「普通の人生を歩めば良かった」の向こう側。
人を幸せにする競争を通じて目指すもの。
派遣型スキャン代行サービスを運営する杉本さん。なんとなく大学進学を考えていた高校3年生で抱いた危機感から、浪人時代に自らの人生について考え、IT分野での起業を決意。一度は事業撤退に終わりながらも、東京で再スタートを決めるに至った、「人を幸せにする競争」への思いとは?
杉本 勝男
すぎもと かつお|派遣型スキャン代行サービス運営
「あらゆる派遣サービスのファーストチョイス」というビジョンのもと、派遣型スキャン代行サービス「スキャンマン」を運営する、スキャンマン株式会社の代表取締役を務める。
起業の決意、「人を幸せにする競争」に参加しよう
私は愛知県西尾市に生まれました。中学高校と数学が好きで、答えが一つに定まることや、矛盾・例外がないことが考え方に合っていました。また、あまり世の中のことを知らない学生で、社会にはどんな仕事があるか知らなかったため、将来は数学の先生等の教師や、役所勤めの公務員になれたらいいなと考えていましたね。
そして、高校3年生を迎えると、合格した地元の私立大学になんとなく進学しようと考えていたのですが、ある時、ふと「このままでいいのか?」と考える瞬間があったんです。それまでとは異なり、大学を選ぶことはその先の仕事選びにも繋がっているのに、自分は世の中のことを知らないという危機感があったんですよね。もっとモラトリアム期間をくれと。
そこで、人生を考え直すため1年浪人することに決め、医学部進学を目指す予備校に通い始めました。とりあえず生きる上でお金はあった方がいいだろうという思いからの選択でしたが、すぐに「本当に医者でいいのか?」という疑問が浮かんでしまい、自分の人生について考えるようになっていきました。
そして、悶々と考え続けた結果出た答えは、「人生に意味は無い」というものでした。何かを成し遂げてもそうでなくても最後は骨になるし、もっと言えばいつか人類も宇宙も滅びる。歴史に残ることを目指しても、それはいつか無くなってしまうだろうと。そんな風に考え始めると、「じゃあ好きなことをやってやろう」と思うようになったんです。
また、経済的に豊かであることは人生を楽しむことにつながると思い、『フォーブス』の長者番付を見ていると、億万長者は皆、株で財を成していることに気づきました。そこで、自ら会社を立ち上げて企業価値を高めることができればよいのかと思い、時価総額ランキングを歴史に沿って数十年分調べていったんです。すると、時代に沿ってテーマが変遷し、その都度隆盛している業界分野があることや、逆にエネルギーや金融については、どんな時代も順位を落とさずにいることを知りました。
そんな背景から個人で株の勉強を始め、自ら投資もしてみたのですが、事業として行うにはイノベーションを起こす余地が少ないような感覚がありました。一方で変遷という意味ではITの業界が変化が早く、可能性がありそうだと感じたんです。
そして、自分で経済や社会について調べていく中で、資本主義の本質は「長期的に人を幸せにする競争」であり、不完全ではあるものの、非常に素敵な仕組みだと感じるようになっていきました。それは人生のルールにおいても同じで、人を幸せにできる奴が幸せになるという感覚もありました。
そんな風に浪人期間の1年間、受験勉強ではなく自分の人生について考えた結果、私はIT業界でベンチャー企業を立ち上げようと決めたんです。
23歳で起業、不安を抱えながらの孤独な挑戦
高校を卒業後は地元の国立大学に進学し、起業準備を進めていきました。大学を卒業しようという思いはありませんでしたが、学生起業という箔や学生という立場を活かそうと考えての進学でした。実際に、入学後は資本金を貯めるためにパチンコ屋でアルバイトをし、それ以外の時間は大学生として遊んだり、事業プランを考えたりしていました。
そして、本格的に起業を見据えて最初に注目したのは、ネットカフェの事業でした。ただのネットカフェではなく、PCをiPadに置き換えることで、漫画を本棚に置かず、電子書籍で提供しようというアイデアで、省スペースで経営効率も上がるんじゃないかという期待がありました。「これだったらいけるんじゃないか」という感覚がありましたね。
しかし、内装業者も店舗も決めて動いているうちに、ふとこの事業の本質はネットカフェではなく「iPadの中に漫画が入っていること」だと気づいたんです。それならば自分が店舗を持たないでもカフェ向けにリースすることができるのではないかと考えました。電子書籍だから閲覧数等も分かり、著作権者にもデータが提供できると。
そこで、大学4年生になった23歳のタイミングで電子書籍のプラットフォーム事業で会社を立ち上げました。一人で会社を立ち上げ、やらなければいけないことはたくさんあったので、起業といっても紙の上だけの変化でした。感慨深さは全く無く、無機質な感覚でしたね。
それからは、iPadを持ってネットカフェに飛び込み営業をして回る日々を過ごしました。コミュニケーションが苦手な自分にとってこれは本当にキツかったですね。毎回喉がカラカラになりながら駆け回りました。それでも、実際に置いてくれる店舗はまばらで中々結果が出ない日々。リースしたiPadにコンテンツがたくさん詰まっていないとお客さんは興味を示さないし、導入実績が増えないと出版社側の許可も出ないという、まさに「鶏卵」の状況に追い込まれていました。
眠れない夜が続き、正直、普通の人生を歩めば良かったなと思う時もたくさんありましたね。しかし、自分は安定した人生はどうしても絶えられないという気持ちも同時に合ったんです。「失敗することには耐えられるが、挑戦しないことには耐えられない」というマイケル・ジョーダンの言葉がぴったり当てはまるような状態でした。
無念の事業撤退、心機一転東京へ
そんな状況が打破できないまま、会社を設立して3年が経ちました。気づけば26歳になり、就職もせず運営する事業も知られていない自分は、社会からすれば何もやっていないことと同じなのではないかと危機感を抱くようになったんです。
そして、ついに事業の撤退を決めました。元々考えていた、無料だったら使ってくれるだろうという仮説が間違っており、コンテンツを得るためには著作権の壁がありお金も必要、かといって大規模な資金調達はリスクがある。もう打つ手が無い状況に陥ってしまったんです。
会社をたたむことに決めてからは、やはりすごく悔しくて泣きはらしました。ただ、次の瞬間にはどこか清々しさもありました。これ以上親に迷惑はかけられないこともあり、一度東京に出て就職しようと決めていたんです。次の挑戦のために、一度体制を整えようと。だからこそ、気持ちを切り替えてからは、次の暮らしにワクワクする気持ちもありました。
東京ではソフトウェアエンジニアとして働こうと思い、就職活動を始めました。これからの世の中はソフトウェアが世界を飲み込むと言われる中、自分自身でも実感があったので、その中で作る側に回ろうと考えたんです。IT系の企業を中心に見て回りました。
28歳、突然舞い込んだ挑戦のキッカケ
東京では、以前より経営について相談させていただいていた方への挨拶にも伺いました。以前からお世話になっていたからこそ、事業を撤退し、東京で再スタートを切ろうと考えている旨を伝えました。すると、お会いした数日後、朝4時頃にTwitterのDMで、「こんな事業アイデアがあるんだけどやってみない?」と声をかけていただいたんです。朝6時頃、メッセージを見た瞬間に、これはチャンスだと思い、すぐに「やります!」と返信をしました。その人は自分にとって非常に大きな存在であることに加え、直感的にもやりたいという感覚があったんです。
そこからは弟子入りするようにメンターとして助言をいただきながら、事業の詳細を作っていきました。アイデアは派遣型のスキャン代行サービスで、法人のオフィスに出向いて名刺や書類・写真・領収書等をスキャンし、電子データとして保管・活用するサポートを行うというもので、「スキャンマン」というサービス名でリリースすることに決めました。
そして、28歳のタイミングでスキャンマン株式会社を立ち上げ、役員として大学時代の仲間にも入ってもらい、立ち上げを行いました。前回の起業時に一人で事業を行う難しさを感じていたからこそ、次は絶対に仲間とやろうと思っていたので、精神的にはずいぶん楽な気持ちでしたね。2回目の起業では立ち上げ期を楽しむことができました。
しかし、問題はその後でした。如何に最初の売上を立てるか、その成長を保てるかという課題に直面し、営業が中々上手く行かず受注が取れないこともありました。紹介経由で広がっていったり、イベントに出展したことで申し込みが来たりという時期もあったのですが、創業から半年ほどすると、営業面での危機を迎えてしまったんです。
そこで、役員が大学生だったこともあり、大学や大学院には書類管理需要があるという仮説のもと、ひたすら各大学の教授宛にメールを送る作業を始めました。そして、なんとか予想が的中し、導入事例が出来始めてからは、事業が軌道に乗っていきました。相変わらず、「普通の人生を歩んでいれば」と思うこともありましたが、少しずつ状況は改善されていきました。
派遣サービスのファーストチョイスになり、幸せの幅を広げる
現在は、法人や大学を中心に、名刺や書類等の派遣型スキャン代行を拡大しています。A3以下のものであれば基本的にはスキャンが可能で、それだけでは意味が無いので、保管・活用のサポートも行っています。また、名刺管理アプリや会計ソフトなど、関連分野の他のクラウドサービスとの連携も進めています。書類のデータ化ということもあり、オフィス移転のタイミングでお話をいただくことも多いですね。
メンバーも増え、社員・アルバイトを含めると2・30人の体制になり、規模が変わって全く違うゲームになった感覚があります。だからこそ、個人としては全体のマネジメントに力を入れており、情報共有やコミュニケーションをこれまで以上に大切にするようになりました。経営の細かな雑務をしながら全体も把握してという面に慣れない大変さを感じながらも、非常に他社との連携可能性が大きいサービスなので、自ら営業に回ってアライアンス構築をしていくことには非常にやりがいを感じています。
私たちのビジョンは「あらゆる派遣サービスのファーストチョイス」であり、スキャンに留まらない展開を考えています。最近では派遣時に協賛サービスのデモを行ってスキャン自体は無料にする取り組みを行っており、リアルでのアドネットワークを構築しようと挑戦しています。これがうまくいけば無料での代行モデルを築くことができ、例えば、家事代行サービス等、あらゆる派遣サービスを無料で享受できる可能性があると思うんです。
「人を幸せにする競争」の中で、お世話になっている方への恩返し含め、なるべく多くの人を幸せにしたいという思いがあるので、まずはそのビジョンの達成を目指していければと思います。幸いにも、周りには全世界レベルの範囲を幸せにしようと考えている方がいて、刺激もいただいています。自分が楽しみつつ、かつ周りを驚かせるようなことにこれからも挑戦していきたいですね。
2015.08.04
杉本 勝男
すぎもと かつお|派遣型スキャン代行サービス運営
「あらゆる派遣サービスのファーストチョイス」というビジョンのもと、派遣型スキャン代行サービス「スキャンマン」を運営する、スキャンマン株式会社の代表取締役を務める。
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