思いついたら、とにかくやってから考える。
コワーキングスペースで提供したい価値とは。

「とにかく自分で体験しないと判断できない」と話し、思い立ったら即行動されている田中さん。様々な経験をする中で見えてきた接客という軸から、それをコワーキングスペースとして形にするまでにはどんな背景があったのか。今後はどのような接客の姿を目指していくのか、お話を伺いました。

田中 慎也

たなか しんや|コワーキングスペースオーナー
名古屋にて最大のコワーキングスペースMY CAFEを3店舗運営する。

MY CAFE

続けられる仕事


昔から、考えているだけではなく、
自分でやってみないと、何事も本質的には理解できないタイプでした。

高校生の頃は、将来なりたいものが分からず、
学生の間にしかできないと、様々な職をアルバイトを通じて経験しましたね。
それこそ20以上のバイトをしましたが、
徐々に、すぐに行きたくなくなる仕事と、そうは思わない仕事があることに気付いていきました。

その結果、居酒屋のホール、アパレル、ガソリンスタンドなど、
「接客」であれば続けても良いと思えたんですよね。

そこで接客の最高峰、かつ一番大変だと考えていたホテルで最初に働けば、
他の接客をしたいと思った時の力になると思い、
高校卒業後はホテルマンになるための専門学校に通うことにしました。

専門学校では、半分座学で資格の勉強、半分実習でホテルの実務を行い、
2年で卒業し、そのまま実習をしていたホテルに就職しました。
ただ、就職してもそれまでとやる仕事は変わらず、労働時間に対して給料も安く、
同じことの繰り返しであることに、半年ほどで嫌気が差してきました。

そんな時、知り合いから居酒屋の立ち上げに誘ってもらい、
次の「接客」に進むため、ホテルを辞めることにしました。

店舗を借りるための賃貸契約


その居酒屋は、名古屋郊外の更地を買い取り、お店を建てる時から手伝いました。
人気チェーン店の展開だったので、オープンしてすぐに大ヒットして、
たくさんのお客さんに来てもらうことができたんです。

ただ、オープンの準備は念入りに行い、マニュアル等も完備したのですが、
やはり現実はうまくいかないことが多く、改めて何事もやってみないと分からないと思いましたね。

オープン前後に半年間ずつ計1年ほど働き、
将来は自分でも店を出したいと思い、この居酒屋は辞めることにしました。

ただ、自分で店を持つといても、土地を買い、物件を建てるお金はなかったので、
テナント契約するしかないと考え、不動産の借り方を調べるために本屋に行きました。

すると、本に書いてある「賃貸契約書」が難しすぎて全く読めなかったんです。
それならとりあえず不動産屋で働けば嫌でも覚えるだろうと思い、
不動産会社で営業として働くことにしました。

実際に働き始めると、不動産の営業はとても厳しかったですが、色々と学べましたね。

不動産を持つオーナーさんと、借り手である客さんの間に板挟みになるような仕事なので、
互いの主張や要望をどうやって折り合いをつけていくのか、営業力を実践で学ぶことができました。
また、完全に実力主義で、実績を出すかどうかが全ての世界だったので、
月毎に社内での力関係も一気に変わってしまうので、緊張感を持ちながら仕事ができたんです。

自分次第では最悪な状況になってしまう一方、
自分の力で逆転ができるという考え方が身体に染み付きましたね。

カフェ仕事の不便さ


ところが、結婚して子どももでき、生活にかかるお金も増えていくと、
開業資金はあまり貯まりませんでした。
しかも仕事が忙しすぎて、自分の事業の計画をする時間が全く取れなくなってしまったんです。

不動産営業として時間を使って稼げる働き方に限界を感じ、
より時間単価が高い職を探していたところ、
たまたま霊柩車の運転手の仕事を見つけたので、転職することにしました。

そして、昼は霊柩車の運転をしながら、
空いている時間はカフェ等でひたすら飲食店を開業するための事業計画を作っていました。

しかし、考えれば考える程、居酒屋は少し違うかもしれないと思うようになっていったんです。
接客は好きでしたが、
料理を作れるわけじゃないし、仕入先のつながりがあるわけではない。
そこまで大きな資金があるわけでもなく、しかも外食産業は少しずつ衰退していて、
家族がいる身としては、リスクが高すぎると思ったんですよね。

これは「やばいかな」と感じながら計画を立てていると、
ある時、自分自身が作業をしているカフェで感じる不便を解決したら、ビジネスになるんじゃないかと思ようになったんです。

基本的にカフェで事業計画づくりをしていたのですが、「小さな困ること」がたくさんあったんですよね。
電源やネットワークは貸してもらえないところあるし、
プリンターもなく、トイレに行くときはパソコンを置いたままにするのは不安なこともありました。

かといって、オフィスを借りるのにはお金がかかってしまうし、
漫画喫茶だと誘惑に負けてしまう。
他の選択がないからカフェで仕事をしていたのですが、
ふと周りを見回すと、同じようにパソコンで何かの作業をしている人が沢山いたんです。

きっとみんな同じ悩みを抱えているはずだと確信し、
電源と無線LANがあり、シンプルに個人が作業できるカフェとして、
MY CAFEを始めることにしたんです。

オンラインゲームみたい


オープンしたての頃は、営業には自身があったので、
来てくれたお客さんと話して会員さんを増やすのは、
そこまで難しくないと思っていたのですが、甘かったですね。
不動産の時と違い、認知度も高くないので、
お客さんは自然に足を運んでくれるなんてことはなかったんです。

しかもビラ配りをしようにも、ずっとお店にいなければいけなかったので無理でした。
少ないながらも会員さんがいたので、いつ来るか分からないし、
人を雇えるわけでもなく、朝から晩まで毎日受け付けに張り付きで、外なんか行けないんですよ。

銀行に行く時間もなくネットバンキングで決済をしていて
1クリックでお金が減っていくのはオンラインゲームのようでしたが、
どんどんお金がなくなっていく恐怖はすごかったですね。
不動産で働いているときも辛かったですが、
辛さの質がまったく違い、かなり精神的にはきつかったですね。

そんな調子で最初はなかなか会員様も増えませんでしたが、
来てくれた方と話す時間は多かったので、そこからの口コミや、イベント開催などをしてもらえるようになり、
少しずつ利用者が増えていくようになりました。
また、「コワーキングスペース」という東京で流行り始めていた名前を知り、
「名古屋初のコワーキングスペース」とSNSで発信することで、
IT界隈の人にも少しずつ認知されるようになりました。

自分たちがコワーキングする


そんなこんなでオープンしてから半年後に会員様100人突破してからは、
本店の2階増設や、駅に近い新規店舗のオープンなど、
会員様からの希望を聞きながら、少しずつ大きくなり、開業3年を迎えることができました。

その間には、批判も含めて色々言われることがあり、
本当に自分はこの仕事を続けるべきなのか、悩んだ時期もありました。

しかし、MY CAFEを通じて出会った会員様同士が新しいことを一緒に始めている姿を見て、
「この場がなければ、生まれてなかったことなんだ」
と、場を作る意味を改めて感じることができ、続けようと思えましたね。

これからは、今までお世話になった利用者様の価値になることを、
より増やしていきたいと考えています。
会員様は本当に面白い人が多いのに、まだまだ世の中に知られていないんですよね。
だから、僕がスピーカーとなり、より多くの人に彼らを知ってもらえるような活動に力を入れていきたいんです。

たとえば利用者様ネットワークを作ったり、紹介メディアを作りたいと考えています。
また、その価値を最大化するには、
MY CAFEだけでやるよりも、全国にある既存のコワーキングスペースと一緒にやったほうが早いと考えています。

ただ、協力するにはお互いが店舗として利益も出さなければ実現しないので、
自分たちの成功ノウハウ・考え方をオープンソース化して使える部分は利用してもらい、
コワーキングスペース全体を盛り上げつつ、横のつながりを作っていきたいと考えています。

まずはコワーキングスペースのオーナー同士がコワーキングして、場の価値を高めていく。
さらにその先はそれぞれのコワーキングスペースを利用してくださる、
個人で頑張っている人の支援を全国の店舗で包括的にできるようにする。
そうすることで、利用者様同士の出会いも加速され、よりお互いの強みを活かしあったビジネスが生まれると思うんです。

そうやって、コワーキングスペースの利用者さんに接客をしながら、
お互いに共存していければいいと思います。

2014.09.02

田中 慎也

たなか しんや|コワーキングスペースオーナー
名古屋にて最大のコワーキングスペースMY CAFEを3店舗運営する。

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