自分らしく生きるための情報と選択肢を。 女性、フリーランスの活躍の場を広げる。

フリーランス女性と企業とのマッチングサービスを運営する株式会社Warisの共同代表を務める田中さん。新卒で出版社に入り、様々な働く女性に話を聞く中で出てきたのは、働き方や生き方に対する切実な悩みや不安でした。それを解決するために、田中さんがとった行動とは。そして目指す未来とは?お話を伺います。

田中 美和

たなか みわ|株式会社Waris共同代表
1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。雑誌「日経ウーマン」を担当し、3万人以上の働く女性の声を聞く。2012年に退職し、フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとして活動。2013年、人材エージェント株式会社Warisを創業。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の立ち上げに参加し、理事も務める。

困っている人を助けたい


千葉県習志野市で生まれました。父が読書家だったので家にはたくさんの本があり、休日はよく本屋さんに連れて行ってもらいました。父が本を見ている間、妹と一緒に子ども向けの本のコーナーで遊んでいました。父が本を買うときは私たちも買ってもらえるので、いろいろな本を眺めては選ぶのが楽しみで。外で遊ぶよりも、家で読書して過ごすのが好きでした。

親の勧めで中学受験をし、都内の中高一貫の女子校へ進学。

カトリックの学校だったこともあり、先生方からはよく「社会のためにどう貢献するかが大事」という話を聞いていました。私自身はキリスト教徒ではありませんでしたが、あなたを愛するように隣の人のことも愛しなさい、という隣人愛の精神に、自然と影響を受けましたね。

そんな中で、そのころ国連でご活躍されていた緒方貞子さんという女性を知り、すごく憧れました。シンプルに、困っている人を助ける姿が素敵だなと思ったのです。国際機関で働きたいと思い、国際政治を学ぼうと都内の私立大学に進学しました。

情報で行動するきっかけを作りたい


大学1年の時、友人の誘いで大手の通信社でアルバイトをはじめました。様々なニュースを配信する会社です。日々いろいろな情報が入ってくる現場で、それを編集して伝える重みを感じましたね。すごく当たり前なんですけど、やっぱり情報はすごく大事なんだと実感したんです。

情報がないと、自分の感覚だけで判断したり行動したりするのは難しい。それぞれが判断し行動できるようにするための情報を伝えるのがメディアの役割なんだとわかりました。そうだとしたら、誰かがアクションを起こす時のきっかけになる情報をお伝えする立場になれたら素敵だなと。メディアで働きたいと思うようになりました。

そんな中で就職活動が始まり、ゼミの先輩などをOGOB訪問しました。ある大手人材会社の先輩に話を聞きに行ったときのこと。その先輩はキャリアにまつわる雑誌を作っていて「人生の選択を支援することができてすごくやりがいがある」とおっしゃっていて。それがとても印象的で、誰かのきっかけになる仕事をしたいという想いがさらに深まったんです。

メディアの中でも雑誌や書籍が好きだったので出版社を受けて、内定をいただくことができました。

働く女性の抱えるモヤモヤ


入社後は、雑誌『日経ウーマン』の編集部に配属されました。その頃、働く女性向けのメディアはほとんどなくて。自分より少し年上の女性の生き方や働き方がたくさん詰まっている雑誌ということで、私も憧れを胸に時々手に取っていました。入社試験でも日経ウーマンを担当したいと話していたので、希望が通って嬉しかったです。

様々な働く女性を取材しました。経営者、管理職、女優やモデルに政治家…あらゆる職業のお話を聞きましたね。その中でも特に印象的だったのが読者取材でした。誌面作りに活かすために、実際に日経ウーマンを購読してくださっている読者の方々の声を聞く取材です。

お話を伺うのは著名な方ばかりではなく、会社員として営業や事務などで働いている女性の方々。これから結婚や出産などのライフイベントを迎える2、30代で、キャリアとライフの両立ってできるのかな?キャリアを諦めなきゃいけないのかな?と迷って悩んでいる方が多かったです。それは、私自身の姿でもありました。彼女たちの悩みは私自身のモヤモヤでもあったのです。

雑誌では、女性たちの悩みに対していろいろな提案をしていました。「ライフとワークの両立をどうしたらいいんでしょう?」というお悩みに対して、ワーキングマザーの方を取材して実際の声をお伝えしたり、時間管理の専門家の方にタイムマネジメントの仕方をお聞きして紹介したり。

ただ、ノウハウをお伝えしても、実際やるかやらないかはその方次第。記事で伝えるだけではなく、もう少し直接的な課題の解決方法があるんじゃないのかな?あるとしたらやってみたいなと思いました。

そこでキャリアカウンセリングに興味を持ち、勉強してキャリアカウンセラーの資格を取得。キャリアを体系的に学ぶ中で、より一層女性が生き生き働き続けるためのサポートがしたいなと思うようになっていきましたね。

そんなとき、東日本大震災が発生。私は関東圏にいて直接大きな被災を体験した訳ではありませんでしたが、一度立ち止まって自分の人生を考える機会になりました。自分の人生は当たり前に続いていくと思っていましたが、そんなことはない。やりたいことをやれるうちに実現しないと、後悔してしまうと思いました。後悔のないように生きよう、と決めたんです。

翌年、女性が生き生き働き続けられる社会をつくることを目標に、会社員をやめ、フリーランスになりました。

フリーランスという働き方


メディア業界にはフリーランスの人が多く、私にとっては憧れがありました。カメラマンさんやライターさん、デザイナーさんなど、それまで出会ってきた先輩フリーランスの方々は、自分のスキルをベースにして自立的に生きている方が多かったからです。憧れと同時に身近な存在でもあり、フリーになることに抵抗感はありませんでした。

これまで培ってきた編集、ライティングのスキルを生かして働きました。時間と場所の自由度が高く、専門性を生かせるフリーランスという働き方は、すごく自分に合っていると感じましたね。

加えて、せっかく取ったキャリアカウンセリングの資格を活かして活動したいと考え、周囲の人にそれを伝えていたんです。すると、フリーのキャリアカウンセラーに仕事を紹介する会社の社長さんと繋いでいただき、そのご縁から仕事をいただけるようになりました。例えば大学や企業でのキャリアカウンセリングや、採用面接のお手伝いです。

そうやって働いてみて初めて、人事や採用の領域でもフリーランスとして活動している方がいると知ったんです。これまで知っていたフリーランスはクリエイターが多かったけれど、人事や採用、PRや営業など、ビジネススキルを生かしたフリーランスの働き方もありなんだと気がつきました。

だったら、フリーランスになりたい女性はもっとたくさんいるんじゃないか。働く場所や時間の自由度が上がることでハッピーになる女性は多いんじゃないか。フリーランスという働き方を広めたいという気持ちが芽生えました。

ビジコンを経て起業


やりたいことをいろいろな人に話していたところ、「同じようなことを言ってる人がいるよ」と数人から紹介を受けました。一人は大手情報サービス会社を経てフリーランスで働いている女性、もう一人は人材紹介会社で働いていて、女性が差別的な扱いを受けていることに課題感を持っている女性です。3人で集まり、何か一緒にできたらいいねと話すように。

ある方から「話しているだけだとそれで終わっちゃうよ。具体化するためにビジネスコンテストに応募するといいよ」と助言を受け、ビジネスコンテストに出るべく事業を考えていきました。

考えたのは、フリーランスの女性と企業とのビジネスマッチング。対象とする職種は、経営企画、マーケティング、広報、人事、経理・財務などの事務系総合職に絞りました。社会的意義や市場規模、将来性、競合との差別化ポイントなどを数字と言葉で説明しないといけないので、数カ月間3人で集まってはミーティングを重ねました。

それでも、出場した結果、小さな賞をいただくことができたんです。さらに、選考の過程で審査員の方からも「すごく良いビジネスアイデアだね」とお言葉をいただいて。そのことが自信になりました。

「このまま終わらせちゃうの勿体無いね」「じゃあ、会社作っちゃう?」

そんな勢いのまま、3人で共同創業したんです。2013年4月のことでした。経営者になるという気負いはなかったですね。経営は、最初は誰もがみんな初心者。「誰のなんの課題を解決したいか」という想いがブレなければ、後からいくらでも学べますし、助けてくれる人もいます。創業期から積極的にビジネスコンテストやアクセラレーションプログラムに応募するようにしていまして、なかにはメンタリングを受けられる特典があり、私たちはいろいろな方に話を聞いていただく機会を得ることもできました。

私たちの考えたマッチングビジネスはユーザーがいなければ始まりません。創業期は広告を出すお金もないので、私たちの友達、友達の友達に声をかけて登録してもらっていました。企業様に関しても、これまでのつながりを駆使して経営者や人事担当者の方に会いに行って、少しずつ少しずつご利用者の方を増やしていきました。

マッチングが起きるまでは時間がかかるので、その間は創業メンバーがそれぞれ仕事をして、自分たち自身が動いて稼いでいましたね。そんな時期を超え、1年が経つとユーザーが増えていき、事業として成立するようになりました。登録者の女性から「Warisに出会えてよかった」「Warisがあったから人生変わりました」というお声をいただけるようになり、「サービスを立ち上げてよかった」と心から感じました。

自分らしく生きる選択肢を


今は、引き続き株式会社Warisの共同代表を務めています。全体の経営の他、いまは女性役員や役員候補の方を企業にご紹介するWarisエグゼクティブの事業責任者も担っています。

いま、経営の意思決定の場にも女性が求められています。東京証券取引所が上場企業に対して定めるルールでも、意思決定層に多様性を持たせることが推奨されています。さらに今後の改定で、最上位市場に上場し続けるためには社外取締役を全体の3分の1以上にするというルールが追加されるので、社外取締役に女性をと考える企業も増えました。

ただ、役員経験や経営経験のある女性とどうやって出会ったらいいかわからない。そんなお悩みに応えるべく、経営経験や高い専門性を有する女性たちに登録いただき、マッチングするサービスになっています。

現状の女性役員の比率は、東証一部上場企業でも8・7%。1割にも満たないんです。やっぱり人口に対して、明らかにジェンダーによる偏りがありますよね。それでは女性の力を活かせていないことにもなり、勿体無い。多くの女性を意思決定層にご紹介することで、社会全体の活性化に貢献できればと思っています。

加えて、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会でも理事として、運営に携わっています。これは、独立して活動するプロフェッショナルや、企業に属しながら独自のキャリアを築くパラレルワーカーの有志が主体となって設立された、フリーランスによるフリーランスのための非営利団体。今は有料会員が約9000人、無料会員も合わせると5万5000人以上となり、フリーランス団体としては日本でも最大規模だと思います。私はフリーランスの働き方を広めるべく立ち上げから携わり、現在も関わっています。

やっているのは、会員の方の声を集めた調査。報酬トラブルやパワハラなど、定性・定量の調査データを発信していくことで、フリーランス、パラレルワーカーの方々の悩みや現状を政府や関連省庁の方々にお伝えしています。

コロナ禍になり、フリーランスや個人事業主の中には急に仕事がなくなり、生活が困窮する方も少なくありませんでした。そこで協会では、会員様にアンケートを実施して声を集め、政策提言をしたんです。実際にその声をベースに政策を組み立ててくださった側面もあり、政府が動いて早期の給付金の交付につながりました。

そのほかにも、フリーランスの方が働きやすくなるための保険や福利厚生の提供や、コロナ関連の政府支援策をわかりやすくお伝えする情報提供なども行なっています。

Warisでの活動も、協会での活動も、個人で行なっている執筆などの発信も、独立した時から変わらず、一人ひとりがもっと自分らしく、生き生き働き続けられる社会づくりのために行なっています。

特に女性は、全体の中でリーダーが圧倒的に少ないなど、まだまだキャリアを選べるようで選べない現状があります。リーダーとしての能力にジェンダー差がないことは研究でも明らかにされているので、リーダーになるという選択肢を広げられるようにしたいですね。

フリーランスも、特別な人だけがなる職業ではなくなっているとはいえ、労働人口に対してまだ7%程度。みんながフリーランスになればいいと思っている訳ではないですが、人生100年時代と言われる中で楽しく働き続けるためには、自分の状況に合わせてフリーランスという選択肢を選べることは、重要だと思うのです。

私にも娘が生まれ、3歳になりました。やっぱり娘が大きくなった時、ワクワク楽しく生きて働ける社会であってほしいと思います。そのためにできること、選択肢を増やす取り組みを、様々な角度から今後も続けていきたいです。

2021.11.25

インタビュー・ライティング | 粟村 千愛
ライフストーリーをさがす
fbtw

お気に入りを利用するにはログインしてください

another life.にログイン(無料)すると、お気に入りの記事を保存して、マイページからいつでも見ることができます。

※携帯電話キャリアのアドレスの場合メールが届かない場合がございます

感想メッセージはanother life.編集部で確認いたします。掲載者の方に内容をお伝えする場合もございます。誹謗中傷や営業、勧誘、個人への問い合わせ等はお送りいたしませんのでご了承ください。また、返信をお約束するものでもございません。

共感や応援の気持ちをSNSでシェアしませんか?