目指すは、人間のプロフェッショナル。 関係性のリデザインで誰もが生きやすい社会を。

電通に所属しながら、社内外のさまざまな場面で異なる二者間のコミュニケーションをリデザインする吉田さん。特に力を入れてきたのが、10〜20代の若者を対象にした若者研究です。研究を進める中で見えてきたのは、自身も抱えていた「他者との分かり合えなさ」の根源でした。吉田さんが見出した、他者とのより良い関係性の築き方とは。お話を伺いました。

吉田将英

よしだまさひで|関係性デザイナー / コンセプター
2008年に慶應義塾大学卒業後、新卒で広告代理店へ。戦略プランナー・営業を経て、2012年、電通入社。現在は、経営全般をアイデアで活性化する電通ビジネスデザインスクエアに所属。10〜20代の若者の心理洞察や企業団体とのコラボレーションを行う電通若者研究部(電通ワカモン)研究員。考好学研究室発起人。

自分のことが伝わる喜び


神奈川県で生まれ、すぐに茨城県守谷町(現守谷市)に引っ越しました。人見知りで、たとえば公園に遊びに行っても、人がいるときは遊具に近づかず、誰もいなくなってから遊ぶような子でしたね。

小学校に入っても、基本的には変わりませんでした。誰とでもすぐに友達になれる子もいましたが、僕は無理。人が怖いというのもありましたし、「友達」や「仲の良さ」に対して畏敬の念があったんです。友達は、簡単につくるものじゃなく、大事に関係を築いた結果なれるものだと思っていました。

ただ、最初は慎重ですが、一度仲良くなるとひょうきんでしたね。給食の時間にふざけて、牛乳を吹かせるくらい友達を笑わせて楽しんでいました。

中学校は神奈川県の私立一貫校に入学。すると、小学校までの人間関係がリセットされてしまい、自分がどんなキャラで存在したらいいのかわからなくなってしまいました。他人がどう思うかが気になり、小学校の時みたいにひょうきんに振る舞うことはできなくなったんです。

その学校では、夏休みになると、どんな教科のものでもいいから自由に1つ作品をつくる、という宿題がありました。僕はそこで国語を選び、エッセイを書いたんです。さくらももこさんのエッセイが大好きだったんですよね。自分の思いや考えていることを書いた作品を提出すると、賞をいただくことができました。

なんの偉業を成し遂げたわけでもない自分が、何をして、どう感じたかを面白がってくれる人がいる。そのことにびっくりしましたし、同時に嬉しかったです。新しい環境でうまく自己表現ができなかったけれど、自分の考えていることを表現していいんだと思えて。自分にとって、思いや考えを表現して人に伝えることは、楽しいことなんだと感じました。

見ている景色が違った


エスカレーター式に高校、大学と進学すると、音楽に興味を持つようになりました。子どもの頃からエレクトーンを習っていたこともあって、大学生になるとバンドサークルに所属し、キーボードを担当するように。

固定のメンバーでバンドを組むのではなく、イベントごとに集まって、解散するような形態のサークルでした。毎回新しくチームをつくり、一から音楽を作っていくんです。メンバーと合うかどうかは、正直組んでみないとわかりません。やってみて全然合わないことがあっても、ライブまではやり切らないといけない。だから、毎回メンバーとわかり合うためのコミュニケーションが必要でした。

自分の演奏がいくら良くても、他のパートがめちゃめちゃなプレーをしたら、音楽全体がうまくいかなくなります。自分だけできてもダメで、連帯責任を負わなければいけないんですよね。でも、その分、連帯したからこその達成感も存在したんです。いろいろな要素が全てカチッと重なってグルーヴが出るライブができると、本当に楽しくて最高でした。

学年が上がると、バンドマスターを務めるように。四六時中、バンドのことしか考えていませんでしたね。曲を聴き込んで、歌詞の意味を理解して、自分の練習だけじゃなく、他のパートの確認もしました。自分が一番、全体を考えている。そんな自負があったので、自分が良いと思う演奏ができるよう、強く意見を言って進めていきました。

迎えたライブ当日。すごく頑張った甲斐あって、良い演奏ができたと感じました。しかし、終わった後に、メンバーから「もう一緒にやりたくない」と言われたんです。

僕はそのメンバーを、すごく信頼していました。僕がやりやすいと感じているように、相手もそうだろうと思っていたんです。でも、本当は違っていた。自分の見ているものと相手の見ているものが一緒とは限らないと知りました。ショックでしたし、かなり精神的にこたえました。

でも、一方で自分が正しいという気持ちも曲げられなくて、相手に言われた言葉を、真正面から受け止めることができませんでした。怖いし恥ずかしいし、ちゃんと咀嚼できなかったんです。そのメンバーには謝ることもせずに、徐々に疎遠になってしまいました。

分かり合えなさへの憤り


バンド活動を続けながらも、徐々に自分の進路について考えるようになりました。これまで、勉強やエッセイ、バンドと、今やっていることに全力を注いできました。でも、僕には大きな夢や志がなかったんです。

大学までエスカレーター式だったので、大きな挫折や、自分を再構築しなければ生き残れないような辛い体験にぶつかったこともありません。自分で自分の人生を見たときに、物語がない、面白くない、とコンプレックスを抱いていました。大志を掲げている同級生を見ると、眩しくて目が潰れそうでしたね。

そんな中でも、就職活動は始まります。OBOG訪問などを行う中、ある先輩に「良いテーブルとは何か?」と問われました。例えば、数百年も生きたヒノキの、一枚板のオーダーメイドのテーブル。最新のデバイスとスクリーン内蔵の、摂取カロリーがデジタル表示されるようなハイテクなテーブル。どっちが良いテーブルだと思う?と。

彼が伝えようとしてくれたのは「良いとは何か」という問いでした。良いというのは相対的な概念で、人によって、状況によって、場合によって変わる。それを考えることが大事だと。その話を聞いて、僕は自分にとっての「良い」とは何かを、ちゃんと考えられる仕事に就きたいと思いました。

ただ、車とかお菓子とか、特定のモノに縛られて「良い」を考えるのは少し違う気がしたんです。車もお菓子も、「良い」を実現するための手段の一つ。僕は手段ではなくて人の心情、「良い」と思う動機付けに関わりたいと感じました。

どんな会社でそれを実現できるか考えた結果、広告業界だと思いました。業界には、広告というモノだけ作っていてもダメだという風潮があって、広く「良い」とは何かを考えられると思ったのです。それで、広告代理店に入社を決めました。

しかし、入ってみると、なんとなく「良い」とされていることに、みんな従わなければならない雰囲気があったんですよね。

例えば、若手は飲み会に誘われたら必ず行くこと。カラオケでは必ず2、3曲は歌うこと。若手は年長者の意見を聞かなければいけないこと。話している内容よりも、立場が優先されること。

誰に聞いても理由を説明できないのに、「いいから従っとけ」とよくわからない意思決定に巻き込まれ、若いからと言って意見を聞いてもらえない。これってなんなんだろう、なんの意味があるんだろうと、周囲との分かり合えなさに憤りを感じました。もっとお互いが思っていることをフラットに言い合えたら、もっと良くなるはずなのに、と。

若者の声は聞こえない


3年ほど働いたのち、電通の消費研究リサーチャーの求人を見つけ、転職を決めました。そこで始めたのが「若者研究」。そのころは、車やタバコなどこれまで若者に愛されていたものから、現代の若者が離れて行ってしまうと、多くの企業が悩んでいました。今の若者の暮らしや心の機微を、リサーチすることになったのです。

若者の暮らし、接触しているコンテンツ、行動経済学や心理学、サブカルや文化論など、広く研究していきました。その中で、人の行動には理由があることを学んでいきました。理由は、正しさに基づくものだけではありません。なんかムカつくとか、なんか好きとかいう曖昧な感情、欲深さ。そんなものに基づいて、人は日々意思決定していることを知ったんです。

その中で、僕が前職の時に感じていたような会社の上司、周囲との分かり合えなさを、多くの若者が抱えていることがわかってきました。なんとなく良いとされることに、従わなければならない雰囲気への憤り。個人的な気持ちだと思っていたことが、若者の多くに共通した気持ちだとわかったことで、なぜ若者の声が伝わらないのか深く考えるようになりました。

突き詰めていくと、そもそも社会全体として、若者の声が伝わりにくくなっている現状が浮かび上がったのです。昔は、若者の人口の方が多かったため、意思決定者の年長者に対し、量の力で声を届けることができていました。でも、今は人口動態が変わってきている。若者の数が減っているので、量の力を行使できなくなったのです。それなのに年功序列という仕組みが同じままでは、声が届かなくなるのは当たり前でした。

年長者の人口が多いので、メディアも視聴率が取れる高齢者の方を向きます。企業も、ファミリーやシニアの人口が多いので、そちらをマーケティングターゲットにします。そこに悪気はなく、どの企業団体も、正しいと思ってそうしているでしょう。日本中で無自覚のままシルバーデモクラシーが起きて、至るところで若者不在の意思決定が起きているんです。

「今の若者がわからない」と大人はいうけれど、若者が大人の知っている若者像から離れていっているのではなく、大人の方が若者から離れていっている。人口的マイノリティになった若者が、年功序列で生まれた社会の歪みを引き受けなければならない存在になっていると気がつきました。

しかし一方で、若者は、純粋な視点で今の社会に対して「おかしい」と気づくことができるんです。炭鉱労働者が炭鉱にカナリアを持っていったように、いち早く危険や変化を察知して知らせてくれる存在が若者。社会や企業の様式がどうなっていくかのヒントは、彼らの違和感の中に、未来の当たり前は彼らの行動の中にある。そう考え、若者の声をきちんと聞き、伝えようと思うようになりました。

本当の問題は関係性不全


若者研究の成果を商品やサービスに生かすため、さまざまな企業の経営者にわかったことを伝えようと試みました。しかし、なかなか伝わらないんです。

若者向けの商品が売れなくて困っている、と若者の声を聞こうとしていたはずなのに、実際に声を伝えると「俺はこういう若い奴は好きじゃない」と言われることも。なんでこんなに伝わらないんだと衝撃を受けました。

もちろん、僕の研究や仮説がダメなこともあったとは思います。それにしても圧倒的に、純粋に聞く耳になってくれる経営者が少ないと感じました。

話を続けるうちに、翻訳が必要なんだとわかってきました。若者と年長の経営者の間には、文化的な隔たりがあるんです。つまり、僕の説明は、日本を知らないアメリカ人に対して、日本語で話しているようなもの。だから伝わらなかったんです。

きちんと伝えようと思ったら、言語だけでなく相手の文化や習慣のことも理解しなければなりません。「アメリカでは室内でも靴を履いていると思いますが、日本では脱ぐんです」と言えば、ちゃんと伝わるじゃないですか。

伝えたいことを伝えるには、相手がどういう人なのか知る必要がある。そう考え、年長者の研究も始めました。

もちろん年長者にも、その人の持っている関係性や文化や事情があるんです。これまで、嫌がってるのにカラオケに誘ってくる上司は悪者だと思っていたけれど、彼もいろいろな背景や関係性を持っていたんだと考えるようになりました。例えば、経営者ではない彼は、組織の慣行に従った方がいいと判断していたのかもしれない。

そこで、僕が事情を考えることなく、「行きたくないのに誘ってくる、お前が悪者だ」と言ったから、相手は「いや、俺は間違っていない。お前こそ悪者だ」と反論してきて、水掛け論になってしまっていたことに気がつきました。

「どっちが善で、どっちが悪だ」とお互いを点で捉えようとするのではなく、点と点を繋いだ関係性にこそ問題の本質があると思いました。つまり、二点をつなぐはずの糸が絡まっているために、分かり合えなくなっているんです。関係性不全が起きているのだと思いました。どちらが悪いのかを突き詰めるのではなくて、絡まった糸の部分を解いて、関係性をアップデートする必要があると考えるようになったんです。

関係性不全に気が付いて周りを見渡すと、若者と年長者だけではなく、あらゆる分野でこの問題が起きていることがわかりました。僕が抱えたような、周囲と分かり合えないことに対する憤り。そんな思いをする人を減らすためにも、関係性不全を解消したいと思うようになりました。

そのために、さまざまな人間のインサイトを理解して、異なる二者間の糸を解いてより良い関係性を構築する、「人間のプロ」になろうと決めたんです。

人間のプロフェッショナルになる


今は関係性のアップデートを軸に、経営者の隣に寄り添い経営全般をアイデアで活性化する様々なプロジェクトを実施しています。加えて、電通若者研究部の研究員として、10〜20代の若者の研究に携わっています。7年間にわたり代表を務めていましたが、今は後輩に譲り、一研究員として活動していますね。

また、大企業の若手中堅有志団体の実践コミュニティ「ONE JAPAN」にも電通若者研究部として加盟していて、大企業社員対象の意識調査や、組織の中での個人の自己実現のための「技」の体系化を現在、主に担当しています。

僕が目指しているのは、人間のプロフェッショナルです。僕が思う人間のプロの定義は、まず、その人やその集団が、何を感じて抱えているのかという「インサイト」を慮り、掬い上げて様々な形で表現すること。そして、掬い上げたインサイトを元に、他者とつなぎ、より良い関係性をリデザインすることです。

例えば、マーケティングを「商品と生活者の関係性」として捉える。社内風土改革を「経営者と従業員の関係性」として捉える。未来に向けた経営戦略を「企業と未来の関係性」として捉える。様々な領域の仕事に今関わっていますが、なるべく関係性で捉えてそこにアイデアを出してきました。

異なる二者の点と点を結び、関係性をリデザインすると、コンセプトが生まれます。例えば、初期のAKB48の「会いに行けるアイドル」というコンセプトは、画面の中の神様みたいな存在だったアイドルと、観客の関係性をリデザインした、すごく好きな例ですね。

同じように、年功序列や終身雇用などに代わる、組織と人との関係性をリデザインできたら、関係性不全で苦しんでいる人を解放できるかもしれません。組織だけじゃなく、商品やサービスとの関係性も同じです。古い関係性の中で、その歪みを引き受けなければならない弱い立場の人が存在します。

ONE JAPANに加盟しているのも、「組織内の世代間ギャップ克服こそ、大企業が変わるためのポイント」という目的の共通点があったからですね。ONE JAPAN自体も、大企業の若手中堅社員が社を越えて繋がった新しい関係性そのものですし、広告会社にいるとつい「クライアント」としての関係性に終始しがちな方々と、有志の仲間として利害を超えた活動ができることも、とても学びが多いです。

人間のプロになることで、関係性不全を解消し、少しでも生きやすく、楽になる人を増やし、歪みを引き受けなければならない人を減らしていきたいです。

個人としては、他者との関係性を築く前に、自分のことを知っておく必要もあると考え、コーチングなどの資格も取得しています。誰かが良いと言ったものではなく、自分で良いと思えるものを引き出すためのサポートもしていきたいですね。

人が生きていく中では、必ず他者が登場します。そこには必ず関係性が生まれ、僕たちは社会の中で、他者と一緒に何かをつくって行くことになります。バンドと一緒ですよね。それぞれの演奏する楽器は違うけれど、みんなで一個の音楽を作っていく。みんなでつくったほうが、自分が望むものをより大きく良い形にすることができる。だからこそ、人は人生において、自分のことを他者に伝え、関係性をデザインしていくべきだと思うんです。

そのデザインをサポートすることで、関係性不全による理不尽を無くして、生きやすい社会を作っていきたい。まず自分が人間のプロになって、各分野のプロの方々と連携しながら取り組んでいきたいと思っています。

2020.10.29

インタビュー・ライディング | 粟村千愛
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