価値あるモノとの出会いを増やす。「下り坂の人生」の中で本当にやりたいこと。

会社でメディア・広告事業を運営しながら、個人として「パン」「スポーツ」のほか、様々な事業に関わる山口さん。会社での活動に留まらず、幅広く活動する背景にはどんな想いがあるのか。複数の事業の根底にある一つの軸とは。お話を伺いました。

山口 翔

やまぐち しょう|株式会社グライダーアソシエイツ上席執行役員CMO
神戸大学工学部建築学科卒業。新卒で株式会社マクロミルに入社。営業、人事を経て、キュレーションアプリantenna*[アンテナ]の広告事業立ち上げメンバーに抜擢される。antenna* 事業全体の統括を経て、現在は株式会社グライダーアソシエイツの上席執行役員CMOとしてメディアグロースプラットフォームを軸にした新規事業「craft.(クラフト)」の開発を進める一方、個人としてパンフォーユーなど様々なプラットフォーム事業の支援を行っている。

人生を否定され見返したいと思った


兵庫県宝塚市で生まれました。父の仕事の関係で、小学校低学年のときに3年ほどインドに住んでいましたが、以降は宝塚市内に戻り、大学まで進学しました。勉強も運動もそれなりにできたので、「なんでもやればできる」みたいな感覚がありましたね。そのままサラリーマンになってお金を稼いで、それなりの生活をして、トントン拍子で人生は進んで行くんだろうなと思っていました。

大学3年になり就職活動が始まる頃、友人の紹介で会社を起こしている先輩に会いました。高校や大学でやってきたことを話したところ、その先輩にいきなり「お前の人生全然面白くないから、話す時間がもったいないわ」と言われました。「そんなに面白くない人生、生きてて楽しい?」と。

それまでの人生に対してプライドがあったわけではありませんが、そこそこうまくいっていると思っていただけに、人生を否定されて衝撃を受けましたね。嘘でしょ、と思いましたし、悔しかったです。

その人を見返したい。そんな思いから、友人を誘って起業することにしました。就活する同級生とは違う道を選べば、認めてもらえると思ったんです。

立ち上げたのは、学生専門のビジネススクール事業でした。僕は理系だったのですが、理系の学生は自分の専門分野には強いけど、世の中を動かす企業の仕組みやお金の流れについては疎い。ぼくも含めてそんな彼らに社会の中での価値の生み出し方を学んでもらうことは、需要があると思ったんです。

それからは学生を集めたり、自分たちで事業計画書を書いて講師をしてくれる経営者の人を探したりと事業を回すために必死で動き回り、やりたかった形を作ることができました。しかし、大学4年の6月頃になると講師を集めるのに苦労するようになりました。誰かがこれなくなったからといって、自分たちが代わりに講師をできるわけではありません。その時、この事業は自分たちが学生であるからこそ成り立っていると気がつきました。

講師をお願いしていた経営者は、僕たちが学生だから手伝ってくれていたわけだし、サービスを受ける受講生たちも、自分たちが大学内で持っているネットワークがあるから集まっていただけだったんです。1年後には学生でなくなってしまうことを考えると、事業の見通しがつかなくなりました。仲間と話し合い、迷いましたが、ビジネススクールは閉めて就活を始めました。

興味があったマーケティング分野の会社を何社か受け、最終的にはインターネットで消費者ニーズの調査などを行なっているベンチャー企業に就職しました。調査結果を元に商品開発方針や広告戦略を決めるサポートができることに魅力を感じたんです。

ベンチャーと学生の出会いを生み出す


最初の2年は、テレビCMやインターネット広告の効果測定をする仕事を行い、3年目からは人事に異動になり、新卒採用を任されました。学生が一生懸命メモを取りながら話を聞いてくれるのは営業と違って(笑)気持ち良かったですし、採用は会社の経営にとって重要な仕事なので、やりがいもありました。

ただ、2年目になると急に焦りを感じました。去年と全く同じことをしていることに気付いたたんです。同じような説明会や面談をしているだけで、変わっているのは学生さんの名前と顔だけ。学生は毎年入れ替わるので、採用担当者は毎年同じことをしていればいいと思ったんです。一生同じことを繰り返していくのかと考えると、恐怖を感じました。

そのまま新卒採用の仕事を続けるのか悩み始めたある日、100企業ほどが集まる合同会社説明会で、大学3年生の女の子と出会いました。たまたま自社のブースの前を通りかかったので、説明を聞いてもらおうと声を掛けたんです。金髪で、就活する気あるのかな?という印象でした。30分だけ説明を聞いてほしいと言ったら、「私は大企業に一般職で入って、結婚して3年でやめるから、よくわからない会社の話は聞きたくないんです」と返されました。

人事担当者に向かってよう言うたなと思いながら、僕も学生に話を聞いてもらうのが仕事なので「騙されたと思って、聞いてみて。つまんなかったら時給の半分お金払うから」と言って、なんとか彼女を説得しました。

説明では、自社の紹介だけでなく、ベンチャー企業がいかに個人の可能性を引き出す面白い環境であるかなどを語りました。彼女は、最後まで聞いてくれました。しかも、その後すっかり意識が変わり、仕事に対して前向きに考えるようになって、インターンに参加したり、ITベンチャーを中心に就職活動をするようになったんです。自分の会社の選考にも来てくれたときはうれしかったですね。

説明会で声をかけたときはそんなこと想像もしていませんでしたが、就活で一つのベンチャー企業と出会うことで人って結構変わるし、学生にはその出会いが大事だとわかったんです。一方で、大手の就活サイトを見てみると、ベンチャー企業はすぐには見つかりません。毎年何十人も採用するような規模の会社じゃないと、大手採用サイトに掲載するほど予算をかけられないんです。

ベンチャー企業はどれだけ面白い事業を展開していても、学生と出会える機会がない。就活の負だと感じましたね。

彼女のように、ベンチャー企業に出会って大きく変わる可能性がある学生がいるのに、その機会がないのはもったいない。採用担当者として同じことを繰り返すことに対する違和感も相まって、「これからの日本を共に創っていく学生にこそ、たくさんの選択肢の中から、後悔のない人生を選択してもらいたい」という想いから40社を超えるベンチャー企業人事の連合組織を立ち上げ、ベンチャー企業と学生が直接繋がれるような採用イベントを始めることにしました。

いろいろなベンチャー企業の人事に声を掛けて、SNSを使って直接学生と繋がれる、ハンドメイドの採用イベントです。イベントでは、学生が興味ある会社のところに行くのではなく、入り口で渡されたカードに指定された会社の話を聴きに行く仕組みにしました。見たことも聞いたこともない会社と強制的に出会う場を作り、学生の視野を広げることが目的でした。

今この瞬間を、悔いなく生きたい


人事になって2年半ほどした頃、新規事業を扱うグループ会社への出向を命じられました。出向先は、提携する出版社やウェブメディアから提供された莫大な数の記事の中から、おすすめの記事をピックアップして配信するキュレーションメディアを運営していました。

僕が任されたのは広告事業の立ち上げでした。メディアの運営経験も広告の販売経験もなく、何から始めればいいのか困惑しました。それでも、任されたからには結果を出さないといけないので、メンバーと一緒に話し合い、何度も徹夜しながら売れる広告作りに取り組みました。

半年ほど試行錯誤を繰り返し、事業はなんとか軌道に乗ってきました。そんな矢先、休日の夜に突然、バットで殴られたような衝撃が頭に走り、倒れてしまったんです。目の前はグラグラ揺れて、脂汗が床にダラダラ流れている状態。すぐに救急車で運ばれて、入院しました。

くも膜下出血でした。くも膜下出血が起こると、半数近くが亡くなるといわれています。運良く一命をとりとめても後遺症が残る場合も多いのですが、僕は奇跡的に無傷でした。

病気をしてはじめて、人生一度きりだなって実感しました。それと同時に、自分の人生を振り返る中で、人事時代の自分を反省しました。

学生を採用するとき、基本的に将来から逆算して考えるように話すんですよ。5年先10年先のやりたいことやありたい姿を聞き、それと自分の会社の進む方向性がどう交わるかを語り、「だから一緒に働きませんか」と説得する。でも実際のところ、5年後10年後は死んでいる可能性もあるんです。

それまで人生は、何か一つずつできることが増えては登っていく「のぼり階段」のイメージでした。最終的にどこまで登れるかが人生だと思っていたんです。でも、実際は登り続けられるわけではなく、いつ死ぬかもわかりません。病気になってはじめて、人生は「下り坂」だと考えるようになりました。生まれたときから死に向かって一直線に進んでいて、いつ死にぶつかるかわからない。もしかしたら、明日死ぬかもしれない。

そう考えたら、将来の自分を想像して我慢を続けることになんの意味があるのかって思っちゃたんですよね。その大事さもわかってはいるんですけど、一瞬一瞬を最高に楽しく生きないと、あとで後悔するだろうって。だから、たくさんの学生に、「5年10年先のことから逆算しよう」と話してきた罪悪感に駆られました。人生は一度きり。今この瞬間を最高に楽しく、後悔なく生きるのが大切だと考えるようになりました。

3週間ほど入院した後、職場復帰しました。復帰後は働き方が大きく変わりました。「一旦持ち帰って考える」「集まってみんなで決める」をしなくなり、即断即決をするようになったんです。「今決められないのは、自分に準備が足りてないからだ」と、常に考えるクセがつきましたね。

埋もれた「価値あるもの」を届けたい


キュレーションメディア事業は順調に成長していく中で、自分が何をやりたいのか改めて考えていくと、人の生き方や働き方に関心があることに気付きました。これからの時代は平均寿命が伸び、定年退職の年齢も上がる。しかも、定年退職する先も一つの会社ではなく複数あって、複業や兼業、複数のコミュニティへの所属が当たり前の時代がくる。一方で、複業が盛り上がっているのは、デザイナーやエンジニアなど、成果が明確な仕事ばかり。成果物が分かりづらい営業や企画として働いている人は、どうやってパラレルキャリアを実現するのかだろうか疑問に思ったんです。

そこで、営業や企画などの、わかりやすい成果物が持てない人たちの新しい働き方をサポートする事業を検討することにしました。例えば、営業マン。彼らの営業スキルを活かそうとしたときに、仕事終わりの夜7時以降では複業先も営業時間が終わってしまいます。それなら、早朝から開いているパン屋さんの商品を営業すれば良いんじゃないか。出勤前に地域のパン屋さんの販売を手伝ってから出勤する、みたいな働き方も面白いんじゃないかと思い、その考えをいろいろな人に喋ってみました。

すると友人の一人が、パンを扱うベンチャー企業の社長を紹介してくれました。その会社は地方の美味しいパン屋を見つけてきて、焼き立てのパンを特殊な技術で冷凍して、全国のオフィスに届けるサービスを展開していました。オフィスではレンジで温めるだけで、焼き立てと同じ美味しさでパンを食べることができます。パン屋からすると、朝からお店を開けるために早朝から仕込みをしなくていいし、お客さんからすると、知りもしなかったような美味しいパンと手軽に出会うことができるサービスです。

事業の構想を聞いているうちに、どんどんテンションが上がっていきました。なぜこんなにテンションが上がるのだろうと考えるうちに、僕は「埋もれてしまってるいいものと出会うことによって、人の生活が豊かになること」に興味があるんだと気づきました。

それは、人事時代に金髪の女の子がたまたまベンチャー企業と出会って変わったことや、キュレーションメディアで提供している価値と同じでした。世の中にある価値があるのに埋もれているものをそれらを必要としている多くの人に届け、ハッピーな人を増やすことが僕がやりたいことなんだと気づきました。

技術の力で、新しい出会いを広げたい


現在は、キュレーションアプリantenna*[アンテナ]を運営する株式会社グライダーアソシエイツで、新規事業の「craft.」を担当しながら、個人としても、世の中の価値のあるものを多くの人に届ける事業のサポートをしています。地域パン屋とオフィスワーカーのマッチングサービス「PAN FOR YOU OFFICE」(株式会社パンフォーユー)に加え、日本中に散らばるマイナー競技を含むスポーツ大会のライブ配信などを行うスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」(株式会社ookami)」や、その他アパレル事業など、いくつかのサービスに関わっています。

自分がやりたいことで、自分の能力や経験がちょっとでも他の会社に活きればいいなと思い、できることからまずは始めています。色々やっているように見えますが、自分の中では一貫した軸があります。テクノロジーを活用して、埋もれているけれど価値のあるモノ・コト、それまで出会わなかったモノ・コトとの出会いを生み出し、人々の生活を豊かにする。そんなサービスに、これからもできるだけ多く関わっていきたいです。

僕が人事時代に出会ったあの金髪の女の子は、ITベンチャーに就職後、数年で独立して、今では会社経営者です。別の会社の役員を兼任しつつ、メディアにも出ているんですよ。

当時は想像もしていなかったのですが、彼女はたまたま僕と出会い、人生が変わりました。そんな風にして出会わなかったはずのヒトやモノが出会えば、一人ひとりがもっと豊かになれると信じています。今後も価値ある新しい出会いを作り出すプラットフォームを考え続けていきたいですね。

そして、人生一度きり、後悔しないように一瞬一瞬を楽しんでいきます。

2019.10.03

編集 | 種石 光
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