争いのない世界を目指し、共感資本主義の新たな社会を構築する。ブロックチェーンを基盤にしたCOMMONSプロジェクト。

様々な問題を抱える今の社会は変えられない。変えられないなら、新しい社会をつくろう。ブロックチェーンを用いた「COMMONS OS」という電子政府システムをベースに、「共感」を重視した新しい社会をつくるプロジェクトが始動する。

BASE Qに集まる有志の勉強会「HJK36」では、プロジェクトの先に実現させようとしている未来像を共有し、ブロックチェーンによる社会基盤の構築の可能性を探る。

Commons inc.の代表取締役である河崎純真氏(以下「河崎氏」という)は、ブロックチェーン技術を使った電子政府システム「COMMONS OS」を使って、現在の日本社会とは異なる、共感に基づいた新しい社会をつくる取り組みを始める。

「COMMONS OS」は、ブロックチェーンを基盤にした独自の通貨の発行し、独自の経済圏を構築できる新しいシステムだ。さらに、税、住民、条例の管理、共同体IDの発行やメッセンジャー機能なども提供しており、国家の行政システムを代行できる。

このシステムを使って外部に依存しない独自の経済圏・新たな社会を作るのが、COMMONSプロジェクトだ。具体的に、実証実験を行う場所も決まっている。人口30人程度、平均年齢78歳の離島だ。ここに、新たな社会づくりに賛同する人を300人程度、段階的に移住させていく予定。

現在、地域住民と計画をまとめているところで、エネルギーや食料、住居などインフラを整えていく。教育や介護などの機能も充実させる。移住する人々は、それぞれが自分の得意分野で社会づくりを行なっていくという。基本的には、コミュニティ内の相互扶助で生活に必要な機能をまかなっていく。

ただ、外部と交流を断つイメージはなく、病院など一部の機能はすでにある日本社会のものを利用する予定。そういった医療機関や交通機関を利用するため、島内では独自の通貨を用いるが、様々な方法で外貨も稼ぐ。例えば、島自体の視察ツアーなどを検討している。

河崎氏は「新しい社会では、エネルギーや土地、金融の利権は全員が共有する。住民全員が大きな家族になって、島内の様々な資源をシェアし、社会資本を最大化するエコシステムを作りたい」と話す。

「解決するべき、さまざまな社会問題があるけれど、既存の社会ではその問題は解決できないと思っています。なぜかというと、今ある問題は価値観や制度が複合的に重なって起きているものだから。一つを解決しようと思うと社会制度全体が崩壊する危険性があります。そのため、みんな問題だとわかっていても、社会自体を変えることはできない。

だから、既存の社会を変えるのではなく、新しい社会のモデルケースを作ろうとしています。今ある建物を変えようとするのではなく、別の土地に別の設計手法で建物をつくって、そこに住みたい人だけが住む。それを何百個と繰り返し、新しい社会モデルを試して行けばいいんじゃないかなと思っています。このプロジェクトは、その一つのモデルケースづくりです」

このままいくと国際紛争が待っている



COMMONSプロジェクトを開始した背景として、河崎氏は「既存の社会が続いていけば国際紛争やテロリズムが待っているからだ」と話す。その根拠として、フランスの経済学者・思想家・作家のジャック・アタリが予測する「2050年の2つの未来像」を挙げる。

一つは、国家の中央集権が強化され、世界がアメリカと中国に二分化された状態(Mountains)。もう一つは、超民主主義でコミュニティが分散化した状態(Oceans)だ。アタリはどちらの世界になるにしても、移行する段階でテロリズムや国際紛争が起きると予測している。河崎氏は、これを飛び越えていくためにブロックチェーンを活用した「共感資本主義」で未来を定義していくべきだと考えている。


ブロックチェーンによって信用があることは「当たり前」になる



国際紛争を防ぐためにブロックチェーンはどう活用されるのか、共感資本主義とは何か。まず河崎氏は、ブロックチェーンの技術的な特徴や可能性について以下のように話す。

「ブロックチェーンは、分散型データベースと暗号化技術を使ったアルゴリズムによって、新しい信用を生み出すことができる技術です。例えば私が『ここは自分の土地だ』と証明したい時、証明方法としてはまず国の登記の確認があります。

しかし、それ以外にも、土地の所有を証明する方法がある。それは、その地域に住んでいる人、みんなに保証してもらうことです。みんなが「ここは河崎の土地だ」と保証してくれれば、それによって信用が生まれ、その土地は私のものだと承認される。この原理と同じように、ブロックチェーンは国家のような「特定の誰か」が保証するのではなく、みんなに保証してもらうことで信用を得る技術です。

具体的には、ブロックチェーンを使うと、様々な人がインターネットを通じて所有する台帳に、取引が全て上書きされ記録されます。記録はチェーン状に繋がっているため、一つを改ざんするにはそれに繋がる全てのデータを書き換えなければなりません。そのため、偽装や改ざんができないとされています。

この取引履歴はみんなが見られるので、台帳を持っている人全員で取引内容を保証することになるのです。これによってブロックチェーンは信用を生み出すことのできる技術として注目されています。」

ブロックチェーンはすでに、国家や都市の基幹システムにも実装されている。例えばエストニアだ。エストニアは政府を電子化し、土地管理などにブロックチェーンを使っている。

利点は様々なところにある。まず、国防の観点だ。例え不当に国が侵略されても、領土の記録が分散化されたデータベースに残るため、とられた土地の主権を主張することができる。エストニアはロシアに何度も侵略を繰り返された背景から、いち早くこの技術を導入しているという。

さらに、より多くの人に国の存在を証明してもらおうと、国外に電子国民も募っている。台帳を持っている人を増やし、システムを分散化させることで、例えどんな攻撃にあっても国を存続させようとする施策だ。

また、コスト削減にも役に立つ。実際にエストニアでは、電子化することで紙に書いたりそれを保存したりするコストがカットされた。また、人力による業務量も減ったために公務員の数も大幅に減ったという。

実際に一部の社会システムへの実装が始まっているブロックチェーン技術。さらに、ブロックチェーンを使うことによって既存の国家に限らず、誰でも国を作れるようになると河崎氏は言う。

「これまで、国家は武力によって信用を担保していました。例えば、隣国から攻め込まれた時、武力によって情報や記録を守ることで、個人の権利や資産を守れるという信用があったんです。

しかし、ブロックチェーンによってデータが分散化されるので、記録を守るために武力に頼る必要はなくなりました。どこか一つの記録が消えても、インターネット上に多数の台帳が残っているからです。むしろ、災害などが起きたときのリスクを考えれば、国よりもブロックチェーンの方が信用できるといえます。

そういった背景で、エストニアのようにブロックチェーン上に信用担保システムを移す国が出てきましたが、そもそも、信用を担保する主体が国家である必要もなくなるんです。ブロックチェーンはその仕組み自体に信用があるため、既存の国家でなくても信用を生み出すことが可能。ブロックチェーンさえ使っていれば、どんな個人にも信用があるのが当たり前になるんです。そのため、通貨や土地などを国家に保証してもらう必要がなくなりますし、国家の代わりに誰でも信用を発行できるようになります。つまり、誰でも独自の通貨を発行することも可能だし、国家を形成することも可能になるんです。」

ブロックチェーンによって、全ての人が国家に頼らず信用を手に入れられる時代がくる。その時、信用はあって当たり前のものになる。

河崎氏はそうした時代になった時、新たな判断基準となるのが「共感」だという。例えば色々な人が通貨を発行した時、多くの人の共感を集めて応援してもらえた人が発行した通貨は、大勢の人に使われるものになり、価値が上がっていく。一方、誰の共感も集められなかった人の通貨は広まらず、価値がないままになる。どれだけ共感を集められたかによって、自分の資本力が決まるようになる。これが共感資本主義経済だ。

共感によって自他の区別を無くし、争いのない世界へ



共感資本主義によって人々が共感できる範囲を広げ、自他を分離しない共同体になっていくことが、ジャック・アタリが予測したような争いを回避するために大事だと言う。

「例えば今、「10億円あげます。その代わり家族とは一生会えません」と言われたら、10億円より家族をとる人が多いと思います。でも、「10億円あげます。その代わりそこを歩いている見知らぬおじさんと一生会えません」と言われたら、ほとんどの人が10億円をとると思うんですよ。これは、家族に対しては共感がある、つまり「ほぼ自分と同じもの」だと思っているからお金で売れないですが、見知らぬおじさんには共感がないから売ることができるんです。

共感資本主義経済が進むと、共感できる人同士のコミュニティがたくさんできるようになります。個人は、自分が共感できるコミュニティをいくつも選んで所属するようになる。すると今例に挙げた家族と同じように、コミュニティにいる人の数だけほぼ自分自身だと思えるものが増えていくはずです。そうやって自分だと思えるものの範囲を拡張できれば、争いは起こらなくなる。だから私は、紛争やテロリズムを防ぐためには、共感資本主義が重要だと考えています。」

重要なのは共通の神を定めること



共感資本主義を浸透させていくためには大きな問題が2つある。一つは、悪意のある人間がいると、ブロックチェーンのシステム自体が成り立たないという点だ。

「ブロックチェーンは、技術的な意味では暗号化が突破されないという前提があります。しかし、記帳されたこと自体が「嘘か本当か」を見極めることはできないんです。なので、みんなが共通の利益のために行動しようという認識を持つことが大事になります。」(河崎氏)

もう一つが、コミュニティごとに違う価値観を認め合えず、衝突してしまう場合だ。さまざまなコミュニティが生まれると、そのコミュニティの数だけさまざまな価値観が生まれることになる。

河崎氏は、この課題を解決するために大事なのは、宗教だと話す。つまり、「何を信じるか」ということだ。

例えばあるコミュニティが唯一無二の神を信じていて、それ以外の価値観を排除しようとした場合、違いを尊重しながらコミュニティを運営していくことはできない。

河崎氏は、西洋の一神教的な価値観で世界を「神と自分だけのもの」と捉えるのではなく、東洋の仏教などの価値観に基づき、世界を「自分と他者の関係性の中でできる重層的なもの」として捉えるべきだと話す。世界を重層的なものとして捉えられれば、さまざまな価値観のコミュニティが複数存在していても、互いを排除し会う必要はないからだ。

「ブロックチェーンによってみんながより良くなると全員が信じて、性善説で信用を分かち合っていく必要があります。共感資本主義の世界で信じるべきなのは、ブロックチェーンという技術なんです。」(河崎氏)

ライフラインの確保や紛争の調停には国家が必要



エネルギー政策に携わる経済産業省の廣田大輔氏は、国家が衰退しコミュニティが隆盛する未来像やCOMMONSプロジェクトに対し「国家が守るべきラインもあるのではないか」として、こう話す。

「あるSFアニメ映画で、仮想空間の中で水道や電気など生活インフラにも影響を及ぼすような巨大システムが世界を覆っている様子が描かれていました。このプロジェクトでは、まさにブロックチェーンという技術を苗床に、そんな世界観が実現されようとしていると感じます。ただ、水も食べ物もエネルギーも、国境の形もすべて自前でまかない、維持するような集団を想定しているのであれば、考えなければならないことは多いです。

例えば実際、世界ではサイバー攻撃と連動した物理攻撃も頻発するようになっています。パイプラインへの攻撃によって、しばらく油がストップし、供給元の経済に大打撃を与えたり、供給先のエネルギー不足を引き起こした事例もある。特にライフラインに関しては、サイバーセキュリティを突破されたら大変なことになります。いろんな価値観のコミュニティがお互いに補完し、反応しあって、サービスを提供しあうことで自立する経済エリアがあるのは、もちろん良いと思いますが、国家が守らなくてはいけない部分も確実にあると思います。

また、ブロックチェーンは信用を生み出せる技術ではあるものの、みんながその「信ずる価値」を信じていなければうまく行かない技術です。その社会の中にいる人たちが、みんなお互いにお互いのことを、またその「価値」を傷つけない、という性善説を前提にすると成り立ちますが、1人でも攻撃者・テロリストが混じっていれば途端に崩壊するリスクもある。僕らはどうしてもこうしたテロリストが混じっている可能性を考えてしまいます。

また、テロリストでなくても互いにある程度同じ価値観を持っていないといけないですよね。例えば長らく同じ土地を巡って争っている歴史を持つ人々に、ブロックチェーンに書かれている履歴がこうだから、この土地は本当はあなたのものなのです、と説明しても、相手方は絶対納得しません。必ず相手を攻撃し、攻撃された方は攻撃し返す。そういう状態になるのを、これまでにも見てきているので、同じ価値観を持つ集団が「国の形」を維持する必然もあるのでは、と感じます。」

COMMONSプロジェクトではエネルギーも自前で供給しようとしているが、ライフラインをどう守っていくかは社会実装する中での課題となりそうだ。また、異なるコミュニティ同士が互いの価値観を認め合える「価値観」の構築や普及も行っていく必要がある。

限界集落の維持・運営に役立つ可能性がある



地域創生のスペシャリストである木下斉氏は、COMMONSプロジェクトの目指す世界観は、かつての日本の農村などの領域に近いと話す。そのため、コストの面からフルタイムで安くない給料を支払う公務員を大量に雇用し、サービスを提供するという行政モデルの管理が難しい限界集落のエリアなどに導入すれば、集落を維持し独自に運営していける可能性があると指摘した。

「日本の農村社会では、地域に『結』や『講』といったコミュニティがあって、みんなでお金を出し合い、数年に一度そのお金が自分のところに回ってくるシステムを回していました。1人が複数のコミュニティに加盟しているから、自分のところにお金が回ってきたタイミングで家を立てたり、屋根を直したりしていたんです。あるいはみんなで相談して生活に必要な水路を直したり。個人(個人益)と社会(公共益)の間に存在する、「共益」というレイヤーですね。他にも、稲作における水利と水路の管理、飲む水道も組合水道といって地域の人たちで管理している水道が多数あったり、様々な単位で個人と社会の間に、限られた人たちでの共益に基づく分担があったわけです。そんな風に、地域に住む人がみんな重層的に役割を持って、何でも行政機構による公共サービスではない形式で地域に必要なシステムを回していたんです。

今日話を聞いててブロックチェーンを使ったシステムというと突飛に聞こえるけど、実は農村社会のモデルに近い。限界集落などに導入すれば、従来の行政による公共サービスは維持できなくても、新たな技術革新と共に活用すれば、独自の共益構造を築き、運営していくことができるかもしれません。そこに一つの存続の道があるかもしれないと思いました」

基準がなくても自然にエコシステムが成立する



勉強会に参加する厚生労働省の職員からは「相互扶助的な社会モデルをつくった時、みんなが納得するためには、意見が割れた場合に公平に決定を下すための最低限の基準が必要なのではないか」という意見もある。

これに対し河崎氏は「新しくつくる社会モデルは、正しさが存在しないから基準もない」と話す。

「もともと、新しくつくる社会モデルは全員に対してフェアではないんですよね。1つの社会モデルが全ての課題を解決できるわけではないんです。だからモデルごとに『何を是とするか』を決めて、ある課題の解決に特化したモデルをたくさん作っていく。人は課題に合わせて社会モデルを選択し、所属していけるようになる。だから、1つのモデルの中で意見を戦わせる必要はなくなるんです。この社会モデルはこのためにある、という共通認識を全員が持っている状態にすることが重要です」(河崎氏)

さらに、ティール(自律分散協調型)組織の専門家の武井浩三氏は、ティール組織はCOMMONSが目指す社会構造とほとんど同じだと話し、自社での事例から「基準がなくても自然とうまくいく」と語った。

「うちの会社は40人ほどの社員がいますが、それぞれが何を達成したかのプロセスを完全に透明化しています。ブロックチェーンが信用を創造できるのは、取引の履歴をみんなが見られるから。それと同じように、うちでは仕事のプロセスを透明化しているのでお互いへの信用が当たり前にある。つまり、ブロックチェーンが基盤となったのと同じように信用がいらない状態ができています。

うちには理念もビジョンもありませんし、社員との合意形成もしません。でも、社員それぞれが必要な時に必要な分だけ考えて『いい塩梅』で仕事をすることで、全体として一番コスパがいい働き方ができています。自然に近い状態になるんですよ。

ブロックチェーンって、科学的には前に進んでいる技術に見えますが、これを使うことで生物的には自然に戻ってきているんですよね。自然界は放っておいても完璧に合理的なエコシステムが機能するじゃないですか。ブロックチェーンをうまく使うと、人のまとまりも簡単にエコシステム化するんです」(武井氏)

持続可能なまちづくりに関心がある人が注目する



プロジェクトの推進には、資金調達が不可欠だ。Kickstarterのカントリーマネージャーを務める児玉太郎氏は、世界的に持続可能なまちづくりに関心がある人と親和性が高いのではないかと話す。

「思想と一致するかはわかりませんが、世界にはお金を使って街をサステイナブルなものにしようと活動する人が多くいます。優れたクリエイターのプロジェクトの実現を目的にしたクラウドファンディングなどを使えば、外資を集められるかもしれません。エストニアのように住民となる権利を与えるなどすれば、住んでいる気持ちになれることと引き換えにお金を出す人は一定数いると思います。」

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ブロックチェーンを使うことで、互いに信用があることが当たり前の状態が実現され、国家の枠組みがなくとも「共感」によって繋がるコミュニティで自治を行える可能性がある。「ブロックチェーンを信じる」ことで、さまざまなコミュニティが対立せず共存する世界ができるのか。より良い未来を選び取るために、河崎氏が目指す理想の社会システムの構築はまだ始まったばかりだ。今後、HJK36では河崎氏と以下のプロジェクトを検討する。

・クラウドファンディングなどを使ったグローバルな資金調達の支援
・ゼロから国家を作る場合に必要な行政機能の検討

新たな社会システムの構築の進行を見守り、各分野の専門性を生かした助言やサポートを行っていく。

2018.12.20

イノベーション社会実装CH

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