「これでいいのだ」精神でチャレンジを。 中山間部と都市部を“マコモ”でつなぐ。

神社のしめ縄などに使われる日本古来の植物「マコモ」を休耕田で栽培し、お茶や枕を作って販売する千手さん。健康に良いマコモの魅力を広めると同時に、中山間部の課題や現状を伝えたいと話します。50代になって改めて生き方を考えたという千手さんが、このプロジェクトに取り組む想いとは。お話を伺いました。

千手 えり子

せんじゅ えりこ|まこもプロジェクト代表
山口県下関市育ち。大阪にある服飾の短期大学を卒業後、衣料メーカーにて勤務。その後Uターンし、下関市の青年会議所で働く。仏教や神道に関心をもち、坐禅に通ったり謝仏講座を主宰するなど活動。植物について興味をもち調べる中で、愛飲していたマコモ茶に可能性を感じ、広島県でまこもプロジェクトを立ち上げ。全国日本道連盟師範、英国ICGT/日本JCHIクリスタルヒーリング協会認定クリスタルヒーラー。

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休耕田をまこも栽培で活用する 新しい参加型社会貢献プロジェクト
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※この記事は、広島県の提供でお送りしました。

お寺での不思議な体験


福岡県北九州市で生まれ、3歳から山口県下関市で育ちました。女の子らしい遊びにあまり興味がなく、弟と一緒に「天才バカボン」のアニメをみたり「おそ松くん」の漫画を読んだりするのが好きでした。

活発な性格で、リーダーシップをとってみんなで何かするのも好きでしたね。小学4年生の夏休みのある日、山で水晶が取れるという話を聞いたんです。そこで、「水晶をとりに行こう」と同級生を7、8人引き連れて、近くの山に出かけました。

最初はよかったものの、山に分け入るうちに帰り道がわからなくなり、迷ってしまったんです。植物採集に行くと親に嘘をついて出てきていたので、大人に見つけてもらうのも難しいだろうと思いました。そのうちに日は暮れて、帰れなくなって、みんな泣いてしまってね。

それでもなんとか自力で山を降りようと歩いていると、目の前にお寺が現れたんです。お寺があるということは、街の近くまで降りてこられたということ。お堂の中では、たくさんの観音様が金色に輝いていました。それを見たときに、「ああ、降りられた」と安心したんです。時刻は夜の9時を回っていて、探してくれていた親たちにはひどく叱られました。やらかしてしまったと、とても反省しましたね。

あのお寺のことが気になって、のちに友達と見に行ってみました。しかし、そこにあったのは単なるねずみ色の石の観音様だったんです。あの日見たものはなんだったんだろう、と不思議に思いました。それから、お寺や仏教に関心を持つようになりましたね。

地元の中学、高校に通い、ファッションが好きだったので服飾関係の仕事につきたいと思いました。そこで専門科のある大阪の短大へ。希望が叶って、衣料メーカーに就職できました。

やりたいことを仕事にできたものの、そこで作るのは市場に求められている服ばかり。作りたいものを作れるわけではなく、私としては面白味がないなと感じました。自分でデザインして作る仕事がしたかったんです。そこで仕事をやめ、一度地元に戻ることにしました。

ちょうど近所のおじさんが選挙に出るというので手伝いをすることに。仕事ぶりがよかったのか、選挙が終わると地元の青年会議所の仕事を紹介されました。そこで働くことになり、地元企業の2代目ら130名ほどが所属している組織を切り盛りしました。

やがてそこで出会った男性経営者と結婚、3人の子供に恵まれました。

宇宙発の御音を観ずる


子どもたちも大きくなってきたある日、禅に行く機会があり、初めて坐禅を組みました。「今から何も考えないで3分間、無になりなさい」と言われ座ってみたのですが、全く無になれないんです。悩みごとや、今日食べるもの、これから会う人のこと…。いろんなことをぐるぐる思考してしまって、30秒も保ちませんでした。自分のことはコントロールできると思っていたのに、実はできていないことに気がついたんです。

座ったときに心が落ち着いて、無になれるってどういうことなんだろう。私も思考に囚われるのではなく、静かな状態になりたい。興味を持って、そこから坐禅しにお寺に通うようになりました。

そんな中で、尊敬する師から、「宇宙発の御音(みおと)を観(かん)ずれば、あの手この手は自然に出てくる」というお言葉をいただいたんです。宇宙発の御音とは、まだ言葉になっていない音のこと。これを観ずる、つまり俯瞰してみることができれば、全てのことに意味がある。そんな意味だと解釈しました。

仕事に挫折したり災害にあったり、人間関係に悩んだり、人生にはいろんなことが起きます。でも人生を大きく見て、そこにも意味があると捉えられれば、苦しいことや辛いこと、なんともならないことも受け止めていけるのではないか。そう考えると、マイナスなんて何もないなと思えたんです。

実は、そのころ結婚生活に悩んでいました。離婚もマイナスなことではないと思えるようになり、子どもたちが自立したこともあって、離婚を決意したんです。50歳をすぎた頃のことでした。

植物の言い分を聞きたい


離婚し、改めて生き方を考えるようになりました。半世紀を生きてきて、ここから10年、20年をどう使うか考えると、やっぱり自分の興味関心があることじゃないと情熱を傾けられないなと思ったんです。情熱がもてて、相手や社会がより良くなるようなことをしたい、と。

そんなことを考える中で興味や関心が向かった先が、植物でした。生活する中で、植物ってすごいと感じていたんですよね。例えば、セイタカアワダチソウは、雑草として扱われ毛嫌いされることが多い植物です。でも調べてみると実は、毒素を吸って外に出し、汚れた場所でも生息できる能力があるのです。だからこそ、土や空気の汚染が進んだ高度経済成長とともに広がっていったのでした。

全てのことに意味があるのだから、植物がそこに存在することにも理由があるはず。植物の側に立って、物言わぬ植物の言い分がわかるようになりたい。そう思い、自然と植物について学ぶようになりました。

55歳になったとき、ある男性と出会い、横浜についてきてほしいと言われました。見知らぬ土地で暮らすことは私にとって大きなチャレンジ。でも、やってみようと思い、彼と一緒に横浜に引っ越しました。

横浜では興味がある分野の仕事をしたいなと探していたところ、統合医療の研究所に出会いました。その研究所では、生活習慣や食生活、環境を変えることで自然治癒を目指す指導をしており、そこに大きく関わっていたのが植物の力だったんです。応募したところ、研究者の先生のスケジュール管理や、事務補佐として働けることになりました。

研究所には私が持っていないような専門書がたくさんあったので、それを読んで知識を蓄積。コラムなども書き、植物の役割について外部向けに発信していました。

面白おかしく、「これでいいのだ」


一方、暮らしの中では、都市部の駅のゴミが気になりはじめました。別にゴミがあっても死ぬわけじゃないですが、なければスッキリしてより良い気持ちになるだろうなと。

横浜に引っ越してからも禅には通っており、神道にも関心が出て禊にも挑戦していました。冷たい水に入ると、自分自身が清められたようなスッキリした感覚と、達成感があるんです。そういう感覚が好きだったので、ゴミ拾いも禊に似て感じられたのかもしれません。

仲間内で声をかけ、4と8がつく日に新橋や渋谷、新宿などでゴミ拾いを始めることにしました。例えば新橋のSL広場には立ち飲みをする人が多く、タバコの吸い殻や空き缶が散乱していました。それを片付けようと思ったのです。

スッキリしたいという自己満足な理由ではじめましたが、ゴミを拾っているうちに、お酒を飲んでいる人たちが疲弊しきっていることに気が付きました。近くに居酒屋があるのに入らず、コンビニのビールを買って外で飲んでいる人たちは、疲労を抱えながら仕事を頑張っていて、ちょっとの間でも飲んで心を晴らしているんだと感じたのです。だったらゴミくらい私たちが拾おうと思いました。

加えて、そんな人たちが少しでも面白くなるように、何かできないかと思うように。ささやかですが、ゴミ拾いをしたみんなでおそ松くんの漫画の「しぇー」のポーズをして写真を撮るようになりました。子どものころ読んでいたおそ松くんや天才バカボンを書いた赤塚不二夫さんは本当にすごいと思い、尊敬していたんです。

特に感銘を受けたのが、天才バカボンの歌の歌詞です。バカボンのパパは、「西から昇ったお日様が東に沈む」と歌うんですよね。普通、お日様は東から昇って西に沈むでしょ。でも、西から昇って東に沈むと言い、「これでいいのだ」と歌うんです。世間の常識と違うことや、人がダメっていうことも、「これでいいのだ」と全肯定しているように感じたのです。

子どもの頃はわからなかったけれど、バカボンのパパはすごいな、いいなと思いました。働く人々が疲れ切っているというのは深刻な社会問題かもしれないけれど、だからこそ面白おかしくみんなで何かできればいいなと感じました。

マコモの持つ可能性


しばらく横浜で過ごした後、一緒に暮らす男性の退職を機に、彼の故郷である広島に住むことになりました。新しい環境で何をしようか考えていたとき、ふと普段飲んでいるお茶が気になったのです。

知り合った方から教えていただいて、私は「マコモ茶」を愛飲していました。マコモは古くから出雲大社など大きな格のある神社のしめ縄として使われており、神の宿る草とも呼ばれている植物。お茶にすると、スッキリして飲みやすいんです。禊をしなくても、体のなかを綺麗にしてくれるデトックス効果があるんですよね。長年飲んでいる中で、便秘にならなかったり、風邪を引いた時に熱が下がりやすくなったりと、私自身効果を実感していました。

あまり知られていないけれど、マコモは日本に古くからあるすごい植物。この良さを広めたいと思い、マコモ茶のお茶会を始めることにしました。

徐々に仲間が増えていく中で、マコモはもっと役に立つのでは、と考えるように。数年前の広島の豪雨災害が記憶に残っており、マコモを休耕田で栽培することで山崩れを防げないかと思ったのです。

田んぼは「田んぼダム」という言葉もあるくらい、保水力が高い場所。これまで山崩れを防げていたのには、田んぼの存在も大きいはずでした。しかし中山間部では休耕田が増えています。それによって保水力がおち、山崩れが発生しやすくなっているのではないかと考えました。

マコモはイネ科の植物なので、コメと同じように田んぼで栽培でき、コメよりも手間がかかりません。お茶会をしているメンバーでマコモ栽培から担えば、田んぼの保水力をあげ、里山の山崩れを防止できるのではないかと思ったのです。

そんなことを考えていて、お茶会中にふと「マコモを休耕田で栽培したらいいと思うんだよね」と呟きました。すると、メンバーの中から「じゃあうちの田んぼで作りたい」という方が現れたんです。全く予想もしていなかったものの、中山間部の休耕田でのマコモ栽培が始まりました。

私が住んでいたのは、広島市内のどちらかといえば町中に当たる地域です。そこから車で1時間ほどかけて、中山間地域にある田んぼに通い、マコモを育てました。やっている中で、農家のお母さんと親しくなり、地域の方とも交流するように。その中で、たくさんの気づきがありました。

イノシシや鹿の被害がひどいこと。天候に左右される中で苦労して農作物を作っていること。高齢者が多くなり畑や田んぼを続けるのが難しくなっていること。そんなリアルな現実を体感することで、市場に並んでいる作物の背景を知ることの大切さを実感したんです。

関東に住んでいた時は、オーガニックマーケットで野菜を買うこともありました。でもそれはおしゃれな風潮に乗っているだけで、里山の現状や生産者の方々の実情など、背景を感じられていた訳ではなかったんです。ファッションではなく、もっと愛が欲しいなと感じました。

そこで、栽培したマコモを商品にすることにしたんです。いわゆる六次化ですが、商品作りを手がける私たちは生産者というより街中の消費者の視点を強く持っています。町から中山間地域に入り、消費者の目線を入れてものを作る。それによって、中山間部と都市部を繋いでいこうと考えました。

里山の現状伝え本当のエシカル消費を


今は、日本古来の歴史や文化が詰まった植物、マコモの栽培・加工・販売を通し、広島の街中と中山間部をつなぐ「まこもプロジェクト」を推進しています。

作っている商品は、マコモ茶、マコモの枕、入浴剤、アイピローなどです。百貨店やインターネットで販売するほか、ファンコミュニティを作り、その会員へのリターンとしてお送りしています。

マコモを作っているのは県内5箇所の休耕田。ファンコミュニティの中の2割くらいの方が入れ替わりながら、マコモの刈り取りやお茶にするための乾燥など、田んぼに入って作業しています。

育てるうちに、マコモは水を浄化する作用が強いということもわかってきました。荒らしに来るイノシシの獣臭い匂いが強く、コメを育てられなかった田んぼでマコモを作ったら、匂いがすっかり消えて綺麗な水質になり、天然記念物のモリアオガエルが卵を産みに来るようになりました。また、なぜかイノシシが荒らしに来ないんです。これもマコモの持つ力なのか、観察しているところです。

まこもプロジェクトを始めたことで、里山のおかげで私たちが自然の恵みをいただいていることがよくわかるようになりました。だからこのプロジェクトを通して、中山間部の実情を都市部の方々に伝えていきたいと思っています。里山のリアルを感じ、商品の背景や奥行きを見た上で商品を選ぶことが、本当のエシカル消費だと思うんですね。

課題はあるけれど、面白おかしくの精神を忘れずに、マコモを通して中山間部と都市部を繋ぐこの取り組みを全国に広げていければと思います。

2021.11.08

インタビュー・ライティング | 粟村千愛
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