我慢したり、諦めたりしなくていい。女性の壁を取り払い、キャリアを築ける社会を。

企業広報・ブランディングや女性活躍推進事業を手がける志賀さん。職場でライフステージの壁にぶつかる女性の先輩たちをみて、自分自身もその壁を体験したと言います。その壁を超えて、志賀さんが実現したい社会とは。お話を伺いました。

志賀 祥子

しが しょうこ|株式会社MaVie代表取締役
2009年から大手住宅メーカーで社長秘書と広報を兼任後、複数社の広報責任者として部門立ち上げや再構築、ブランディングを経験。2015年に独立、2019年に株式会社MaVieを創業。企業広報経験を活かした広報・ブランドコミュニケーション支援を得意とする。また女性のキャリアデザインに特化した「女性活躍支援」やコミュニティ「M relations」を設立するなど、働く女性たちをエンパワーメントする。

後悔しない選択肢を


東京都港区で生まれました。父は自営業をしており、母は専業主婦。いわゆる裕福な家庭に生まれ、両親や祖父母に可愛がられて天真爛漫に育ちました。小さい頃から、いろんな国や地域に連れていってもらいましたね。私立の幼稚園に通っていましたが、親の教育方針から小学校は公立に進みました。自分が子どもの頃に受験勉強でなかなか遊べなかった母は、よく「あなたは子どもらしく、思う存分に遊びなさい」と言っていました。

小学校では友達と遊ぶことだけでなく、ピアノとエレクトーン、英語、剣道と習い事もたくさんしていました。成長とともに、女子特有のグループが面倒臭くなり、自由奔放に過ごしていました(笑)。昼休みには男友達と走り回って遊んでいたタイプです。4年生になって妹が生まれると、一人っ子から長女としての意識が芽生えました。


中学校も、そのまま地元の学校に進学しました。受験する子が多い地域なので、1学年1クラスしかなくて。部活もあってないようなものでしたね。徐々に父の会社もバブルの余波を受けはじめ、専業主婦の母も働きに出るようになりました。子どもながらに、まだ幼稚園児の妹を守らなきゃ、と思っていました。

そんな中、高校に向けて進路を選ぶ時期に差し掛かりました。親は相変わらず「好きなことをしなさい」とやりたいことに対して背中を押してくれたので、自分で決めた高校へ進学しました。

ところが入ってみると、学生生活のこの時間は、本当に将来に役に立つのだろうか?早く社会に出たほうが得られるものが大きいのではないか?と考えるように。時間を無駄にすることをストレスに感じるタイプだったので、なおさらです。学校に通うなど、決められた時間を過ごさないと社会に出られないことに矛盾を感じました。まだ妹も小さくて教育費がかかるという環境で、経済的な余裕はありません。

思うようにやりたいことができない、自分が置かれた状況に苦しさはありました。でも、自分で決めたことだから後悔はしたくない。将来後悔しない選択肢はどれなのか、今ある選択肢の中から最善と思えるものを選んでいました。必死でしたね。

社長秘書からPR広報の世界へ


将来的に英語を使った仕事ができたらいいなという憧れがあり、18歳になると、留学を視野に入れた語学の専門学校へ進学しました。

授業は全部英語で行われ、日本にいながらにして留学しているような環境でした。望んでいた学びを得られて、すごく楽しかったです。学校生活を満喫していたある日、先輩に誘われてブランドのパーティーに参加しました。一般人も参加できる、新作発表会です。先輩は運営サイドの人と知り合いだったため、少しイベントの裏側をみることができました。そこで初めて、ブランドの世界観をつくる仕事があることを知りました。

面白そうと思い、家に帰ると早速広報やPRの仕事について調べてみました。しかし、広報担当者の募集は少なく、仕事につくためにはブランドの販売員から下積みするなど狭き門だということを知り、途方に暮れました。

卒業後は留学を見据えていましたが、費用が想像以上にかかることがわかりました。これは現実的に難しいと即座に判断し、就職することに決めました。大手銀行に就職が決まり、そのまま一般職として入社しました。

実際仕事を始めてみると、毎日決まりきったルーティン。念願の英語を使う仕事ではあるものの、終業時間まで仕事がなくてもデスクにいなければならない。隣でネットサーフィンをしている先輩を横目に、このままでいいのだろうかと思いました。なんだか人生の時間を無駄にしている気がしたんです。

働きやすい環境は整っているので、社歴の長い人もたくさんいましたが、10年上の先輩を見たときに、「私の10年後はこれでいいのだろうか?」と自問自答するようになりました。ここに居続けても、今後異業種でのチャレンジは難しいんじゃないかと感じ始めたんです。

誰にでもできるようなルーティンではなくて、もっと自分にしかできない仕事をしたい。それってなんだろう。そう考えた時、以前から興味を持っていた広報やPRの仕事を思い出しました。すぐに求人を探すと、やはり未経験募集はなく、経験が物を言う職種なんだなと。

じゃあどんな経験を積めばいいのか考えた結果、会社全体を見渡せて、経営・組織全体のことを知ることができる社長秘書の求人に応募。1年半働いた銀行をやめ、社長秘書に転職しました。

自身のキャリア観に気づくまで


転職した会社は大手グループの直結子会社で、やりがいを持って仕事に取り組むことができました。社長秘書として入ったものの、途中から望み通り広報も兼任させてもらい、大手企業の広報としての経験を積めました。ただ、全体として男性が強い、男社会の会社だったんです。お茶汲み当番が日替わりで女性社員のみに割り振られているなど、かなり顕著でしたね。

中には、産休や育休を取得して、現場復帰する女性の先輩もいました。でも、一度は戻ってきても、数カ月でやめてしまうんですよ。働く母親に対して理解のない上司にあたって毎日残業を強いられて、保育園にも家族にもたくさん謝っている先輩たちを見ていました。もちろん家族が大事なので、数カ月後にはみんな退職していきます。そんな現状を目の当たりにして、男女の平等について考え始めました。

性別だけでなく社歴や学歴などもそうです。誰でもフラットに、平等に評価される環境ってどこだろう。そう考えてるときに、ベンチャー企業に出会ったんです。限界を感じていたレガシーな環境から、思い切ってキャリアチェンジしました。

それまでは大手企業で社長や役員陣と仕事をすることが多く、年上の人が多い職場環境だったので、同世代の人たちと働くのがすごく新鮮でしたね。立ち上げ期からの参画だったので、さまざまな仕事に携わりました。新規営業を担当することになり、経験がないながらも手探りで毎日朝から晩までセールス活動に明け暮れました。すると、社内トップの成績をあげることができたんです。秘書や広報は、なかなか目に見える成果がでにくい仕事だったので、数字として結果を出せたことで自分に自信がつきました。

働いて2年ほど経ったころ、結婚が決まったんです。もともと専業主婦だった母の影響もあり、なんとなく、「結婚したら仕事はセーブするもの」と思っていました。土日はしっかり休んで家族と過ごしたいし、平日も毎晩ご飯を作れるように残業はないような環境がよいのでは、と考えました。ベンチャーの働き方は忙しすぎたんですよね。もっと家庭に割ける時間がないとバランスが取れないと思い、再び転職しました。

希望通り平日は残業がなく、土日も休める会社に、社長秘書と広報を兼任して入りました。ところが、実際に余裕ができてみると、持て余してしまって。自分が早く帰ったところで、夫は仕事で毎日遅く、子どもがいない時期に仕事をセーブする必要はなかったんだ、と気づいたんです。もちろん時間を仕事以外の趣味にも使っていましたが、何かしら将来につながることをしたいという気持ちが強かったんです。夫はやりたいことを応援してくれる人なので、もう一度キャリアをしっかり歩みたいと話したら応援してくれました。一度仕事をセーブしたことで、自分はキャリアを継続した方がいいタイプだったんだと気がつくことができました。

そこで改めて、将来について考えました。2社目で見た、出産ののちに会社をやめていった先輩たちの姿が思い出されました。結婚した時、夫は起業準備中。なんとなく私が30歳の時に妊娠出産できるといいね、と話していました。私は26歳。あと4年後に子どもが生まれた時、時間や場所にとらわれずに働いていたい。それには今、何をすればいいのだろう。どんな仕事ができるんだろう。

そう考えると、自分の時間を自由に使える今のうちに、フリーランスに挑戦してみようと思いました。実際に子育てする時期までに、時間と場所にとらわれない働き方や環境、そしてビジネスの基盤を整える必要があると考えたんです。

女性がぶつかる壁に気づく


そこからは、自分に足りないスキルを身につけるべく仕事を選んでいきました。フリーランスとして独立することを決断できたのは、夫が背中を押してくれたことがとても大きかったです。今の自分は、兎にも角にも家族ありきですね。

大企業、スタートアップ、上場ベンチャーと、タイプの違う企業で広報責任者として経験を積むことができたので、28歳の時独立し、フリーランスとして仕事をするように。

1年目は、これまでのつながりの中でお声かけいただき実績を積んでいきました。全部に当事者意識と自責を持って業務ができるので、今までよりも更にやりがいや満足度を感じていました。クライアントの経営者と対話をしながら一緒に考えていく立場なので、すごくやりがいがあるとともに、学びも多くあり大変ありがたい環境でした。そこからは、お客様が新たなお客様を呼んでくれて、仕事に恵まれていました。

一方で、“フリーランス✕女性”ならではの課題かもしれませんが、既婚者だとわかると「夫の稼ぎがあるから、ゆるく好きな仕事しているんでしょ」と足元を見られることも。幸い良いクライアントさんに恵まれましたが、きちんとビジネスをしている事実を伝えるためにも、将来的な法人化を独立当初から視野にいれていました。

独立3年目に妊娠しました。予想以上につわりが酷くて大変でしたが、産前産後ともにバランスを見ながら仕事をセーブすることで、なんとか乗り切ることができました。このとき、以前の会社の先輩たちを思い出しましたね。フリーランスでも、クライアントや周囲の方に迷惑をかけてしまうのは心身ともに辛かったのに…会社に対して謝り続けていた先輩ママたちの気持ちは、こんな風だったのかと身に沁みました。

子どもが保育園に通い始めて半年までは、仕事をセーブ。少しずつ落ち着いた頃から徐々にボリュームを増やしていきました。すると出産前のペースで仕事を進められるようになり、安心しましたね。

様々なお仕事をいただく中で、あるとき「働く女性」をテーマにした女子大の講義に、ゲスト講師として登壇することになりました。そこで改めて、自分のこれまでを整理したんです。振り返ると、「私は働く女性がぶつかる壁を経験し、さらに先輩女性がぶつかる壁を見たことで、将来ぶつかる壁を想定しながらキャリアを歩んでこれたんじゃないか」と感じました。

男性社会の中での女性の立場、結婚後のキャリアの選び直し、妊娠中の体調の変化と仕事の両立…。私はなんとか自分らしい働き方を諦めずに実現できたけれど、これは多くの人がぶつかる課題でもあるんじゃないか、と思ったんです。だったら、今困っている人の役に立てるかもしれない、と。

その大学での講義をきっかけに、女性のキャリア形成のセミナーを行うようになりました。すると、最初は悩んでいた表情の参加者の方が、最後は明るい笑顔で帰っていただけるんです。とてもやりがいを感じ、さらに注力していこうと決意。法人化をした際に「女性活躍支援」事業を立ち上げ、支援の幅を広げることにしました。

女性が諦めなくていい社会を創りたい


今は、株式会社MaVieの代表として、企業広報・ブランディング支援と女性活躍支援事業を行っています。この事業を通して目指しているのは、誰もが諦めずに“らしさ”を追求・確立し、輝くことのできる社会を創ること。そしてキャリア・ライフの中で我慢したり諦めたりする女性を減らすことです。

ライフステージが変わるとき、女性は大きな壁にぶつかることがあります。結婚後の転居や生活の変化、出産や子育てなど様々な場面で立ちはだかる壁を前に、やりたいことを諦めなければならないと感じ、実際に諦めてしまう人は少なくありません。でも、そうじゃない。自分でしっかりプランを立てて準備することもできるし、たとえ壁にぶつかったとしても乗り越えられる選択肢がある。我慢しなくても、諦めなくても良いんだと伝えたいんです。そして、それが当たり前となる社会を実現していきたいと考えています。

MaVieでは、女性活躍支援事業でオンラインコーチングやセミナーなどを通して、キャリア設計をサポートしています。自分のライフプランを自分で考えるのは当たり前ですが、その中にしっかりキャリアプランも想定したうえで、設計できるようにしています。また広報ブランディング事業では、ミッションである社会づくりに寄与するサービス・企業を広報の立場から支援しています。これからも共働きの家庭や子どもたちに向けた価値のあるサービスを、世の中に広く伝えるお手伝いをしていきたいと考えています。

働くママの悩みは、何十年も前から変わっていません。その時代その時代で、女性は同じ悩みと向き合ってきました。特に私たちの世代は、「家族で助け合いながら、自分たちで子育ても仕事もどちらも実現したい」という世代だと思うんです。

とても真似できないようなスーパーウーマンばかりが世の中で取り上げられがちですが、そうじゃなくて誰でも「子育ても仕事も自分らしく」を実現できる社会にしていきたい。まだまだ日本は時間がかかると思いますが、仕事も子育ても本気で向き合い、自分らしく生きること。ママやパパの笑顔はなによりも子どもにとって大切。家庭によってさまざまな背景がありますが、家庭ごとに「家族みんなが笑顔でいられる社会」の実現に寄与していきたいと思っています。

2020.06.01

インタビュー・ライティング | 粟村 千愛
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