【イベントレポート・40代からのキャリア自分らしく描く#2】 起業するのに遅いも早いもない!起業を迷っている人がとるべき行動とは?

100年あるともいわれる人生を、自ら描き、行動するにはどうしたらいいのか。そんな問いを掲げ企画したワークショップ「『40代からのキャリア』自分らしく描く」。第2回目は6月22日に「40代からの初めての起業を考える」をテーマに行いました。ゲストは、2021年6月末に大手企業の人事を退職し起業した安田 雅彦さんと、企業で管理職として働きながら複業し、女性の複業を支援する会社を起こした美宝 れいこさんをお招きしました。本イベントの様子をレポートします。

起業を決意した理由とは?


高嶋:今回のテーマは「40代からのはじめての起業」です。さっそくですが、安田さんはこの6月に起業することを発表されたそうですね?

安田:そうなんです。ラッシュジャパンを退職して、もともと複業でやっていた中小企業向けの人事コンサルティング事業に専念しようと思っています。

僕はこれまで西友、グッチグループジャパン(現ケリングジャパン)、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカ、そしてラッシュジャパンとさまざまな企業で人事の仕事をしてきました。雑務から経営に至るまで多種多様な経験を積み、実務でわからないことはないという自負もあり、独立・起業することにしました。

「54歳で起業なんてすごいですね」と言われるんですが、自分自身は今が起業の絶頂期だと思ってるんですよ。なぜなら人事の仕事はどれだけケースを持っているかが説得力になるから。54歳の今だからこそできることなんです。

それに「定年」という概念はいずれなくなると思ってるんですよ。なんで会社に働く年齢を決められなきゃいけないんだって、ラッシュジャパンでは定年をなくしましたし。ピーター・ドラッカーのように僕も88歳までやろうとか、自分で決めたタイムラインで生きているので、54歳が遅いとか早いとかそもそもないんですよね。強いて言えばちょっと疲れるぐらい(笑)。


安田 雅彦さん
西友にて人事採用・教育訓練を担当後、子会社出向の後に同社を退社。2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年よりラッシュジャパンにて現職。


高嶋:ありがとうございます、54歳からの起業、すごく勇気をもらえますね。続いて、美宝さんが起業に至った経緯を教えて頂けますでしょうか?

美宝:私は今から6年前くらいに、「残りの人生で、本当にやりたい、私だからこそできる仕事を見つけたい」と思った瞬間があって。当時の起業ブームに乗っかって、好きだったアロマの資格を取り、アロマサロンをオープンしました。ただ、それ一本ではなく会社で働きながら複業としてやっていましたね。
でも自分が本当にやりたいことを考え抜いて始めたわけではなかったので、次第に「本当にこれをやっていきたいのか」と迷いが生じるようになったんです。そんな日々を過ごしていたら、アロマサロンの集客のために始めたSNSに「複業のやり方を教えて欲しい」とお問い合わせいただくようになって。相談にのっていくうちに「これが合っているかも」と思い、女性の複業やキャリア支援をスタート。1年間は複業として活動して、37歳のときに退職し、起業しました。

高嶋:現在のご活動に至るまでには、大きな方向転換があったのですね。

美宝:自分がやりたいこととできることの棚卸しができていないと、何をしてもいずれグラついてしまうんですよね。これから起業を考えている人は、自分の強みとかスキルとか、キャリアの棚卸しをやっておくといいのかなと思います。


自分のマーケットバリューに敏感になる


高嶋:参加者のなかには起業したいと思いつつ、一歩踏み出せずにいる方も多いと思います。おふたりはどのようにして一歩を踏み出したのですか?

安田:人事としてキャリアを築いてきて、ふと将来を考えた時に、自分のスキルは果たしてどれくらい汎用性があるのかなと思ったんですよ。よく人事向けの講演会でお話させてもらっていたのですが、「そうはいっても安田さんの会社は外資系だもんね、大手だもんね」といった反応をなんとなく感じることもあったので。

そんななか、ある中小企業から「複業で、人事のアドバイザーをやってくれませんか」と持ちかけられたんです。ニーズがあるならばとやってみたら、中小企業独自のカルチャーに合わせて調整する必要はあれど、これまで培ってきた知見やスキルが通用する実感が得られたんですよね。複業を通して「マーケティング」していたから、起業を決意できたのだと思います。

美宝:安田さんのお話、とても共感します。私が思うのは、人って動いているうちにやりたいことがどんどん変わるし、研ぎ澄まされていくものだと思います。だからこそ軸足は本業に置き安定収入を得ながら、やり直しが効く複業でチャレンジしてみることが大事だと思っています。私自身、会社員を続けながらアロマサロンをやった後、キャリア相談の事業にチェンジして、起業に至っています。それこそテストマーケティングじゃないですが、複業でチャレンジし続けたからこそやりたいことがシャープになっていったのかなと思います。


美宝 れいこさん
IT関連・広告代理店企業にて女性初の事業部長に就任。会社員時代は主に新規事業立ち上げや広報・経理のマネジメントを担当。複業を経て、2016年に女性のキャリア支援事業で独立。現在は、国内・海外2,000人以上の働く女性が在籍する「パラレルキャリア推進委員会」を組織化し運営。複業で活躍したい優秀なスキルや強みをもった女性たちを企業、教育機関、行政、メディアとつなぐ。そのほか、企業の外部顧問や審査員、講演活動などにも取り組んでいる。


高嶋:起業をする際、不安はありませんでしたか?

美宝:複業していたことで起業のハードルは下がっていた気がします。自信にもなっていましたし、複業でキャリア相談を受けているうちに「これはもっと力をかければ、より成果を出せるんじゃないか」と可能性を感じていたんですよね。もちろん収入面の不安もありましたが、それよりも起業への気持ちが抑えられなかったんです。

安田:僕ね、踏み切れないうちは起業しなくていいと思うんです。自分の中に言い訳やためらいがあるうちはやめた方がいい。本当にその時が来たら決断できるはずだから。もし、もやもやしているんだったら、一度バリューとリスクを全部紙に書いて考えてみることですね。

あとは、職務経歴書を書くこともおすすめです。僕自身も職務経歴書を定期的にアップデートして、常に自分の価値と値段を見ていました。「こんなにやっているのに会社は全然評価してくれない!」と思っていても、職務経歴書をアップデートしてみるとまだキャリアとしては未熟だった…なんてこともある。常に自分のマーケットバリューに敏感でいることは、起業の準備としてはもちろん、どんな道を選ぶにしろ必要なことだと思っています。


一番になれるポジションを見つけよう


高嶋:意識をしなければ、日頃から自分のマーケットバリューを考えて行動をしていないと思うのですが、マーケットバリューを高めるにはどうしたらいいのでしょうか?

安田:徹底的に仕事を受けることだと思います。とくに新しい仕事やリスクある仕事など、みんなが手を引きたがる仕事にはどんどん手を出していってほしいです。みんながいやがる仕事って、実は会社で価値があることが多いので。

美宝:私は2つあって、1つはニッチでもいいので特定の分野で「一番」になれるポジションを作ること。これには自分の強みや専門性を理解して、しっかり打ち出すことが不可欠です。

もう1つはその実績を積み上げていくことです。実績は一度つくったら一生もの。とくに起業を考えているのであれば実績づくりにすごくこだわったほうがいいです。それを重ねていくと、後に大きな価値になります。

高嶋:一番になれるポジションを見つけるコツってあるんでしょうか?

美宝:キャリアは掛け合わせだと思っていて。1つの分野だけではありきたりでも、2つ3つの分野を掛け合わせることで、唯一無二の自分だけの価値が生み出せていくんです。そんな自分だけの強みを見つけてほしいです。

私自身はポジショニングマップというものをつくり、同じ業界で働いている人や成果を出しているをとことん分析しました。彼らの足りないところや自分がエッセンスを加えられるところを探し、空いているポジションを見つけるんです。そうしてマップを何枚もつくっていると、唯一無二の強みが見えてくるはずです。

高嶋:強みを棚卸すること、大事ですよね。一方で自分のスキルや強みを過小評価している人も少なくないと感じています。たとえば営業を20年続けてきて積み上げてきたスキルがあるはずなのに、「私は営業しかしたことがなくて何もできることがないんですよ」と言う人もいて。


高嶋 大介さん
自律的に働く人が増える社会をつくりたいと考え、INTO THE FABRICを設立する。「けもの道をつくりながら企業の可能性を探す」ことを得意とし、組織/戦略デザイン、コミュニティデザイン、イベント/マーケティングを行う。ゆるいつながりがこれからの社会を変えると信じ「100人カイギ」をはじめ、広義な人をつなぐ場をつくる活動を行う。サウナと散歩好き。


安田:自分の価値に気づいてない人は多いですよね。

美宝:そんな人には棚卸しするときに、細かく数字で表してみてほしいです。例えば営業であれば、売上何パーセント伸ばしたか、何人のお客さんと接してきたかとか。細かく数字に落とし込んでいくと、「誰のどんな役に立てるのか」が考えやすくなると思います。

安田:過去の自分をきちんと評価するのは大事ですね。あとはやっぱり一度マーケットに出てみたらどうか?と。「もう40歳過ぎて転職先なんてない」と思うなら、転職活動をしてみればいい。自信のあるところとないところ、評価されるところとされないところが多少見えてきますから。

高嶋:ありがとうございます。自分の価値を見直すこと、マーケットに出て自分の価値を客観的に判断してもらうこと、ぜひやってみてほしいですね。


起業する自信がない。そんな人がやるべきこととは?


高嶋:ここからは参加者の質問に答えていきたいと思います。まずは「異業種で起業する場合の心構えはありますか?」という質問。

美宝:経験を早くたくさん積んで、自分のものにしていくことを意識するといいと思います。とくに異業種の場合は感覚がつかめなかったり、知識がなかったりするので、最初は圧倒的に量をこなしていくことをおすすめします。

高嶋:続いて安田さんに質問です。「人事を一生の仕事にすると決めたきっかけはなんですか?」

安田:一生の仕事にすると決めたのは、西友で人事をしていたとき。経営悪化した子会社をたたむことになり、それに伴って社員は全員解雇に。僕は人事として退職の手続きや転職先の紹介をしていたのですが、そのとき「会社はアテにならない」と痛感したんですよね。自分のキャリアの主役は自分でなければならないし、社員一人ひとりが主役であれる職場をつくっていかなければならない。そのために人事のプロになろうと決めました。

とはいえサラリーマンである以上仕事は選べないので、どんな仕事であっても好きになる努力はしていました。1日のなかでも職場での時間って大きな割合を占めるので、イキイキと過ごしたいじゃないですか。そのためにも「この仕事の魅力はなんだろう?」と一生懸命探して、好きな仕事に変えてきたという部分はあるかもしれないですね。

高嶋:ありがとうございます。お話を聞いていて、使命って強く心を揺さぶられるような体験から見つかることが多いのかなと感じました。続いて「起業する自信がないです。どうしたらその壁を乗り越えていけますか」という質問に対してはいかがでしょう?

美宝:まず自信をつけるには外的要因が重要。お客さまからいただく評価や感謝の言葉が自信につながったりしませんか?動かないままだと自信はいつまでたってもつかないと思うんですよね。「自信がついてから動こう」じゃなくて、「動くから自信がついていく」と考えてみるといいと思います。

それにどれだけ準備をして自信をつけても、実際動いてみたら見込み違いだったなんてこともあります。少しでもいいから動いてみて、小さな成功体験を積み上げていきましょう。

高嶋:なるほど。一方で、会社員を長くやっていると、丁寧にリサーチして仮説を立ててからとか、石橋を叩いて進む思考法になりがちなのかなと。何か対処法はあるのでしょうか?

安田:僕が思うに、なかなか踏み切れないのは起業を躊躇する不安が勝っている状態だということ。一度自分と向き合い、本質を追求した方がいいかもしれません。「なんで起業したいんだろう?」「それは起業じゃないとだめなのか?」「なんで起業に踏み出せないんだろう?」など冷静に問いかけてみるんです。できないのには必ず理由があって、そこにあなたの大切にしたい価値観があらわれているかもしれないので。

美宝:あとみなさん起業がベストと考えがちですが、会社員として働くのも一つの選択であって、悪いことではないです。企業に勤めていようと、起業しようと、自分を活かしてベストをどれだけ尽くすかなんですよね。企業に勤めながら自分のスキルを磨いて、突然明日会社がなくなっても生きていけるくらいスキルを高められる、もしくは、自分を活かしてやりたいことができる環境があるならば、会社員として働くことにもとても意味があることだと思っています。起業することがすべてではないので。

高嶋:ありがとうございます。まだまだ聞きたいことがたくさんあるのですが、お時間がきてしまったので終わろうと思います。このイベントが起業を考えている方にとって一歩踏み出すきっかけになれば嬉しいです。安田さん、美宝さん、本日はありがとうございました。



2021.07.21