組織と個人の関係はもっと柔軟になる。子育て・震災を機に考え始めた未来の社会像。

大手事業会社にて新規事業担当を務める傍ら、働き方と組織の未来を考える一般社団法人の代表も務める石川さん。「いきいき働く大人が増えることで、その背中を見て育つ子どもが夢を描ける社会になれば」と話す背景にはどのようなエピソードがあったのか、お話を伺いました。

石川 貴志

いしかわ たかし|事業会社勤務兼働き方を考える一般社団法人運営
丸善CHIホールディングス株式会社にて新規事業開発に携わる傍ら、”個人と組織のよりよい関係性を創造すること”を目的に、個人のチャレンジ、組織の変革を応援する一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)の代表を務める。

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父の会社の倒産と、日本を元気にという想い


私は広島県福山市に生まれ、小さい頃から生徒会長を務めたり、野球に打ち込んだりするような活発な性格でした。父は地元の地銀の支店長を務めていたのですが、私が小学5年生の時に後継者のいなかった化学メーカーの代表を務めることになり、話を聞いた時は「いきなり社長になるなんて、すごいな」と驚きました。

しかし、私が高校に進学した17歳のタイミングで、父の会社が倒産してしまったんです。資金繰りで苦しんだ結果の倒産で、家族が喧嘩をしたり、父の元気が無かったり、まずいなという危機感がありましたね。家は担保にとられていたので倒産後なくなり、父と母は離婚し、家庭環境は混沌とした状態でした。私自身は甲子園を目指して野球に打ち込んでいたため、そこに気持ちを集中することでなんとかなっていたような感覚でした。

その後、夏の大会まで終えて部活を引退すると、大学に行けるか分からない不安もあったのですが、なんとか母がお金を工面し、既に社会人だった姉の経済的な援助も得て、大阪の大学に進学することができました。ただ、大学に入ってからは、甲子園のように打ち込む目標がないことや、実家をやや遠ざけていることに対してずっと悶々とした気持ちがありました。

そんな大学生活を経て就職活動を迎えると、今まで避けてきた「これから何がしたいのか」という目標について真剣に考えるようになりました。父の会社の倒産など、バブル後の不況を身近に経験したことから感じた「日本を元気にしたい」という想いと、ちょうどインターネットが出て来た時期ということもあり、アイデアを形にするツールとしてのIT技術に可能性を感じ、IT業界に絞って就職活動を行いました。

最終的には、仕事は一日のうち8時間も時間を使うものなので、自分の気持ちを大事にして環境を選ぼうと考え、住商情報システム株式会社(現SCSK株式会社)に就職を決めました。

人の適材適所への想いと、事業創りのための転職


入社してからは、システムエンジニアとしてシステム開発に携わるようになりました。仕事として、自ら事業を生み出すというよりは、クライアントの事業をシステムという側面から支援する要素が強かったのですが、まずは力をつけようという考えもあり、業務に注力する日々を過ごしました。

すると、仕事でプロジェクトマネジメントに携わる中で、人の適材適所についてとても関心を抱くようになったんです。30名程のプロジェクトに関わる中で、皆得意分野や好きな分野があり、その業務を任せるとパフォーマンスが明確に上がっていきました。そこで、誰もがうまく得意分野に関われるような仕組みを作れないかと考え、社内で部署横断のプロジェクトを推進していくようになりました。

そんな風に仕事を進めていくと、ある時から一つの企業だけでなく、社会全体で人の適材適所を行う、ということに強く関心を抱くようになりました。そうすることで、日本全体が元気になるのではないかと考えたんです。また、当初から抱いていた、自ら事業を創りたいという想いも大きくなり、転職を考え始めるようになりました。

そんな折、会社の看板がありながらも新たな事業創りができそうなリクルートエージェント(現リクルートキャリア)の新規事業部門に出会いました。事業としても新しい形の就職支援や採用支援を通じて、社会全体の適材適所が実現できるということで、自分が求めていることが全部当てはまるなという感覚がありましたね。

そんな背景から、入社して6年目に転職を決めました。 実際にリクルートエージェントで働き始めると、若くて元気な社風に加え、皆何がやりたいかという考えを持って働いており、朝から晩まで仕事をしても疲れないような、素晴らしく相性の良い環境でした。事業部門も立ち上がったばかりの小規模なチームで企画や営業、チームマネジメントなども含め、手触り感を持ちながら仕事ができ、非常にやりがいを感じましたね。

個人の多様性というテーマへの関心


その後、事業は順調に拡大していき、業務としても、効率化が中心のフェーズとなっていきました。すると、学生と企業のマッチングを効率化することよりも、その前段にある、個人の多様性を引き出すような教育の分野に新たに関心を持つようになっていったんです。個人の適材適所を追いかければ追いかけるほど、適材適所される個人をよりエンパワーメントすることやそのための教育に関心を持つようになりました。また、事業立ち上げフェーズを終えたことにより、手触り感を持った新しい挑戦をもっとしたいという想いもありました。

ちょうどそんなタイミングで、リクルートの元上司から丸善CHIホールディングスを紹介していただいたんです。そして、紹介していただいた役員の方と意気投合し、自分が描いている、個人に多様な選択肢を提供する教育を、ここでならできるのではないかという期待を感じました。

そこで、31歳のタイミングで転職を決め、丸善CHIホールディングスにて、事業開発部門のマネージャーとして働き始めました。新規事業開発を数年やったのち、現在は経営企画部に所属し、50%は既存事業の収益改善を行い、もう50%は、新規事業開発を行っています。組織の再編もあったため、入社した時と状況は少し変わりましたが、現在は、自らできることを活かし、会社の戦略に沿って新しい事業を立ち上げていこうというタイミングです。

個人と組織の関係性はもっと柔軟になる


また、個人的にはちょうど転職した年に子どもが生まれたことで、価値観が非常に大きく変わりました。子どもを見ていると、「親父もこんな感じで自分をみていたのかな?」と17歳の時に生き別れになった父親のことを思い出すようになりました。考え方に「時間軸」が生まれ、過去のことを考えてみたり、逆にこれまでは実感が持てなかった100年後の社会課題に実感を持ち始めたり、次第に社会的な活動への関心も増していきました。

その一つとして、SVP東京(ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京)という、社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業に対して、自分自身のお金と時間を使って投資協働を行う団体にも参加するようになり、社外での活動も増えていきました。 SVP東京は、弁護士や会計士、大企業の第一線で働く20代から60代のビジネスパーソン約100人で構成されていて、本業で培った専門知識を本業以外にも提供している団体です。お金でないことに動機づけられて活動し、個人もやりがいを感じている、また活動自体の価値も社会に還元されている。お金や主従関係ではない繋がりというか、未来の新しい組織の在り方を感じてすごくワクワクしましたね。

そんな折、子どもが生まれた翌年、震災が起こりました。私の周りにも会社を辞めて被災地の復興支援に行きたいという知人がいたのですが、優秀な彼が辞めると、会社としても業績にダメージが出るのが見えていました。また、その彼としても、復興支援に行けば収入は半分以下になる、それならば、会社を辞めず、活動を半々でやればいいんじゃないかと感じるようになりました。 元々、個人の多様性に関心を持っていたように、働き方を中心とした個人と組織の関係性はもっと柔軟にできるという想いがあったんです。次第に「個人がいきいきすること」が大事で、もっとそういった人を応援したいという気持ちが募っていき、「働き方と組織の未来」を考えるイベントを、個人の活動として開催するようになりました。

いきいきと働く大人を見て、子どもが未来を描ける社会


一つのイベントとして始まった活動ですが、現在は一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)という形で法人化し、同じ問題意識をもつボランタリーな社会人仲間と一緒に定期的に活動を行っています。

具体的には、企業に務めながら自分自身の会社を複数経営するような「組織の中で、志をもってルール違反をしている人」や、専業禁止の就業規則を持つような会社の経営者を呼んで、対話型のセッションを行っています。 働き方は個人の文脈で語られることが多いものの、結局は個人と企業の関係性だと思うんです。だからこそ、個人側と企業側の2名のゲストをお呼びし双方から考えるスタイルを用いています。

また、そんな風にある種、常識外のことをやっている、「ルールの違反者」は悪人だと思われますが、ルール自体が変わった後には先駆者と呼ばれます。そのため、各立場で先駆者になりうる方と未来を考えるような場にできればと考えています。

参加者は様々な業界のビジネスパーソンに加え、経営者や人事関係の人も多いです。その他にも学校関係者やNPO関係者、大学生にも参加いただいていて、現在は毎回100名を超える規模で開催しています。

そういった活動を通じて、働き方と組織の関係をデザインしなおすことで、最終的には、いきいきと働く大人であふれる社会を創りたいという想いがあります。子どもは大人を見て育つので、そんな大人を見て子どもが未来を描ける社会にしたいですよね。

だからこそ、自分自身のテーマに対して、仕事を通じて取り組むことに加え、Work Design LabやSVP東京などの本業外の活動も通じて、今後も多面的にアプローチしていければと考えています。

2015.06.16

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