島の中の山寺を身近な存在に。外に出たから分かる魅力で島を盛り上げる。

瀬戸内海に浮かぶ塩飽諸島の寺をまとめる「正覚院」の副住職を務める三好さん。京都、東京、ジュネーブと様々な場所で暮らしたからこそ感じられる地元の魅力とは。お話を伺いました。

三好 祥晃

みよし よしあき|副住職
塩飽諸島本島にある真言宗醍醐派寺院「正覚院」の副住職を務める。

寺を継ぎたくなかった


香川県丸亀市の離島「本島」で、真言宗醍醐派の寺を営む僧侶の家庭に生まれました。私が生まれた「正覚院」は1300年ほど前に建てられた、塩飽諸島の本島にある寺です。

住居とお堂は繋がっていましたが、小さい頃は年中行事の手伝いをする程度で、朝早く起きてお経を読むことなどはありませんでした。ただ、寺で基本になるのは掃除なので、小さい頃から掃除だけはやっていましたね。正覚院は山の中にある寺なので、落ち葉掃除が大変なんです。小学生になった時に、竹箒の使い方がうまいと担任の先生に褒められた記憶があります。

子どもの頃は、実家が寺というのは嫌でしたし、継ぎたいとも思いませんでした。まず、父親が丸坊主でいることが嫌だったんです。他の友達のお父さんは髪の毛があるのに、自分の父親だけ丸坊主でいるのが恥ずかしくて。見た目はかっこよくないし「こうはなりたくない」と子ども心に感じました。将来は警察官とか弁護士とか、一般的な仕事に就きたいと思いましたね。

中学卒業後は、京都の高校に通うことになりました。島には中学校までしかないので、多くの人は島から船で通うか、丸亀で下宿して通うんですけど、僕の場合は、父から京都の学校に進学することを勧められたんです。醍醐派の総本山である「醍醐寺」に住み込み、そこから学校に通わないかと。

他に行きたい学校があったので、最初は嫌でした。しかし、とにかく受験をするように勧められて、結局、京都の高校に進学することに決まりました。15歳で地元を離れて知らない土地で生活するなんて不安しかありませんし、寺で生まれたといっても、総本山の醍醐寺での生活は全くイメージできません。ワクワクする気持ちはありませんでしたね。

京都、東京と大都会で暮らす


島生まれの僕からすると、京都の様な大都会での生活は分からないことの連続でした。それまで電車に乗ることなんてほとんどなかったので、まず改札の通り方が分かりません。最初の頃は、電車に乗るだけで緊張しました。

学校は進学校だったので、勉強についていくだけで精一杯。寺のお勤めがあって部活にも入れなかったので、あまり楽しいとは思えませんでした。

お小遣いを頂いていたので、土日も休みなくお寺のお勤めをしていました。平日も毎朝5時頃に起きて、朝のお勤めや掃除をします。学校が終わった後はすぐに帰り、翌朝の準備をしますから、日中に友達と遊びに出かけることはありませんでした。

冬場は特に大変でしたね。醍醐寺は山の麓にあるので、山の冷気が降りてきます。雑巾もカチンコチンに凍るくらいの寒さの中、毎日お勤めをするのは辛かったですね。それでも、先輩や周りの人に恵まれたので、逃げ出そうとは思いませんでした。優しくしてもらいましたし、「わからないことは聞いてよ」みたいな雰囲気で生活できましたから。

高校卒業後は、学校推薦をもらい東京の大学に進学しました。将来のことはあまり考えていませんでした。東京に出たのも、推薦で行ける学校がたまたま東京の大学だったからです。

東京は、小さい頃にディズニーランドに来たことがあるくらいで記憶にはなく、テレビの中でしか見たことがない場所でした。渋谷のスクランブル交差点を目の前にしただけで感動したほどです。

高校で部活に入れなかった反動で、大学では運動部に入りたいと思っていました。元々はサッカーをやりたかったんですが、未経験で入るにはレベルが高すぎたので、まずは基礎体力をつけるためにボート部に入りました。その後、予定通り2年目からサッカーサークル移って活動しました。

また、青年が集まる奉仕組織に入っていたので、社会人も含めたいろんな人に会う機会をもらいました。基本的には島での仕事しか知らなかったので、様々な仕事をしている人と実際に会って話せたのは、自分の中では大きいことでした。

就職せずに留学を決意


3年生になると、周りと同じように就職活動や公務員試験の勉強を始めましたが、あまり身が入りませんでした。これといってやりたいことがなかったんです。ただ、唯一好きだったのが英語で、漠然と留学してみたいという憧れはありました。そのため、就職活動と並行して、留学エージェントも回っていました。

すると、下宿していた寺の住職からの誘いで、スイスのジュネーブに留学できることになりました。僕が下宿していたのは、品川にある「品川寺(ほんせんじ)」という寺ですが、その昔、品川寺の梵鐘が紛失した際にジュネーブで見つかったという背景があり、それ以来、品川とジュネーブは友好都市として交流が続いていたんです。

大学を卒業し、フランス語の学校に半年ほど通った後、ジュネーブに留学しました。ワクワクしかなかったですね。元々、ジュネーブから日本に留学していた友達と品川寺で1年ほど一緒に住んでいたので、不安はありませんでした。友達と飲みに行ったり、クラブに行ったり、学生生活を満喫しました。

海外に来て、実際に外国人と話してみて、あたり前のことですけど「外国人も同じ人間なんだな」ということがわかりました。国や言葉違えども、相手の反応を理解できるし、思いは通じ合えると分かったんです。それまで日本人としか交流したことがなかったので、いくら知識があっても実感を持てませんでしたが、直接話したことで、一緒だと体感できたんです。

例えば、「欧米人は物事をはっきり言う」とかいうじゃないですか。それだけ聞くと、まるで相手のことは関係なしに自分の意見を主張するようにも聞こえますが、実際はちゃんと思いがあっての意見なんですよね。日本人は相手の気持ちを想像して話すと言われますけど、同じような感覚を外国の人も持っていると分かったんです。

就職と跡継ぎ


1年で留学を終えた後は、東京に戻り出版社で働き始めました。ただ、長く働くつもりはなく、将来的に寺に戻ることを決めていました。留学を通じて、寺を継ぐことに対して前向きになれたんです。

よく、海外に出たら日本の良さが分かると言いますけど、その通りでした。ジュネーブでは日本に興味がある方と話す機会が多かったんですけど、海外の人から見た日本の文化の魅力などを聞いているうちに、京都が美しい町だといわれる観点が分かりましたし、寺の世界もいいなと思えたんです。「日本文化」というくくりで見た時に、寺にも魅力があると感じたというか。そのため、出版社には、後々は寺に戻るという前提で受け入れてもらいました。

職場で出会った人は、それまでに出会ったことのないような衝撃的な人ばかりでした。プロ意識が高く、仕事に対してすごく前向きに取り組んでいる人ばかりなんです。毎日超多忙なのに弱音は吐かないし、過密スケジュールをこなすために手際も良い。それぞれ、自分の担当する分野で頑張っている姿が魅力的だと思いました。

2年ほどして、父にそろそろ戻ってほしいと言われたことや、人事異動のタイミングが重なったので、寺に戻ることに決めました。10数年ぶりの島での暮らしは、どこか新鮮な感じがしました。子どもの頃はただの田舎としか思わなかったんですけど、京都、東京、ジュネーブでの暮らしを経験して戻ってきてみると、この場所ならではの良さがあることに気づいたんです。

一番魅力だと感じる点は、自然があること。海があって、山があるこの島は、本当にいい環境だと思います。あとは、人の暖かさや思いやり。道で人とすれ違った時に挨拶をしたり、声をかけたり、そういうのって東京にはありませんでした。島の人はみんな顔見知りだから、というのもあるかもしれませんが、交流が生まれるのはいいところだなと思います。

島内外から愛される島に


現在は、正覚院の副住職として、お参りに来た方とお話したり、御朱印帳を書いたりしています。正覚院の立場上、一般的に言われる檀家さんはほとんどいないのですが、塩飽諸島の他の寺の檀家さんの家に法事でお参りしたりもします。

檀家寺ではないので、残念ながら本島内の人たちとの交流はそこまでありません。今後は、本島の人にもお参りに来て頂けるような寺にしたいと考えています。例えば、瞑想や写経、茶道や華道など、体験できることを増やすことで、人が集まりやすくなるのではと思います。

外から帰って来て思うのは、島の中の山にある正覚院は、修行をするにはとてもいい環境だということ。そういう魅力をしっかりと伝え、仏教の教えなどを広める場所にできたらと思います。

特に、「禅」という言葉はフランス語にも登録されるほど海外で注目されている日本文化です。真言宗では「阿字観」というのが禅にあたります。海外の人にも体験できるようにしたいですし、ルーツになっているヨガを学ぶために、僕自信がインドに行きたい気持ちもあります。

寺に帰って来て1年ほど経ちますが、個人的には、寺をやっていくだけでなく、島興しにも取り組みたいと考えています。島の過疎化は深刻で、僕が住んでいた10年前は600人を超えていた人口は半分近くに減ってしまいました。10年でここまで人が減るのかと、あらためて思い知りました。だから、島を元気づけるために何かしようと、同世代の友達と一緒に話しています。

活動の根底にあるのは、郷土愛だと思います。小さい島ですけど、色々な歴史があって、魅力もたくさんある。それが、どんどん廃れてしまい、人がいなくなって埋もれてしまうのはもったいないと思うんです。島に暮らしている若い子にも、島の歴史や魅力は知ってほしいですし、島外の方にも、単純に「この話おもしろいやん」ということを知ってもらえたら嬉しいですね。

2017.04.27

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