高校を卒業したら、ファッション系の大学か、東京の大学に進学したいと考えていました。東京に出て勉強したい、幼い頃からの夢だったファッションに関わる仕事をしたい、と思っていました。私のいた高校は進学校で、周りは優秀な人ばかり。私も、周りの優秀な友人と同じように、大学で一生懸命勉強して、社会で活躍したいと思っていました。

ところが、父から、「女の子なんだから地元の大学に進学すればいい」と言われてしまいました。小さい頃から親の意向が強くて、自由の少ない家庭でした。東京に行きたくても、親の支援がなければ生きていけません。自分で学費を稼ぐなんてことは、考えられませんでした。結局、東京に行くのは諦め、地元の大学に推薦入学しました。

親からの束縛でがんじがらめの生活に嫌気が差し、高校を卒業したあとの春休み、親に内緒で、ロンドンに住む叔父のところに行きました。美容師とは別の叔父です。親元から逃げ出すなら、今しかないと思ったんです。

ロンドンで髪を切りたいと思っていたことも、叔父のところに行った理由のひとつでした。昔からお洒落が好きでしたが、髪型ではいつも失敗していました。父がモデルの「ツィッギー」が好きで、ツィッギーを真似てショートヘアにしていたのですが、うまくいかないんです。顔が長かったから、私にはショートヘアーが似合わなくて。

猿みたいと言われたことや、男の子に間違われたこともあります。可愛くなりたいと思っている私にとっては、とてもショックなことでした。髪型をどうにかしたいと思って中学生の頃から、東京の美容室に通いましたが、一度も満足できませんでした。

昔見たイギリスのファッション雑誌には、すごく綺麗なヘアスタイルが載っていました。ヘアデザイナーのヴィダル・サスーンのヘアスタイルで、いつかサスーンのサロンでカットしたいと思っていたんです。イギリスのファッションやカルチャーには大きく影響されていて、高校生の時にはパンクファッションに身を包み、ベリーショートのヘアスタイルだったほどです。

念願のロンドン、サスーンのサロンでのカットは、衝撃的でした。ベリーショートではなく、ショートボブのスタイルに切ってもらいましたが、日本で切ってもらった時と仕上がりが全然違って、私にとても似合っていました。

似合うヘアスタイルがある。ということは、私がうまくオーダーできていないから、日本の美容室では変になってしまうんじゃないか。私が美容師にちゃんと伝えられたら、日本でも可愛い髪型にしてもらえるはず。

そう考えて、サスーンの経営するヘアカットのスクールに通うことにしました。美容師になりたい気持ちは1%もありませんでした。カットの理論を学べば、美容室で希望通りのヘアスタイルが手に入ると思ったんです。

ヘアカットのスクールに行くことで、髪を切るのは、建設的なことなんだと知りました。学校に通うまでは、美容師の感覚で切っていると思っていましたが、違うんですよね。セクションごとに髪の束を分けて、理論的に髪の毛を切る。まるでアトリエの工房のような雰囲気で、髪を切ることって、理論で説明できる、合理的なものなんだと思いました。