現在は、秋葉原内科saveクリニックの院長をしています。僕自身がコンテンツに救われてきたので、コンテンツのつくり手の街を選びました。このクリニックでやりたいことは、主に3つあります。

まず、コンテンツの作り手にとっての医療の入り口になること。頭痛や肩こり、腰痛、不眠といった、ものづくりをする人に多い困りごとの解決を主眼に置いています。コンテンツ産業の方たちが来やすいように、診療時間も夕方から夜間を中心にしています。

次に、生きづらさを抱えた人たちの逃げ場になることです。人が生きづらさから回復するには、まず自分に正直でいられる逃げ場が絶対に必要です。逃げ続けてきた僕が言うので間違いありません。診療が受けられる場であることに加え、「人の回復のストーリー」が生まれる場にしたいと考えています。

生きづらさを抱える人が増えている背景には、既成のストーリーが自分に当てはまらなくなったことがあげられると思います。一昔前は、「郊外にマイホームを建てて大型犬を飼って暮らす」みたいな、幸せを象徴するような明確なストーリーがありました。しかし、現代は、それが定説ではなくなった。理想的に見える家庭から、考えられないほどの生きづらさを持った子が生まれてくることもしばしばです。

それに、他人の幸せそうなストーリーがSNSなどで流れてくる中で、みんな自分の人生のストーリーを疑う機会が増えました。既製のストーリーでは、もはや幸せになることが難しいように感じます。

必要なのは、他者の否定や自己批判に耐えうるストーリーを構築すること。それがあれば、自分に対しても外に向かっても幸せだと言えるようになります。そんなストーリーの構築をサポートできればと思っています。

具体的には、「コンテンツ処方ラボ」を作りたいと思っています。相談に来た人に、薬だけではなくコンテンツを処方しようというものです。よく分からない苦しみや生きづらさを持つ人に対して、例えばその人の持っている生きづらさとよく似たストーリーのコンテンツを紹介する。人はなにかの作品の中に自分を見つけたときに、自分の苦しみに輪郭をつけることができます。それだけで、ものすごく苦しみが軽減するんです。

たとえば、自傷行為は、よくわからないこころの苦しみを、体の痛みに置換することで受け入れやすくする、という側面があります。同じように、生きづらさや苦しみをさまざまな作品の描写の力を借りることで、言語化し、捉えやすくする。そのことで、自分のストーリーを再編集する手助けができるのではないかと考えています。もちろん、直接問題解決に繋がるような専門家の書籍なども紹介していきたいです。

また、このクリニックはスタッフにとっても安心できる居場所にしたいと思っています。むしろ、スタッフにとっての一番の安心でありたい。それはスタッフが僕にとって最も大切な人たちだからです。

僕自身がスタッフのさまざまな変化に、一番影響を受けています。人がポジティブに変化するためには、とにかくウソがなく本音が引き出される環境が必要です。それが「安心」ということなんじゃないかと思っています。

「仕事」という営みが行われる場で、それを得るのはものすごく難しいんですが、少なくとも「爆速成長」とか「拡大ありき」ではなくて、一緒に働く人にとってより幸福度の高いのは何か、という選択をしていきたい。幸せになるのが難しくなったと感じるからこそ、それを一緒に考えていける「高幸福型の組織」を目指していきたいんですよね。