少しくらい回り道したっていいと思うんです。
夢のため、自分磨きのため、島という選択。
北海道の利尻島にて、地域おこし協力隊として活動する八木橋さん。将来カフェを開くという目標がありながら、島で地域おこしをするという選択をしたのには、どのような想いがあったのでしょうか。お話を伺いました。
八木橋 舞子
やぎはし まいこ|地域おこし協力隊
北海道の利尻島の「島の駅」で働く。
苦手が楽しみに変わる瞬間
北海道札幌市で生まれました。妹が一人いる長女です。小さい頃は人見知りで、親の背中で様子を伺っているような子どもでした。周りの人とどう付き合ったらいいかは、分かりませんでした。ひとり親で、親が忙しかったことも影響していたと思います。絵を描いたり本を読んだり、一人で簡潔する遊びをするのが好きでしたね。
高校生の頃は、資格研究部という、少しマニアックな部活に入っていました。友達に誘われたのがきっかけです。ワープロ検定や英検、漢検などを取りました。
部活の他に、音楽が好きで、音楽好きな友達とレコードが聴ける喫茶店に足を運んでいました。初めて行った店は、とてもおしゃれでした。ベロアのソファが置いてあって、薄暗い雰囲気の昔ながらの喫茶店。クラシックのレコードが何千枚もあり、有名なメーカーのスピーカーも置いてあって、リクエストしたレコードをかけてくれるお店でした。雰囲気が良くて、初めて行っても落ち着ける場所で。カフェにハマりましたね。
高校卒業後は、美術系の学校に進みたいという気持ちがありました。ただ、家庭がそこまで裕福ではありませんでした。まずは働いて、親や妹を少しでも楽に生活させたいと思い、就職することにしました。
高校に求人が来ていた遊戯施設で接客の仕事をすることにしました。人と交流するのが苦手だったので、接客には不安がありました。
でも、やってみると、私は人と話したり、物事を一緒にやったりするのが好きなんだって気づきました。パソコンと向き合って、誰のためにやっているのか分からない仕事をするよりも、直接人と触れ合って「ありがとう」とか言われるのがすごく嬉しかったんです。
怒られる時もありましたが、自分が必死になればなるほど、しっかり反応が返ってくる接客業が大好きになりました。目覚めてしまった感じですね。
いつかカフェを開きたい
社会人になってから、カフェ好きに拍車がかかりました。コーヒーも大好きで、カフェの小さな空間で大好きなコーヒーと甘いものを食べながら、音楽を聞いたり、店主さんとやりとりしたり、カフェの全てが好きでしたね。
そんなに頻繁に行くわけではなかったんですけど、ちょっとしたご褒美のような感覚でした。いずれは自分でもカフェを開けたらいいなと思っていましたね。
遊戯施設での接客は、変わらず楽しく続けていたんですけど、結婚したこともあって、11年目に辞めました。専業主婦になって、一旦落ち着こうと思ったんです。その後、結婚生活に余裕が出てから、カフェで働き始めました。
カフェでの仕事は、やっぱり面白かったですね。元々大好きな場所ですし、自分のお店ではないんですけど、自分のお店のような気持ちで働かせてもらえる、厳しくも優しい懐の大きなオーナーのお店でした。
また、オーナーはカフェや飲食店をやりたいと思っている人の背中を後押してくれる人で、開業のためのワークショップを開いたり、いろんな交流会を開催していました。色々勉強していくうちに、絶対にカフェを開こうと思いましたね。
ただ、開業するには現実的にお金が必要です。まずはしっかりと働いて、開業資金を貯めようと思っていました。
力をつけるため利尻島への移住を決意
カフェで働き始めて4年ほどした頃、知り合いから、北海道の離島、利尻島での仕事を紹介されました。地域おこし協力隊として、3年間地域おこしをしてみないかと誘われたんです。
即決で応募することにしました。もちろん、将来カフェをやりたいのは変わらないんですけど、面白そうだと思ったんですよね。お誘いがなければ、利尻島に行くことは人生で一度もなかったかもしれません。そう考えたら、何かのご縁だと思ったんです。
島での地域おこしは、人生経験になるし、自分磨きにもなる。それまで札幌でぬくぬくと育ってきた私がどれほど通用するのか、試される場所だとも思ったんです。
将来カフェを開くときにも間違いなく役に立つでしょうし、少しくらい回り道をしてみてもいいとじゃないですか。あとは、それまでやってきた接客の経験が、島でお役に立てるんじゃないかなとも思っていましたね。ちょうど離婚もしたので、迷いはありませんでした。
札幌で面接をして、無事合格。2016年6月に、初めて利尻島を訪れました。
札幌から稚内を目指して、車でオロロンラインを北上していると、突然利尻島のシンボル、利尻富士が目に飛び込んできました。海の上に浮いたような美しい山に、目が離せませんでした。なんだか神聖な場所に足を踏み入れたような感じがしましたね。
自分と向き合う時間が増える島生活
利尻島は、同じ北海道とはいえ、札幌とは印象が全く違いましたね。圧倒的に自然が美しかったですし、人の雰囲気がぜんぜん違うんです。
札幌では、人もたくさんいて、近所に誰が住んでいるかわからないような状態で生活していました。一方、利尻では、みんなが親戚みたいに親切にしてくれますし、明るくてポジティブな方ばかりなんです。
家に帰ったら玄関先に大根が置いてあったり、家のお風呂の電気をつけっぱなしにしちゃってたら、隣のおばあちゃんから電話がかかってきて、「あんた大丈夫かい?」と心配してもらったり。人の距離は近くなりましたが、それが嫌だとは思いませんでした。
来た頃は、仕事に必死でしたね。私の仕事は、地元のNPOが運営しているコミュニティスペースへの業務支援でした。施設のご案内をしたり、飲食スペースで接客をしたり、名物である「海藻クラフト」の体験サポートをしたりします。
海藻クラフトとは、海藻を使った押し花のようなクラフト作りのことです。利尻島は、海の資源が豊富で、ものすごい種類の海藻が育ちます。ただ、海岸の海藻は漁の邪魔になったり腐敗もするので、お金をかけて処分しているものもあります。資源を有効活用できないかということで始まったのが、海藻をアートにする海藻クラフトでした。
私の立場上、島での取り組みを一つひとつ吸収して、自ら動かなければいけません。常に自分が試されている感じがしましたね。それまでの甘ったれた生き方から、余計なものをそぎ落として、自分と向き合ったり、生き方について考えたりする時間が増えましたね。
夏の昆布の収穫の時期は、かなり大変でしたね。利尻島では、利尻昆布という高級昆布を作っていて、収穫の時期には島中の人が昆布干しを手伝います。島外からもたくさんのアルバイトを募集して、島一体となって昆布を干すんです。
その作業は、朝の2時位から始まるんですよね。しかも、利尻昆布は2メートルくらいのものから、大きいものでは10メートル近くになります。それを、中腰で砂利の上に干していく作業は、かなりきつかったです。
それが終わってからそのまま出勤。夜遅くまで働いて、また夜中から昆布干し。晴れている日は天気を恨むくらい大変でしたよ。(笑)それでも、過ぎてしまえば面白かったなと思います。
島だからこそ出会える人たち
現在は、地域おこし協力隊として、「利尻島の駅」の運営をサポートしています。島の駅は、地域の人が交流するコミュニティスペースでもありますし、観光のお客様が来た時に、利尻の生活や芸術を知ってもらう場所でもあります。
基本的には、カフェスペースで食事を提供したり、ギャラリースペースの案内をしたりしています。島の駅の建物は築130年程の歴史ある建物です。昭和30年に起きた大火事でも焼け残った奇跡的な建物で、昔の家財道具などを展示しています。それを通じて、利尻の文化や歴史を知ってもらえたらと思っています。あとは、海藻クラフトで、ゴミになっていたものも資源として活用できるということを伝えたいですね。
せっかく島の駅で働かせていただいているので、この場所で、地域の方たちと観光のお客様が触れ合えるきっかけを作れたらと思っています。観光に来た人と地域の人が触れ合う機会って、あまり多くはないんですよね。海藻おしば以外でもワークショップや交流会みたいなものを開いて、コミュニティの中心にしていきたいです。
この仕事に限らないんですけど、やっぱり人と接してて、お客さんが楽しんでくれたり笑顔になってくれたり、喜んでくれたりした瞬間が、なによりのやりがいです。しかも、島にいると全国各地、海外からもお客様が来てくれるので、たくさんの人と知り合えて面白いですね。
利尻島に来て1年ほど経ちました。この大自然と触れ合っていると、心が洗われるような気がしますし、自然の美しさと厳しさから、自分に向き合える時間をもらえるような気もします。仕事で落ち込んだ時は、一歩外に出でれば美しい自然があるので、一瞬にして心が洗われます。利尻のそういうところが大好きです。
島での暮らしって選択肢が少ないので、それまでの生活では考えもしなかったようなことも思いつきます。例えば、急に何かが必要になって困った時、札幌だったら買ってくればよかったんですけど、島にいると「いやちょっと待てよ。買わないでお隣から借りることはできないかしら?」とか思うわけです。実際そうすると、お隣とも親交がとれて、自分が知らなかったことを色々教えてもらったりとかできました。
この状況をどう乗り切ろうかという考えが出てきたり、ものを大切に使ってみたり、人の意見をよく聞いて尊重したり、考えたり、自分で判断したり。些細なことなんですけど、生活の中でそういったことがすごく多いんです。
都市部と比べると生活の面では不便さもあるかもしれないんですけど、それは私にとっては不便じゃないんですね。私は昔の時代を生きていたわけではないので、正確なことはわからないですけど、もともと日本人が持っていた、「持ちつ持たれつ」みたいな生き方は、島に残っていると思います。子どもを育てることになったときは、利尻は人として成長するにはすごくいい場所だろうなって思います。
これからどれだけ利尻島で暮らすかは、自分でもまだ分かりませんが、自分のカフェを開くことだけは、絶対にやり遂げたいですね。あとは、もう一度伴侶を見つけて、子どもを産んで、幸せな家庭を築きたいなと思います。
2017.12.26
八木橋 舞子
やぎはし まいこ|地域おこし協力隊
北海道の利尻島の「島の駅」で働く。
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