軸はテクノロジー×コミュニケーション。未来の「当たり前」となる場づくりを。

デジタル・場づくり・エバンジェリストを掛け合わせた「デジタルバヅクリスト」として活動する川﨑さん。つくりたいのは未来の「当たり前」だと言います。川﨑さんが描く未来とは?お話しを伺いました。

川﨑 万莉

かわさき まり|海外事業企画・支援(セールス・マーケティング)
野村総合研究所産業ITグローバル事業推進部。同社の有志団体「N次元」代表。大企業の若手中堅有志団体の実践コミュニティ「ONE JAPAN」デジタル・コミュニケーション担当幹事。デジタル・場づくり・エバンジェリストを掛け合わせた「デジタルバヅクリスト」デジタル×場づくり×エバンジェリストとして、テクノロジーを活用したデジタルコミュニケーションの推進を実施。

未来の「当たり前」をつくりたい


滋賀県彦根市で生まれました。両親は共働きだったので、祖父母と一緒に過ごす時間が多かったです。自然の多い地域で、田んぼに入ったりレンゲを積んで花冠をつくったりと、外で活発に遊んでいました。

幼稚園に入園した頃、両親が離婚。母と二人暮らしをすることになりました。細かいことはよくわからなくて、気がつくと母と一緒にいた感じでしたね。母はシステムエンジニアで、仕事が好きな人。家には大きなパソコンがあり、自然と私も触るように。キーボードを叩いて遊んでいました。

住んでいる地域は母子家庭の家が少なかったので、小学生になると周囲からちょっと浮いているのを感じました。時にはいじめを受けることもありましたね。ただ、そんな中でも仲良くしてくれる人たちは一定いるんです。純粋に、この人たちは何を思って私と仲良くしてくれるんだろう?ということが不思議でした。話しかけてくれる子とそうでない子、この差はなんなんだろう、と。人の気持ちや感じ方に関心を持つようになりました。

学校の外では、さまざまな学校の子が集まるアウトドアクラブに所属していました。学校では常に人と違う気がして少し居心地が悪かったですが、クラブでは疎外感がなく、学校外の友達と話すのが楽しかったです。グループに1人、リーダーとしてついてくれるボランティアの大学生も、一人っ子の自分にとって年の離れたお兄さん・お姉さんという感じで。毎回参加するのが待ち遠しかったです。

家では、母のしつけが厳しかったですね。一方で、料理は必ず手作りの、暖かいものを用意してくれる母でした。ただ、働いているので、お店が閉まってしまったり、お金が引き出せなかったりして、必要なものが買えずに困ることもありました。母が大変そうにしているのを感じていたんです。

中学生になった頃、近所に大手コンビニができました。24時間開いているので、店が閉まって物が買えないこともないし、お金もいつでもおろせます。ご飯もパンも美味しいものが売っているので、どうしても料理ができなかったとき、買いに行けるようになりました。母がすごく楽そうになったのを感じたんです。コンビニという頼れる先ができてよかった、と思いました。だんだんと、コンビニがある生活が当たり前になって。自分もいつかこんな風に、誰かにとってより良い「当たり前」をつくりたいと思うようになりました。

人の気持ちと技術への関心


中学校を卒業後は、物事をもっと突き詰めて考えてみたいという気持ちがあり、大学を目指して進学校に進みました。

家には小説がたくさんあって、小さい頃から読書が好きでした。様々な小説を読む中で、高校2年生の時、あるSF小説を読んだんです。アメリカで書かれたもので、人間の中に混じったアンドロイドを駆除していく話でした。アンドロイドは見分けがつかないほど人と酷似していて、駆除する人間は、果たしてこれはロボットなのか、人間なのか、どこで判断すれば良いのか悩むようになるんです。すごく面白くて、表紙がボロボロになって取れてしまうまで何度も何度も読みました。

人ってなんなんだろう、と疑問が生まれた一方で、ロボットと人との違いを解明することができれば、それがわかるんじゃないかと思ったんです。テクノロジーを突き詰めれば、子どものころ不思議だった人の気持ちや感じ方の違いも、なぜだかわかるようになるんじゃないか?と。

それで、工学に憧れるようになりました。文系でしたが、どうしても工学を学んでみたくて、2年生の途中で理転し猛勉強。無茶をいって情報工学科を受験して、何とか進学することができました。

コミュニケーションの大切さ


大学では、デジタルを使って人とは何かを理解しようと研究しました。専門はデータ解析。どんな情報をどれくらいとれば人の行動を予測できるのか、様々な実験をしました。

一方で、子どもの頃に入っていたアウトドアクラブで、自分もボランティアリーダーとして活動するようになりました。大学生1人がリーダーとなって、子どもたち5、6人のグループを担当する形で、成長をサポートする仕組みです。

定期的に、他のリーダーたちと話し合う機会がありました。私は自分の言いたいことははっきりと、オブラートにも包まずに直球で伝えていました。私はこう思う、みんなは意見ないの?と。他の人が何も言わないのは、言いたいことがないんだと思っていたんです。

しかし、そんな風に進めていたある日、リーダーのひとりが「そんなにすぐに言葉にできない」と言いました。ハッとしました。そこで初めて、思ったことがあっても、すぐには言語化できない人もいるんだと知ったんです。「私の思っていた当たり前って何だったんだろう?」と思って、そこから考え方が大きく変わりました。

自分と他人は違うと改めて認識して、それぞれ得意不得意があり、コミュニケーションの仕方も違うと知ったんです。相手が何を思っているのか聞くのと同時に、その答えを待てるようになりました。自分と相手の違いを認識した上で、お互いを尊重することが大事だと気がついたんです。

今の当たり前さえできない自分


大学院まで情報工学や統計を専門に学び、就職活動ではテクノロジーで新しいことに取り組もうとしている企業を探しました。様々な企業をみている中で、野村総合研究所が、コンビニの流通システムを作っていることを知ったんです。

中学生の時、私と母の生活に新しい「当たり前」を生み出してくれた会社。興味が湧いて調べていくと、ホームページに「未来創発 –Dream up the future.」という言葉がありました。「未来は分からない、見えないものなのだから、思い切って私たちで創ってしまおう」と。それを掲げているのがかっこいいし、実際に当たり前を生み出している。私もここで、誰かにとってより良い未来の「当たり前」を創りたい。そう思い応募し、幸運にも入社することができました。

エンジニアとして就職して、お客様の業務システム運用を担当する部署に配属になりました。周囲は優秀な人ばかりで、その中で働けることに満足感がありましたね。

しかし、時間が経つにつれ周囲と自分を比べるようになったんです。エンジニアの中には文系出身の方もいましたが、要領良く情報をキャッチアップし、手を動かすのが速い。コミュニケーション能力も高くて、先輩とも同僚ともうまく仕事していました。それと比べて自分は、できないことばかりで。やればやるほど、自分はチームや会社に価値を提供できていない人間なんだと感じることが増えていったんです。

一緒に働くチームメンバーや、新卒で採用してくれた会社の為に、何かやらなきゃいけない。そんな想いで、システム不備でかかってきた電話は全部とって対応していました。本当は当番制で、交代で対応する仕組みなんです。でも、休みだろうが夜中だろうが、電話が鳴ったら優先して対応していましたね。

もう、それくらいやらないと、私は会社にいちゃいけないんだと思って。未来の当たり前を創りたくてこの会社に入れてもらったのに、今できて当然の当たり前すらこなせない。まるで自分が給料泥棒みたいに思えてきて、何やってんだろうと自分を追い詰めていました。自信がないせいか、上司にも思っていることを伝えることができません。うまくいかず、ひたすら何かやらなくちゃという思いだけが募りました。

そんな状態で働いていた4年目の半ばに、当時いた部署から異動することになりました。何も成し遂げられず、チームに貢献できていないという想いのままの異動は、とても悔しかったのを覚えています。

「掛け算」で、新しいチームに貢献


異動先の部署は、お客さまとの関係性のマネジメントが主な業務でした。今までの業務とは、担当するお客さまも業務内容も全く異なる。やっていけるか不安な中、ある時、お客さまが実施する顧客アンケートの設計と分析を担当することになったんです。アンケートの実施自体は初めてでしたが、大学院までやっていた情報工学や統計の知識・経験を活かして、分析軸や手法の効率化を提案すると、重宝してもらえるようになって。ちょうどデータアナリストが脚光を浴び出した頃で、時流とも合っていたのかもしれません。この仕事で、自分のこれまでの知識や経験を、どうすれば新しい業務に役立てられるかを実践で学びました。

その後、別会社へのトレーニーも含めてさらに2回の異動を経験し、担当するお客さまの事業領域や役割が増えていきました。それぞれの仕事に携わった期間は短かったですが、自分のカバーできる領域が増えていくのを実感しました。過去の事業領域での業務や役割で得られた経験を活かして、新しい領域・役割で少し違った見方からの意見を出したり、チャレンジしたりできるようになっていったんです。「わかる」「できる」領域が増えていき、それぞれを掛け算することで、チームで自分なりの意見を出していけると自信を持てるようになりました。

そんな中、ある研修に参加してみないかと部長から声をかけてもらいました。社内の若手向けに本部横断で行われている研修で、月に1回の集合研修が半年間続くプログラムです。いろんな部署の人と繋がれるのは自分の仕事にもおいしい!と思って参加を決めました。

研修プログラムには毎回、先輩社員の講話があったんです。ある先輩社員の講話で、担当しているお客さまの今後の事業を最優先に考えて、他本部が力をいれて提供している新サービスを提案したり、社外の全く異なる事業領域のサービスを組み合わせて新ビジネスを提案したりした、というお話を聞きました。お客さまの事業成長・拡大のために何ができるか考え、アイディアを形にするために社内のみならず社外も見渡し、本部や会社という枠組みを越えて走り回っているんですよね。

「私は部署を4つも異動しているのに、自分の捉えている業務領域って、実はすごく狭かったんだな」と思ったんです。狭い世界観の中でできることしか考えられていなかったんじゃないかって。その状態に危機感を覚えました。講話の中には、「見えないフェンスを自分で作っていないか?」という問いかけもありました。自分で自分のできることに制限をかけるな、誰も制限なんてかけていないし、制限だと思うから制限なんだ。「自分で社内外にいろんな繋がりを構築して、仕事を広げていくのが真のプロフェッショナルなんだ」と熱く語られていて、心に刺さりましたね。

ふと周りを見渡してみると、ほかの研修メンバーも大きくうなづいていて。私たち世代の社員って、「こうでなければ」「こうしなきゃ」を自分の中につくりだしてしまって、自分のやることに「ここまで」と線を引いてしまっているのかな、チャレンジできていないのかな、ともやもやしたんです。「このもやもや、何とかしたいんだよね」と研修メンバーに話していたら、彼女から「同じ課題感を持っている人たちと、有志で社内チームを立ち上げるんだけど、一緒にやらないか」と誘ってもらったんです。

同じように「もやもや」を感じている人は多いので、自分の今いる場所からちょっとだけ目線を変えて、社内で縦横斜めの繋がりを構築していく。繋がりの中で視野を広げたり勇気をもらったりして、チャレンジの一歩踏み出せる場をつくろうとしていると聞いて。「同じ想いを持っている人がいたんだ」というのが嬉しくて、考えるよりも先に「お願いします!」と言っていましたね。

チーム名は、「縦横斜めで繋がることで、一歩踏み出す勇気が持て、可能性が無限大に広がるように」という意味を込めて、「N次元」になりました。社内のいろいろなつながりを生み出せるよう、若手向け社長講演・座談会や、社内の有志団体が一同に会するミートアップ、ピッチイベントを開催していきました。

仲間をつなぐコミュニケーションを


活動を進めていたある日、N次元を一緒に運営していた先輩から、様々な大企業の有志団体が集まる組織「ONE JAPAN」のミーティングに誘われました。初めて会う人が多い集まりはあまり得意ではないんですが、「外とのつながりづくりもしてみたい!」と、意を決して参加したんです。結果、雷に打たれたみたいになりました。自分よりも若いメンバーが、「全社横断の300人規模のイベントをやりました」「役員巻き込んで有志の活動を事業化しました」と、この1カ月で各社社内で有志活動としてやったことを、勢いよく喋っているんですよ。しかも何人も、です。「この人達のパワーはいったい何なんだ?」と思いました。

みんなすごすぎてついていけない。なにもやってない私がここにいるのは絶対間違ってる。もう早く帰りたい…。そんな気持ちでいっぱいでした。先輩から「名刺交換に行ってきなよ」と言われても、誰とどう喋ったらいいかもわからず、壁際で突っ立っているだけでした。めちゃくちゃ疎外感を感じてましたね。でも、ONE JAPANの集まりでは、先輩はじめうちの会社のメンバーが運営のテクニカルサポートをしていて。気が重いながらも、役割があるので徐々に活動に参加するようになって、役割があることで周囲から名前を憶えてもらえるようになって。「いつもサポートありがとう」と声をかけてもらえるようになったんです。ONE JAPANの中に居場所をもらえたように思いました。

加えて、ONE JAPANで学生向けに社会人との座談会を開く際、パネルディスカッションの登壇依頼を頂いたんです。活動は日が浅かったので迷ったのですが、お困りだったのでOKしたところ、座談会の運営もお手伝いさせていただくことになって。一緒に会を作り上げていく過程で、運営メンバーとの距離感がぐっと近くなったんですよね。仲間になれたなって思いました。

居場所と仲間ができた。そのことで、「今月も行こう」と活動に前向きになり、会社を越えたつながりがどんどん広がっていきました。つながりができたONE JAPANのメンバーと、さらに新しい取り組みを始めたり、教えてもらった社外のアクセラレートプログラムに応募したりと、自分のチャレンジが加速していったんです。とてもワクワクしていました。一方で、運営やサポート体制の中でだんだん気になる部分も出てきて。いつの間にか、「もっとこうしてみたらいいんじゃないか」と、自分から提案するようになっていました。

そんな中で、ONE JAPANの幹事体制を増強することになり、「幹事にならないか」とお誘いを受けたんです。思いもよらないことでしたし、参加して1年程度しか経っていなかったので、一度「自分には無理です」とお返事しました。でも、自分が初めて参加したときに感じた「疎外感」を思い出して、やっぱりチャレンジしてみようと思ったんです。勇気をもって社外に飛び出したのに、すごすぎるメンバーを見て「自分にはしんどい」と感じた、あの時の自分と同じ人もいるんじゃないか、と思って。初めはそう思っても、居場所があって、仲間ができればチャレンジし続けられる人も増えるんじゃないかと思ったんです。

コミュニティの中で、初めて来た人も、長くいる人も、いろいろな属性の人をつなげてチャレンジできる人を増やしたい。そんな役割を担えるなら、やってみたい。そう考えて、幹事役をお受けしました。ONE JAPANに誘ってくれた先輩が「役が人をつくることもあるんだよ」と背中を押してくれたことも大きかったです。

新しい幹事がメンバーに所信表明をする場を頂き、「ONE JAPANを、チャレンジする人がたくさん生まれる場にしたい。ONE JAPANで居場所や仲間を見つけて、チャレンジできる人を増やしていきたい」と話しました。もともと運営のテクニカルサポートをしていたこともあって、テクノロジーを取り入れた新しいコミュニティづくりが目標になりました。

これからのコミュニケーションを創る


今は、野村総合研究所で海外拠点の事業支援をしています。主に製造業のお客さま向けに、ロボティクスやIoT、AIなどのテクノロジーを組み合わせた、DXソリューションをご提案していますね。加えて、社内有志団体「N次元」の代表、大企業の若手中堅有志団体の実践コミュニティONE JAPANのデジタル・コミュニケーション担当幹事も務めています。

様々な活動をする中で、自分の中のキーワードは「テクノロジー」と「コミュニケーション」だと考えています。テクノロジーの進化が加速化していくこれからの時代は、コミュニケーションのあり方そのものが変わっていくはず。テクノロジーをうまく融合したデジタルコミュニケーションで、場所や立場・属性が異なる人とのデジタルならではのつながりづくり、場づくりをしていきたいんです。

今は、オンラインのイベントやセミナーのテクニカルサポートを担当させてもらいながら、さまざまなオンラインツールを触っています。デジタルでのコミュニケーション設計をどうすべきか、そのためにはどんなテクノロジーがマッチしているのかを検証させてもらっています。また、先輩からいただいた、「デジタルバヅクリスト」という愛称も気に入っています。デジタルを前提とした、これから先のコミュニケーションのあり方はどう変わっていくのか。その答えを導くべく仮説検証を続けていますね。

テクノロジー×コミュニケーションの可能性の一つとして、プロジェクトベースで動くコミュニティに関心があります。そのコミュニティに関係する人たちが、よりコミュニティを活性化するために「この指とまれ」方式で人を集めて、共感する人が集まり、活動していく。そのためには企業だけでなく、行政や市民を含めたコミュニティに参加するメンバーが、お互いに尊重しあい、フラットな関係性を築いていくことが重要です。その際に、テクノロジーをうまく活用できないかな、と考えています。街づくりを例にとると、近年「関係人口」が注目されていますよね。地域外の人材が地域づくりの担い手となるよう、いかに街の課題解決や活性化に参加してもらうかという点で、デジタルとリアルを融合したコミュニケーションで関係性を深めたり、広げたりできるんじゃないかな、と思うんです。

今後は、よりリアルとデジタルが融合したコミュニティが増えていくでしょう。テクノロジーを活用したデジタルとリアルのコミュニティ設計をノウハウ化し、さまざまなところに活用できるようにしたいと考えています。それがきっと、未来の「当たり前」のコミュニケーションになると思うんです。それをつくるための布石を、しっかり打っていきたいですね。

2020.06.29

インタビュー・ライティング | 粟村 千愛
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