歌を通じて幸せの連鎖を生み出す。 人の気持ちを動かせる人を目指して。

【日本経済大学提供】歌手として活動する一方、日本経済大学で経営学を学び、歌手活動と学業を両立している田場さん。苦しい思いを抱える人の気持ちを前向きなものに変えたいという想いから、歌手の他にも2つの夢の実現を目指しています。その根底にはどんな経験があるのか。お話を伺いました。

田場仁

たば じん|歌手
日本経済大学経営学部3年。2016年8月、Jin名義で歌手デビュー。歌手と学生の二足のわらじを履く生活を送っている。大学では経営学を学び、焼肉屋と水族館をつくる夢の実現を目指している。
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※この記事は日本経済大学の提供でお送りしました。

大人への不信感


神奈川県川崎市で、6人兄弟の2番目として生まれました。幼い頃から、母を世界一尊敬していました。たくさんの家族を抱えながら毎日家事も仕事もこなす姿、そして自分の損得を考えずに人と接する姿がかっこよかったんです。小学校へ入学したころには、この人の背中を見て生きていこうと決めていました。

そんな母と一緒にカラオケに行くのが、一番幸せな時間でした。母が好きだった尾崎豊さんや高橋真梨子さんの曲を歌っていましたね。「今日は悲しく歌うよ」「今日はハッピーだから笑って歌うよ」などと、その時々の感情を歌で表現していました。

元々、小さい頃からものごとを深く掘り下げて考え込んでしまう性格で、反抗心が強く、特に大人とうまく接することができませんでした。怒られるのが日常茶飯事だった中で、歌っているとすべてのことから解放された気分になれたんです。歌っているときだけは恥ずかしさも嫌なことも全部忘れて、別世界にいるような感覚でした。

信頼できる大人の存在に気付く


小学生の終わりごろから、さらに反抗的になって年上の人たちとばかり遊んでいました。同級生とは話が合いませんでしたし、みんなと一緒になってわいわいボールを投げ合って遊ぶのが面白いとは思えなかったんです。

気持ちが落ち込んだ時は、歌うことに加え、水族館にも行くようになりました。家で海水魚を買い始めて、じっと魚たちを見ていると別世界に来たような感覚になることに気付いたんです。魚をみているときは、何も考えなくていい。そんな理由から水族館に通い始め、いつも癒されていました。

中学1年生が終わる頃、ある先生との出会いで人生が180度変わりました。ある日、友達と小競り合いになったんです。これまで似たようなことがあっても、多くの先生は少し注意するか無視するだけでした。しかしこの日、ある先生に「お前が親だったら、自分の子どもが人やものを叩いたり壊したりしたらどう思うんだ」と激怒されました。

先生にそんな風に怒られたのは初めてで、この先生はもしかしたら俺のことを真剣に考えてくれているのかもしれないと感じました。自分のことを真剣に考えてくれて信頼できる大人がいるんだ、と。それから、その先生の所に通っていろんな話をするようになりました。

さらに、先生に言われた「お前が親だったら」という言葉をきっかけに、親の立場で物事を考えてみるようになりました。すると大人の目線で物事を考えられるようになり、少しずつ反抗心がなくなっていきました。

いつものように先生の所へ行ったある日、進路の話になりました。僕は高校に行く気はなく、友人の父の会社に就職するつもりでした。しかし、将来的な話をいろいろ聞かせてもらうなかで、自分も勉強したら高校に行けるかもしれないと感じたんです。

しかし、いざ勉強し始めてみると基礎能力が全くと言っていいほどなく、塾にも通って勉強しても周りに追いつけませんでした。それでも、先生たちが僕の姿勢を見て応援してくれたので、受験までくじけずに勉強し、無事に高校への進学が決まりました。

プロ歌手としての責任感


せっかく勉強して進学したものの、1年目の途中で自主退学して通信制の高校へ転校することになり、1、2年はバイト三昧な生活を送りました。

3年生になっていよいよ進路を考えなければいけなくなったとき、「歌手になりたい。俺歌手になる。」と決めました。きっかけも特になく、直感です。突然浮かんできたんです。

母と一緒にカラオケに行っていた頃から歌が好きでしたし、大きくなってからも家族全員で引っ越した一軒家に防音室を作ってもらって、暇があれば歌っていたんです。歌うことが好きだから歌手になりたい、そのためにオーディションを受けようと考えました。

僕が歌いたいジャンルはJ-POPでした。J-POPの歌手は、所属する事務所によっては身長やルックスなどを重要視される場合もあります。しかし僕は、歌を中心に活動させてくれる場所に所属したいと考えていました。歌が好きな人が集まる場所にいたかったんです。そこで、純粋に歌が好きな人が集まりそうなオーディションを探し、12月に開催される日本歌手協会のプロレベルオーディションを見つけました。

オーディションに向けて準備する中で、オーディションよりも前に日本歌手協会のカラオケ大会があることを知りました。応募者何千人の中から予選で100人の出場者を選び、日本一を決めるという大きな大会です。

そこで、試しに応募してみることにしました。すると、予選を通過できたんです。それだけで気持ちがとても楽になりました。大会当日は「優勝はできなくてもいいかな」という軽い気持ちでステージに立ちました。

その結果、まさかの優秀歌唱賞を頂きました。日本歌手協会長に声をかけられ、さらには審査員の一人の歌の先生に「今度私の事務所に来なさい」と誘っていただけたんです。

その先生の事務所に入った後、申し込んでいたプロレベルのオーディションに合格しました。そうしたら先生から、「いつデビューする?」と言われたんです。驚きでした。本格的に歌を始めてまだ1年なのに大丈夫なのかと少し不安に思いながらも、2月頃からレッスンに通い始め、基礎を鍛えながら、作詞や作曲も勉強しました。

デビューに向けて準備を進めていて、大学には進学しないつもりでした。歌手になれるのなら、歌手1本でやっていきたいという思いがあったからです。しかし、先生からは大学進学を強く勧められました。何度も行くつもりはないと伝えても、先生は「今は大学に行かないと本当に仕事をもらえない。芸能界でも何もできなくなるよ。」と。将来のために経営を学びたい思いもあったので、そこまで言うなら、と大学進学を決めました。

進学先に選んだのは日本経済大学でした。歌手の仕事に行きやすい渋谷という場所で経営学を学べるという点が理由です。

大学入学後は、学業と歌手活動のためのトレーニングを両立しました。そして、事務所に入って半年ほど経った大学1年の8月、ミニアルバム『泣かないで』で歌手としてデビューすることができました。

先生から声をかけていただいた時は、嬉しい気持ちとどこまでやれるだろうかという期待でいっぱいでした。しかし、都内の会館で初めてステージに立った時、この気持ちではだめだと気づいたんです。「僕はお金を払ってもらって歌手をやっている」という責任感が生まれました。そしてなにより、応援してくれる人を見て裏切れない、頑張らなければと感じ、気持ちが切り替わりました。

それからは、より真剣に歌と向き合うようになりました。これまでは、ただ歌うことが楽しくて歌っていましたが、誰かに想いが伝わるように歌いたいと考えるようになりました。

表現力を高めるため、普段の練習では自宅の防音室などを使って1日8時間ほど歌っています。のどの調子は呼吸で変わるので、よりよい呼吸を続ける体力をつけるためにジムにも通っていますね。だんだんと体力がついて、8時間歌ってものどの調子は崩れなくなりました。

人の気持ちを動かしたい


現在は、歌手活動と学生生活を両立した生活を送っています。週4日登校して、残り3日を歌手活動に充てています。授業を早い時間に終わるように組んで、そのあとに歌手活動をするなど、支障なく両立できるよう努めています。歌手としては自ら営業をして、お祭りなどのイベントのステージで歌うほか、テレビやラジオにも出演しています。

歌手として尊敬しているのは高橋真梨子さんや清水翔太さんです。歌に対する熱量の深さ、そしてその熱量を表現できる上手さに惹かれます。さらに、ファンに対する対応が丁寧なんです。

僕もお二人のように「人に伝えたい想い」を持ち続けて、それを伝えられるような歌手になりたいです。今後は僕なりの魅力を探しながら、歌とファンへの対応の両方を高めていきたいと思っています。

大学で専攻しているのは、経営学です。というのも、僕には歌手の他にも夢があるんです。それは、焼肉屋を開くことと、水族館をつくることです。

焼肉屋を目指すのは、料理人である父の影響と僕が焼き肉が好きだからです。小さい頃からよく家でお肉を食べていて、こんなおいしい肉を僕だけが食べてていいのかなと感じています。このおいしさや一緒に食べる楽しさをみんなと共感できる焼肉屋を開きたいと思っています。

水族館は、僕が幼い頃にストレスを感じていた時に水族館で魚を見て癒されていた経験からです。どんな気持ちで泳いでるのかな、そもそも感情はあるのかな、といったことを考えながら魚を見ている時間は、別世界に来たような感覚になって嫌なことを忘れられました。だから、今度は僕が水族館をつくって他の人に何かを感じてもらうことで、苦しんでいる自分とは全く違う自分を見つけてほしいと思っています。

この2つの夢を実現するために、大学では経営のスキルや老舗企業の成り立ちなどを学んでいます。今は歌手活動が優先ですが、いつか学んだことを活かして起業したいと考えています。

僕は自分の人生の中で、2つのテーマを決めています。1つは「後悔しないで生きる」こと。これは自分の生き方の指針です。もう1つは「後世に伝えていく」ことです。僕と同じようなつらいこと、苦しいことがあった人の気持ちを動かせるように、自分の想いを伝えていきたいと思っています。

歌手活動も、おいしさを共有できる焼肉屋と魚たちに癒される水族館をつくることも、自分の想いを伝えるためにやりたいことです。

歌を聞いたり、焼き肉を食べたり、魚を見たりする体験を通して、何かを感じてほしいんです。人の気持ちを動かすのは、言葉だけでは難しい。体験を通して何かを感じてもらうことで、苦しみではない、新しい気持ちが生まれると思っています。

さらに、誰かの苦しみがなくなれば、それは周りの人にも伝わっていくはずです。ある経験をして気持ちが前向きに変化した人がそれを周りの人に伝え、伝えられた人も同じ体験をして気持ちが変わる。そしてさらに、その経験を別の人へと伝えていく。このように気持ちの変化が連鎖していくことで、たくさんの人がハッピーになります。僕は3つの夢を叶えることで、僕自身が誰かの気持ちを変える起点になれたらいいなと思っています。

2018.08.29

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