僕らの未来を僕らが決める仕組みを!
ジャーナリストとして伝える「生きること」

ジャーナリストとして「住民投票・国民投票」という直接民主主義を専門に取り扱っているという大芝さん。政治に関する仕組みを通じて伝えていきたい思いの根源には、非常にシンプルなテーマがありました。

大芝 健太郎

おおしば けんたろう|生きることを追及するジャーナリスト
ジャーナリストとして「住民投票・国民投票」という直接民主主義を専門に取扱い、
海外や過去の日本の事例を調査し、自分たちの未来を自分で決める仕組み浸透させるために活動している。

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理不尽な教育への違和感


幼い頃から、よく両親にキャンプに連れて行ってもらっていました。キャンプに行き、自然の中で少ない資産を使って生活をする、という体験を通じて、人間は食べ物さえあれば生きていける、ということに気付いたんです。「人間って強いんだな」と幼いながらに思いましたね。

また小さい頃は、本当は目立ちたがり屋だけど、ミスを恐れて引っ込み思案になってしまうような性格でした。

例えば、勇気を出して学級委員などに立候補をしてみるのですが、恥ずかしがり屋なので、きちんと喋れずに見事に落選してしまう、といったイタイ子どもでしたね。

そして高校に進学すると、入学式や部活紹介で見た応援部の姿に憧れを抱きました。目立ちたがり屋な自分にとって、先輩のカッコいいパフォーマンスが魅力的だったんです。「僕もあんな先輩みたいになりたい!」とすぐに心を決め入部したのですが、やはり目立つだけに周りからの期待も高く、練習も熾烈を極めました。それでも色々な所に出向いて、本気で頑張る仲間たちを応援するというのはとても気持ちがよく、やりがいを感じました。

ところが、部活の中には、時代錯誤のような伝統を重んじる風潮があり、まるで恐怖政治の様な度が過ぎた上下関係が存在していて、理不尽な指導も沢山行われていたんです。その点にはもの凄く違和感がありましたね。

また、進学校に通っていたのですが、正直あまり勉強についていけていなかったため、大学には行きたくないと思っていました。そんな背景から、卒業後は進学せずに自転車で旅に出ることにしたんです。

約3か月間の旅の中では、様々な場面で沢山の素敵な方にお世話になりました。また、色々な方に今後の進路について相談をする中で、ある時「大学は勉強をする場所ではない」という言葉を頂いたんです。勉強をしたくないと思っていたので、その言葉を聞いたときに「じゃあ、大学に行こうかな」と思い、次第に大学を目指すようになっていきました。応援部の時の教育体制への違和感と、旅の中でお世話になった方などの色々な世の中の素晴らしいものを、下の世代の子ども達にも伝えたいという思いから、教育学部に進学することにしました。

教員を諦め、伝える仕事へ


大学に入学すると、高校の時のサボり癖の影響から、毎日同じキャンパスでただ講義を受けるということは、あまりしたくありませんでした。そこで、小学校の修学旅行やキャンプの引率などの課外活動に参加し、公欠などを利用していかに効率的に講義を休むか、をいつも考えていました。

そんな大学生活を通じて、なんとか無事に教員免許を取得することができたのですが、教育実習に行った際に、放浪癖があり飽き性の自分には、毎日同じ学校で授業をするという仕事は、性格的に向いてないと感じたんです。教育も子どもも好きでしたが、そんな理由から教師になることは諦めることにしました。

「じゃあどんな仕事をしていこう?」と考えた時、自分の好きな旅をしながら、教育に興味を持った原点の一つでもある、「素晴らしいものを人に伝えていくこと」をしようと思いついたんです。

その後、何を伝えていこうかを改めて考えている中で、幼いころに感じた「食べ物さえあれば生きていける」という感覚を思い出しました。そこで、人が生きる上で最低限必要である食べ物を生み出している「農業」という産業について、個人で調査をして伝えていくことにしました。

食べ物さえあれば生きていける


実際に農業について調べていくと、日本の食糧自給率が低いことが目に付き、ベトナムやカナダなど、日本より食料自給率が高い国でどんな農業が行われているのか、現地へ見に行くことにしたんです。

実際に足を運んでみると、中には販売を目的とせずに、自分たちのコミュニティだけで完結する農業を行っている方もいて、その人たちの、時間的にも精神的にも余裕を持った生活がとても衝撃的でした。

改めて「農業とは生きる根幹なのだ」ということに気付き、また同時に「生きることってシンプルなんだ」とも思いましたね。

一方で、日本の食糧自給率が低いということは、生きるために最低限必要な食べ物を自分の国で賄うことができていない、ということにも気付きました。

そんな背景から、食糧の重要性と食糧自給率が低いことの危険性を伝えたいと思い、47都道府県を1か月ごとに周り、滞在期間中は現地の都道府県の食材だけを食べて生活をしていく、という旅を企画し、2011年の4月から始めようと準備をしていました。しかし、その一か月前の2011年3月に東日本大震災が起こってしまったんです。

世論を国に反映する仕組み作りを


震災により原発事故が起こったことで、僕の問題意識は農業から原発へと移っていきました。なぜなら、人の「生きること」を支える、食べ物を供給するための農業という仕組みが、原発の事故によって壊されてしまうと感じたからです。

シンプルに「生きる」ということが脅かされることがすごく嫌だったんですよね。「原発がある限り、安心して農業をしてもらえない」

そう思った僕は、原発について自分で知り、人々に伝えていきたいと思い、被災地のボランティアに参加したり、デモに参加したり、時には電力会社に直接「原発を使わないでくれ」と抗議をしに行ったりもしました。

でも、そうやって動いてみて思ったのは「このままでは何も変わらない」ということでした。世論では、原発の反対が圧倒的に多いはずなのに、政治家の方は原発推進派の方がほとんどで、世論が政治に反映されていない、ということを強く感じたんです。だから、このままいくら「脱・原発」の世論を高めてもダメだと思ったんですよね。

そんな背景から、もっと世論を政治に反映する仕組み作りをしなければならない、と思っていた時に、東京都で「原発都民投票」という運動が行われることを知ったんです。これは、東京都が原発の電気を使うか否か、という議題について都民が直接投票をして決める「住民投票・国民投票」という直接民主主義の手法の一つでした。

「住民投票」を実施するためには、一定人数の署名が必要なのですが、「この手法なら、世論を政治に反映させることができるかもしれない!」と感じた僕は、実際にその署名活動に加わったり、実施のための準備を手伝ったりすることにしました。

その後、署名は集まったものの、議会で「原発都民投票」の実施は否決され、実現には至りませんでしたが、この仕組みは原発問題以外でもとても有効だと感じ、一人でも多くの人に浸透させていきたいと思いました。

未来を僕らのものに


現在は、ジャーナリストとして「住民投票・国民投票」をテーマについて実際に過去の日本の事例や海外の事例を集めて、雑誌に寄稿をしたり講演を行ったりと、人々にこの仕組みの重要性を伝える活動をしています。

今の日本には、国民が政治に関わる方法は選挙しかありません。もちろん、それも政治に関わる上では重要な手段ですが、原発問題やケースから、人に投票するだけの選挙だけでは、本当の意味で世論を政治に反映することは難しいと感じています。

だからこそ「住民投票・国民投票」という直接民主主義の手法を浸透させて、世論を政治に反映させる仕組み作りをしていきたいと思っています。

ただ、僕は全ての議題を「住民投票・で国民投票」にかけたい、と思っているわけではありません。日本の集団的自衛権や、海外の同性愛問題など、人の生き方や倫理に関わる重要な問題については、自分たちで決められる仕組みを浸透させたい、と思っているだけなんです。

僕は「住民投票・国民投票」を広めていくことで、一人一人が議題について、自ら情報を選別し、人と議論を交わしながら、自分の未来を自分で決めることができる、というような素敵な世界になっていくと信じています。

今後はそのために、イギリスから独立するか否か、という議題で住民投票が開催されようとしているスコットランドへ出向き、事例を調査しに行きます。そうやって様々な事例を集めて、メッセージを伝え、人々に火をつけることで、シンプルに「生きる」ということに、もっと関心を持ってもらいたいと思っています。僕らの未来を僕らが決められるような世の中を作っていきたいですね。

2014.07.23

大芝 健太郎

おおしば けんたろう|生きることを追及するジャーナリスト
ジャーナリストとして「住民投票・国民投票」という直接民主主義を専門に取扱い、
海外や過去の日本の事例を調査し、自分たちの未来を自分で決める仕組み浸透させるために活動している。

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