翻訳家の裏側をお教えします。

現在翻訳家をはじめとして通訳者、ジャーナリストとしても活躍されていらっしゃるタカ大丸さん。一見華やかに見える、翻訳の世界にどんな苦悩があるのか、そして大丸さんがどんな夢を持たれているのかお伺いしました。

タカ大丸

たか だいまる|翻訳家
英語同時通訳・スペイン語翻訳者のポリグロットとして活躍中(多言語話者)
代表翻訳本として『モウリーニョのリーダー論』(実業之日本社)、クリスティアーノ・ロナウド』(実業之日本社)がある。

有限会社オフィス・スカイハイ代表
タカ大丸氏翻訳書

地元脱出のため、アメリカ留学を決意


幼いころから父親の虐待を受けていたこと、雑誌が発売日の二日遅れで到着するほど、情報が隔離された田舎であること、この二点が私の中で、地元を愛することのできない原因になっていました。ずっと地元を離れたいと思っていたんですよ。

それも、東京だったら何かあった時にすぐ地元に戻らないといけない。だから、もっと遠くに行かなければ、という理由だけで、アメリカ留学を決意しました。

母に留学のことを打ち明けると、条件を二つ提示されました。

一つ目は、どこかしら国公立大学に合格すること。入学する必要はないけれど、国公立大学すら受からなければ、アメリカに行っても成功しない、という母なりの考えでした。二つ目は、必要なお金を自分で稼ぐことでした。

当時は、今のように大学全入時代ではなく、国公立大学に入ることは大変でした。でも、地元を離れたい一心で必死に勉強して、見事合格を勝ち取ったんです。その後は予定通り入学を辞退したのち、アルバイトと英語の勉強に励みました。

当時の自分を振り返ると、英語力もお金もまったくありませんでしたね。あるのはこの状況からなんとか抜け出してやるという強い決意のみでした。最終的にはバイトも英語学習も両立して、無事にアメリカ留学が決まったんです。

翻訳ができることはすごいことではない


米国とイスラエルの大学で必死に勉強して帰国した後、自分の進路について初めて考えました。人から雇われて指図されることは好きではないし、かといって、ビジネスを生み出すためのノウハウや知識もなかったんです。

しばらく会社勤めもしましたが、とことんダメ社員でしたよ。結局、英語とスペイン語という言語を使う以外にできることはなかった。それが翻訳家になろうと決意した理由です。

翻訳家になってからは、たくさんの本を手がけてきました。サッカーで世界的に有名なチェルシーのモウリーニョ監督の書籍、同じく有名サッカー選手であるクリスティアーノ・ロナウド選手の伝記なども翻訳させていただきました。

皆さん決まって、「翻訳がうまくて、本当に才能があるね」と言って下さります。

でも、私は自分に才能が全くないと思っています。ただ、人の何倍もの努力をした自信はあります。どこの世界でもトーナメントプロになるために六千時間、トッププロになるために一万時間の練習が必要だと言いますが、私は、二万時間やりました。

スペインサッカーの翻訳をするために、年間の全試合で、スペイン語の実況や解説を全て書き取りました。ノートが十数冊は積み重なりましたよ。それくらいやれば、どんなことも大抵達成できるのではないかと思うんです。

光もあれば影もある


今までたくさんの翻訳本を出してきました。そしてある程度の実績も生みました。その結果、「大丸さんってすごい」と言われることも多くなりましたし、講演会の講師として呼ばれることもあります。大変光栄ですし、ありがたいことだと思います。

でも、皆さん気づかないだけで、その裏で多くのものを失っているんです。例えば、「好きなサッカーを見て仕事ができるなんていいね」と言われることがあるのですが、とんでもないです。全くの逆で、サッカーの試合を楽しむことができなくなったんですよ。

サッカーの場合、どこかのチームもしくは選手、監督についての本の翻訳を行うわけですが、チームが負けたり、監督や選手が解任・解雇になれば、本が世の中にすら出なくなるんです。つまり、私が翻訳しているサッカーチームの勝敗が、直接的に自分自身の収入に結び付くというわけです。

一番ショックだったのは、あるサッカー監督の翻訳本ですね。その本は全体の六割まで書き終えていたのですが、その監督が任期中に解任されてしまったんです。そして皮肉なことに、その次の監督はチームを建て直し、チャンピオンズリーグで優勝を飾ってしまったんですよ。辛すぎて目も当てられませんでしたよ。

当然のことですが、その翻訳本は売りに出されてさえいません。私が何百時間もかけた本が売りにすら出されない。そこにはプロフェッショナルとしての厳しい現実があるようにいつも感じます。

今でこそ、多少世の中から私の翻訳書は認められてきましたが、ここに至るまでには本当に苦労が多かったです。何社も何社も出版会社を回っても相手にされなかったり、先の例のように、途中まで書いていた翻訳本が売りに出されなかったことなど、数えきれないほどあります。

忘れてほしくないことは、光の裏には影があるということです。私自身、今は成功しているように見えるかもしれませんが、サッカーが楽しめなくなったり、せっかく書いた何十冊という本がダメになっている。そんな影の部分があるんですよ。

翻訳家の地位を上げたい


残念なことに、多くの方は、翻訳なんて英語がある程度得意な方ならば誰でもできると思っています。

でもまったく違うんです。翻訳家のせいでダメになってしまった本が、数えきれないほどあるんです。逆もしかりです。翻訳家の能力が高くて、海外からの良質な本に触れることができることもあります。

だからこそ、私は必ず言うのです。「私と友人になるにはお金が必要です」と。翻訳家次第で本の価値が変わることを、実際に著書を読んでもらうことで多くの人に理解してほしいんですよ。

このように勘違いをされている翻訳家について、正しい認識を持ってほしいんです。今、正当な評価をされていない翻訳家の地位を上げていきたいんです。翻訳家がいないと日本人は「七つの習慣」すら読めないじゃないですか。

近く、そんな実例として酷い翻訳家のせいでダメになった本を私が翻訳して復活させようと思っています。そうすれば、私が常々連呼している「本物のプロとは、私のように常に早くて正確なのです」の意味がわかるでしょう。

そのためにも、自らをメディアに露出していかなければならないと思っています。

翻訳家が社会からリスペクトされ、優秀な人が集まる職業にしていくこと、それが私の一つの目標ですね。一筋縄ではいかないかもしれませんが、自分にしかできない仕事だと思うので、何としてでも成し遂げたいですね。

2014.03.07

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