中小企業のバックオフィス業務を支援する!私にとって、魂を込められる起業という生き方。
創業したての会社や、中小企業向けのバックオフィス支援サービス「Bizer」を提供する畠山さん。中小企業向けの課題解決サービスが少ないことへの使命感を感じる畠山さんですが、起業するきっかけは、意外なものでした。大学時代に熱中した水上スキーのように、魂が燃えるような生き方を選んできた畠山さんにお話を伺いました。
畠山 友一
はたけやま ゆういち|スモールビジネス向け、クラウド型バックオフィスサービスの運営
月額2980円でスモールビジネス向け、クラウド型バックオフィスサービス「Bizer」を運営する株式会社ビズグラウンドの代表取締役を務める。
Bizer
人生で一番大変だった、水上スキー部での生活
私は東京で生まれました。比較的身体が大きく運動は得意で、中学・高校ではバスケットボールに励みました。ただ、高校最後の試合では、相手チームに身長190cmを超える選手が2人もいて、いとも簡単に私のシュートはブロックされてしまい、バスケで上を目指すのは無理だと感じてしまいました。
そのため、大学では別のことを始めようと、軽い気持ちで水上スキー部の新入生歓迎会に行きました。そこでは、突然「日本一になりたくないか?」と聞かれました。最初は何を言っているのかと思ったけど、よくよく聞くと水上スキーはそもそも競技人口が少なく、大学選手権に出る学校も少ないので日本一は十分に狙えることが分かりました。また、ほとんどの人は大学から始める初心者なので、同じレベルからの一斉スタートなら、現実的に上を目指せると思ったんです。
そして、水上スキー部に入り、部活中心の大学生活が始まりました。授業には年に数えるくらいしか行かず、毎日部活と部費を稼ぐためのアルバイトだけをする生活で、移動中の電車でも軸足の左足だけで立ったり、バイト中も筋トレをする程でした。練習はもちろん、上下関係も厳しく、さらに結果へのプレッシャーは常にあり、精神的に辛いと感じることは多くかなり鍛えられました。
4年の夏の大学選手権に標準を合わせていたので、就職活動もとにかく早く終わらせようと、一番早く内定が出た、大企業のグループ会社であるシステムエンジニアリングの会社に決めました。
そして臨んだ最後の大会では、競技インカレ記録を更新して日本一になることができました。
会社の中で見えてしまった将来像と、自分への焦り
卒業後はプログラマーとして働き始めました。残業も多いし、拘束時間は長い仕事でしたが、部活よりも大変なことはこの世にないと思っていたので、全く苦ではありませんでした。
ただ、部活引退以降は燃え尽き、緊張の糸が切れてしまったような状態だったので、仕事が楽しいとかつまらないとか、そういう感情が湧きすらしない状況でした。
しかし、次第に会社の中での自分の将来像がなんとなく見えてくると、このままでいいのかと考えるようになっていきました。また、広告代理店や総合商社で働く部活の友達から話を聞くと、自分とは全く違い雲の上のような世界に感じられ、自分はもぐらのように、一生陽の目が当たらないのではないかと、焦りも感じるようになっていったんです。
そして、このままではまずいと、会社を辞めることにしました。将来やりたいことも、次の職も決まっていませんでしたが、部活の経験から、「やり続けたら結果になる」と自信はあったのか、不安はなかったですね。
その後、とにかく営業力を磨こうとリクルートに入ることにしました。中でも面談で「一番きつくて成長できる」と言われた、FNX(現在は株式会社ネクスウェイに分社独立)というFAXの一斉配信などの情報通信事業を行う部署に配属されました。
中小企業の支援市場への関心と、着火するための転職
初めての営業は、名刺交換もよく分からないし、近くの客先に行くのにタクシーを呼んでしまう程、非常識な状態から始まりました。目標達成率も4%からのスタートでしたが、新しいことへの挑戦なので、前向きに取り組んでいきました。
また、すぐに事業部を分社化するプロジェクトに入ることになり、会社名やビジョン、就業規則など、会社を作るプロセスに携われるのは面白かったですね。そして、私はそのまま分社化したネクスウェイに移りました。
新しい会社でも引き続き営業を担当し、中小企業のお客さんと話をしていくと、次第に、「中小企業の支援」領域は市場として面白いと感じるようになりました。BtoBのサービスは、大口顧客になりやすい大企業向けにサービスを作るのが主流なので、中小企業向けのソリューションは少なかったんです。そのため、中小企業には情報も回ってこず、非効率な作業をしている部分も少なくない。これには業界構造としての抜本的な問題を感じ、この領域での支援をする使命感のようなものを感じるようになっていったんです。
だからこそ、自社サービスが役に立ち、お客さん企業に喜ばれている話を聞けると、我ながら「良いサービスを提供している会社だ」と思えることもあり、やりがいを感じていました。一営業マンから始め、リーダー職、マネージャー職、顧客管理システムプロジェクトの責任者等、7年以上働き様々な職種を経験していきました。
ところが、次第に自分の成長に頭打感を感じるようになりました。後輩の著しい成長と比較して、仕事をルーティンのようにこなしている自分は、そこまで全力でコミットできないし、会社の成長にも寄与できていない。言ってしまえば、自家発電することができなくなってしまったんです。
そのため、自分の心に強引に火をつけるために、転職することに決めました、年齢も30歳を超え、ベンチャー企業に転職するなら最後のチャンスだと、ゲーム会社のGREE(グリー)の広告事業の海外進出の部署に入ることにしました。
事業プランもない中での、起業という選択
GREEでは最初は広告営業から始め、海外進出支援事業に関わるようになり、1年程で、広告事業を扱う子会社の社長となりました。すると、他の会社の社長と接するが機会が増えていきました。
社長たちと話すと、決まって事業やお客さんの話になるのですが、魂を込めて事業を行い、それを熱を持って語るんですよね。一方、自分は社長と言っても、会社の中での「1つのポジション」でしかなく、同じような熱は持てなかったのが正直なところでした。
「自分の事業をやっている」感覚のある社長たちの姿に、次第に惹かれるようになっていきました。逆に、自分自身、事業に魂を注げないことへの違和感は日に日に強くなっていきました。
そこで、会社の組織再編のタイミングで退職することに決めました。
ちょうど子どもが小学校に上がる前の最後の年だったので、キャンピングカーを買って1年位は日本中を旅しようと考えていました。その先のことはあまり考えていませんでしたが、今までの実績もあるし、働く場所はあるだろうと。
そんな時、知人の紹介で起業を支援している投資家と食事に行く機会がありました。そこでは、今までやってきたことや、中小企業の支援に関心があることを話していると、「もし事業をやるなら、出資するよ」と言ってもらえたんです。
それまで、起業したいと口では言ったことはありましたが、本気ではありませんでした。しかし、その食事の最後には、「ぜひやりましょう」と握手してしまったし、これはチャンスだと思ったので、日本一周の予定を変更して、会社を立ち上げることにしました。その時までは起業なんて選択肢にはなく、まさにタイミングだったんです。
実際に会社を立ち上げて感じた不便さを解決するサービス
事業内容は決まっていないものの、中小企業のバックオフィス支援をするという使命感は感じていました。そこで、会社名を「ビジネス(bissuness)」の「土台(ground)」になる意味を込めて、「BizGround(ビズグラウンド)」と名付けました。
そしてまずは、税理士や行政書士に頼まずに自分で会社設立の手続きをしてみると、意外に簡単にできたものの、名前や会社名などを複数の箇所に書く必要があることが、非常に面倒だと感じたんです。そこで、一箇所に入力したものを複数の箇所で出力できるように、会社設立に関する文書を自動生成するサービスを作ることを決めました。
さらに、自分がやろうとしている領域が税理士業務と被ることが分かったので、税理士の仕事がどんなものか体験するため、顧問契約をしてみることにしました。すると、確かに不明点をすぐに質問できて安心できる一面があると同時に、自分の様な小規模な状態では、会計ソフトの入力は自分でできるし、経営相談的なプロフェッショナルな相談はまだ必要がないことが分かってきました。
しかし、顧問料金は色々な要望も含めて月額3万円等、立ち上げたばかりの企業には厳しい金額。そこで、起業したばかりの小規模事業者が、顧問契約内容の中の「相談」のみを、手頃な価格で利用できるサービスを作ろうと思って始めたのが「Bizer(バイザー)」です。
バックオフィス業務の概念を変えていく
Bizerでは、月額2980円で税理士や行政書士などの士業の方に気軽に相談できます。他にも、会社設立の書類の一括作成、総務や経理などの日常業務で発生するバックオフィス業務の簡略化、役所提出書類の作成など、日々機能が追加されていっています。
特に、新しく会社を設立しようとしている人や、社員数20人以下くらいの中小企業にお役に立てるような機能から始めています。
個人的には、起業する人が増えて欲しいという気持ちもあります。私自身、独立したことで事業に対して魂を込められている感覚があるし、全てのことがやらされ仕事ではなく、前向きにできるようになりました。全ての人が起業という選択肢が合うとは思いませんが、ビジネスの経験をしっかりと積んできた人が起業しやすい環境を整えていけたらと思います。
ただ、「起業しようとしている人」がどこにいるのか分からないので、地道に接点を作っています。WEBの動画授業で起業に関する放送をしたり、起業に興味のある人や起業支援をしている人とお会いして、地道にBizerの認知を広げています。また、士(サムライ)業に関わることなので、イベント等は侍の格好で出て広報活動もしています。
現在は年間10万社の会社が設立されているので、まずはその1割の人がBizerを使ってくれることを目標にしています。
ただ、将来的には起業する人や中小起業だけでなく、あらゆる企業が「バックオフィス業務について考えることがなくなる」ようなサービスにしたいと考えています。バックオフィス業務は面倒なことが多く、色々考えながらやらなければならないのですが、何も思考しなくても気づいたら業務が完了している、そんなサービスにしたいんです。そうなると、バックオフィス業務の概念が今とは変わっているかもしれませんし、社員は事業拡大の業務に、より多くの力を注げるようになると考えています。
私は今まで、「どの土俵で戦うか」を無意識に考えて選択してきました。バスケットボールではなく、水上スキー。大企業本体ではなく、グループ会社。リクルートに残るのではなく、分社したネクスウェイ。結果的に、それぞれの環境で上を目指すことが、自分には合っていたと思います。
そして今後も、企業のバックオフィス業界と言うマニアックな土俵で、ナンバーワンを目指して魂を燃やしていきます。
2015.03.18