優秀な人材を活かしたい!
大学職員が考える、もったいない社会とは。

少し恥じらいながら、「将来は、社長になりたい」と話す宇杉さん。現在は大学職員として働きながらも、高校生の時から一貫した思いを持ち続けています。今に至るまでどんな背景があるのか、お話を伺いました。

宇杉 阿津子

うすぎ あつこ|大学職員
大学職員として働き、 現在は、理系学部の研究推進事業に取り組んでいる。

もったいないから社長になりたい


私は大阪で生まれました。

小さい頃から、何となく専業主婦にはなりたくないと思っていて、将来の夢は警察官でした。

何がきっかけというわけではなかったのですが、
多分、一人ひとりが自立する平等な社会に憧れていて、
子供だった私にとってそれを体現している一番身近な存在が、警察官だったんです。

ただ、テレビでサスペンスドラマを見たりして、
徐々に、殺人事件の現場は怖いと思うようになり警察官の夢は無くなりました。

中学生になって、得意教科は英語だったので、
周りの人からは、将来はアナウンサーやキャビンアテンダントを目指してみてはどうかと言われていましたが、
そういった職業にはあまり魅力を感じませんでした。

その後、卒業してからは商業高校に進みました。

商業高校なので、資格を取り卒業後に就職していく人も多くいるような学校でしたが、
私が高校3年生の時は、高卒の有効求人倍率が1倍を切る、いわゆる就職氷河期でした。

そのため、就職を希望している優秀な同級生もとても苦労していて、
社会で活躍できる優れた知識を持った人が、就職したくてもできない現実を目の当たりにしました。

私は、そんな人たちが雇ってもらえないのは非常にもったいないと感じ、
将来は社長になって雇用を創出し、優秀な人材を一人でも多く雇いたいと思うようになったんです。
当時の起業家ブームもあったのかもしれませんが、雇用を創出するには社長になったらできるだろう!と思ったんです。

そして、それまでのなんとなく大学へ進学しようという私の考えは変わり、
社長になろうという明確な夢を持ち、大学へ入りました。

現実的な選択


大学では、サークル活動や部活動はしていませんでしたが、
商学部でブランドマネジメントの研究に熱中していて、
毎日研究室に行ってマーケティングのグラフを読み取っているのがとても楽しかったです。

社長になりたいという夢は持ち続けたままだったのですが、
そのために何をすればいいのか分からず、
また、特に具体的な起業のイメージもなかったので、
現実的な選択としてまずは就職かと考え、就職活動を始めました。

ただ、「これがしたい」という軸で会社を選んでも、大きい会社であれば入社後にできるとは限らないので、
「好き」と思えるかどうかを軸にすることにしたんです。

「好き」と言っても様々で、作っている商品でも、テレビのCMでも、
感覚的に好きかどうかで会社を見るようになりました。

また、会社にはなるべく足を運ぶようにしていて、200社以上説明会に行きました。
だいたい説明会に行くと、自分に合うかどうかは雰囲気で分かりましたし、
色々な会社を知ることができて面白かったですね。

そうやって数社から内定を頂くことができましたが、
最終的に就職する会社を選ぶとき、2つの基準がありました。

1つは、結婚して子供ができても、定年までずっと働ける環境があることでした。
特に、出産や子育てをしながらも働ける環境がある企業はやはりそこまで多くはなかったので、慎重でしたね。

2つめは、ずっと大阪で働ける環境があることでした。
関東は東京に一極集中していますが、
関西は大阪も京都も兵庫もそれぞれが街として個性が立っている感じがして、
その方が好きだったんです。

その条件に合い、またオープンキャンパスのお手伝いをしていた経験から、新入生の募集活動に携わりたいと思い、
大学に職員として就職することに決めました。

大学で感じた課題


大学職員になって、最初に配属された部署は大学院の入試部でした。

そこでは大学院生が卒業後に苦労している状況を目の当たりにしましたね。

1990年頃から、国が高度な専門知識を持った人を増やそうと大学院拡大政策が推進されて、
大学院も大学院生もたくさん増えたのですが、
特に文系の大学院を卒業しても、研究者になれる人は一握りですし、
企業は文系の大学院修了者を採用したがらないんです。

結局、高度な専門知識を身につけた大学院生たちは出口がないのに、
今も何の保証もないまま増やされていて、優秀な学生が振り回されている現実に、
すごくもったいないと感じるようになったんです。

そんな気持ちを感じながら、3年後、学生募集を担当する入試広報部に異動になりました。

主な仕事は、高校生に大学の魅力を知ってもらうため、
全国各地の高校へ出向き大学の説明をしたり、高校生向けの大学広報誌を作ることでした。

大学紹介のために高校に説明会に行くと高校生と触れ合うのですが、
大学に進学を希望している高校生の中にも、
夢がある子と、そうでない子がいることに気づいたんです。
夢がないと言う子になぜ大学に行くのかと聞くと、
「親に行けと言われたから」という理由だったりして、すごく悲しく思ったんですよね。

たとえ今、夢や目標が無い子でも、
「大学で、やりたいことを見つける」という目的でもいいので、何かしらの意図を持って大学に進んでほしいと思ったんです。
そして、大学を最大限に活用して、1人でも納得する道を見つけてほしいと思ったんです。

長期的に考える


そして今年の春、理系学部の研究推進を担当する部署へ異動となりました。

ここでは、国が私立大学の研究支援に対して出す補助金を獲得のために、
大学内の研究をプロジェクト化して国に申請する仕事をしています。

今の部署は5年スパンなど長期的な計画で動いていて、
毎年広報誌を作るために目まぐるしく動いていた広報部よりは、長期的な視点で物事を考える機会がたくさんありました。

大学で働いてみて、改めて国を創っているのは人であり、
国を創る人を育てるのが、大学の使命だと感じるようになりました。
高校生とか大学生で自分の本当にやりたいことが見つからない人もたくさんいると思うのですが、
そういった人が夢を探し続けられるような、悩むことを認めてあげるような環境を作っていければとも思っています。

また、社長になりたいと言う夢も諦めてはないのですが、
今まではあまり長期的な視点で物事を考える余裕がなかったんです。
しかし、ちょうど今の部署に移動になった頃に結婚もしたので、
子どもも欲しいと思っていて、このあたりで一度しっかりと自分の将来のことを考える時期かとも思っています。

自分が高校生の時に感じたことや、大学院に関わった時に感じた、
「優秀な人が社会に還元されてない」という課題感は持ち続けていて、解決のために挑戦したいとは思っています。

その方法が、自分が社長になって何かすることなのか、それとも大学の職員としてなのかは分かりませんが、
しっかりと考えて、行動に移していけたらと思います。

2014.09.17

宇杉 阿津子

うすぎ あつこ|大学職員
大学職員として働き、 現在は、理系学部の研究推進事業に取り組んでいる。

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