母校をもっと面白くしたくて、教壇に立ちました。

都内の私立高校にて日本史の教諭を務める杉山さん。学校の授業と社会が断絶していることへの危機意識から、「チームビルディング」をテーマに授業を行っています。授業やクラブ、地域活動と次々と新しいことに取り組み、社会を見据えた教育に情熱を注ぐ背景には、決して平坦でない道のりがありました。

杉山 比呂之

すぎやま ひろゆき|高校教師
専修大学附属高等学校にて教諭を務める。

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もっと面白くなるのに


小さい頃はすごくやんちゃでした。幼稚園から小学校に入る頃になっても、落ち着いて机に向かうのが苦手でしたね。そんな私を見て、小学校の担任の先生が私の親に、「この子は人前で話す人になると思う」と伝え、基礎的な習慣をつけようという話になったとのことでした。

そんな経緯から、私一人だけ、「毎日日記を書く」という宿題を出されたんです。来る日も来る日も机に向かい、宿題を出し続けましたが、自分以外そんな宿題出されていないことに、3・4年になるまで気付かなかったんですよ。

今では、本当にその「嘘」に感謝しているんです。自分と向き合う習慣を作る、貴重な経験でした。そんな良い先生との出会いもあり、将来は教師になりたいと、ぼんやり考えるようになったんですよね。

本格的に教師になることを目指したのは、高校の頃でした。自分の学校生活の中で、一番面白くなかったのが高校だったんですよ。皆勤で登校し、授業もクラブも参加しました。でも、「もっとこの学校は面白くなるのに」と思ったんですよね。偉そうに授業の批判をしていたこともありました。そこで決めたんですよね、

教師になって、母校の教壇に立とうと。

人生初の5月病


大学に入ると教職課程を履修し、先生になるために勉強を始めました。大学卒業後すぐに教師になる事も考えたのですが、もう少し自分のやりたいことを突き詰めようと思い、大学院にも行きました。

進学して修士一年の頃、このまま教師になれるかすごく不安を感じるようになったんですよね。周りに素敵な人がたくさんいましたし、知識も足りなかったんです。迷う気持ちから、並行で就職活動をして、選考にも臨んでいました。

ところが、お世話になっている大学の先生に相談したときに、「何やってるの?」「君は本当にやりたいことはなんだったの?」と言われたんですよね。その時に、中途半端だった自分の覚悟が決まった気がします。教師になることを改めて決心し、その恩師の紹介で、ある中高の非常勤講師を務めさせていただくことになりました。

そうして、晴れて教壇デビューを果たしたのですが、最初の一ヶ月が、私の教師生活の中で一番キツかったです。就任早々、生徒達にすごく嫌われてしまったんですよ。

今考えると、私の姿勢も至らない点があったのですが、入ったばかりで毛嫌いされてしまうのは辛かったです。授業もうまくなりたたず、半ば心が折れてしまっていました。着任して一ヶ月、生まれて初めて5月病を味わったGWは、毎日同じ居酒屋に行き、違う友達とボトルを頼んで飲み明かしていました。教師を辞めてしまおうと思ったこともありましたよ。

求められていること、向き合うこと1


でも、うまくいかないのはあたりまえだったんですよね。相手を見ていなかったんです。一番大切な、生徒の視点に立つことができていなかったんですよ。伝わるわけがない授業をしていたんですよね。

それに気付いてから、ある時、授業をしない時間を作ったことがありました。それまでの自分の姿勢を謝り、生徒達にとって必要で、関心がもてることを色々と語ったんです。その時から、少しずつこちらを向いてもらえるようになって来たんです。授業の内容も一新し、「求められているもの」をとにかく考えました。そうしていくことで、段々生徒と向き合うことができるようになっていきました。

今でも覚えているのは、正直一番授業をするのが難しかったクラスの生徒が、着任したばかりの頃に、私のことを毛嫌いしたことを、泣いて謝りに来たんです。思わず私も泣いてしまいました。「早く先生になってよ」と言ってくれる生徒もいました。出来過ぎたドラマみたいな話なんですが、それでも、自分にとってはすごく大切な経験でした。

非常勤講師の任期を終えた後は、教員採用試験を受け、満を持して、母校の教師になることが出来ました。

高校時代からの目標が一つかなった瞬間でした。

学生と社会をつなぐ授業


母校の教師になってから、自分の中で二つ決め事をしました。学級通信を月二回出すことと、学校に朝一番に来ることです。やっぱり、自分は周りよりできないという危機感があるので、毎朝6時半には学校に来て勉強をしています。学級通信も今では100を超えました。

これまでの経験を踏まえ、授業でも自分なりに工夫して取り組み、生徒からのアンケート等の評価は、悪くはないものでした。ただ、卒業生に会って話した時に、「高校でやったことが大学に入っても活きない」「もっとこういう授業をしてほしかった」という声をもらったんですよ。その話を聞いているうちに、学校の授業と社会に出てから必要なことが、断絶されているように感じるようになったんですよね。

ちょうど、同じ日本史を教えている尊敬する先生から、授業を改革しようという話をいただいたこともあり、社会で活躍するためのスキルを伝えるため、「チームビルディング」をテーマとした授業を行うようになりました。

自分自身、授業の捉え方が変わったんです。それまでは日本史の面白みを伝えたいと思っていたのですが、日本史を、「社会で活躍するためのスキル」を伝えるツールだと考えられるようになったんですよね。生徒のアンケートも明確に変わりました。母校で求められている授業を少しずつ提供できるようになっていったんです。

「学校」を面白く


現在は、日本史の授業に加え、土曜授業の一つとして、大学のプレ授業のような位置づけで、「チーム作り講座」という授業を外部の方を招いて行っています。加えて、もっとこの学校が愛されてほしいという思いから、地域の方に声を聞く場として、「学校で何かを実施するための作戦会議」を開催しています。これまで、地域からのコミュニケーションはどうしても「クレーム」が中心になってしまうのですが、一緒に何かしていきたいという気持ちはお互い持っていると思うんです。それを形にしていこうとしているんですよね。

その他にも、クラブの顧問なども担当させてもらい、今はすごく充実しています。自分が、同じように生徒だった頃に「もっと楽しくなる」と思っていた学校を、少しでも面白くしていきたいんです。

将来は、今行っているチーム作りの授業が全国に広がったらいいなと思っています。この授業は、「場を作り、場に価値を」というコンセプトなんです。自分の苦手な科目・得意ではない先生の授業でも何らかの価値を見いだせる人を育てたいんですよね。そのために、もっと色々な先生にその授業をやってほしいと思うんです。

もっと大きな夢だと、学校をつくってみたいという気持ちが昔からあります。教育に携わってから、夜通し語り明かしてもまだ足りないような熱い仲間ができました。そういう熱いチームで面白い学校をつくれたらいいなって思うんですよね。

2014.04.11

杉山 比呂之

すぎやま ひろゆき|高校教師
専修大学附属高等学校にて教諭を務める。

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