メシを食べるときくらい笑顔を取り戻してほしい!
笑顔を守るために、どこへでも出張する料理人。
出張コックとして、さまざまな場所に出向き、お客さんそれぞれの要望に応えて料理を提供している鎌田さん。出張コックとして独立しようと考えた背景には、震災や、ある人に言われた言葉がありました。「世界一笑顔にさせる料理人」を目指すまでの過程を伺ってきました。
鎌田 勝
かまだ まさる|出張コック
「世界一笑顔にさせる料理人」。出張コックとして、笑顔を守ることを根本に、料理を提供する。
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モチベーションは人の反応
私は岩手県花巻市で生まれ育ちました。中高時代はやんちゃな子供でしたが、野球だけは部活にも入りずっとがんばっていました。部活は地味なことが多く、練習もきつかったのですが、観客が応援してくれて、自分に注目が集まっている試合の光景を浮かべることでがんばれたんです。
足が早かったので駅伝大会にも出場していたのですが、これも大会本番に人前で披露することがモチベーションとなっていましたね。目立ちたがり屋な性格で、常にどうしたら人に見てもらえるか考えていたんです。
そして高校卒業後は、私の通っていた高校はほとんどの人が就職するような学校だったので、進学などはせずにとび職にでも就こうかと考えていました。しかし、高校3年生の夏休みのとき、ドラゴン桜というドラマで主人公が弁護士を目指して東大に合格したのを見て、「自分でも弁護士になれるんじゃないか?」と思い始めました。もともと将来の姿が見えてしまっているとび職になりたかったわけではないし、法律の仕事は何をやっているのかわからなく、知りたいという好奇心が湧いてきたので、卒業後は法律の専門学校に進むことにしたんです。
専門学校では学校にはあまり行かなかったのですが、自分でたくさん勉強していろいろな法律関係の試験を受けていきました。しかし、試験に合格して資格を取っていくうちに、最終目標としていた行政書士の資格もこのまま勉強していけば合格することが見えてしまったので、つまらなくなってしまったんです。自分の前提として、未知のものに飛び込みたいという気持ちがあったので、このまま見えてきてしまった法律の道に進んでも、おもしろいことがないと思ったんです。
そこで、専門学校を2年の夏に辞め、環境を変えるなら場所を変えるしかないと思ったので、横浜に上京することにしました。
料理との出会い
上京してからは渋谷のシルバーアクセサリーショップで少しだけ働いた後、かっこいいという単純な理由で横浜のバーでアルバイトを始めました。ただ、バーというお酒の席での接客は、酔っ払って面倒なお客さんも多く、誰に対しても笑顔を作ることができなかった自分には向いていないなと感じていました。
そんな状態だったのですが、1ヶ月程してキッチンに立たさせてもらう機会がありました。貸切パーティで食事の下準備の手伝いをすることになったのですが、フライパンや包丁を握ったのはその時が初めてで、油は跳ねるし、手を切ったらどうするんだと、最初はイライラしていました。
しかし、自分のまかないを作るために初めて自分で一から料理をすると、もちろんうまく行かず、出来上がったのはカピカピに乾いたペペロンチーノで正直不味いと思ったのに、料理をしている瞬間はなぜかすごく楽しかったんです。また、「こうしていればもっとおいしくなったんじゃないか?」「次こうしたらもっとうまくいくんじゃないか?」とすぐに頭に浮かんできて、料理をまたしたいと思う自分がいました。
そこからどんどん料理にはまっていき、接客だけでなく、キッチンの仕事も任せてもらうようになりました。料理をしていて一番楽しい時は「この料理をお客さんに出したら、こんな反応が返ってくるんじゃないか?」と想像して、それがその通りになった瞬間の、食べる人の反応を想像しながら料理を作っていくと、どんどん案が浮かんできたんです。
このお客さんはどんな味が好きか考えて料理を出したり、料理があることでお客さんとのコミュニケーションが捗るようになったり、料理は接客にも活きてくるようになりました。
独立へ向かって動き出す
しかし、バーはやはりお酒がメインで料理には限界があったので、色々なレストランに出向き、料理を食べて研究するようになっていきました。そうしているうちに、接客の仕事はほとんどしないでお店の料理長のような立場になり、新メニューの開発などもするようになりました。ただ、自分は一つのお店にとどまるタイプじゃないと考えていて、だんだん独立したいという気持ちが強まっていき、いずれは自分の店舗を持ちたいと思うようになっていました。
そんな中、2011年3月に東日本大震災が起こったんです。地元で野球の遠征に行っていた場所や、子供の時に釣りに行っていた場所などが被害にあっていて、何かしたいと思いつつも、自分は関東にいてお店での仕事もあるのですぐに飛んで行くことができず、そんな自分に対する葛藤もありました。
この時、出張して料理を提供するフリーの料理人であれば、行きたい時にどこにでも行けるし、被災地でお腹をすかせている人にもごはんを食べさせてあげられると気づいたんです。一つのお店にとどまるのは自分の性格には合わないし、好きな時に場所を選ばずに料理を提供するのは自分の理想的な働き方だったので、将来は店舗を持つのではなく、出張コックになるアイディアが頭の中で広がっていきました。
そして本格的に独立を考えるようになり、2年8か月でバーを辞め、料理の専門店で技術を学びながら独立資金を貯めるために、イタリアンやフレンチや和食のレストランで働くようになりました。独立に必要だと思う技術を付けるため、レベルの高いお店で働いたり、時には料理長として働かせてもらったお店もありました。
お金のため料理を辞める
そうやって様々なお店で働いていたのですが、なかなかお金は貯まらなかったので、開業資金を稼ぐことに集中するためFXを始め、料理をいったん辞めることにしました。
しかし、FXで安定した収入は得られるようになっていきましたが、正直つまらないし、だんだんとお金にとらわれている自分を自覚していったんです。ただ、違和感はあるものの、料理人として独立するためには仕方がないと自分に言い聞かせることで、納得しようとしていました。
そんな中、半年程経ったある日、知人に紹介されて会った人に「料理をやってないマサルはダサい」と言われてしまったんです。やりたいことのために何かを犠牲にするのはかっこよくないし、そんな状態では誰からもリスペクトされないと、言いたい放題言われてしまい、正直、「お前に何が分かるんだ」と非常に腹立たしい気持ちになりました。
しかし、今のあり方に違和感を感じていたのは事実だったし、「楽しくなく稼いで、楽しくそのお金を使えるのか?」と自分自身に問うた時、答えはノーでした。
そして、このままではやはりダメだと思い、好きなことをしながら稼いでいくと覚悟を持ち、その人と話した2週間後の2014年5月に独立し、出張コックとしての仕事をスタートさせました。
食べる時くらい笑顔でいてほしい
今は、出張コックとして、美味しい料理が食べたいと思っている人のもとに出向き、料理を提供しています。
イベントなどで料理を作ることもありますが、それだけではなく、小さな子どもがいて普段出かけられない人や、身体が不自由で外食に行けない人の家に行き料理を作ることもあります。スタイルにはこだわっていないので、昼も夜も関係なく、本当にごはんを食べたいと思う人がいてキッチンさえあれば、どこにでも作りに行くんです。
また、どんな料理を求めているのか要望に応えるために、事前にお客さんとは直接顔を合わせて一緒にどんな料理にするかを決めていきます。基本的にはイタリアン料理を作りますが、フレンチや和食などの技法を取り入れ、自分なりのアクセントを出しながら料理を作り上げていきます。
これからの目標としては、30歳になるまでに自分が好きな料理人やアーティストを世界中から集めて、岩手で世界最大のフードフェスを開催したいと思っています。参加してもらった人が温もりある料理を食べて笑顔になってもらえれば、それでいいんです!「こんなにうまいものがあるんだ!」と思ってもらいたいですね。
私は、ごはんが一番人を笑顔にすると思っています。ごはんを食べていると怒っている人も話し出してくれるし、自然と笑顔が溢れてくるんですよね。だから私は料理を通じて、いろんな人のその笑顔を守っていきたいんです。
現代社会ではいろんな葛藤があり、気づいたら笑顔を忘れているなんてことがよくあると思います。でも、食べるときくらい、笑顔を取り戻してほしいんです。仏頂面でごはんを食べている時ほど、つまらないものはないのですから。そして、「あいつの料理を食べたら、今日忘れていた笑顔を自然に取り戻せる」そういう風に思ってもらえるような、世界一笑顔にさせる料理人として生きていきたいですね。
2014.11.10
鎌田 勝
かまだ まさる|出張コック
「世界一笑顔にさせる料理人」。出張コックとして、笑顔を守ることを根本に、料理を提供する。
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