京都大学の別の研究室で、量子コンピューターの研究を始めました。量子コンピューターは、従来のコンピューターよりもある種の問題に対しては劇的に高速な計算処理ができると期待されて研究されているものです。理論はほぼ完成されているものの、実用化はされていませんでした。「キュービット」という重要な素子を安定して生み出すことができないのが課題でした。私のいた研究室も含めて、世界中でキュービットを安定して生み出すための研究がされていました。

ただなんとなく、これでいいのだろうか、という漠然とした不安がありました。研究室や研究内容に不満はありません。ただ、世界中の優秀な開発者たちが同じ問題に取り組んでいる。自分がやらなくても誰か他の人がそのうちやる。それに先輩たちや教授たちを見ていると、自分のキャリアがぼんやりと見えてくるんですね。5年後の自分はこれくらい、10年後の自分はこれくらい、という感じで。

そんなモチベーションの上がらない毎日に嫌気がさして、研究室に入ってしばらくして大学院を休学しました。先のことは考えていませんでしたが、不安はありませんでした。生きていく分の生活費ぐらいは、ゲームのプログラミングやWEB制作の仕事をすれば稼げていましたので。

そこから、家に引きこもって一日中ダラダラ過ごす生活が始まりました。たまにプログラミングの仕事を受けて、あとは一日中暇です。ゲームをするか、プログラミングの本を読むくらいしかすることがないんですよね。あまりにやることがなく、小説を書いたりもしましたが、半年もするとさすがに飽きてきます。

それでも、その生活をやめませんでした。同じように引きこもっていた大学の後輩がいたので、よく二人でゲームをしていましたね。人と喋りたいと思う時は、LINEなどでコミュニケーションを取れば満たされるので、外に出る理由にはなりませんでした。

ですが、引きこもり生活の中で、イベントに参加できないのが、唯一フラストレーションでした。アイドルのライブとか、コミケとか、プログラミングの勉強会とかに行きたいと思うのですが、わざわざ東京まで出る気にはなりません。

代わりにDVDでライブを見たりするんですけど、その場にいる時ほどの熱狂を感じられなくて、残念な気持ちになるんですよね。一種の敗北感のようなものを味わっていました。