新たな不動産投資ファンドを作り地域課題を解決する。エリア再生を実現するための3つのポイント。

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地域の都市問題を解決するために、新たな不動産投資ファンドが立ち上がろうとしている。不動産単体ではなく、あるエリアに集積している不動産に投資を行い、エリア全体を活性化させようというファンドだ。

BASE Qに集まる有志の勉強会「HJK36」では、エリア単位で町を活性化させるためのポイントや、肝になる「公共不動産の活用」の可能性を探る。

作成日:2018年10月24日

地域課題解決型の不動産投資ファンド



現在、Common Future & Co.の代表取締役を務める糀屋総一朗氏(以下「糀屋氏」という)が立ち上げ準備中の「Commons Funding (仮)」は、地域課題解決型の不動産投資ファンドだ。

地域の課題解決に適したファイナンス手法が足りないことに目をつけ、不動産単体ではなく、あるエリアに集積している不動産に投資を行う。そこに飲食店や宿泊業者などの事業を誘致することで、エリア全体を活性化させる。エリアの価値を上げ、投資した不動産の価値を上げた後に売却することで、ファンドとしてのリターンを得ていく。

「地域に長く存在してみんなに愛されるようなものを作り、かつ経済的なリターンも確保していく。そういうものを作りたいと思っています。」(糀屋氏)



Common Future & Co./糀屋総一朗
東京フィナンシャルアドバイザーズにて新株予約権・転換社債の設計・評価業務に従事。リーマンブラーザーズ証券の⺠事再生チームにて破綻処理に従事。2009年から、「糀屋箱機構」ブランドにて、レンタルスペース事業、飲食事業、宿泊事業を全国約 80店舗展開、2016年に事業売却



糀屋氏はこれまで全国でレンタルスペース事業、飲食事業、宿泊事業を展開してきた経験から、地域で新たな事業を立ち上げる際の資金調達には課題があると話す。

「事業をやる時の資金調達は、担保価値ではなく事業価値で判断されるので、ハードルは少し高いですね。というのは、事業に対する目利きが必要になるからです。例えば、キャンプ場事業がうまくいってるからテントをもう50個増やしたいと相談しても、成功が確約できないので、既存の金融機関としては『とりあえず2、3個からはじめてください』と言わざるを得ません。また、金融機関は一度融資をすると連続で融資をしづらい現実もあるので、そういったところに資金ニーズが発生していると考えています。

そこをうまく解決できる資金調達手法として、不動産投資ファンドに目をつけました。事業のリスクを一つの金融機関が負担するのではなく、ファンドにして様々な投資家に分散できれば、資金調達はうまくいきやすい。さらに、投資した不動産の価値を上げて売却益を得られるようにすれば、投資家にもメリットがあります。」

ファンドの規模は1エリア平均5〜10億円程度を想定。期間としては、3年から5年くらいでエリアの価値を上げて、次のオーナーに不動産を売却するイメージだという。ただ、3年待てない投資家もいるので、出資持分を売買するための仕組みも検討している。

投資家が売り抜けるためではなく地域に資産を生み出す仕組み



「エリアの価値を上げても売り抜けたらまた価値が下がるのではないか?」という声に対しては、糀屋氏は「そのリスクは低い」と話す。

「不動産のオーナーが変わっても、その街自体が変わるということはないとあまりないと思います。新しい不動産オーナーが、自分で使いたいからテナントから出てほしいと言う可能性もあるが、あまり考えにくい。うまくいってる物件であれば、オーナーはそのまま運用するのが自然だと思います。」

また、この点に関しては、これまでに様々なエリア再生に関わってきた一般社団法人エリアイノベーションアライアンス代表理事や内閣府地域活性化伝道師を務めるまちづくり専門家の木下斉氏(以下「木下氏」という)も以下のように話す。

「ファンドが売り抜けたら誰もいなくなるという話ではありません。基本的には、「価値がない」といわれている地域の不動産に良い事業者に入ってもらい、『この場所イケてるね』という状態にして、同じ場所で出店したい人を増やす。床面積が増えてない場所で出店希望者が増えるから、不動産やエリアの価値が上がっていく状況にする。それが再生の仕事です。

それに、価値が上がる構造としても、『ここ価値が上がりそう』という期待値で上がるのではなく、家賃収入が全くない不動産に家賃が入る状態にするから上がるのです。極端な話、不動産を持っているオーナーが誰であっても、中に入っている事業者や町の人の生活は変わりません。

実際、特定のエリアの価値を上げること自体はそこまで難しくありません。20年間上がり続ける状態を作るのは結構難しい。しかしながら、まずは「価値がない」と言われているエリアに3年から5年くらいで集中的に出店すれば、町は賑わい、その流れに乗りたいと思う人が出てきて価値を上げ始めるきっかけを作ることは十分にできます。その先はまた次の一手を考える必要があります。

ただ、一番最初のリスクが高い段階で、『わかりました。私のところで融資しましょう』といえる地銀はあまりいません。ある程度地域が良くなってきたら銀行からお金を借りることもできると思いますが、最初の資金調達で苦労することは多いので、このファンドには意味があるかと思います。」

木下氏の話を聞き、「駅ができるのに似ている」という話もあった。これからエリアが盛り上がる前提があれば、その周りの不動産を早めに買って価値が上がったら売る人もいるのではないかと。そういう人がいるからこそ、最初の段階である程度エリア単位で物件を押さえる必要があると木下氏は指摘する。

「実際、エリアの価値が少し上がったタイミングで、『なんかあそこいけてるぞ』という人が出てきます。しかし、そういった人が家賃が取れるからといって、エリアの価値向上に関係ない適当なお店を入れてしまい、エリアの価値が下がるということがよくあります。例えば盛り上がっている地域の裏通りに風俗案内所が作られたり。そういうことが起きるので、できればまとまったエリアの物件を抑えたいのです。」

資金、公的不動産、事業者の3つが肝になる



エリアに集中投資をして地域の価値を向上させるためには、資金調達手段を整えること以外にも、「物件に入る事業者とのマッチング」と、エリアの中で大きな規模を持つために自治体や国が持つ「公的不動産を取得すること」がポイントになる。

いくら物件に投資をしても、そこに良い宿泊業や飲食業などの事業者が入らなければ、エリアの価値は上がらない。すでに地域で実績を出している事業者が、既存の資金調達手段を使えない場合に、ファンドで補完することでエリアの価値を上げられる可能性がある。

また、公的不動産とは、国や自治体などの公共団体が持っている不動産。もともとは公共・公益目的のために作られたが、その役目を終えたり、収益性が悪く運用されていない物件も数多く存在している。公的不動産の運営を民間事業者に委託したり、売却することで有効活用することが求められる。

「エリア再生」「公的不動産の活用」のイメージを掴むため、木下氏や、公的不動産の活用を事業とする公共R不動産の菊地マリエ氏(以下「菊地氏」という)、クリエイティブディレクターとして多くの地域活性化のプロジェクトに関わる近藤ナオ氏(以下「近藤氏」という)から、いくつか対象となりそうなエリアや不動産情報、実際の活用事例を聞いた。



事例①エリア再生

「公的不動産ではありませんが、長浜市の黒壁エリアも今回やろうとしているファンドに近い事例だと感じています。中心となった建物は公的不動産ではありませんが、過去には銀行として使われたり、協会として使われたりしていた建物で、半分公共施設のような用途として転売されていたようです。ただ、それがいよいよだめになったとき、地元の事業者がみんなで200万円ずつ出資した会社をつくり、その物件と、その周辺にある物件を20軒ほど買い取ったり借上げたりして、再生させました。30年くらいずっとやってる事業ですが、平成28年の売上は6億2千万円、来街社数は191万3千人という数字が出ています。」(木下氏)

事例②公共不動産の活用

「公的不動産の活用事例としては、研修施設『沼津少年自然の家』の活用がわかりやすいかと思います。研修施設と公園がセットになった場所を『INN THE PARK』という名前に変えて、大人も泊まれる宿泊施設にリニューアルしました。もともと用途としては研修施設なので、外装を塗り直す程度の改修ですませています。中も子供用のベッドが敷き詰められていたのを出して、大人用のベッドを置いたり、子どもが集まる食堂をラウンジに作り変えたりしています。さらに周囲敷地に吊りテントを設置したことから『森の中に浮いているテント』で話題となり、夏の間は予約が取りにくいほど稼働しています。」(菊地氏)

事例③公共不動産(休暇村)

「公的不動産の例でいうと、まとまった公営住宅みたいな位置付けのものも入ります。例えば、環境省の管轄で、国立公園の中みたいなところにある『休暇村』は全国37カ所あります。

他にも、大きな病院の跡地も公的不動産の中に入ります。例えば、静岡の南伊豆町の海浜いには、地域の1市5町が共同で運営する大きな病院がありましたが、何年か前に移転してしまって。3万坪ほどもある場所が空いています。そこまでの規模でないにしろ、病院跡地を活用する可能性は全国的にあると考えています。」(近藤氏)

国交省は公的不動産を積極的に活用したいのか?



エリア再生のポイントの一つは「公的不動産の活用」だが、公的不動産はあまり有効活用されていない実情がある。国の政策としては、公的不動産の活用をどのように考えているのか。官民連携したインフラの整備や維持管理の推進を担当する国土交通省職員は、以下の様に話す。

「政府として、公的不動産活用の上段にある目標が『PPP/PFI 推進アクションプラン』というものです。PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法のことです。民間の力を借りて、国や地方公共団体等が運営するよりも効率化して、より良い公共サービスをより低いコストで提供することを目指しています。具体的には、平成25年から10年間にかけて、21兆の事業規模を目標にしています。そのうち4兆円は、公的不動産を活用しようという方針です。

その背景には、政府が直面する二つの問題があります。一つがお金で、もう一つが人です。

お金についていえば、社会保障費関係費と国債費が肥大したことで、公共事業に使えるお金は限られています。平成26年度から現在まで、公共事業関係費の予算は年間6兆円程度。今後も社会保障関係費は伸び続けることが想定されるため、公共事業関係費を含む他の政策経費が大きく増えることは難しい面があると思います。

『すでにインフラは整っているので公共事業関係費が増えなくてもよい』と考える方もいるかもしれませんが、1960年代の高度経済成長期に作ったインフラが老朽化しているため、既存インフラの維持管理・更新費は増えていきます。使えるお金が増えない中で、必要なお金が増えるという状況なのです。

もう一つが人の問題です。いわゆる土木部門・インフラ系の地方公共団体職員の数はピークを迎えた平成6年度から比べて、平成27年度では27%減っています。

お金もないし人もないという状況で、本当に必要なインフラや公共施設の維持管理・更新を考えたとき、民間企業のノウハウやお金を活用しなければならないという現実に直面しているのです。

PPP/PFI 推進アクションプランの中にはいろいろな施策がありますが、個人的には公的不動産の活用には大きな可能性があるのではと考えています。というのは、公共が抱えていて、本来生み出せるはずの現金収入を生み出せてないエリアや物件はあると考えられるからです。そこを事業能力のある会社の手によって本来の事業価値に戻すことができれば、民間企業側としても新たな事業収入になりますし、公共としても法人税や固定資産税などの税収が増えることになります。そういう意味で、公共にとっても民間企業にとっても非常に広がりがある世界ではないかと考えています。」



PPP/PFI 推進アクションプラン概要



公的不動産を活用するために国がするべきことは?



公的不動産を積極的に活用するため、国土交通省主導で「サウンディング調査」を行っている。地方公共団体から具体的な案件を持ちよってもらい、それに対して民間事業者から意見を聞く取り組みだ。

ただし、木下氏は「それは国レベルがやることなのか?」と疑問を呈する。

「そういう個別の話は、民間事業者でも十分できる規模だと思います。それよりも、出てこない公的不動産を地方公共団体に出してもらう仕組みとか、積極的に除却するための仕掛けを用意するとか、そういう方が大事なのではないかと思います。」

各地方公共団体の中でも、民間事業者に不動産を売却していいのか、判断しかねる現状があるという。例えば、学校はこの10年で6000校近く廃校になっているが、そのほとんどは有効利用されていない。その背景には、住民から「自分の通った思い出の学校を他のことに使わないでほしい」という声もあるそうだ。地方公共団体の人間は、住民に嫌がられることはやりたがらない。また、「施設の除却=サービスの低下」と住民の捉えられかねないので、できればやりたくない仕事だという声もあるそうだ。

その上政治的リスクも高い。公的不動産の除却と似たような話が、病院の廃業。病院は廃業させようとしても、例えばトイレットペーパーなどの備品を納入してる企業があり、そのバックには地方の政治家がいることも多く、議会で反対になってなかなか進めることができないこともあるそうだ。

地方公共団体としては、公的不動産を売却するインセンティブもないし、罰則もないのでやる意味がないというわけだ。自主財源だけでなく依存財源(国からの再分配)によって財政がまかなえている状況なので、採算が取れていない不動産を売らなければというほどの危機感がない。「地方財政と地方行政のあり方に根本的な問題があるのでは」という意見も出た。

とはいえ、少しずつ制度が変わってきていると、国土交通省職員は話す。

「除却に対する支援が必要なのではないかという話は行政の中でも挙がっています。今までは、除却するのに公債を使うことはできないというスタンスでしたが、最近は集約化に伴う橋の撤去に対する補助や、公共施設等の除却事業に対する地方債措置を認めたりする動きも出ています。そういった取り組みは始まってるので、除却のためにお金を使うなど、発想の転換も必要だと考えています。」

「流れを作る」のも国の大切な仕事



また、木下氏の「サウンディング調査は国レベルがやることなのか?」という指摘に対して、有志勉強会に参加する国土交通省の山田大輔氏(以下「山田氏」という)は、「流れを作るのも国の仕事ではないか」と話す。

「除却の仕掛けづくりなどインパクトの大きい施策を国として行うべきではないかという意見はごもっともですし、個人的には今後トライしていきたいと考えています。その一方で、『流れを作る』ことも大事な仕事の一つではないかと思います。というのも、『公的不動産を民間主導で活用する』という発想やマインドを持っている地方公共団体はまだ多くは無いと感じています。それは、地域の人から公共事業として買い上げた土地や建物を、別の用途に使ったり、特定の会社へ売却・貸付することに対してなかなか腹決めが出来ないこともあるかもしれません。そのような自治体に対して、国が後押しをする態度を示すだけでも意味はあるのではないかと考えています。」

事業者が中心にいれば資金も物件の問題は解消できる



公的不動産が出てこない背景には、エリア再生の3つ目のポイントでもある「具体的な事業者がいないからではないか?」という声もある。

「公的不動産が案件化するための重要なポイントは、まず地域ごとに核となる人材が存在することだと思います。『あなただったら』と言われて、その地域(集落や商店街)の不動産の扱いに変化が生まれるという状況を考えれば、その人の信用である程度の資金調達はできたほうがいい。資金も、不動産も、調達したり運用するときに、一貫した考え方と適切な手段を組み合わせて、その地域の文脈に沿ったシナリオを描くことが理想だと思います。その点において、資金と土地のことを最初から切り離して考える必要は全くないと思います。

そして、地域で核となる人が見つかったとして、プロジェクトとしては1人20〜30件が限界だと思います。そういうプレイヤーが全国で何人いるかわかりませんが、仮に100人だとしてプロジェクトは最大3000件。ただ、圧倒的に不足しているのは人材なので、プロジェクトを組成してさらに人材を育成していたら、地方銀行などが既に各地で組成している地方創生系のファンドのように余ってしまうような気がするので、個人的には現時点で公的不動産に対するファンドは難しいのではないかと思います。

また、内需だけで考えていることに問題があるような気もします。外国人が訪れるほど魅力的なフルーツを作り続ける和歌山の観音山フルーツガーデンは、観光としての外需の取組だけではなく、就労希望者や海外の経営者などが日本の農業を学ぶきっかけとなり強みを活かしながら、独自の路線で国際交流を実現しています。

また、北海道の赤字施設を再生させながら拡大を続ける加森観光グループは、北海道のゴルフクラブやスキー場も経営しながら、オーストラリアでコアラの動物園の経営などもしています。特に、オーストラリアと日本は四季が逆転しているので、そこも踏まえて外需の獲得に成功しているとろこが興味深いと思います。

そういった意味で、公共不動産を活用して海外から地域にとって価値のある人材を獲得したいということであれば、国内の事業者だけでは十分ではないかもしれません。」

様々な意見があるが、人が揃っているからお金が集まり、お金が集まってるから物件オーナーも「任せていいかな」と思って物件が出てくるのが自然な流れなのかもしれない。現状では事業者・物件・資金の3つが揃っていないことも多々あるという。まずは、どのような事業者がいるかを明確にして、その事業者が資金調達できる構造にする。そうすれば、プロジェクト数は増えて、地域の課題解決は加速することが見込まれる。

糀屋氏がファンドの立ち上げを進める一方で、HJK36では、以下のプロジェクトを検討する。

・九州エリアに特化したエリア投資の実施
・国が地方自治体の不要な公的不動産の受け皿となる仕組みづくり

活用されていない不動産を活性化して地域の課題を解決するための新たな形を模索する。
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