地域にあるものを磨けば本当の豊かさになる。 移動と観光を軸に、大朝の景観を次代へ。

バス会社や旅行会社を営みながら、移動と観光を軸に北広島町大朝の地域活性化に取り組む堀田さん。一度は地元を離れた堀田さんですが、家業を継ぎ自分でも事業を作る中で、地域の魅力に気づき、「自分が好きな地域を作ろう」と考えを変えたと言います。堀田さんが、活動を通して目指す世界とは。お話を伺いました。

堀田 高広

ほった たかひろ|有限会社大朝交通代表取締役・NPO法人INEOASA理事長
広島県北広島町大朝で生まれる。高校卒業後、料理人修行のため大阪の飲食店へ。広島に戻り家業のバス・タクシー会社を継ぎながら、旅行会社起業やNPO法人の運営を通して大朝の地域課題に取り組む。現在は新たな観光プロジェクト「地元ガイドとめぐるE-BIKEの旅とサイクリング拠点づくり」の成功に向け尽力している。

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地元ガイドとめぐるe-BIKEの旅とサイクリング拠点づくり
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※この記事は、広島県の提供でお送りしました。

祖父の背中と賑やかな大朝


広島県北広島町の大朝地区で、4人兄妹の長男として生まれました。大朝は広島と島根をつなぐ交通の要所で、隣町からも人がたくさん来る賑やかな地域。祖父が立ち上げたバス・タクシー会社を父が継いで経営しており、会社の裏に私たち家族が住んでいました。

祖父は時代の変化に敏感な人で、色々と新しい事業をやっていて。「地元を良くしたい」という思いが強く、地域の人々の手助けをしている姿を間近で見て育ちました。祖父は初孫の私をとても可愛がってくれましたね。

近所の商店街は、生活に必要なものが一式揃うくらい充実していました。飲食店もたくさんあり、友達とよくお好み焼きなんかを食べに行っていました。飲食店で大人たちがツケで払っているのを見て、憧れがあって。「うちにツケておいて」と言っては、あとから母に怒られていましたね。

小、中学校では正義感が強く、短気な性格。決めた約束を守らない同級生が許せなくて、よく喧嘩になっていました。高校では、偶然同じクラスになった数人で仲良くなって、いつも一緒にいました、下宿先に集まったりしてしょっちゅう遊んでいました。その後も、年に数回集まる飲み仲間になりました。

自分が好きな地域を作ろう


ドラマの影響で洋食のシェフに憧れ、高校卒業後は調理師の専門学校へ進むことに。その頃は、地元を出て東京や大阪に行く人が多く、自分もその道を選んだのです。1年間学校で学んだあと、大阪のフレンチ専門店で働くことになりました。見習いとして早朝から深夜まで働き、とにかく忙しい日々でしたね。

店で出会った人たちは変わり者ばかりでしたが、特に料理長が面白い人で。普段はふざけていても、実はその道では著名な実力者。料理への並大抵ではないこだわりと執念を目の当たりにして、自分とは違うと感じました。「僕がシェフになるのは無理だな」と思ったんです。

料理人の道は諦めて4年勤めた店を退職し、広島に戻りました。父の元で働くことになり、しばらくは言われた仕事を覚えていきました。

世の中は景気もよく、どんどん新しいサービスや商品が生まれていました。そんな中、旅行の手段も新幹線や飛行機へと移っていっていて。バス会社ではバス旅行しか扱えないので、このままでは世間のニーズに応えられなくなる。変わりゆく観光のニーズにも対応できるよう、他の旅行も扱えるようにしなくてはと感じました。そこで、自分で旅行会社を立ち上げることにしたんです。

事業を興すのは初めての経験で、基本的なこともわからない。教えてくれる人もいないので、同業の社長や取引先の人に聞きながら手探りでやっていました。

地域の人たちとのつながりができ、会社を経営していくうちに「もうこの町から逃げられないだろう。逃げるときはこの会社を畳むときだ」と腹を括るように。

ずっとこの町にいるなら、せっかくだから地域のことをもっと知って、好きになろう。そして、他の人にも好きになってもらえる町にしたい。そう考えを変えました。

手をかけた場所が魅力になる


そんなとき、平成の大合併で町村の統廃合がありました。僕は、周辺地域のバス会社で作った組合のトップになることに。地域のインフラとして公共交通網を一つにまとめ、整備することになったんです。観光会社とも連携し、旅行業にも注力することに。

自分自身、添乗員として全国を巡るうちに、さまざまな観光地の取り組みを知りました。取り入れたいと思う良い事例もあれば、「自分ならこうするのに」と少し残念に感じる場面もあったんです。様々な事例をみることで視点が増え、自分の地域の見方も変わりました。

一方で、地域に戻ってずっと年配の方たちと話すと、今まで知らなかった昔の知恵や言い伝えを教えてくれて、とても興味深いんですよね。ただ、お年寄りたちは生まれ育った町をあまり良い場所だと思っていないこともわかりました。「田舎には何もない、何もできない」と思ってしまっているんです。

それでも、僕が「田舎にもこんな魅力がある」とこの町の良いところを伝えると、すごく嬉しそうにしてくれました。その姿を見て、昔の賑わっていた頃に時間を戻すことはできないけれど、今の時代に合わせて良いものに形を変えることはできるんじゃないかと思い始めたんです。

都会のように、利便性や効率性を追求することは必要ですが、それが本当に豊かだと言えるのか。たしかにお金は大切だけど、本当にそれだけでいいんだろうかと疑問に思い始めました。どんなにたくさんお金を持っていても豊かに見えない人もいるし、反対にお金がなくても豊かに生きている人はいます。

「本当の豊かさ」とは、人と人とのつながりを大切にしながら、古き良きものを継承していくことなんじゃないかと思ったんです。この町には山や田んぼなどの自然や古民家などがたくさん残っている。それらを維持して次の世代に受け継いでいくことこそが価値がある、と考えました。

その頃、祖父母が持っていた古民家を取り壊すか迷っていました。ある時「焦らずできることを少しずつやっていけばいいよ」と言ってもらって。壊すのはやめて、その言葉の通り、少しずつ手入れをしていきました。すると、そこに人がどんどん集まってきたんです。

集まった人はみな口を揃えて「とても良い場所だ」と言ってくれました。古いモノや場所でもきちんと手をかけてあげれば価値となる、大朝にはそんな可能性を秘めた場所がたくさんある。そう確信した瞬間でした。

非日常を五感で味わうサイクリング


この地域には可能性がある。そう感じるものの、現実には人口が減り、耕作放棄地や空き家が増え、様々な地域課題が浮き彫りになっていました。バブルが崩壊してからというもの、羽振りがよかった社長たちが町から姿を消し、会社の数も減りました。僕が生まれ育った町から、どんどん人がいなくなっていたんです。バスを走らせていても、「空気を運んでいるのか」と揶揄されて。悔しくて、「地域に必要なものにしてやる」と思っていました。

大朝は交通の要所として栄えていた土地。しかし今やショッピングセンターや高速道路が建設されたことで、広島と島根をつなぐバスの駅には人がまばらで、駅としての機能をなくす計画まで持ち上がっていました。

「このまま大朝の人口が減っていったら、バスに乗る人もいなくなる。自分がどうにかしないといけない」と危機感を覚えました。そこで、大朝に移住や訪問してくれる人を増やすための新たな事業を始めることにしたんです。

代々バスやタクシー会社を営んできた自分だからこそできることを考え、「移動」に着目しました。それまで、大朝の移動手段は主に車。公共交通機関といえばバスだけで、よそから来た人たちからはいつも不便だと言われていました。地元の観光名所を巡るにも、車で移動するとあっという間に見終わるし、徒歩で行くには遠すぎる。

そこで、自転車で地域を巡れるようにしたらどうか、と考えました。自転車なら、車で案内できなかったような場所にも連れて行けます。サイクリング中には車では感じられない音や匂い、風の心地よさも、五感で味わってもらうことができる。ただの「移動手段」ではなく、非日常を楽しむ時間を創り出せるんじゃないかと思ったんです。

さらに、一人では通り過ぎてしまうような場所も、地元の歴史や名所をよく知るガイドと巡れば新しい発見も生まれ、見方も変わってくる。そうすれば、自然と「また来たい」と思ってもらえるようになるはずだと。そこで、サイクリングツアーを企画することにしました。

初めは不要になった自転車を整備して貸し出していましたが、上り下りが多い大朝の地形やお客さんの安全性を考え、普通の自転車ではしんどいという話に。ちょうどその頃、スポーツタイプの電動アシスト自転車である「E-BIKE」が流行り始めたと耳にしたんです。

E-BIKEで大朝を巡るガイドツアーを企画し、クラウドファンディングで資金を募ることに。大朝をサイクリングの拠点にしていく構想が始まりました。

最初は集客も思うようにいきませんでしたが、大朝に移住しガイドをやってくれる者も現れ、だんだんと事業が具体的になっていきました。

大朝の景観を守り、人が集まる場所に


現在は有限会社大朝交通代表取締役、NPO法人INEOASA理事長として、北広島町の活性化に取り組んでいます。祖父から引き継いだ交通会社では観光、路線バスの運行を。ほかに旅行会社も経営しています。

NPOでは「持続可能な地域社会を作る」というミッションのもと、地域資源やお金が循環する仕組み作りをしています。小学校でのふるさと教育や田植え体験など、地域課題に肌で触れる機会を提供しています。

今特に大きな可能性を感じているのは、「地元ガイドとめぐるE-BIKEの旅とサイクリング拠点づくり」プロジェクト。大朝駅を「大朝モビリティステーション(O.M.S.)」と名づけ、かつて交通の要所だったように、サイクリングの拠点として人が集う場にできればと考えています。

「O.M.S.」はガイドツアーやレンタルサイクルの受付はもちろん、サイクリストたちが気軽に立ち寄れるような場所にしていきたいです。新型コロナウイルスが落ち着いたときに多くの人が来てもらえるよう、今は集客や発信の仕組みを整えているところです。

「観光」というと「一度行ったら終わり」と思われてしまいがち。でも、僕はそうではないと考えています。一度訪れた土地であっても、季節や出会う人が違えばまた異なる体験になる。いつも新しい観光スポットを探すのではなく、「あの人に会いたい」「あの場所にいきたい」と思ってもらえるような関係性を生み出すことが大切です。

そのためにも、宿泊などの体験を増やし、滞在時間を増やしてもらう工夫が必要だと考えていて。今後は古民家一棟をリノベーションしてゲストハウスとして活用し、人が集まる場所にしたいです。また、「移動」の軸でキッチンカーを事業にするなど、新たな取り組みをどんどん打ち出していくつもりです。

僕は、赤瓦の家が並ぶ大朝の街並みが大好きです。この景色を守り、次の時代に残していきたい。きちんと手入れして景観を維持していけば、自然と人が集まる場所になると思うんです。

これまでは僕たちが中心になって大朝を盛り上げる仕組みを作ってきましたが、これからは若い世代にバトンを渡していく番。次の世代の人々とともに、より多くの人が持続的に訪れてくれるような町を作りたいですね。

2021.11.08

インタビュー | 粟村千愛ライティング | 安心院彩
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