憧れていたSFの世界を実現したい。 リアルとデジタルを融合させ、その先へ。

NRIデジタル株式会社で、オンラインとオフラインを融合させた新しい体験づくりに取り組む萩村さん。その原点にあるのは、子どもの頃に見ていたSF漫画やアニメへの憧れでした。憧れを原動力に、実現したい世界とは。

萩村 卓也

はぎむら たくや|NRIデジタル株式会社
1987年奈良県奈良市生まれ。神戸大学大学院 システム情報学研究科計算科学専攻。2012年株式会社野村総合研究所入社。社内にて有志団体「Arumon」を立ち上げ。大企業の若手中堅社員の実践コミュニティONE JAPANメンバー。2019年NRIデジタル株式会社へ出向。エンジニアとして、OMO領域に幅広く携わっている。

可能性を秘めたSFの世界


奈良県奈良市で生まれました。家族は祖父母と両親、兄。父親がジャンプ、サンデー、マガジンといった少年漫画を買っていたので、毎週それらを全部読んでいましたね。漫画やアニメが好きだったんです。

中学生になると、兄の影響でSFのアニメにハマりました。二足歩行のロボットが出てくるような作品です。それから、専属のメガネをかけると拡張現実(AR)の世界が現れるアニメにも惹かれました。

SFが面白いのは、そこにちゃんと法則が存在しているところです。どんなにぶっ飛んだ設定でも、あくまでサイエンスなので、決まった法則に従って描かれている。例えば、ある戦闘ロボットが脚の下部に内蔵された銃を手に取るとき、設計上腕の長さが足りないので、ちゃんと腕を伸ばす機構が描かれていたり。道理の通っているサイエンスフィクションは、ファンタジーよりも現実になりそうな可能性を感じたんです。見たことのない世界観は、僕をワクワクさせてくれました。

中学校は、国立の中高一貫校へ。中学校に入っても塾には行かず、近所の寺子屋のような学習教室に通っていました。客間のような部屋に机を並べて、数人で自主学習する教室です。高校3年生になり、周囲が学習塾に通い出しても、僕は一人その教室で勉強を続けました。
大学での進路を選ぶにあたり、「ここで選んだものが、将来の自分の道になっていくんだ」と漠然と考えました。しかも大学の学科は文系、理系だけではない。選択肢がいきなり増えた気がして、すごく迷いが生じましたね。しかし、一人で勉強していたので周りに進路相談をする機会はなくて。自然と自分一人で何とかしようと思うようになったんです。

そんなとき、たまたま本屋でSFの漫画を立ち読みしていて、ピンときたんです。その作品はITを題材にしたSF漫画でした。ちょうどデジタルやインターネット全盛期で、いろんなSF作品にITが描かれ始めたときだったんです。何気なく手に取った漫画でしたが、それを読んだとき「これからはこういう時代だよな」と思いました。機械ではなく、情報技術が主流になっていくんじゃないかと。パソコンを操る主人公を見て、こんなことができたらかっこいいなという憧れもありました。

高校で理系の勉強をしてきたこと、ずっと好きだったSFの世界、そして「デジタルやテクノロジーが世の中を変えるんだ」という想い。それらが全部繋がって、情報工学の道に進むことに決めました。

そこから、趣味で楽しんでいたSF作品への見方も変わりましたね。例えばAIが登場するアニメ作品では「現実にああいうAIがいたらどうなるんだろう?」と考えたり、ストーリーにあまり関係ないシステムにも「これってすごく画期的じゃない?」と感動したり。次第に作品を見る側から、つくる側の視点に立つようになっていったんです。

スタート地点をどこにするか


大学では、情報工学の勉強を一生懸命やりました。特にプログラムを書くなど、自分の手を動かしてつくる課題は、しっかり取り組みましたね。一方、部活はボート部に所属。体育会系の部活なので、練習はきつかったです。朝4時に起きて練習に行き、夜は練習を終えてからプログラムを書き、10時に布団に入る生活。3キロくらいあるノートパソコンを担いで、クラブハウスと大学の教室を行き来していました。

ハードな日々でしたが、ボート部の活動に没頭できたのは、仲間に恵まれたからです。同じことに悩み、ともにチャレンジできた仲間は、僕にとって「真に同じ釜の飯を食った仲」。結果はどうであれ、そこに至る過程を一緒に味わったメンバーは、本当の仲間だと感じました。仲間の存在があれば、大変なことも頑張れるし、自分を鼓舞することもできる。そういう存在が、僕にはとても大事でした。

大学で4年過ごした後、情報工学をさらに極めるため、大学院へ進むことを決めました。大学院では、自分で研究テーマを見つけ、その課題の解決策を考えて、実験していく必要があります。「自分でテーマを見つける」ということを初めてやって、その大変さを実感しました。

ITやデジタルという手段によって、SF世界のように世の中を変えていきたい、という想いは以前からありました。でも「スタート地点をどこにするか?」を考えたことがなかったんです。

結果として僕が大学院で取り組んだのは、AIを活用したテーマ。AIに医療系の論文を読み込ませ、膨大な論文データから関連する情報を探し出し、新たな解決策を提案させるというものでした。

ただ、自分の中での本当の「スタート地点」はまだ定められなかったんです。SFの世界を実現したいという想いはあっても、その広い世界観に「どこからどうやって」到達するかは決められていませんでした。そこで、自分のスタート地点を探すためにも、幅広い分野に携われる、ITに強い企業に就職しようと考えました。そして入社したのが、野村総合研究所です。

やっぱりものをつくるのが好き


入社後は、千人規模、一万人規模の人数が関わるようなシステムを構築するプロジェクトに関わることになり、忙しい毎日でした。大きなプロジェクトのマネージャーになり大人数をまとめ上げて、システム障害なく安定的に運営していける人が、会社でのいわゆるエースだったんです。自分も、その道を歩むのだろうと日々を過ごすようになっていましたね。SFの世界を実現したいという熱意は、次第に失われていきました。

そんなあるとき、同僚に誘われて、会社主催のハッカソンに参加することになったんです。ハッカソンとは、エンジニアやデザイナーらが集まり、テーマに沿って短期間でサービスを開発するイベント。そのときのテーマは「IoT×マネー」でした。そこで僕たちのチームは、買い物をして溜まったポイントで株を購入し、その株を運用してまたポイントに還元できるというサービスを発表。評価されて、入賞もしました。

久しぶりに手を動かしてものをつくった時間は、自分にその楽しさを思い出させてくれましたね。5人のチームでワイワイ言いながら作業するのは楽しく、何より想像していたものが実物になって動く瞬間が、すごく面白い。チームで役割分担してつくったシステムが繋がって、提供したかった価値が形になった瞬間、アドレナリンがめちゃくちゃ出るんです。

自分でものをつくり、それを誰かに使ってもらって、世の中に貢献する。「こういうことがやっぱり好きだな」と、思い出しました。自分はマネージャーになりたいわけじゃないんだ、と。

空振りばかりの新規事業立ち上げ


ハッカソンをきっかけに、ものづくりへの情熱を取り戻した僕は、同じようにものづくりへの想いを持つ仲間と「Arumon(アルモン)」という有志団体を立ち上げました。会社発のハッカソンなどを企画し、新規の立ち上げや色々なアプリ開発をするようになりました。

そんな活動は社内で認められ、上層部も応援してくれるように。そして、団体を立ち上げて2年目、会社からArumonでやっているような新規立ち上げを、2年間専任でやってみなさい」と言われたんです。マネージャーになるという会社の王道からは外れますが、「やってみたい」と答えました。

そこから、僕を含めた3人のメンバーで、新規事業立ち上げに必死に取り組みました。自分達でサービスを企画し、プログラムをつくって、お客さんのところへ持って行く。しかし、やってもやっても、空振りに終わったんです。

「世の中こんなに上手くいかないのか」と思いました。すごくつらかったですね。本来なら、巻き込む人達に丁寧に説明をして、納得してもらって動かなければいけないのに、それができていなかった。自分達は正しいと思っているから、その正しさを主張することしかできなかったんです。「世の中こうなるのに、分かってないな」と、人のせいにしていたところもありました。社内起業ということもあって、考えが甘かったですね。

しかし会社からは、失敗した経験を糧に新会社へ出向するよう言われました。デジタル領域を担うNRIデジタルという会社です。2年間の失敗でモチベーションが下がっていたので、環境が変わっても、これ以上良くも悪くもならないだろうという気持ちで移籍しました。

NRIデジタルでは、最初はデジタルマーケティングに関わりました。主にデータを扱うような仕事です。そのとき所属したチームのリーダーが、不動産業界の案件を担当している方でした。仕事を手伝う中で、不動産というリアルな空間とデジタルとを掛け合わせるサービスに取り組むようになったんです。

例えば紙のスタンプラリーを、QRコードを使ってデジタル化する。ただスタンプを集める場所を紙からウェブにするだけではなく、参加者が書店を周って美術館へ来たなどの動線が、データで見えるようになります。参加者が何に興味を持ってスタンプラリーに参加しているかが分かるんです。書店や美術館というリアルな空間と、デジタルのデータを融合させることで、より魅力的な街づくりに繋がるサービスでした。

ちょうどIoTの技術がどんどん発展していく時期で、展示会などでもリアルとデジタルを繋ぐ、IoTの技術を目にする機会が増えていました。その技術を目の当たりにしたときに「そうそう。これだよ、これ」と思いましたね。技術が発達して、バーチャルで起きたことがリアルにも影響を与えるような、昔憧れていた世界が本当に実現できる気がしたんです。Arumonにも、VRやARに関心のあるメンバーがいて、「一緒に何かやりたいね」と盛り上がって。学生のときに憧れていた世界と、自分のいる場所が、また繋がり出しました。

仲間と共に、憧れの世界を実現する


今は、NRIデジタルで、リアルとデジタルを融合したOMO(Online Merges with Offline)領域のマーケティングに関わっています。IoTの技術を活用したサービス、体験の設計などが主な仕事。不動産業界のお客様と一緒に、街で展開するデジタルのサービスを考えています。現段階では、さまざまな実証実験をやりながら、どう実現していくかの検討に取り組んでいるところです。

主業務以外では、Arumonの活動も続けていて、NRIが主催するハッカソンの企画・運営に携わっています。また、大企業の若手中堅社員の実践コミュニティONE JAPANにも参加していて、こちらでもハッカソンの運営や、デジタル周りのサポートをしていますね。

あらゆる活動のベースにあるのは、「リアルとデジタルを融合した次の世界をつくりたい」という想いです。そのために2021年9月にリリースしたのが、「OMO OnBoard」というサービス。これは、店内に設置した機器で顧客の行動を分析し、リアルタイムなアクションを提供するものです。例えば、顧客が見ている棚の内容に応じて、その後配信するクーポンの中身を変えるなど、リアルな体験とデジタルを融合させることができるのです。

今はサービスをリリースしたばかりですが、まずはこのサービスを、もっと世の中に浸透させていきたいですね。これだけで世の中が変わるとは思いませんが、少なくとも使ってくださった方の買い物体験や、イベントでの体験を変えていくことができると思っています。

リアルとデジタルを融合することで、最終的に何を提供していくか。今は一生懸命考えながら取り組んでいる最中なので、その世界観を明確に言葉にはできていないんです。ただ、体験してくれた方が気持ちよく生活できる状態は目指していますね。すべてデジタル化すればいいのではなくて、リアルとデジタルのちょうどいい融合のバランスは人によって異なると思います。そこはグラデーションにして、柔軟に対応できるといいなと考えています。

昔SFで描かれていた、ロボットが接客したり、部屋でAIと会話したりする未来が、今少しずつ実現している気がします。SFの世界観と現実との間にあるものを、一つずつ埋めていけば、最終的に何か新しい世界ができるかもしれない。

それは壮大な取り組みだし、とても長い道のりになるでしょう。だから、きっと一人でやるものではないとも思っているんです。目指す世界を実現するためにも、共感してくれる仲間を増やしたいですね。ArumonやONE JAPANの活動も、共感し、応援してくれる仲間づくりのためにやっています。休日もその活動に没頭してしまうのは、人生において仲間の存在が、すごく大事だと思っているからです。

学生の頃からずっと憧れていたSFの世界。あのワクワクするような世界を、つくる一人になりたいです。そこへ到達するまでの、僕にとってのスタート地点が、今の活動だと思っています。リアルとデジタルを融合させ、日常の体験をアップデートしていきたい。仲間をつくりながら、次の世界を実現したいです。

2021.11.05

インタビュー | 粟村 千愛ライティング | 塩井 典子
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