一歩踏み出したら、違う景色が見えた。
楽しい会社にするための「わるだくみ」。

大企業の中で、「秘密結社わるだ組」という、有志ゆるネットワークを運営する大川さん。人見知りで、知らない人と話すのはおろか、ひとりで買い物するのも苦手だった人間が、何百人も関わる有志の集まりを組織するには、どんな理由があるのか。今でも「人見知り」と話す大川さんが、なぜ一歩踏み出せるのか、お話を伺いました。

大川 陽介

おおかわ ようすけ|新しい価値を生み出して届ける
富士ゼロックス株式会社勤務。有志ゆるネットワーク「わるだ組」を運営する。

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ひとりで買い物できないほどの人見知り


私は千葉県我孫子市で生まれました。小さな頃から人見知りで、両親以外の人と目を合わすと、すぐに泣いてしまうほどでした。

小学生になってからも、買い物もひとりではできず、何か欲しい時は、商品を母に渡して買ってもらっていました。しかし、10歳位の頃に、『ダウンタウン熱血行進曲 それゆけ大運動会』というゲームソフトが発売された時、いつも通り、自分のお小遣いを母に渡して、買ってもらおうかと思ったら、「欲しいなら自分で買いなさい」と急に突き放されてしまったんです。

私にとっては大事件でした。それでも、しばらくの立ち往生の後、レジのおばさんと対峙する恐怖と戦いながら、勇気をふり絞り、ゲームソフトとお金を交換したんです。

すると、ゲームを手に入れた喜びよりも、一歩踏み出すことで得られた達成感や、価値観の変化による喜びの大きさに驚きました。この感動は非常に印象的で、生まれ持った性格がすぐに変わるわけではないものの、一歩踏み出すことの重要性を、体感として持てるようになりました。

また、そんな小学生ながらも、6才の頃から伝統空手を習っていました。「個の強さ」への憧れがあったんです。都内の私立中学へ進学後も継続し、高校時代には柔道部も掛け持ちしていました。

空手や柔道と、武道を通じて、「守破離」の考え方が身体に染みこんでいきましたね。「守」で基本の型を習熟し、「破」でその型を破り(応用)、「離」で自らの創意を加え、型を離れる(創造)。道を極めていくためのこの考え方は、武道以外の実生活でもベースになっていきました。

スキーを起点とした仕事選び


内部進学で早稲田大学理工学部に進んでからは、空手と柔道以外の新しいことを始めたいと思っていたので、スキーサークルに入りました。個人で極めていくスポーツへの面白さを感じていましたし、単純にモテたいとも思ったんです。

選択した競技は、早さを競うのではなく、正確性や表現力を競う採点競技「基礎スキー」でした。空手の「型」に通じるものがあるのか、合理的かつクリエイティブな自己表現を突き詰めていくところに魅力を感じたんです。

練習の方法も性に合っていましたね。理想の滑りを明確にイメージし、現状の自分の滑りを正確に認識した上で、理想との違いを埋めるためのトレーニングを繰り返す。基本が身についたら、個性を活かした表現力を磨いていく。まさに、スキーの練習も守破離だったんです。

また、サークル活動を通して、仲間との信頼関係やチーム力も体感しました。「強い個」を求めているだけでは、成長に限りがある。逆に、個が強くなくても、「チーム力」があれば、個以上の成長を引出し、パフォーマンスを発揮することができると。

スキーを続けるために大学院への進学も決め、卒業後もスキーを続けたいと考えていました。ただ、現実的にスキーだけで食べていくのは厳しいと感じていたので、社会人スキーヤーの道を選ぶことにしました。そのため、スキーを続けられる労働環境かどうかは、必須条件でした。

また、技術を追求するだけではない仕事をしたいと考えていました。大学院では、人工衛星のインフレータブルパラボラアンテナの設計など、技術的には面白い研究をしていました。ただ、それが誰にどう喜ばれるのか実感しにくかったため、もっと「手触り感」のある仕事をしたいと。

そんな時、技術をユーザーとつなげる「フィールドSE」という職種があった、富士ゼロックスに出会いました。正直、仕事の具体的なイメージまではできませんでした。

しかし、「Better Communication」という哲学や、「つよい、やさしい、おもしろい」という「よい会社構想」、接した社員の雰囲気に惹かれて、入社することを決めました。

「やりたい仕事」というよりも、「(スキー)人生」のための「いいパートナー(法人)」を選んだ感覚でしたね。

会社、仕事へのモヤモヤを感じる


入社してからは、希望部門でフィールドSEとして働き始めました。早く一人前になるためにも一生懸命頑張り、2年目になると、新規のソリューションを自分で企画、開発、営業し、お客様へ提供するようになりました。全てが初めての体験で、楽しかったですね。

しかし、少しずつ仕事に慣れ、自分の意志を入れられるようになると、会社に違和感を感じ始めました。お客様が求めていても、「ルール上できない」「うちの部門の仕事じゃない」「リスクどうすんだ?」など、様々な理由で阻まれることが増えてきたんです。

「組織の壁」を感じましたね。「ああ、これが大企業病か」と。そのため、入社して3、4年経つ頃には、真剣に会社を辞めようかと考えていました。

ただ、中途入社の先輩にこの悩みを吐露したところ、「会社内にある他の仕事にも目を向けて見ろ」と、アドバイスをもらったんです。確かに、SEの仕事だけで会社の全てを知れるわけではないし、今の状況で判断するのは早過ぎる。そこで、社内の色々な仕事に目を向けるようになったんです。

上司や先輩の伝手を辿り、社内の色んな人から話を聞く機会を増やしました。また、部門異動が度々あり、社内を広く見られるようになると、面白い人がたくさんいることに気づいたんです。そのため、辞めたい気持ちは徐々に小さくなり、代わりに、この社内のおもしろい人たちと仕事をしたいと思うようになりました。

一方で、スキーも続けていました。多い時は年間70日ほど滑りに行っていて、シーズン中の休日は全て雪山にいましたね。ただ、20代後半になり、子どもが生まれてからは、徐々に雪山から足は遠ざかっていきました。

すると、スキーによるストレス解消機会が減り、エネルギーが余り始めると、仕事で「モヤッ」とすることが多くなりました。なんだか仕事が楽しくない。まわりの若手も楽しそうじゃない。「このままじゃヤバイ!」と。

会社をみんなが楽しく働ける場所に変えたい


でも、文句ばかり言っても何も変わらない。自分でなんとかできないか。そう考え、まずは、会社で何が起こっているかを理解するために、経営を学ぶことにしました。守破離の「守」、「型」を知ることからと。そして、中小企業診断士の資格取得を目指し始めると、組織の状態や課題、上司が言っていたことなどが、初めて分かるようになったんです。

その上で、その型を「破り」「離れる」ために、「理想的な会社」を考えるようになりました。人生も仕事も楽しむために、会社を楽しい場所に変えたい。そのためには、組織の壁なんか感じることなく、お客様にとって最高の価値を生み出し、届けることができたらいいな。新しいことに次々にトライできたらいいな。公私関係なく社員同士が楽しくはしゃげたらいいな。

しかし、そんな理想を思い描いていくほど、理解し始めた現状との差に絶望し、「ひとりで理想を吠えても変えられないな…」と、気持ちが萎えるのを感じていました。

そんな時、社内で若手向けの勉強会を開催している先輩の話を聞き、「会社の変え方」を初めて知ったんです。組織を越えた人のつながりがあれば、会社は変えられる。若いうちに関係ができていれば、5年後、10年後には「組織の壁」など意識せずに仕事ができる、と。

「こんな方法があったのか!」と衝撃を受け、高ぶる思いを胸に、一気に企画書に落としました。この会社で感じていた最大の課題は、「組織の壁」。しかし、壁なんて個々人の気持ちが勝手に作り出しているもので、強い信頼関係があれば存在しないもの。一緒に仕事をしたことがなくても、なぜか信頼しちゃっている同期のように、「楽しさ」を軸にして集まれたら、強い信頼関係が築けるのではないか。

そんな企画をまとめ上げ、同じ部門の先輩に「わるだくみしませんか?」と声をかけると、ふたつ返事で「いいね!」と言ってもらえたんです。そこで、初対面メンバーを含む8名で、集まることにしました。自分の知らない人を多く入れたのは、組織の壁を壊す前に、自分自身の「人見知りの壁」も壊さなければ、と思っていたんです。

そして、2012年4月、「楽しくやる」ための「場」と「つながり」を提供する、有志ゆるネットワーク「秘密結社わるだ組」を結成しました。組織名なども含めて、徹底的に遊び心を突っ込みました。

月一回の定例会から始め、興味を持ってくれた色んな人を誘い、議論や対話を繰り返し、ビジョンや活動の骨格を作っていきました。「楽しそうならやる!」などシンプルな行動指針のもと、様々なイベントやプロジェクトを企画、運営しながら、「信頼ある、ゆるくもしなやかなつながり」を拡大していきました。すると、次第に「気持ちが若い」ベテラン先輩も参加してくれるようになり、その先輩たちの人脈や知恵によって、活動の幅や質がどんどん上がっていきました。

自分のような凡人こそ一歩踏み出すトライに価値がある


現在、わるだ組でつながっている人は440人超。社内外関係なく、共感してくれた人が集まってきてくれています。

わるだ組は、みんなが楽しく働き、個人がやりたいことを実現するためのインフラを目指しています。そのため、社内外の人にはもっと活用して欲しいですね。でも、インフラや仕組みがあるだけではダメで、私自身が、「こんなこともできちゃうんだ」という先行事例にならなければと思い、率先して楽しく自由に活動しています。

将来的には、組織内外が難なくつながって、楽しいことや新しい価値が次々に生まれるのが自然になってくれば、「わるだ組」という型はいらないと思っています。あるのかないのかよく分からない都市伝説的な組織になったら、それもまた楽しいなと。

ただ、私自身がやりたいことは、有志団体運営ではなく、あくまでも新しい価値を生み出して届けること。その本業においても、わるだ組をきっかけに、仲間や知恵、人脈が広がり、自分がやりたいことに全力で取り組めるようになりました。何かやりたいことがある時に、わるだ組でふと相談してみると、「私もやりたい」「誰々が詳しい」「誰々も興味持つと思う、相談すべし」など、シナプスがつながるように、一気にアクションにつながるんです。

一歩踏み出すたびに景色が変わり、仲間が増えてできることが増える。みんなでこれを続ければ、なんでもできるようになるんじゃないかと思っているので、強い個が集まった強いつながりで、「楽しい会社」「楽しい社会」を実現していきたいと考えています。

また、この活動をしていて嬉しいことは、「わるだ組」をきっかけに、「トライ」をしてくれる人が出てきたことです。私自身、一歩踏み出すことで大きく景色や環境が変わりました。自分のような凡人こそ、踏み出した世界との差が大きいため、それを大きな価値と感じるはずです。

最近会う人には、「人見知り?嘘でしょ」と言われることが多いですが、今でも人に会う時は、不安や恐怖と葛藤しています。ですが、それを乗り越えた後に得られる感動を知ってしまったからこそ、楽しげなことがあれば、勇気を出して踏み込むようにしています。

とはいえ、葛藤に負けることもあるので、一歩を踏み出しやすい、または、踏み出さざるを得ないような機会を自ら創り、身を投じるように工夫しています。きっかけは、「勇気」でなくとも、「思いつき」「強制」「偶然」なんでもいいと思うんです。

性格の本質は変わらないけど、自らの考え方や行動は変えられる。その根本にあるのは、「楽しい」という感覚。これからも、この感覚を大切にしながら、動き続けていきたいと思います。

2015.10.27

インタビュー・執筆 | 島田 龍男
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