施設だけではなく、他の介護施設に行ったり福祉の大学に行ったりして伝えることにも力を入れています。

そうやって自立支援の介護を広めることで、日本の介護を変えたいと思っていましたが、最近では、逆に「介護から日本を変える」と強く思いました。

団塊の世代が定年を迎え、2025年には高齢化社会のピークが来るので介護職が足りないと言われているんですが、ここに日本が変わるチャンスがあると考えています。

と言うのも、それだけ高齢化社会が進めば、お金をもっている団塊世代向けの市場は伸びると思っていて、例えば今はデパートにはキッズとレディスとメンズのフロアしかないのですが、「シルバーフロア」が必ずできると思うんです。

しかし要介護者の人が買い物に来た時、介護をしたことのないデパートの店員さんだけでは洋服を着せ替えてあげたり、対応しきれない部分もあると思うんです。ただ、私たちであればそこで価値を発揮して、要介護者であるお客様に満足してもらうことができます。それは洋服屋さんだけではなく、カフェもそうだし、全てのサービス業に言えることだと考えていて、そこに介護経験者が入っていき、人材育成や実際に現場に出ることで、介護が必要な人たちが街に出やすくなり、経済が回り雇用が増えるという好循環を生むことができる思うんです。

そうすれば経済が潤うだけではなく、福祉国家としての日本の地位も確立され、介護から日本が変わっていけると思うんですよね。

そのため、今後はその社会を実現するため、介護施設の中で留まるだけではない介護人材を育成できればと思います。介護業界は良くないイメージを持たれることも多いのですが、自分自身が若い人の目標となれるように、常に「かっこよく」最前線を走り続けたいですね。

そして出会った全ての人の良い部分にスポットライトを当てることで、輝いてもらい喜んでいる姿を見続けていきたいです。それが、私にとって最高にかっこいい生き方なんです。

2014.09.30

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