商品や文化を通じて、日本の魅力を海外へ。真面目な私だからこそブレずに進み続けられる。

日本の文化と魅力を発信するために、体験イベントの開催や、海外展開を希望する日本企業の市場調査を手がける加藤さん。真面目だからこそ挫折も経験した加藤さんが、自身の性格を活かせるようになったきっかけとは。お話を伺いました。

加藤 翼

かとう つばさ|日本の文化と魅力の発信
The International Center in Tokyo (ICT)代表 / 株式会社ニーズアーチ代表取締役 慶應義塾大学法学部卒。住友信託銀行株式会社(現三井住友信託銀行株式会社)に総合職として入行し、投資信託の組成、営業、販売など証券業務など数々の経験を重ね、ニューヨークへ。帰国後、多国籍なメンバーと共にThe International Center in Tokyo (ICT) を設立。5年間で通算200回以上の「日本」を体験するオリジナルイベントを企画、運営。現在では、60ヶ国1,200人以上の外国人と日本人がリアルに集うプラットフォームに発展。2017年に起業し、現在は株式会社ニーズアーチ代表。メイド・イン・ジャパン商材を国内外に展開する企業向けに、外国人モニターへのヒアリング及テストマーケティング事業を開始。日本の魅力をより広くかつ深く引き出す独自の調査方法で、日本企業の「思い」と「夢」をサポートしている。一児の母。

母への憧れから、海外で働きたい


東京都で生まれました。家族の仲が良く、休日はよく家族で出かけました。

母は元々フライトアテンダントで、退職後は自宅で英語教室を開いていました。小さい頃から英語のラジオや歌が家の中で流れていたり、母の教室に参加していたので、海外や英語に自然と興味を持ち始めました。母に憧れて、将来は英語を使って海外で働きたいと思っていました。

小さい頃は、典型的な長女らしい性格で、真面目な優等生タイプでした。勉強ばかりして、成績はオール5。塾に行くのが嫌だったので、自分のペースで勉強できる通信教材を使っていました。

小中学校では学級委員や生徒会もやりました。一方で、体を動かすのも好きだったので、中高ではバドミントン部やテニス部に入りました。勉強ばかりしていた私には唯一の息抜きの場でしたね。

中学卒業後は、文化祭が盛り上がる高校に入学しました。私服で通学できるくらい、自由なところも良かったですね。放課後に、みんなで文化祭の練習をするのが楽しかったです。協力して何かを作り上げるやりがいを知りました。

高校3年生になると、なんとなく法律を学びたくて、法学部を受験。受かった大学に進学しました。

大学時代は、家庭教師のアルバイトと勉強を頑張りました。あとは、テニスサークルと海外インターンの運営をしているサークルでも活動していましたね。いわゆる普通の大学生活です。ずっと真面目で優等生で良い子ちゃんでした。

サークル活動で海外の方を観光地へアテンドしたり、大学でたくさんの留学生と触れ合ううちに、いろいろなバックグラウンドの方に出会えました。海外に住みたい、もっとたくさんの外国人と触れ合いたいという気持ちが大きくなりました。

頑張ってきたのに仕事ができない


大学3年からは、国家公務員Ⅰ種試験を目指して勉強を始めました。外務省に行きたかったんです。もともと海外で働きたかったし、大学生活でいろいろな人と触れ合う中で日本のために何かしたいという思いが強くなりました。国を背負って仕事ができるところに魅力を感じましたね。

ただ、OBOG訪問をしてみて、あまり魅力を感じなかったんです。なので、並行してやっていた就職活動のほうに切り替えて、銀行に就職しました。金融機関で3~4年仕事をすれば転職でステップアップも可能だろうし、社会の仕組みや、世の中のお金がどうまわっているのかを知りたかったんです。

勉強ばかりしてきたので、初めは悩むことが多かったです。臨機応変に対応できなくて上司に怒られたり、トイレで泣いたり。そんなことが、しょっちゅうありましたね。自分は努力してるつもりなのに成果がでない。やらなきゃいけない仕事の優先順位をつけるのがへたくそで、それにイライラして。

自分自身に対する葛藤が大きかったです。なんでこんなに融通がきかないんだろう、真面目にしかできないんだろうと思いました。つらかったですね。

銀行って2、3年ごとに異動するんですけど、異動先で上司と上手く関係を築けずに悩んだこともありました。一般職の女性に仕事を頼む時も私の言い方が悪かったり、営業先で上手く話せなかったり。自信がなくて、細かいことを気にしていました。

こんなに頑張ってきたのに、仕事ができない。そのギャップに苦しみました。仕事って経験とか慣れですよね。それを習得するのに時間がかかったんです。

相談に乗ってくれる上司のおかげで、なんとか続けられたものの、ずっとモヤモヤしていましたね。本当は海外で働きたいけど、外務省に行けなくて、どこかでそういう気持ちを抱えながら仕事していたんだと思います。前向きになれなかったんですね。

日本を伝えるなら、日本を知らないと


銀行で働いてしばらく経った頃、夫の海外転勤が決まりました。ダイバーシティに身を置けるのが嬉しかったですね。いろいろな国の人が集まるニューヨークで、自分が何を感じるのか、新しい価値観を身につけたいと思いました。

駐在の2年間はあえて働くのではなく、英会話スクール(ESL)に通ったり、ボランティアをしたりして、異文化でなるべく新しいことにチャレンジする時間にしました。絶対に2年間で英語を身に着けて帰ると決め、大学でアメリカ人と同じ授業を受けることを目標に勉強しました。日本人と一緒に過ごすのは避け、なるべく現地の人と遊んだり勉強したりするようにしました。最後の3ヶ月はNYのデザインを学ぶべく、ニューヨーク市立大学ハンター校のデザインのコースをとりました。

ESLでは、おもしろいクラスがありました。先生がパソコンなど色々なガジェットから情報収集をしたデータや資料を使って、「今のアメリカ」を伝えるというクラスです。ウォールストリートの抗議デモを実際に見に行ったり、そもそもなんでアメリカはすぐにデモをするのかを紐解いたり。どんな歴史があって今のアメリカが成り立っているのか、を振り返る授業でした。色々な国籍の人がいる中、テーマに沿ってディスカッションするのが、すごくおもしろかったんです。

それで、やっぱり日本のことを伝えたいなら、日本を知らなくちゃダメなんだって思ったんです。私は日本人だけど、日本の経済って今どうなってるの?って聞かれても英語で語れないし、能や歌舞伎も英語で語れない。日本の文化についてもう一度学び直したいと思いました。

日本でも外国人と触れ合える場を


帰国後、外国人と日本で触れ合えるプラットフォームを作ることにしました。日本でも外国人の友達を作りたいと思ったんです。もともと友達は少なく、深く狭くのタイプだったのに、異国の地で親友と思える人と出会えたのが嬉しくて。当たり前のことなんですけど、英語がネイティブレベルではなくても親友ができるということが新鮮な喜びでした。

だから、私のような経験を、海外に住めない人たちにも味わってほしいと思ったんです。そこで何をやるか、と考え、外国人にもっと「広く」「深く」日本を発信するコミュニティ、The International Center in Tokyo (ICT) という国際交流団体を立ち上げました。

最初に始めたのは、日本について英語でディスカッションするクラスでした。月に2回カフェに集まり、節分やお花見のような日本の行事や習慣について、関連記事を見ながら、英語で話すんです。

参加者の方から、今度は日本の「文化」を伝えるワークショップをしてほしいと言われ、お茶やお花をやり始めました。

集客できないのが大変でしたね。イベントをやっても来ない、外国人が本当に知りたい日本が何なのか、わからない。本当にゼロから、ネットワークのない状態から作ったので、途中は挫折しそうなくらい苦痛でした。

参加者が増えてからは、ハロウィンやクリスマスパーティを開催しています。3~4年かけて大きくなりましたね。

日本の魅力ある商品を海外の人に伝える


ICTで5年間、200回程イベントを企画しました。日本文化の魅力を発信する中で「日本のこういう商品はおもしろいね」という話を聞く機会があったんです。国によって認知度にばらつきがあると気づき、日本の商品を海外の人にもっと知ってもらいたいと思うようになりました。

その想いがだんだん強くなって、メイド・イン・ジャパンのプロダクトを海外に広げるのも、日本文化を伝えることになるのかなと考え始めました。それで、海外進出を控えた日本企業の商品が海外で本当に売れるのか、を国内で簡単に調査できるサービスを作ったんです。

そのサービスで、ある程度実績がたまったのと、大きなクライアントと取引するために法人化する必要があったので、ニーズアーチ(NeedsArch Inc.) という会社を立ち上げました。

ニーズアーチでは、共同代表にCEOとして経営を任せ、私はCOOとして営業から案件依頼までを担当しています。今は育児と両立しながらなので、営業はあまりできていませんが、たまに展示会に出たり、口コミから案件を頂いたりしています。

リサーチで、日本商品を外国人に見てもらう度に、新発見や驚きがあるんです。例えば日本では2枚1パックで売ってる商品が、海外だと3枚1パックが当たり前とか。日本のパッケージ表記が、海外の方が見ると中身が何か全くわからないとか。

日本とは違う価値観や目線に触れるときが、このサービスをやってておもしろいなって思える瞬間ですね。あとはクライアントの方に、現地の人の意見やアイデアを国内で簡単に得られる、と喜んでいただけるのは一番の醍醐味かなと思います。

課題は、マンパワー不足ですね。子どもを保育園に預けていないので、日中は家事育児がメインで、自分の時間を仕事に割けないんです。深夜に仕事をしたり、週に1、2回は子どもを両家の親に預けたりしながら、なんとかこなしています。

周りのサポートがないと、本当に何もできないですね。ただ、やりたいことを明確にして想いを伝えると周りも応援しくれるので、サポートに感謝しつつ、頼り上手になって、仕事と家庭のバランスをとっています。

2つの活動で日本の魅力を発信する


現在、ICTという国際交流団体と、ニーズアーチという会社の2つを運営しています。ICTでは、在住・訪日外国人向けに日本の文化や魅力を体験できるイベントの企画運営をしています。ニーズアーチでは、外国人向けのテストマーケティング(主にリサーチ)をしています。

実はICTとニーズアーチは両輪になっているんです。ICTのイベントに来てくれた外国の方がニーズアーチのモニターにもなれるし、ニーズアーチでモニターになってくれた方がICTのイベントにも参加できる。調査会社だと、オンライン上で登録して、会議室で話を聞いて、謝礼を払ったら終わりですよね。私からすると無機質な感じで、せっかく出会った人との縁がそこで終わってしまうのはもったいないと思うんです。

イベントでまた会えるICTのような受け皿があれば、またそこで楽しんでもらうことができます。ICTの参加者がモニターになってくれれば、全体のプラットフォームも拡充する、うまく2つで動かすようにしてます。

日本の「魅力」を発信したいという想いは変わりません。それはICTもニーズアーチも同じです。それが文化なのか、商品なのかの違いです。そこさえブレなければ、いろいろな拡大の方法があると思っています。

ICTは今後もイベントの企画運営をメインで行っていきます。ニーズアーチは、現在はリサーチがメインですが、今後は商品の投資なども考えています。リサーチの先もマーケティング、コンサルティングやブランディングまでできるようなトータルサービスにしていきたいと思っています。

将来的には、自分がいいなと思った商品に投資して、自分で海外に持っていくか、海外拠点を作るか。大きな構想という意味では、そういうビジョンで動いています。

もちろん会社として収益最大化は大事です。でも、いろいろな日本企業の海外進出を最低限のコストでサポートしたい、それで日本の魅力が海外に広がる社会貢献をしたいという想いが強いですね。

いろいろな話が来るとブレそうになるんですけど、お金だけ稼げば良いとは思っていません。そこは真面目なキャラが活きていて、初志貫徹でブレないように仕事を選び、一歩一歩確実に進んでいます。

最終的には、日本人の優しいところ、丁寧なところを、人や商品、文化を通じて、海外に届けたいです。日本って遠い、よくわからない国だと外国の方から思われがちなので、少しでも日本をアピールしたいし、日本のファンを一人でも多く増やしたいです。

外国人の方が日本から母国へ帰った時に、「日本のこういうところが良かったよ」って周りに言ってくれたら、日本の良さが蜘蛛の巣状に広がっていきますよね。いつか、アフリカの奥地に住む人にも「日本ってこういう国だよ」「じゃあ日本に行ってみよう、本物を見てみよう」って知ってもらえるくらいに、広く繋がっていけば嬉しいなと思いますね。

2017.11.20

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