誰もが時に抱える心の不調を相談できる相手を!
オンラインカウンセリングで心のケアを身近に。
「cotree」というSkypeを利用したオンラインカウンセリングサービスの提供を始めた櫻本さん。金融業界から転身し、カウンセリングのサービスにて活動を始めるに至るにはどのような思いがあったのでしょうか。その経緯と今後の目標について、お話をお伺いしました。
櫻本 真理
さくらもと まり|オンラインカウンセリングサービス運営
株式会社cotreeの代表取締役として、オンラインカウンセリングのwebサービスを制作し、
メンタルヘルスケアをより身近にするための活動をしている。
オンラインカウンセリングサービスcotree
心理学との出会い
私は広島県福山市で育ちました。
小学校のときに山の事故で父が亡くなり、母と祖母に育てられました。
父親がいないからと言って選択肢を狭めたくないと、母は私に様々なことへのチャレンジの機会をくれ、
中学3年の夏休みには、海外は若いうちに見ておいたほうがいいと、嫌がる私を無理矢理アメリカ短期留学に送ってくれました。
そこで出会った人や場所、自然のスケールの大きさに感動し、もっと世界を知りたいと、
高校1年生のときに、1年間の交換留学に行くことに決めました。
イリノイ州にある田舎の高校に通うことになったのですが、そこには様々な背景を持った人がいて、
今まで当たり前だと思っていた日本での常識が通用せず、コミュニケーションがとても困難でした。
また、日本人はおろかアジア人はほとんどいなく、差別的な扱いを受け、人間関係に苦しむこともありました。
そんな環境だったからか、現地で受けた心理学の授業が心に残ったんです。
人の心は一概に理解できるものではないし、数学のように「1と1を足すと2になる」という単純明快ものではないので、
「なぜ」そうなるのかを深く追求していくのが面白かったのかもしれません。
1年間の留学を終えてからは、受験を考えるようになり、心理学を学べる大学に進学したいと思うようになりました。
そしてどうせ勉強するならば最高峰の環境で学びたいと考え、心理学の権威である河合隼雄先生の学派のある京都大学の教育学部に進学することにしました。
心への興味から、金融業界へ
大学に入ってから学ぶ臨床心理学は、高校生の頃に想像していたものとは少し違っていました。
伝統的な力動心理療法が前提とする概念が、難解で実感のわきづらいものだったというのもあると思います。
そんな時、『The Selfish Gene(利己的な遺伝子)』という本を読み、
人間の思考の癖や心理がどのようにして進化してきたのか、というアプローチで研究する進化心理学に興味を持つようになりました。
様々な感情や心の特徴がどのような進化的背景を持っているかを考えるのが面白く、どんどんこの分野にのめり込んでいき、
著名な教授と話をするために北海道で開催された学会まで足を運ぶほどでした。
さらに進化心理学の分野で、人間の意思決定の癖やリスク評価の偏りなどを学んでいくうちに、
行動経済学や社会心理学など集団の心理にも興味が湧くようになっていきました。
そして就職活動の時期になると、俯瞰的に経済の動きを見ることができ、また人の心の動きが反映される株式市場に関わる金融業界に興味を持ちました。
そして、様々な業界を見た中でも優秀な人が集まっていると感じた、外資系金融業界で働きたいと考えるようになったんです。
内定をもらった2つの職種は、片方はバックオフィス、片方はフロントオフィスで第一線に立つ職種でした。
このとき、労働時間も長くプレッシャーも大きい外資金融のフロントで、これだけ優秀な人たちの中で、心理学しかやってこなかった自分がやっていけるのだろうか、と悩み、
周囲の勧めもあって、バックオフィスで内定をもらっていた会社に就職することにしました。
正直、自分の能力に自信がなかったんですね。
鬱病診断を受ける
しかし、その選択をしたことを私はすぐに後悔していました。
せっかくのチャレンジのチャンスから逃げたような気がしてもやもやした気分が晴れず、結局数ヶ月後にはその仕事をやめ、
フロントオフィスの職種で内定を出していてくれたゴールドマン・サックス証券に、証券アナリスト職で入り直すことにしました。
それまで、亡くなった父がよく言っていた「迷うってことはどっちでもいいってことなんだよ」という言葉を信じていたのですが、
「チャンスがあるのにチャレンジしない」という決断は、後悔につながるんだと感じたときでもありました。
ゴールドマン・サックスでは素晴らしい人たちとチームを組み、同僚にも上司にも恵まれ充実した日々でした。
仕事は大変で早朝から夜中まで働くこともありましたが、チームの役に立っていること、共に戦う仲間がいること、投資家や事業会社の役に立っていると感じることをやりがいに頑張ることができ、がむしゃらに働きました。
でも、自分でセクターを担当し、自分の責任で株式市場の分析レポートを書くようになると、
自分の仕事が社会にとってどんな意義を持っているのか、その意義のために自分は人生を賭けたいのか、確信を持てなくなっていきました。
そしてこの頃、長時間労働が続きうまく睡眠がとれなくなってしまうことがあり、どうしていいかわからずメンタルクリニックに行ってみることにしたんです。
しかし、病院に行くと、10問くらいの質問紙に答えて、3分くらいの簡単な質疑応答を終えると、
「軽い鬱ですね、薬を出すので2週間後にまた来て下さい」と言われ、抗鬱薬と睡眠薬を処方されて帰されてしまいました。
これには強烈な違和感がありましたね。
睡眠が不安定なら、リズムを整えるとか、生活の中の問題がどこにあるかを考えるとか、薬を処方する前にできることはたくさんあるはずなのに、
その一言で私は、日本に100万人いる「鬱病患者」の一人になり、薬を飲んで治しましょう、と言われたのです。
私には長くうつ病で苦しんでいる親友がいて、友人として何もできないことをずっともどかしく感じていたのですが、
このとき初めて、「心の問題を抱えたときの選択肢が病院を頼ることだけでいいんだろうか」という問題意識を持ちました。
「問題は自分で解決できる」という経験
そんな時期に、同僚から一緒に起業しないかと誘いを受けました。
もちろん不安もありましたが、このまま証券アナリストとしてのキャリアを続けることに疑問を持っていたことは確かでしたし、就職先を選んだ時のように、リスクの少ない選択肢を選んだら、また後悔すると思い、
「Caloo」という病院の口コミサイトの立ち上げを手伝うため、退職を決めました。
それまでは起業などという選択肢は考えたことすらなく、社会の仕組みに問題意識を持っても、現実的に自分が何かできるなんて思ってもみなかったのですが、
Calooの立ち上げを通じて、問題を解決する仕組みを、自分でつくれることに気がつきました。
それであれば、自分自身が強く疑問を感じている問題を解決したいと思い、
Calooのチームを抜け、メンタルヘルスの業界でできることを考えることにしました。
そして調べれば調べるほど、メンタルヘルスケアの業界は国内では未成熟で、変化すべきことが多いように感じました。
しかし、ビジネスモデルを考えたり、カウンセリングの勉強をして資格をとったりしてみるものの、
ビジネスとして成り立つのか、そもそもどこから始めるべきなのか、失敗したらどうしようかと、なかなか形にするきっかけをつかめずにいる間に、
行動を起こすことがどんどん怖くなり、何もできなくなった時期もありました。
そんな時、地元の友人との「地元のために何かできたらいいよね」という会話をきっかけに、
地元である広島の出身者を集めて、地元への恩返しプロジェクトを立ち上げました。
たくさんの方とともに一つのものをつくりあげるプロセスや、「ありがとう」を頂くたびに感動し、本当に大切なもののために働く喜びを感じました。
これをきっかけに、誰かが喜んでくれる仕組みを作ることに人生を使いたい、という思いが深まったのです。
その後もいくつかのスタートアップを手伝いながら、「こんなことがやりたい」といろんな人に話している中で、一歩を踏み出すきっかけとなる出会いを友人がくれ、
2014年5月、本格的にメンタルケアの問題に取り組むための会社を立ち上げました。
そして2014年10月、Skypeを用いたオンラインカウンセリングサービスの「cotree」を公開しました。
もっと気軽に頼れる心の専門家を
日本ではあまりカウンセリングは一般的でなく、心理的なハードルが高くなりがちです。
また、地理的・金銭的な制約もあって、カウンセリングを受けたくても受けられない方がたくさんいます。
だからこそ、何か問題を抱えたときに相談できる人がいなくて、深刻化したときに初めて病院に行く、ということが多いように思います。
カウンセリングと聞くと、どうしても病気と診断された人が使うイメージがありますが、
体と同じように心の調子にも波があり、時には風邪をひくように心の調子を崩してしまうこともあります。
そんな時、薬をいきなり飲んで無理矢理気分を上げるのではなく、
何が問題の原因で、どうやって生活習慣や心の癖を変え、心の調子を整えていくのかを気軽に相談できる場所がカウンセリングなんです。
オンラインであればより身近に、気軽にカウンセリングのサービスを受けることができます。
オンラインでカウンセリングなんてありえない、と言われることもありますが、オンラインだからこそできることも多くあると思うんです。
日本では自分の心の状態を意識する習慣はあまりありませんが、本来であればもっと普段から気にするべきもので、
それこそ少し太ったな、と思うときにダイエットをして体の調子を整えていくように、心の調子も整えていくような場があっても良いのではないかと感じています。
マザー・テレサの「思考に気をつけなさい…(中略)それはいつか運命になるから」という言葉がありますが、まさしく人生をつくっているのは自分の心の状態です。
人はもっと自分の心の状態に敏感になっても良いのではないかと思います。
まだサービスを立ち上げたばかりですが、ありがたいことに利用して下さった方から、
「このサービスを通じて、良いカウンセラーと出会えた、がんばろうと思えた」という言葉をもらえたときには本当に幸せでした。
この一人ひとりの声をしっかりと積み重ねていきたいですね。
また、オンラインで相談できると言っても、他人に自分の悩みを声に出して話すことを難しく感じる人は多いと思うので、
今後はより手軽に、ふと思った時にいつでもチャットで相談できるようなサービスも展開していきたいと考えています。
そして、一人ひとりがもっと当たり前に自分の心の状態や価値観、目指している場所と向き合い、
抱えた問題を乗り越えていくのをサポートできるようなサービスを創り上げることが目標です。
2014.11.17
櫻本 真理
さくらもと まり|オンラインカウンセリングサービス運営
株式会社cotreeの代表取締役として、オンラインカウンセリングのwebサービスを制作し、
メンタルヘルスケアをより身近にするための活動をしている。
オンラインカウンセリングサービスcotree
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編集部の伊藤です。秋は悩みの多い季節と言われます。例えば、ファッション。先週真夏日があったと思ったら、今週は台風到来と秋は天気が激しく変わるので、何を着るか悩みますよね。でも、そこで無難なファッションを選ぶと気分が上がらない。ファッションが心理状態に与える影響の大きさは様々な研究が示していますが、実はanother life.にもその実例があるんです。今回は、ファッションをきっかけに自分に自信がついた3名のストーリーをご紹介します。ぜひご覧ください。
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