やりたいことは新しい「仕組みづくり」でした。
大企業に勤める私ができること。

「スタートアップの人にはもっと大企業を利用してもらいたいんです」と語る片岡さん。大企業とスタートアップが連携する仕組みづくりを大企業側から推し進める今に辿り着くまでには、どんな背景があったのか、お話を伺いました。

片岡 和也

かたおか かずや|大企業からスタートアップへ循環する仕組みづくり
NTT西日本のビジネスデザイン部に所属し、
新規事業の創出、特にスタートアップ企業との連携を推し進めている。

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医者ではない


小さい頃に、祖父に何か手に職をつけるようにと言われてから、
医者を目指していました。

わりと器用になんでもできるタイプで、勉強も得意だったのですが、
何かに熱中するほど打ち込めるものはなく、ある種の器用貧乏でしたね。

そのまま医者を目指して高校生になりましたが、
3年生の12月に、自分は医者に向いていないのではと感じてしまったんです。

『医者になる前に読む本』というのを読み、医者の生活の実態を知って、
そんな忙しく過酷な環境で耐えられるか不安だったし、
人の生命を預かるだけの責任に耐えられるのか分からないと思ったんです。

そして、一日学校を休み、自分は何をするべきなのか考えることにしました。
結論、やはり医者ではなく別の道に進もうと思い、
食に関することを学べる農学部を目指すことにしました。

元々、食べるという行為が好きで、食にまつわることを考えた時、
日本は国の柱である一次産業が蔑ろにされていると感じ、
農業がどのように産業として発展していく可能性があるのかを研究してみたいと思ったんです。

そして、受験直前でしたが進路を変え、京都大学の農学部に進学することにしました。

見つけやすい環境


大学時代は、勉強や研究に没頭するというよりは、塾講師のアルバイトが生活の中心でした。

小学生を教えていたのですが、何かを教えることによって、
どんどん変わっていく姿を見るのが面白かったんです。
それも、勉強の成績だけでなく、人としてもどんどん変化するんですよね。
また、教えるという行為は学ぶものが多かったので、塾講師はずっと続けていました。

大学院でも塾講師を続けていて、教育という分野に興味があったものの、
将来はもっと社会の仕組み全体を変えるような大きなことがしたいと思い、
教育ではなく、ビジネスの道に進むことにしました。

しかし、やりたいことが分からなかったんですよね。

何か見つけなくてはと思い、就職活動では色々な企業を見たのですが、
結局心からやりたいと思うことは見つかりませんでした。

そこで、今やりたいことがないなら、それが見つかりやすい環境で働こうと思い、
多くの企業が使っていて、様々な企業に関われる可能性のある業界を絞りました。
それが、金融業界、経営コンサルタント業界、通信業界でした。

その中でも、ITの流れが進んでいたり、いろいろな企業とコラボレーション可能性を感じ、
ご縁のあったNTT西日本に入ることにしました。

初めてのやりきった感


入社してから最初の配属は法人営業でSE業務をする仕事でした。

大きな組織なので最初から自分のやりたいことをできるとは思ってなかったし、
そもそもどんな仕事が会社にあるのか、入社前は把握できていなかったので、
特にどの仕事をやりたいとか希望はなく、頂いた環境でしっかりと働きましたね。

その後、数年その部署で働き、さらに次世代のフレッツサービスを企画する仕事をした後、
会社のMBA制度を利用して経営大学院に行かせてもらいました。
すごく憧れていた先輩がいたのですが、その人がMBA制度を利用していたので、
私も行ってみたいと思ったんです。

この期間は経営を学ぶため、とにかく多くの本を読んだし、勉強しました。
それまでは何かに打ち込んだとか、大きな達成感は持ったことがなかったのですが、
この2年間は人生で初めてこんなに熱中し、やりきった感覚がありましたね。

また、初めて社外から社会を見ることによって、視野が広がりました。

私の勤めている会社は、国のインフラを支える特殊な会社であるため、
様々な法律が適用されたり、会社のルールもかなり特殊なものがあるんです。
それがあたりまえだと思っていたのですが、
社会一般で求められるあたりまえが何かということをリアルに気づけました。

この経験を通じて、社会を変えるようなビジネスを作るためには、
もっと社外に目を向けなかればならないということを理解できたんです。

それぞれにあった組織


そして2年前から今の部署に配属になり、新規事業開発を担当することになりました。

この部署では普及したブロードバンドの世界で、
もっと簡単・快適・便利な新しいライフスタイルの実現を目ざしていて、
「スマート光ライフ」・「スマート光ビジネス」・「スマート光タウン」の3つのシーンで新サービスを考えています。

その中で、私はスタートアップ企業とコラボレーションして、
新しいサービスをつくる仕事をしています。

多くの大企業がそうであるように、今の会社の組織や制度は、
今までやってきた事業に最適化されているので新しいものを始めようとした時に、
必ずしも合うかと言われるとそうでもない面があります。
そうであれば、柔軟に動ける外の企業さんと連携したほうが、
より早く良い物が生み出せると考えています。

そのため、まずはスタートアップ企業の販路開拓などのアライアンス連携から始めて関係を築いていき、
将来的にお互い成長していけるような連携が推し進められたら良いと思っています。

今は毎日スタートアップの方と会いながら、
何かリソースを提供できる部分がないか、日々模索しています。

スタートアップの踏み台に


今後は、この大企業とスタートアップ企業の連携を、
会社の一取り組みとしてだけではなく、社会の仕組みとして育てていきたいと考えています。

この停滞してしまった日本の成長を取り戻すには、
大企業からスタートアップにリソースを循環させて、新陳代謝を活性化させる必要があって、
大企業には資金もあるし、優秀な人材もたくさんいるので、
そのリソースがどんどんスタートアップに還元されれば良いと思っています。

そのため仕組みづくりとして「コトの共創ラボ」というプロジェクトも始めました。
これは、大企業が持つ「ネットワーク・資金・人材」等のリソースと、
スタートアップ企業が持つ「アイデア・スピード・行動力」を組み合わせ、
ビジネスの規模と成長のスピードを両立する事業の創造をミッションとするプロジェクトです。
スタートアップ企業は大企業を「踏み台」にして成長を加速させ、
大企業はスタートアップ企業と組むことで新規事業をスピード感をもって立ち上げることができるようになるという、
「共創」の仕組みをつくれればと思います。

社会を変えていくには、どんどん新しい企業が出てくる必要がありますが、
私はあえて大企業側から新しい企業をサポートする立場でいたいと考えています。
これは私の尊敬する先輩からの受け売りでもありますが、
幕末の時代に、維新志士としてではなく、幕府側の人間として明治維新を支えた勝海舟のようになりたいんですよね。

昔からやりたいことが分からなくて模索していましたが、
私は具体的な「何か」という対象よりも、どう達成するかの「仕組み」を作るのが好きということが分かってきました。
今はこの大企業からスタートアップに還元する仕組みに注力しながら、
40歳までに、もっと自分がやりたいと思えることを見つけていければ良いと思います。

そのために、とにかく目の前にあるチャンスや人との出会いを大切にしていきたいですね。

2014.09.14

片岡 和也

かたおか かずや|大企業からスタートアップへ循環する仕組みづくり
NTT西日本のビジネスデザイン部に所属し、
新規事業の創出、特にスタートアップ企業との連携を推し進めている。

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