自然の摂理に基づいた合理的な経営。透明性、流動性、開放性の3要素が導入の鍵。

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自然界は、人間が介入をしなくてもひとりでに全体最適に向かっていく。そんな自然の摂理を組織づくりに取り入れた経営手法が「自然(じねん)経営」だ。自然経営を行うことで、変化する外部環境に対して合理的に適応していく「生命体」のような組織をつくることができる。

BASE Qに集まる有志の勉強会「HJK36」では、自然経営による現代に適した組織づくりについて学び、社会システムへの応用を検討する。

作成日:2019年02月13日



外的環境に合わせて変化する合理的な「自然経営」


ダイヤモンドメディア株式会社の代表取締役である武井浩三氏(以下「武井氏」という)は、自社で自然の摂理に基づいた「自然経営」を行なっている。

まず、自然経営とはなんなのか。

武井氏は、「外的環境の変化に合わせ、原始的な組織をより進化した形態へと変容させていく経営手法」だと話す。組織の形態はさまざまある。組織の形態を分け、発達段階を示すと、以下のように図で表現できるという。



もっとも原始的なものに「オオカミの群れ」に例えられるような力による支配が行われる組織があり、より進化した形態として、指示命令系統がなく、互いの信頼で結びついた「生命体」のようなTEAL組織がある。フレデリック・ラルー氏が著した『ティール組織』という本が話題になったのは記憶に新しい。

現在の私たちが所属する多くの企業の組織は、「機械」に例えられるヒエラルキー型の組織だ。一つの目標を達成するために、設計・組み立て・管理・制御というプロセスを経て動くという特徴がある。

武井氏は「時代の流れとともに、組織の形も変化する必要がある」と話す。

これまで、日本の社会は経済成長を目指してきた。成長することが正解であり、一つの正解に向かって進む上では機械的な組織が望ましかったと言える。

しかし、経済が頭打ちになった現在の日本では、もはや成長が唯一の正解ではなくなった。多様性が認められるようになり、一つの正解を導き出すのではなく、人によって違う個別の解を見つけることが重要になりつつある。ITなどの技術の進展で目まぐるしく社会が変化する中で、未来の予測も難しくなっている。

武井氏は、こういった複雑系社会に適応するためには自然経営によって組織形態を変容していくべきだと話す。次に目指すべきは、「生命体」に例えられるTEAL型組織だ。

機械的なヒエラルキー型組織の問題点


実際に、機械的なヒエラルキー型組織には、問題が生じ始めている。機械的な組織は目的達成のために必要な要素を因数分解して作られるため、結果的に階層構造ができあがる。

この階層構造ができることによって、様々な問題が生じている。まずは、上下関係ができ、所有権を持つ上の階層に権力が集中することだ。上で決まったことでないと何事も進まないという意思決定の遅さが生まれるほか、過度に上下関係が硬直化した組織では不正やモラルハラスメントも生まれやすくなる。

また、上下関係があることで、下の階層の人は圧力を受け続けることになること。これによって、部下は上司の顔色を、上司は社長の顔色を、社長は株主の顔色をみて動く構図ができあがる。階層構造ができた組織では階層が上の人によって行動が規定されるため、一人ひとりがどんなに優秀でも機能不全を起こし、合理的な意思決定ができなくなるという。

階層化が進んだ大企業で不祥事が起きるのは、経営者の倫理観などの問題ではなく「無能になるメカニズムの中にいるからだ」と武井氏は指摘する。

さらに、今の市場が拡大を前提として無限の成長を求めるものであるために、市場の力学に晒された組織は、儲けるためにモラルハザードを起こすことが増えるという。

例えば、ある自動車メーカーは、経営陣が商品の欠陥を見つけたにもかかわらずリコールしなかった。その欠陥によって悲惨な死亡事故が起きてしまい、自動車メーカーは民事賠償をすることになったが、当時の経営陣に数十万円の罰金が課されるだけだった。

これは、リコールをするよりもはるかに安い金額だ。会社はリコールしないほうが儲かるため、モラルを度外視した行動を選択してしまった。これも階層構造の力学によって起きている問題だと武井氏は語る。

ダイヤモンドメディアの経営


こういったヒエラルキー型の機械的な組織であるがゆえに起きている問題を避けるため、武井氏は実際に自分が代表取締役を務めるダイヤモンドメディア社で自然経営を実践し、時代に合ったTEAL型の組織づくりを行なっている。ヒエラルキー型の組織づくりと何が違うのか。

例えば、以下のような点が特徴だ。

・階級を廃止し、上司、部下という概念がない。
・社長は選挙で決定する。
・給与は相場制で、話し合いの中でオープンに決める。
・明文化した理念、経営計画はない。
・稟議はコミュニケーションツールを使ってウェブ上で完結する。
・働く場所、時間、休みは自由。

ヒエラルキー型の組織が機械に例えられるのに対し、武井氏のつくる組織は外部環境の変化に合わせて柔軟に変化する、生命的な組織だ。このような組織の特徴は、全体性、自主管理、自然と生まれてくる目的の3つが揃っていることだという。ただし、これらの要素は作ろうと思って作れるものではない。組織の基盤を構築した結果、現象として「現れる」ものだと武井氏は語る。

「情報の透明性」「力の流動性」「境界と感情の開放性」が肝


では、どうやってこのような組織を実現しているのか。武井氏は自然経営にとって重要な3つの要素をあげる。「情報の透明性」「力の流動性」「境界と感情の開放性」だ。

例えば、ダイヤモンドメディア社では、売上や給与など様々な情報を公開することで情報の透明性を確保している。情報を共有することで、情報量の多い人に権力が固定化するのを防止できる。権力が分散化することで、意思決定者も時と場合によって変化するのが当たり前になり、個々人が誰かに任せるのではなく、主体的に組織全体の問題を考えるようになる。これによって、自分の利益だけを考えて不正などを働くことがなくなり、個々が全体の利益を考えて動くようになるという。

また、階級をなくし権力の偏りを避け、力の流動性を担保している。市場など社外からの圧力も受けないよう、社内組織で株の70%を持ち、外部から働く力をなくしている。これによって、市場の力学でモラルハザードが起きることはなくなり、状況に合わせて最適な人がリーダーシップを発揮して物事を進めるようになる。

さらに、部署ごとの垣根を設けないこと、人が交流しやすいようにオフィスを設計することの両面から、解放性を保っている。似たような話で、学校以外に居場所を持っている児童の方がいじめられにくいというデータがあるように、閉鎖された空間では人間関係の摩擦が起きやすいという。様々な場所に所属し、様々な関係性を持つことで、各所属組織の中で健全な関係性を築くことができるのだ。また、ドアや壁をなくし、物理的な開放性を高めることも、学校でのいじめ減少に効果があると言われている。ダイヤモンドメディア社でも、心理的・物理的な開放性を保つことで、いじめやハラスメントなどが起きにくくなり、組織の健全さを保つ工夫をしているという。

「『情報の透明性』『力の流動性』『境界と感情の開放性』この三要素を揃えれば自然経営ができて、自然と外部環境に適した組織になっていきます。必要な制度は組織によって違うので、どの制度を導入するかは重要ではありません。重要なのは、組織の構造基盤とオペレーションに働きかけることです。三要素を確保して環境が変わることで、人のスキル・マインドも自発的に変容へ向かっていくんです」と武井氏は語る。

自然の摂理に則った自然経営は、組織だけでなく様々なシステムに応用可能だ。インフラを設計さえすれば、そこに属する人間は自然と変わっていくからだ。三要素を確保することで自然と人が循環するようになり、硬直化したヒエラルキー型から、生命体であるTEAL型へと変容していく。

組織づくりを社会システムに応用


厚労省労働基準局労働条件制作課長補佐の久米隼人氏(以下、久米氏)は「自然経営は社会システムにも活かせるのでは」と可能性を指摘する。

久米氏は、世界の歴史を振り返り、社会システムが変化してきたタイミングについて言及。たとえば、中世は活版印刷技術が発明されたことにより、一部の人しかアクセスできなかった情報を広く市民が使えることになり、社会が変わった。現在も、ICTの発展と普及によって政府の意義が低下するとともに、雇用システムが立ち行かなくなるなど、新しい社会システムが生まれるタイミングであると指摘した。

ただし、そのためには「社会経済のバックグラウンドを踏まえた議論が必要」だという。

「自然経営をいかした社会システムをつくるときにネックとなる点はまず、透明性を確保するために個人の収入や資産がオープンになることに対する、一部の人からの反発にどう対応するか。また、法・規制がなくても労動者を守れるかどうか、です。『働きたいから働く』人が増えて雇用や労働者という概念がなくなったとしても、周囲から見えないところで力関係によって強制的に働かされる人はいるんじゃないか。そういう人を守るための仕組みを作ることが大事になると思います。

さらに、国民の納得を得るためには、社会経済のバックグラウンドを踏まえた理論が必要です。例えばアダム・スミスの国富論も、絶対王政で経済を統制することによって、経済活動が非効率になっているという状況のなかで生まれました。民衆が抱えている課題感を解決する提言だったからこそ、国富論で説かれた自由主義が浸透していったんです。

同じように現状の課題を解決するための理論を作っていくことで、自然経営が社会全体に広がっていくのだと思います。理論を作っていくためにも、特区やサンドボックスを活用して実装していくことも可能だと考えています」

話し合いで第三の選択肢が生まれる


勉強会に参加する経営者からは、「必要のない仕事は消滅すると思うが、みんながやりたくないけど必要な仕事はどうなるのか」と疑問の声が上がった。組織の決まりごとがなければ、例えば掃除など、ほとんどの人がやりたくないと考えている仕事は、遂行されないままなのか。

武井氏はこれに対し「ひたすら語らうことが大事」と話す。自然経営の前提には、問題も現象の一つとみなすため「問題があるのは悪いことではない」という考え方がある。ある現象をまずいと感じる人がいたら、テーブルにあげて議論する。情報が透明化されてアクセスできる状態にあれば、みんなが少しずつ責任を持っている形になるため、責任の所在は問われない。そのため、問題が露呈してしまえば解決は早いという。

例えば掃除だったら、話し合いの結果「内部の誰かがやる」「掃除をしない」ではなく、「掃除業者に頼む」という新しい選択肢が生まれた。

理念や経営計画があれば、選択肢を選ぶ基準があるため「正しい答え」が存在する。しかしそれがない場合、「自分の意見が正しい」という前提が持てなくなるので、他者との話し合いの中でどの選択肢がいいかを選んでいくことになるという。

「僕らはコンセンサスを一切作りません。コンセンサスは多数決だから、大多数の人が賛成するまで意思決定できない。時間がかかるんですね。僕らがやっているのはコンテクストメイキング。情報を透明化することで考えるために必要な情報は揃っているので、『僕はこう思う』という主観で話しあうことになります。意見のある人が主観をテーブルに出して、全体の流れをみる。それで『こっちの方がいいね』というコンテクストができたら、全体でそっちに向かって動きます」

透明性の中で間接的に繋がることが重要


これに対し「顔の見えない関係でも自然経営は成立するのか」と疑問も上がる。コンテクストメイキングには会話が必要だとすると、たとえ技術の力で顔が見えない人との会話が可能になったとしても、会ったことのない人間同士が当事者性を持って話し合うことができるのか。

これに対し武井氏は「そもそも、遠くにいる人と無理に会話する必要はない」と話す。例えば社内でも、全員がお互いのやっていることを把握しているわけではない。必要であれば部署間を繋げる役割を果たす人が自然に出てきて、全体のまとまりができていくという。

「全体性をもつために、全体が一丸にならなくてもいいんです。ブロックチェーンのように、一部でも繋がっていればいい。一つの大きなまとまりをつくるのは難しいですが、少人数のまとまりが自律して、情報の透明性が担保された中で繋がっていればいい。間接的にでも繋がっていることで、結果として全体性が生まれます」

新たな経済システムのデザインに挑む


自然経営は、人間関係のシステムデザインであり、会社の組織だけでなく様々なシステムに応用が期待できる。今後、そのノウハウを生かし、河崎純真氏(以下、「河崎氏」)が進める「COMMONSプロジェクト」と連携した、新しい経済システムの構築に挑む。

既存の経済システムも、ヒエラルキー構造が基本にある。既存の「管理統制」型ではなくTEALのような「自律分散」型のガバナンスを導入し、ただ拡大するだけではない、持続可能な経済システムをつくろうと構想を練っている。

具体的にはまず、資本主義社会の中で強くなっている所有権を弱める施策を行う予定だ。所有権が強いと、権力が所有者に集中してしまい、力の流動性が保てなくなる。そのため、たとえば所有者以外がモノを使うことができる「使用権」や「利用権」などの新しい権利をつくり、それらを流通させることを考えている。これによって株式を所有することではなく、使用・利用することによって取引を行うような新しい株式市場やマーケットを創出する狙いだ。自然経営を応用することで、新たなシステムの構築を目指す。

HJK36では、河崎氏と武井氏のプロジェクトを支援し、特区の活用などを検討する。
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