医者として、世界中の子どもを幸せにしたい。
人と違う自分を肯定し、強みにできる場作りを。
自分の経験を還元し、世界中の子どもたちを幸せにしたいと医者を目指した古東さん。日本で小児科医となる傍ら、ライフワークとして海外の子どものためになる活動をしようと、教育や健康について学んでいました。目標に向かってストイックに取り組んでいた古東さんでしたが、思いが強いゆえに無理を重ね、体を壊してしまいます。辛い時期を経て古東さんが見出した、目標を実現するための方法とは?お話を伺いました。
古東 麻悠
小児科医
順天堂大学医学部卒業後、同大学病院で初期研修修了。国立国際医療研究センター小児科レジデント。NPO法人Ubdobeのデジリハプロジェクトや、途上国の起業家の元へ高校生を派遣するNPO法人very50のプロジェクトに携わるなど、病院外でも積極的に活動する。
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自分だけではできないことがある
大学では、世界中の子どもたちを幸せにしたいと、医者になるための勉強もプライベートでの活動も全力で取り組みました。これまでやりたいと思ったことは、自力で頑張ってできるようになってきたので、何でもやればできるとストイックに取り組みましたね。
ただ、完璧を求めすぎて、だんだんと自分がコントロールできなくなっていきました。気がつくと強迫神経症と摂食障害になってしまったんです。ほとんど死にかけのような、辛い状態でした。無理して続けた結果、意識を失い実習中に倒れてしまいました。
目覚めたとき、周囲のたくさんの人たちに助けられていました。人を救いたくて頑張っていたのに、なんで人に救われようとしているんだろう。そう感じて、いくら自分に厳しくして頑張っても、無理をしたら本末転倒だと気がつきました。
そこから、パチンとスイッチが切り替わるみたいに、考え方が変わりました。誰かを幸せにしようと思ったら、まず自分が笑えて、楽しくないとダメなんだと思うようになったんです。完璧でないといけないという思いがなくなり、体も休めることができて、心身ともに生き返った気がしました。
病気が快方に向かうと、一人ではなく人と一緒に何かをしたいと思うようになりました。なんでも一人でできると思っていたけど、それには限界がありました。それに、一人で考えるよりもいろいろな専門性を持った人が集まった方が面白いアイディアが出るし、楽しいはずだと思ったんです。だから、人を信用して、人と一緒にやることで目標を実現していこう、と思うようになりました。
人と一緒に、楽しくやる
無事に初期研修医の期間を終了し、発展途上国の医療に関われる、国際協力が盛んな病院の小児科で働けることになりました。学生時代に発展途上国で働く医者に憧れていたので嬉しかったです。
現場で医者としてさまざまな患者さんと関わる一方、積極的に病院の外の人にも会いました。自分のやりたいことを話していると、知り合った人からさまざまな活動に誘われるようになったんです。
例えば、子どものリハビリにデジタルアートを活用する活動です。辛くて苦しいリハビリの時間を、デジタルアートとの組み合わせで楽しい時間に変えることができました。他にも、イベントのキッズスペースの運営に関わり、親を待つ間に退屈しなくて済むようにしたり、高校生が発展途上国でビジネスの構築に挑戦するプログラムに携わり、メディカルアドバイザーとして健康を管理したりしました。
どの活動でも子どもたちと関わり、様々な立場から少しでもハッピーになるように働きかけることができたんです。これまでは一人で頑張って目標を達成してきたけれど、今回は人との出会いの中で自然と、思いが叶っていく感覚がありました。人と一緒に何かをやることが、楽しいと思えるようになりましたね。
活動は、自分がやっていて楽しいことを重視しました。これまではスキルアップや厳しさが大事だと思っていたのですが、シンプルに「やるなら楽しい方がいいじゃん」と考えられるようになったんです。加えて、やってみてうまくいかないことは、向いていないんだと良い意味で諦められるようになり、苦しさがなくなりました。
人との違いを肯定できる場づくりを
現在は、世界中の子どもたちを幸せにしたいという思いの実現に向け、医者の仕事とライフワークの両面から取り組んでいます。
医者としては、国際協力に特化した国立国際医療研究センターで、日々多くの子どもたちと向き合っています。現在の医局長が小児血液腫瘍の専門家なので、世界の血液腫瘍の子どもの生存率を上げるプロジェクトにも携わりました。
小児がんの国際医療カンファレンスにも参加しました。様々な国の医者や医学生と、環境の制限がある中でどうやって途上国の子どもを治療するか話し合ったんです。活発に議論して互いをわかり合うことで、国際医療が変わっていくのを実感できました。文化も習慣も違う医者同士が協力していった先に、子どもたちがよりハッピーになる未来があると思っています。
今後は、子どもの自己肯定感を高める場づくりに取り組みたいです。多くの子どもを診る中で、病気の自分を肯定することで、前向きに治療に取り組めると気が付きました。
特に病気の子は、1年間学校に行けなかったり、治療で髪の毛が抜けてしまったりという体験を通して、自己肯定感が低くなりがちです。みんなができることができなかったり、あるはずのものを手に入れられなかったりすると、「人と違う自分」が受け入れられなくなってしまいます。そうすると、物事を前向きに捉えられなくなり、良い体験をしてもうれしいと思えなくなってしまうのです。
子どもたちが自己肯定感を高めるためには、人との違いを認めて、それが自分の強みや特徴だと思える心理状態を作ることが大事だと思いました。そのために、特定の人と一対一で話すよりも、さまざまな人と関わり、遊べる場づくりに可能性を感じています。
思い描いているのは、違いを強みに感じられるような場ですね。学校のようにみんなと同じことをするのではなく、一人でいたかったら一人で遊んでいいし、寝たい子がいたら寝てもいい。悲しいときは、我慢せず悲しいって言っていいんです。ただその中で、人と関わり合って、自分の特徴や強みを伸ばせたら良いなと思います。
これからも世界中の子どものために活動を続け、仲間と一緒に楽しく、やりたいことを実現していきたいです。
2019.05.08