老若男女すべての人が健康であってほしい。毎日の「食事」は「あなた」の源。
病院で提供される食事の改善と、来院される患者さんと日々向き合っている管理栄養士の梅原さん。「食」という切り口から人の心と身体の健康を支えようと活動する梅原さんの想いと、今後の展望とは?お話をお伺いしました。
梅原 祥太
うめはら しょうた|管理栄養士
管理栄養士として病院で働く一方で2015年から個人的にも活動を開始。カウンセリングやイベントの主催、セミナー通して、より多くの人が心身共の健康を食事から実現できるように尽力している。
アルバムの写真は合成だった
私は神奈川県の横浜市に生まれ、都内の大学に入学した18歳まで家族と一緒に暮らしていました。住んでいたところは本当に田舎で、自分が卒業した公立の小、中学校はもうすでに廃校になってしまっています。
自然に囲まれた環境に身を置いていたものの、幼少期から非常に体調を崩しやすく、中学校に入学するまで学校を休んでしまうことも多くありました。例えば、幼稚園では、3年間のうち2年近く体調不良で欠席してしまい通えていません。卒園アルバムの写真撮影の日と、欠席者向けの撮り直しの日の両日共に体調を崩して欠席してしまったために、僕のアルバムの写真は合成になってしまっています。
体調を崩すたびに、近所のクリニックでよくお世話になっていました。実は母親は看護師で、私が通うそのクリニックで働いていました。病院に行くたびに働く母の姿を見ていて、幼いながらにかっこいいなと思っていました。幼少期の頃から病院で働く大人の存在が常に身近にあったと思います。
さて、無事に中学を卒業し、私立の高校に通い始めてしばらくしたときのこと。父親の悪性の脳腫瘍が発覚しました。そして父は入院を余儀なくされました。
父は病院での闘病生活中、提供される毎日の食事が唯一の楽しみだったそうです。しかし、出される食事は毎回美味しいといえるものではありませんでした。確かに、栄養バランスが良く、消化もいいかもしれませんが、味や見た目は決して満足いくものではなかったんです。父の非常に残念がる様子を見て、私は病院での食事が患者さんにとってより満足度の高い食事に改善したいという思いを持ちました。
将来の進路を考えるに当たって、手に職をつけたいということで美容師も考えていました。ですが、父親とのやり取りを思い返したとき、病院での食事の改善をしていきたいという気持ちがあったので管理栄養士を目指すようになりました。
4年間での卒業がぎりぎりになるまで追い詰められる
高校3年生の頃、大学受験のために週に5回以上塾に通って勉強をしていましたが、志望校には推薦で合格することが出来ました。母親が看護師で兄が薬剤師をやっていることもあり、自分の志す管理栄養士という進路に口を出してくる人も特におらず、すんなり大学入学への道が開かれました。
大変だったのは入学した後のことです。暗記が得意でなかったこともあり、試験は全く上手くいきませんでした。成績は学年内順位だと常に最下層にいて、大学2年の前期までたくさん単位を落としてしまっていました。
志を持って決めた自分の進路でしたが、管理栄養士は自分に向いていないのではないか、と思い悩みました。何をやっても上手くいかない。どうにかしたい気持ちがあっても、すぐにその状況を打開出来ないでいる自分が腹立たしい。大学を辞めるなら早くやめて、違う進路を目指したほうがいいのではないか。葛藤の日々が続きました。自分が志して進学した大学だったからこそ、思い入れのある進路だったからこそ、入学後に味わったスランプは大きな打撃となりました。
それでも、私は大学を辞めることはしませんでした。やはり、自分のことを信じ、将来の糧となるようにサポートし続けてくれ、さらには決して安くはない学費を払ってくれていた両親の存在が私の中では大きかったんです。努力の甲斐あって無事に大学を4年で卒業、管理栄養士の国家試験にも一発合格することができました。大学卒業後に一旦受託給食会社で就職した後、ずっと望んでいた病院勤務が決まりました。
管理栄養士でありながらもストレスから暴飲暴食
社会人になり、かねてから志していた病院食の改善に携われることができるようになりました。入院患者向けの食事だけでなく、食生活や摂食障害で悩みを抱えて来院される患者さんの相談にも乗っています。病院での仕事は非常に忙しく、社会人になったことで周りの環境の大きな変化もあり、ストレスや疲れが溜まって暴飲暴食をするようになってしまいました。1回の食事に3人前分食べ、仕事から帰宅した後にカップのアイスクリームを6つ完食してしまったこともあります。病院で患者の食事の改善に向けて働いているのに、自分自身の食事には全く無頓着でした。そんな生活を続けていくうちに徐々に心身ともに疲れやすくなってきてしまいました。
人の食事の改善に力を尽くしている一方で自分が出来ていないのはいかがなものか、ということで働き始めて4年が経った頃から、自分自身の食生活を見直しはじめました。食事は身体だけでなく、心の健康を司るものです。毎日の習慣だからこそ、大切にする必要があるのだと身をもって気づかされたからです。来院される患者さんの中に、かなり偏ったダイエットをされている方も多く、心身ともに疲れてしまっていることもよくあります。そのような患者さんと日々、向き合っているからこそ、自分の経験を踏まえ、健康的なダイエット、食生活の改善を提案していきたいと思うようになりました。
食生活を見直し始めて2ヶ月が経った頃から、ツイッターでダイエット関連の内容を1日1回発信し始めました。それに続いて、ファスティングの資格を習得、個人カウンセリングを開始し、相談者のニーズや、生活に寄り添った形で食生活の改善策の提案をしています。
これらの活動は計画的に昔から練っていたものではなく、見切り発車なところも多分にありました。だから正直なことをいうと、病院の勤務と自分で始めた活動との両立を図ることはかなり難しいんです。でも、今自分がやっていることは、自分が「やりたい」という意思を持ってやっていることでもあるので、使命感を持って仕事に向かえていると思います。
カウンセリングをするにあたり、クライアントが抱えている、他者には打ち明けにくい食生活の悩みだったり、日々の生活の中で感じる不調だったりを自分に打ち明けてくださることがあります。そういったことを自分に話してくれるのは信頼してくれている、期待してくれている証だと思うので、全力でサポートさせて頂きたいというモチベーションになっています。また、自分がしていることが誰かの役に立っているという実感が湧いてとても嬉しいです。
日々の食事から健康な「美しい人」は作られる
今、私は病院での勤務に加え、個人的に食生活の改善に向けた活動を行っています。
かねてから望んでいた病院での勤務を通して、徐々に患者さんが体の不調を訴えるまでの食生活の改善に意識が向くようになったからです。何をどう食べるかは心身共の健康に直結している。だからこそ、病院にかかるまでに自分の食生活を無理なく管理できるようになれば、体調不良から辛い思いをしなくて済むのかもしれない。
痩せ願望を強く持つ傾向にある日本人ですが、そのせいで偏ったダイエットをしている人も少なくありません。確かな情報をより多くの人に届けたいという思いからSNSを使って情報発信を定期的に行っています。SNSでの活動を開始してから、カウンセリングを希望してくださる方も徐々に増えてきました。
カウンセリングは直接お会いする形式より、地方に住まわれている方にも対応できるようにメールでのやり取りで承っています。今では日本全国からお問い合わせをいただけるようになりました。また、日曜日にセミナー開催を都内で行うこともあります。
私の目標は食という切り口から、「健康美人」を増やしていくことです。「美人」と聞くと女性をイメージしてしまうかもしれませんが、これは女性に限定しているわけではありません。老若男女全ての人に、心も身体もイキイキと健康であってほしいと思っています。
現在の病院での勤務もカウンセリングも、やりがいを感じています。しかし、しっかり患者さんと向き合っているからこそ、今の自分が手助けできる人数がどうしても少なくなってしまいます。
例えば、今のカウンセリングは1度に3人までしか担当させていただけません。カウンセリングでは1日3食と何を間食に食べたかを報告してもらい、そこからお客様1人1人に合わせた食事を細かく提案していきます。
健康的な食生活を送るのに「継続性」が大切だと思います。実際、私が食生活改善してから11ヶ月が過ぎましたが、今では体重が10キロ落ち心身ともに軽くなりました。難しく考えすぎず日々の中で実践できるように工夫を凝らし、なるべく詳しく、分かりやすいように、相手のことを思ってやっています。しかし、自分ひとりでもっと多くの人に同時進行でやっていくのは現状では難しいんです。今後は病気にならないような食生活の提案を視野に入れて独立も考えていますが、どのように展開していけるかはまだ模索中です。私が今後のために今出来ることは、今働いている職場ではもちろんですが、個人的に始めた活動を継続、向上させて経験を積むことだと思っています。
病院の勤務に加えて個人の活動を始めたことにより、2015年から日々の時間の使いかたが変わりました。相手と向き合う時間がより増えました。私は人見知りですがそれを少しでも克服していこうと思い、栄養関係のイベントで主催者側としての参加も始めました。それをきっかけにより多くの人とのつながりの輪が広がっていくのが、目に見えて分かります。行動を起すことで今までとは違う世界が見えてきました。
私を突き動かすのは1人でも多くの人に心も身体も健康になってほしいという思いです。
今までの両親からのサポートに対する感謝の気持ちを忘れずに、食という切り口から今後も「健康美人」を全力でサポートしていきたいと思います。
インタビュー:中田侑見
2016.02.23