自分を正直に表現する社会を生きる。
深刻ぶらずに、自然体でいられるあり方を。

自分らしく、自分に素直に生きるための技術を磨くNPO法人を運営する安井さん。人に寄り添う仕事がしたいと思い続けて見つけた、やりたいこととは。お話を伺いました。

安井 亜希

やすい あき|若者が自分らしく生きることを応援する
ひとりでも多くの大学生や若者が、「自分らしく生きる技術」を身につける支援を行う団体「full bloom」を運営している。
fullbloom(フルブルーム)

生きている、ということ


京都府で生まれました。生まれつき身体が強くなかったこともあり、生後半年ほど入院したり、5歳の時には首の腫瘍を切除する手術を受けたりもしました。通院のため幼稚園は多少休みがちでしたが、病気があることを真剣に疑われるほどよく喋る活発な性格で、毎日元気に過ごしていました。

小学校に行ってからも、男の子とばかり遊んでいるような活発な子でした。父の仕事の関係で転校することが多かったのですが、転校した先々で、誰とでも仲良くやってましたね。市の陸上大会で優勝したことがあり、「オリンピック選手が夢!」と思ってました。

元気はあったのですが、持病の状態が悪化したことを受けて、中学2年生の時に舌を切る大きな手術を受けました。「結果次第では話せなくなる可能性がある」という手術の同意書にサインした瞬間は、とても印象的でした。「先生も何かあった時のことを想定しないとあかんし、大変なんだろう」と冷静に思いながら、やっぱりすごく怖かったですね。

10時間ほどかかりましたが、手術はうまくいきました。色んな管だらけで、しばらくは何も食べれず、手術の前より後がむしろ辛かったですね。

入院していた病棟は、がんの患者さんも多く、亡くなる方もいました。ある時、同じ病棟の患者さんの手術が終わり、うまくいって喜んでいる家族の姿を見たのですが、次の日には病室のネームプレートが空になっていました。「これはおかしい。どう考えてもおかしい」と、病室の前を何度も往復し、フロア中、その方の名前のプレートを探し回りました。

亡くなったんですよね。手術が成功したのにもかかわらず。その現実を、なかなか受け入れられませんでした。

交通事故に3度遭いましたし、大きな手術も経験して、亡くなる方を間近で見る経験が、なぜかとても多かったんです。そのうち、「生きていることは色んな奇跡の積み重ねで、自分は生かされている」、と感じるようになりました。命のことや、生きる意味について考える機会が多く、自分の命を還元する先を見つけたいと思うようになりました。

自分の使命を探して


高校生の頃から、「人生の大切な場面」に関わる仕事をしたいと思っていました。幼少期の経験から人の命を救える医者や、手術後の患者さんを回復に導く理学療法士に興味がありました。理学療法士の先生は、私が事故や怪我で挫折した時に支えてくれた先生でもあったからです。

将来を模索している時、「税理士は医者である」というキャッチフレーズに出逢いました。「これだ!」と、心奪われ、税理士を目指すことにしました。税理士は、想いを持つ社長さんたちの会社経営という大切な場面に関われる仕事。まさに、「人生の大切な場面」でした。自分の使命はここで活かせるはず。寸分の迷いもなく大学で会計コースに進みました。

大学院まで進み、大学院在学中に税理士試験に合格しました。卒業後は税理士事務所で働こうと思っていました。しかし、税理士事務所でアルバイトを始めると、事業のことや実務の中にある苦しみを何もわかってないのに、数字をみて「今期は◯◯ですね」と、社長さんにアドバイスをする自分に違和感を覚えました。

クライアントの社長さんから見たら、私は「税理士先生のたまご」です。でも、先生として経営をアドバイスできる自信は、まるでありませんでした。実務を経験していないので、何のリアリティもなかったからです。私が逆の立場だったら、そんな人を頼れない、とも思っていました。

会計上のスキルを持つだけでなく、社長さんの気持ちを理解して、より近い距離で価値を発揮したい。そう思い、まずは企業で実務経験を積むことにしました。経理や会計の仕事ではなく、営業をすると決め、大手人材企業に入社しました。

ところが、入社後に配属されたのは人事部でした。残念な気持ちや、人事を希望する同期が多い中で営業希望の自分が配属されてしまった戸惑いもありましたが、「何かのご縁があるのだろう!」、とそのまま働きました。

一人ひとり違ってみんないい


新卒採用を担当し、説明会、面接、内定者研修など、一通りの仕事を経験しました。面接は、学生さんの人生を聞ける濃密な時間でしたが、合格か不合格か決める必要があり、「人の良い悪いなんて判断できない」と、苦しみましたね。

しばらくして、採用面接は、「良い悪い」の判断ではなく、お互いにとって「合う合わない」の判断だと気づいてから、学生さんとの向き合い方が変わりました。とにかく一人ひとりの良い部分を見つける時間にしようと思ったんです。それが会社に合うかどうかは別の話です。

イキイキと自分のことを話す学生さんがいる一方で、本心を語ることを躊躇している学生さんや、「やりたいことが見つかっていない自分はダメだ」と思っている学生さんも多くいるように感じました。自分を認められていない人がいることに、寂しいしもったいないな、と思いました。

みんな魅力的で、それぞれ良いところがある。それぞれの自己表現を応援したい。そんなことを周りに話すと、コーチングを勧められることが多く、いつの間にかコーチングの資格を取ってコーチとしても活動するようになりました。

コーチングを通じて、目の前の人の人生の変容を共にいることも好きでしたが、一対一でしか価値を提供できないことに限界も感じていました。もっと多くの人が自分の心からの選択をしていけるように。人それぞれ多様で良い。そんな想いを持っていると、同じ想いを持った人たちと出会う機会がありました。たまたま別々の人に紹介されて集まった4人が、見事に想いが重なったんです。

そのメンバーで何かをしたら、面白いことができる予感がしました。そこで、仕事を続けながら、「full bloom」という団体を立ち上げて、大学生から30歳くらいの若い人に対して、自分らしく生きる技術を身につけてもらうための活動を始めました。「社会問題を解決したい!」という想いだけではなく、その活動自体が、私たちのやりたい自己表現だったのだと思います。

コミットメントの一つとして、一回きりで終わりではなく、継続して関わることを意識して始めました。「自分の本音を知ること」「智慧やスキルを得ること」「体験・経験を積むこと」「ロールモデルとの出会い」「自己発信すること」など、自分らしく生きるのに必要だと思うことを身につけてもらうため、大学などでの授業や講義の他、自主開催で合宿やワークショップ等を行いました。

自分の中に生じた違和感に向き合う


仕事やNPOの活動と並行しながら、結婚し、3人の子どもを授かりました。子供が生まれてくれたことは、自分の人生における一番の喜びです。

私は生まれ育った関西で働いていましたが、3人目の出産で産休に入る頃に、私がやっていた人事の仕事が関西支社からなくなりました。東京に行くのか、それとも京都に残って別の仕事をするのかを問われました。また、以前から、将来は親の経営する不動産会社を継がないかと言われていたのですが、本格的に考える機会になりました。

30歳を越えてやってきた、一つの区切り。自分の命を何に使いたいかと言えば、自分らしく正直に生きる人を増やすこと。その中で生きること。「じゃあ、それでいいじゃん!」と。

会社を辞めて、full bloomの活動を育て、ゆくゆくは自分の自己表現として親の会社を継ぐ。その決心がつきました。

そんな中、私自身が、自分の内面を見つめる合宿に参加する機会がありました。半年以上にわたって、何度も対話と内省を繰り返しながら自分と向き合う場でした。

そこで、私の話は嘘っぽいと言われてしまいました。光と闇で言う闇の部分、清濁で言う濁りの部分が全く見えない。そういう心が一切ない人間はいないから、言葉が嘘っぽく聞こえる、と。

「そんなこと言われても、こうして30年ほど生きてきたし・・・」と、自分ではどういうことか分からなかったので苦しみました。自分なりに自分らしく生きているつもりでしたから。(笑) 結局、合宿中には分からないままでした。

合宿を終えてからも自分と対話を続けていき、次第に、言われていたことの意味が分かってきました。それまでの自分は、いわゆる「ネガティブなエネルギー」に、なるべく触れないように生きてきたのだと思います。思い返してみると、小さい頃から目立つタイプだったので、力を振りかざして傷つけたり、逆に出過ぎて傷つけられたりすることもありました。いつの間にか、無意識のうちに、人と分断されないようにあたりさわりなく振る舞っていたんだと思います。(笑)

同時に、生きているからには何か価値を発揮しなければいけない。何もしないなんてありえない。そうでないと生きてる意味がない。命は使い果たすものだ、と言って自分を追い込んでいました。常に忙しく、余裕もなく、何かに追われている生活でした。いつの間にか、「頑張って命を生きる私」を演じていて、自分を大切にすることをすっかり置き去りにしていたんです。

それに気づいてから、追い込んできた自分をも許そうと思えるようになりました。その思い込みがあったおかげで、それまで色んなことに一生懸命に生きてこられたことは事実です。この内側の気づきは、人生の中でとても大きかったと思います。

自分を責めることなく、あるものをあるとして、受け入れていくこと。今は純粋に、何があってもそれでいい、と思えている自分がいます。

深刻ぶらず、自然体で生きる


現在は、full bloomとしても引き続き活動しています。アタマで考えて結論を出すことも必要ですが、「自分は本当は今どう感じているか?」「本当はどうなることを望んでここにいるのか?」を心に問う瞬間を少しでも多く創りたい、という気持ちがあります。

引き続き合宿やワークショップ、授業や研修など、色んなカタチでトライしていこうと思います。自分をジャッジして思考や行動を制限することなく、自分の自己表現が自由になっていくといいなと思いますね。

心の内省機会を提供するだけではありません。「自分らしく生きる」を体現するフィールドとしての企業さんとの出会いを創ったり、自然に触れあってたくさん深呼吸をして自分のスペースを取り戻したり。同じ様に生きる仲間と正直さから繋がったり。結局、この団体でやっていることは、私が求めていたことなんですよね。(笑)

人生や命にどれほどの意味があるかは、正直わかりません。ただ、他の人からの評価を気にするのではなくて、自分に正直になって、自分で選択できる人が増えた社会って、もっと楽で幸せで、かつパワフルだと思うんです。単なるワガママではなく、「こうしなきゃ」「こうすべき」とプレッシャーをかけ何かを選択することでもない、純粋な表現や選択です。「そんな社会を見てみたい!」という想いが、単純にありますね。

まずは、自分が体現することからですね。自分に正直になってから、心にスペースというか、余裕を感じます。自分を許せると、人のこともさらに受け取れるスペースができました。自分に厳しい人ってたくさんいる気がします。それがダメというわけではないのですが、心の声をちゃんと聴いて、自分を大切にする瞬間や、許す瞬間も、たくさんあってといいなと思います。そうして生きていると、生活や家族や仕事というリアリティのある場所も、整っていくと思うんです。心を救うだけではなく、そこから現実的な生活や仕事をも変容していくような世界を創れたらと思います。


今まではお仕事の話でも、「ご縁なので全て引き受けたい!」と思っていましたが、今は心の声を聞いて、「それを自分は本当にやりたいと思っているか?」「それを引き受けるスペースが今の自分にはあるか?」と一度問いかけるんです。そうすると、依頼されたことを断ったり、場合によっては迷惑をかけてしまったりすることもあります。それでも、限られた時間の中で自分の力をどう使うかを自分で選択しているので、決めたことにとても納得感があります。家族との時間をよりたくさん過ごしたいと思うようにもなりました。

full bloomの活動は、元々、「やってみたい!!」という素直な気持ちから始まった活動ですし、単純に仲間と一緒に自己表現していくのが好きなんですよね。私もそうですが、みんな得意なことと不得意なことが偏っていますので、それぞれの存在でいながら、チームとしてやっていけるのが楽しいんです。良し悪しではなくこれからも自分らしい素直な気持ちを大切に、生きていきます。

2016.04.21

安井 亜希

やすい あき|若者が自分らしく生きることを応援する
ひとりでも多くの大学生や若者が、「自分らしく生きる技術」を身につける支援を行う団体「full bloom」を運営している。
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