会社では、主にチーズの製造を担当しました。どうすれば美味しいチーズができるのか、最初は全然わかりませんでした。

僕のイメージだと、チーズ作りには2種類のスタイルがあるんです。混ぜたり冷やしたりするタイミングの見極めを、数値ベースでする人と感覚でする人です。どちらかというと僕は感覚タイプで、数値に頼りたくない気持ちがありました。

研究みたいに正確な数値を測ることが、美味しさに繋がるとは思えなかったんです。感覚を掴むまではなかなか大変でしたが、その分やりがいはあって、仕事は大好きでした。

就職して5年ほど経つ頃、東日本大震災が起きました。その時、現場で何かしなきゃと思いました。この震災を自分自身の体験にしなきゃいけないという気持ちが強かったんです。

将来、震災について自分の子どもに話すときが来たら、自分が震災で何を感じたか、何があったのか、体験とともに伝えたい。実際に行かないとわからない匂いや、そこに住んでいる人の気持ちをしっかり自分の中に入れたい。そう思ったんです。

そのためには、仕事を続けながら片手間で被災地に行くのではなく、終わりを決めずに行く必要があると思い、会社を辞めて被災地に向かいました。2011年5月の連休明けからボランティア作業を手伝いました。

その後、被災地には二週間だけ滞在して、すぐに帰ってきました。というのも、僕なら別の形で支援できることに気付いたからです。

現地の方から、放射能汚染の風評被害のせいで、せっかく作った米や野菜の買い手が見つからないという声を聞いたんです。それなら、被災地でできた農作物の放射能濃度を測定して、安全を証明することが復興支援になると思ったんです。

現場の力仕事で支援するのも大事だけど、理系の自分の力は放射能の測定で活かせると思い、横浜にある放射能を測定する研究所に入りました。