時代に求められるライフスタイルのかくめい。旅を続けた僕の後悔しない人生とは。
新しいライフスタイルを提案する「かくめい」プロジェクト発起人の鯉谷さん。大学卒業後、世界中を周り「旅をするのが日常」という生活を送り続けて実感した、社会が求めているライフスタイルとは?鯉谷さんにお話を伺いました。
鯉谷 ヨシヒロ
こいたに よしひろ|新しいライフスタイルの提案
かくめいプロジェクト発起人。写真家、建築家として活動をする。
社会に興味を持てず、見たこともないものを求めて旅に出る
僕は大阪で生まれました。小さい頃から1つのことにのめり込む性格で、小学校の時にはRPGゲームを授業中にノートに書いて、10分の休み時間で仲間で、机を囲んで遊ぶようなことをしていました。
親から就職するために大学位は出ておくようにと言われていたので、大学には通っていましたが、特に将来やりたいことなんてありませんでしたね。そもそも社会に興味がなかったんです。周りの友達が就職活動を始めて髪の毛を黒に染めたり、同じようなスーツを着るようになるのを見て、カッコ悪いと感じていたし、僕は就職活動は一切しませんでした。
今の「旅」の原型を作ったと言われるジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグや、ロバート・ハリスの本に出会って「こんな世界があるんだ!」と衝撃を受けました。彼らにすっかり影響を受け、「自分も世界を見てみたい」という一心で大学卒業後に東南アジアへ行きました。
旅では色々な国に行きましたが、その中でもラオスのバンビエンは天国のような場所でした。山続きの中に川があって、そこに動物たちが水を飲みに来ているんです。そこで、盲目の日本人のおじいさんに声をかけられ、一緒に過ごすようになりました。
その人は大成功した経営者で、川のほとりでビールを飲みながら、「目の前で魚を釣っているあの網を日本に持って行ったら、ビジネスになるぞ」などと話してくれ、とにかく生活の中からたくさんのビジネス講座をしてくれたんです。その人自身の生き方が面白いと思ったし、お金を稼ぐとは人に雇われることではなく、自分で仕事を作り出すものだと身を持って学べましたね。
そして半年ほどで旅を終えた後は、ビジネスをするためにタイに行きました。タイは環境も整っていたし、タイの雑貨を日本に輸入して売ったらいいんじゃないかと思ったんです。
ヒッピーとして、旅をしながら生きる
しかし、1年ほどタイにいたものの、結局ビジネスを興すことなく日本に帰国することにしました。雑貨の輸入販売を別にやりたいと思えなかったんですよね。かと言って自分がやりたいことも分からず、半年ほどはグダグダと引きこもるような生活を送っていっきました。ただ、海外を回ってみたことで日本のことを全然知らないと気づき、日本も旅するようになりました。
僕は旅人の中でもツアー旅行者とも、バックパッカー旅行者とも違う「ヒッピー」のコミュニティに属していました。ヒッピーは行き先も決めずに、行く先々でヒッピー同士でものを交換しあったり、次の場所まで一緒に移動してまたすぐに別れたりと、遊牧民の様に移動しながら生きていたんです。そして、国にかぎらずヒッピーコミュニティはあったので、日本を旅するのも世界を旅するのも同じ感覚でした。
そして、南から北上していき、辿り着いたのは北海道でした。その道中では日本にある様々な土地ごとの生活や文化を知ることができました。特に、北海道ではアイヌの人たちのシャーマニズムとヒッピー文化は密接に関わっていることなど、それまで全く触れたことのない世界を知ることができたんです。
そして旅の延長として、次は中南米に行こうと思い、メキシコに行くことにしました。到着して1週間後くらいすると、ヒッピーたちが集まる「レインボーギャザリング」というものに誘われました。よく分からないけどとりあえず参加してみることにしたんです。
日常が旅になるホースキャラバンという生き方
レインボーギャザリングは、人里から離れた、大自然にヒッピーが集まって1ヶ月間共同生活をするもので、68年のウッドストックから続くリアルヒッピー文化の流れを組むある種の社会実験でした。世界各地で独自に行われつつ、世界的な集まりも行われていて、僕が行った時にちょうどメキシコで開催されていたのです。
そこでは何もないところから生活が始まり、川から水を引いたり、キッチンや雨風をしのげるスペースを作ったり、トイレを作ったりと、まるで社会が構成されていくプロセスを早送りで見ているようでした。
それも、特定のリーダーが指示をするのではなく、自発的にコミュニティができ、必要なことを話し合い、それぞれの人が提供できることで貢献していくんです。コミュニティ内でのやり取りには一切のお金を介さずに、できることでのギブアンドテイク、もしくはギブアンドギブが行われていました。
そして1ヶ月ほど生活をする中で、「ホースキャラバン」という、馬に乗りながら旅するコミュニティを作りたいと話す人と知り合い、「NPO法人ノーマッズユナイテド」の立ち上げに参加することにしました。そこでグアテマラに渡り、自分たち自身、馬に乗りながら旅する生活が始まったんです。
8ヶ月かけてグアテマラからメキシコまで移動していきましたが、この旅を通じて、旅は「非日常」ではなく「日常」になり得るものだと実感することができました。それまでは時間を作って旅をしていましたが、この時は旅そのものが生活だったんです。また、自然の中で暮らしているとお金がなくても生きられることを実感し、むしろお金や時間に縛られる社会に生きることが不思議にさえおもえていきました。「時間」は人間が創りだした概念で、他の生命は時間に縛られず、過去や未来ではなく常に今を生きていたんです。
後悔しない人生を送るために、全て #ヤる
その後もメキシコに拠点を置きながら、ホースキャラバンに参加したり、レインボーギャザリングに参加して過ごす生活を送っていました。また、写真家としての活動も始めました。日本やメキシコでの写真の仕事を受けるようになり、少しずつ移動し続ける生活ではなくなっていきました。
そんな時、叔父が68歳で亡くなりました。僕も日本に帰国して看病にあたり、初めて親族の死を経験しました。僕は34歳で叔父の半分の年齢。自分の人生もあと半分しかないのかと思うと、もっと好きなことをしなければと思ったんです。
そして、自分自身が旅で移動し続け、ピラミッド構造ではないフラットな組織に属し続けていたことから、同じようなコミュニティをもっと一般の人にも届けたいと考えるようになりました。というよりも、自分が送ってきたような生き方が、社会から求められていると感じていたのです。
インターネットやSNSが登場したことによってコミュニケーションやライフスタイルのあり方が変わり、パソコンひとつあればどこにいても仕事ができるようになりました。その結果、場所や時間に縛られずに働きたいと考える人が増えてきていたんです。そして、縛られなくなると、より自分に合ったコミュニティを求めるようになります。この先、どうせこの生き方が主流になるのであれば、自分でその世界を作りたいと思ったんです。
ただ、僕の理想としていた生き方は、日本の「三角エコビレッジ サイハテ」ではある程度形になっていました。とはいえ、1つのエコビレッジだけでは課題もあると考えていたので、サイハテの創設者である工藤氏を誘って、一緒に生き方の「かくめい」を起こすことにしたんです。
ライフスタイルの「かくめい」
僕たちが「かくめいプロジェクト」で行っているのは、新しいライフスタイルの提案です。今までの様なピラミッド型の社会ではなくフラットなコミュニティを作り、場所や時間に縛られずに自由に生きる人を増やしたいと考えています。
プロジェクトの1つである「ファイナルランドビレッジ」では、複数のエコビレッジを運営しています。エコビレッジは人と人の距離がとても近いコミュニティで、共有しながら生活をする環境です。田舎のご近所さんみたいな感じですね。そのため、プライベートが確保された都市社会から移ってもストレスを感じてしまい、エコビレッジの共有生活を10年以上続けるのは難しいと言われています。実際にメキシコ初のエコビレッジも共同でプロジェクトを進めることは無くなり、区画を分けて、住宅地に変わってしまいました。
そこで、住む人々が複数のエコビレッジを移動していくことで、新しい人の循環が生まれ、コミュニティもつねにフレッシュさを保つことができます。また、人が移動することで、コミュニティ内のメンバーが固定化してしまうことで発生する階級もなくし、個人が自発的に動くフラットな組織を作ることができます。世界中にエコビレッジは沢山ありますが、複数運営しているところは今まで見たことがないですね。
また、「ファイナルランドシティ」という日本人が海外でビジネスチャンスを掴む場も運営しています。日本だと新しいことを始めようとしても高度なものが求められるし、競争も激しいのですが、途上国では無数にチャンスが広がっています。ただ、その情報を知る機会がなかったり、いきなり海外に行くのはハードルが高かったりもします。そこで、ファイナルランドシティでは挑戦したい人が無料で暮らせるシェアオフィスを提供しています。これからは「どこに仕事があるか」が大事になってくるので、日本人が海外に目を向けるきっかけをつくれたらと思います。
また、「生き方の #かくめい」を個人メディアで配信しています。Youtube、「かくめい.みんな」サイトにて #かくめい に参加している各個人の「日常」を配信しています。結局、実際に目で見てみないとわからないことですから。
これからも、多くの人が、自分が望んた生き方や働き方ができるように、新しいライフスタイルを提案していきたいと思います。「かくめいか」になりたい人は #お好きにどうぞ。それこそリーダーはいない組織なので、みんな自分の解釈で好き勝手にやっていて、ある種のムーブメントが起きているのが面白いですね。僕にもほとんど主導権はないので。(笑)
人生は短く、必ず終わりが来ます、その瞬間、「人生は最高だった」と言えるかどうかが、最終的に人生の価値だと思います。まるで漫画のように、最高に面白い人生を描いていきます。
2015.04.30