素材と真摯に向き合い、価値を生み出す!渋谷で食べられる出来たてのチーズ。
渋谷で出来たてのチーズを製造・販売する「CHEESE STAND」を経営する藤川さん。小さい頃から料理人の道に興味を持つものの、大学時代は料理はほとんど忘れてラグビーに打ち込んでいたとか。そんな藤川さんが料理を思い出すきっかけはどんなものだったのか?お話を伺いました。
藤川 真至
ふじかわ しんじ|作りたてのチーズを提供する飲食店の経営
渋谷で作りたてのチーズを提供する「CHEESE STAND」を経営する。
ラグビーに打ち込む大学生活
私は岐阜県で生まれました。小さい頃から自主的に家の料理の手伝いをすることが多く、料理を作るのが好きになっていき、高校生になると、調理学校に進むのか、それとも大学に進学するのか悩む程でした。
しかし、進学校に通っていたので周りは大学に進学するし、本気で料理を学びたいのであれば、夜間に専門学校に行くことも可能だと思ったので、大学に進学することに決めたんです。そしてイタリア料理が好きだったので、大阪外国語大学(現:大阪大学)のイタリア語専攻に進みました。
大学ではイタリアンレストランでアルバイトをしつつ、ラグビー部に所属することにしました。高校時代は部活に入っていなかったので、甲子園を目指して部活に打ち込む友達を見て「目標に向かうってカッコいいな」と感じていて、大学では何かに打ち込みたいと思ったんです。
体育会なので非常に厳しい環境ではありましたが、礼儀や所作なども学べたし、責任感があってどんどん部活にのめり込んでいきましたね。ただ、レストランバイトとの並立は難しく1年目にはアルバイトも変え、大学生活も楽しかったので、次第に料理は忘れるようになっていきました。
早朝から筋トレも兼ねて魚市場のアルバイトで力仕事をしてから学校に行き、授業と部活に出る毎日で、1年の時には必修科目を落として留年してしまいました。料理人になるという逃げ道があったため、勉強は疎かにしていたんです。
ただ、卒業後は部活の先輩たちのように、企業に就職するだろうと考えていました。そして司馬遼太郎の小説が好きだったので、自分も幕末に生きた偉人たちのように、人のためになる仕事、価値を生み出せる仕事がしたいと思うようになっていきました。
世界には自分で道を切り拓いている人がいた
大学最後の年は、卒業論文以外の単位は取り終えていたので授業に出る必要はなかったので、1年間休学して1人旅で世界を回ることにしました。語学の大学だったので周りに留学している人も多くて、私も純粋に異文化・世界を見てみたかったし、社会人になったら長期旅行はできないと思っていたので、今のうちに多くの国を回っておこうと思ったんです。
そして大阪から船で上海に渡って旅を始め、ルートは決めずその時々で次に行く場所を決め、モンゴル、ロシア、ヨーロッパと、次々に回って行きました。
行く先々では、「新しい事業を立ち上げる」と言っているウクライナ人や、「発展途上国で日本語学校を作る」と情熱に燃える日本人など、自分で道を切り拓いている人たちとの多くの出会いがありました。一方で、将来は何となく新聞記者になりたい、音楽が好きだから音楽編集をしたいなどと考えている自分自身に対しては、モヤモヤした感覚がありましたね。
また、フランスでは星付きのレストランで働いている日本人と会う機会がありました。その人が現地で修行している姿がとてもカッコ良かったし、家に行くと本棚に『イタリアに行ってコックになる』と題する本があり、イタリアのレストランで修行している多くの日本人の取材記事が書かれていました。
これを見て、「自分は一体何をしてるんだろう?」と感じてしまったんです。料理人になるのが自分の夢じゃなかったのかと、ふと思い出したんですよね。
やっぱり自分のお店を持ちたい
そしてスペインやモロッコを経てイタリアのナポリに行くと、ピッツァ屋で働く2人の日本人に出会いました。ナポリに着いて初日の夜、彼らと話しているとワクワクが止まらなくなってしまい、その日は夜も眠れない程の高揚感がありました。
そして、やっぱり料理の仕事をしたい、イタリアにいるなら本場のイタリア料理を学びたいと思い、日本ではまだあまり知られていなかった「ナポリピッツァ」のお店で見習いとして修行する生活を始めたんです。しかし、大して料理はできなかった上にピッツァを作ったのは初めてだったので、最初は上手く作れず、悔しくて毎晩練習しました。
また、近郊のチーズ工房で作業を見学させてもらい、作りたてのチーズを食べさせてもらうと、「これがチーズなのか」とジューシーさや美味しさに驚き、いつか自分でも作りたいと思うようになりました。
3ヶ月程ナポリピッツァ屋で修行した後は、北イタリアの酪農家に住み込み、チーズを作ったり、鶏や豚をさばいたり、薪割りをしたりする生活を3週間程送りました。
そして、将来は自分でナポリピッツァのお店を出したいと考えるようになっていましたが、一旦冷静になって考えようと思い、旅を予定より早く切り上げて日本に帰ることにしたんです。実家に戻り親と相談したり、全国を巡ってピッツァ屋を食べ歩いたり、友人や先輩に相談したりと、2ヵ月程考えていきました。
そして悩んだ結果、将来は自分のお店を持つことを決め、飲食業界に進むことにしたんです。本当にお店を持てるのか、持てたとして何歳まで働けるのか、不安はありました。ただ、失敗しても再挑戦できる年齢だし、とにかくやってみようと思ったんです。
そして、すぐに名古屋にあったナポリピッツァのお店で働き始めました。
価値を提供するためのお店とは
このお店では、料理の基礎を全般に身につけることができました。また、新規店舗立ち上げや、経営セミナーに参加させてもらうことで店舗運営のことも学べたし、食材のおいしさや安全に対する考え方など、食への向き合い方も学ぶことができましたね。
ただ、4年程働いたタイミングで、大学時代からの疲労の蓄積があったのか、身体を壊して入院することになってしまったんです。そして休んでいる期間中に改めて将来のことを考えると、もっと経営の勉強をした方がいいと感じるようになり、他店舗展開を視野に入れたお店で働きたいと思うようになりました。
そこで、優秀な経営者が新規でオープンするドーナツ店に転職を決め、東京に上京して、マネージャーとして店舗経営に携わるようになりました。ゼロからブランドを作ることや、テンプレートやフォーマットといったものはなく自分で仕組みを作り上げていくこと、目標に対して売上をどう積み重ねていくかなど、試行錯誤の繰り返しでしたね。
ただ、ドーナツ店で働く一方、自分のお店のコンセプトは考え続けていて、当初は自分の好きなナポリピッツァのお店を出したいと思っていました。しかし、元々、「人の生活に価値を提供できるような飲食業で起業しよう、会社を作ろう」と考えていたので、よりその思いを実現できる食材やコンセプトはないか、模索するようになっていきました。
そこで行き着いたのが、「チーズ」だったんです。チーズはずっと作りたいとは思っていて、大学の卒業論文も「イタリアのモッツァレラ」をテーマにして調べました。またイタリアでは作りたてのフレッシュチーズが街で食べられたけど、日本では牧場に行かないと本当に新鮮なチーズを食べられないことにギャップがあるのではと思っていました。
そこで、思い切ってチーズに絞ったお店を出すことに決めたんです。「街に出来たてのチーズを」というコンセプトで、東京のど真ん中で作りたてのチーズを食べられる店を作ろうと。
チーズを使って価値を届けたい
そして、2012年、渋谷に「CHEESE STAND」をオープンしました。
都会のど真ん中で作りたてのチーズを提供するため工房も併設していて、東京の牧場から毎朝届く牛乳を使い、4時頃からチーズを作り始め11時頃には練りたてのチーズを提供しています。現在はモッツァレラ、リコッタなど4種類のフレッシュチーズの他に、熟成チーズも作っています。
レストランもあり、その場でチーズを食べてくれた人が、「これがチーズなんだ」と驚いてくれる表情を見られると嬉しいですね。牧場に行かなければ食べられなかったフレッシュさを、渋谷という大都会の中心から多くの人に食べていただけるのは本望です。
そして今後もチーズを軸に様々な展開をしたいと考えています。工房をもっと大きくしたり、チーズを使った焼き窯のあるレストランを作ったり、アイディアはたくさんあります。
チーズは素材なので、いくらでも組み合わせる可能性があるんですよね。また、チーズは「楽しさ」という一面も持っているので、チーズ作りの体験教室などもやっていて、多くの人にその楽しさも伝えていけたらと思っています。
これからも、このチーズという素材に真摯に向き合って、多くの人に新しい価値を届けていきたいです。
2015.04.03