大切な人が安心して暮らせる社会を。ワンコインで使えるセキュリティサービス。

月々ワンコインから使える手軽なホームセキュリティサービスを提供する原田さん。インターネット回線の販売代理店を経営する中、新たな事業を立ち上げることになったきっかけとは。お話を伺いました。

原田 宏人

はらだ ひろと|ホームセキュリティサービス提供
月々ワンコインから利用できるホームセキュリティサービス「SMART ROOM SECURITY(スマートルームセキュリティ)」を運営する株式会社プリンシプルの代表取締役を務める。

普通の学校、普通の仕事、普通の人生


福岡県春日市で育ちました。5人兄弟の4人目で、年の離れた3人の兄、下には妹がいます。父は電気工事会社を経営しており、祖父も事業をしていました。とはいえ私は四男ですし、親の会社を継ぐこともありませんし、自分で事業を起こそうだなんていう気もさらさらありませんでした。

両親は礼儀なんかには厳しかったんですが、基本的には好きなようにやりなさいと自由を認めてくれる家庭でした。私のすぐ上の兄とは7歳ほど離れていたこともあって、自由にさせてくれたのかもしれません。

子どもの頃は、どちらかというと活発な方ではありましたが、中心になって色んなことをするようなタイプではありませんでした。面白いことを周りで見ている感じでしょうか。サッカー部に入っていましたが、それはもうヘタクソだったんです。高校3年生になってもベンチにすら入れませんでしたから。

そういった環境や性格もあってか、本当に何も考えていない人間でしたね。高校のときに、将来どうなりたいのかと質問された私は「9時5時で仕事が終わる会社に入って、土日は子どもと公園でキャッチボールでもしていたいなぁ」と答えたのを覚えているのですが、それくらい将来を深く考えてはいませんでした。

偏差値50ちょいの本当に文字通り平均という感じの高校に通っていて、基本的には地元の大学に進学する人が多かったんです。当初は私も地元の福岡大学に進学しようと考えていたんですが、なんとなく抱いていた「早く働きに出た方がいいんじゃないか」という漠然とした思いと、ITが注目されていたという理由だけで、結局プログラミングなんかを学べる専門学校に行くことにしたんです。

自分の人生を生きる兄が眩しく見えた


専門学校に入って、1年生の途中で就職活動が始まったころ。三番目の兄に再会したことが大きな転機となりました。というのも、その兄が変わり者で、家をほぼ勘当のような形で出て行った兄だったんです。兄が大学に入学して1ヶ月も経たないで「大学で学べることがない気がする」と大学を辞めたいと言い出し、大金を払っているんだから通いなさいと怒る親の言葉を押し切って辞めてしまったことがきっかけでした。

私が東京の会社説明会にいくタイミングで、親から東京にいるその兄のところに泊めてもらいなさいと言われたんです。私は知らなかったんですが、その頃には連絡を取り合うようになっていたみたいなんです。

池袋でかなり久しぶりに兄と会ったのですが、高級外車に乗って迎えに来た兄の羽振りの良さそうな姿をみて、この人は何の仕事をしてるんだと訝しがっていました。良い家に住んでいましたし、帰ってくるのは深夜過ぎ。正直、人に言えない仕事でもしているんじゃないかと思いましたから。

そんな兄に「何しに来たんだ?」と聞かれたので、就職活動の話をしました。今ITが盛り上がっているようだから、プログラミングでも学んでIT企業に就職しようと思っている。そう話すと、兄貴からは「そういうのが好きなんだ?」と聞かれました。 それに対して「いや、別に好きでもないけど今ITって調子良いからそこに就職しておけば間違いないでしょう」と答えると、ひどく叱られました。もっと自分の人生を大事にしろよって。

正直イラっとしました。そういう兄貴は何やってるんだと聞いてみたら、自分でダイニングバーを経営していて、ちょうどその頃2店舗目をオープンさせるために忙しくしてるようでした。兄は「自分が死んだときに、原田さんがきっかけで人生が変わりました」と言われるような生き方がしたいと言っていたんです。それを聞いたとき、単純にカッコいいなって思いましたね。

それまでは自分が起業するだなんて考えもしなかったんですが、よく考えたら父も祖父も事業をしているし、兄と同じようにその血を自分も継いでいるんだから、自分にも何かできるかもしれない。単純にそう思ったんです。

とはいえ、何から始めていいのかまったくわかりません。兄に相談してみたところ、それならまずは営業をするといい、営業が商売の基本だからとアドバイスを受けたこともあり、すぐに通信回線を販売する会社で働き始めることに。当時18歳。専門学校に通いながら働きました。毎晩のように兄に電話して仕事の相談ができたのもあって、最初からわりあいスムーズに仕事をスタートできましたね。

「何のために働くか」を見失っていた


意味を見いだせなくなっていた専門学校は、1年でやめるという選択もあったのですが、会社の出社を単位として認めてもらったりして一応卒業しました。なんとなく卒業はした方がいいだろうと考えたんだと思います。

それから、営業を軸にいくつもの企業を転々としました。回線営業の他に、不動産会社や山を売る仕事、アルバイト求人情報WEBサイトなど、様々です。自分の中では、他業界の営業をやってみよう、福岡よりもレベルが高いであろう東京でやってみよう、法人営業もやってみよう、といった具合に、毎回何かしらの理由がありました。

そんな生活を数年続け、自分で稼げる自信がついたこともあって起業を決意しました。23歳の時です。兄には反対されました。自分で営業することができても、マネジメントができなければ会社は成長しないからマネジメントを経験してからにしろって。それまでは兄に逆らったことはなかったんですが「いける!」という確信の方が勝ったんですね。

回線販売の代理店はある程度経験があって営業ができれば儲かるシンプルな業界なので、最初から割とうまくいきました。代理店のランキングでも福岡ナンバー1、九州ナンバー1、西日本ナンバー1とランクインされることもありました。ただ、お金稼ぎや成果だけが目的になってしまっていることに違和感を感じ始めてもいました。それに、社員の数が増えるにつれ、統率する軸がお金や成績だけだとまとまらなくなるんですね。兄の言った通りになりました。

18歳の頃は、兄の「仕事や人生に対する姿勢」と「生活」の両方に憧れて起業のスイッチが入ったはずなのに、いつの間にか人生に対する姿勢は忘れて、成果ばかりに意識が向いていたように思います。

そんな状態で5年ほど経営していると、幹部社員が相次いで退社したり、経営状況が芳しく無い時期があったり、それなりの試練を味わいました。そんな中で、結婚し子どもを持つ社員も出始め、この会社をどのように経営すべきなのか、自分の人生を使って何をしたいのか、あらためて考えるようになりました。

そんなときに、知人を介して知ったのがデイサービスという領域です。もちろん事業的な価値もあるし、時代の流れが高齢化社会に向かう中、社会的な意義もある。そこに惹かれ、その業界のいくつかの会社と話をし、テナント契約寸前までいきました。

娘を持つ父として、解決したいこと


ちょうどその頃、第一子である娘が生まれたんです。それをきっかけに物事の捉え方が大きく変わりました。まるで情報を受け取るアンテナが入れ替わったような感覚でした。

例えば、親が子どもを虐待して殺してしまうような悲惨な事件をニュースでみたとき、娘が生まれる前は、数あるニュースの中の一つとしてしか捉えられていなかったのに、我が子と重ね合わせてしまい、悲しさで心が止まってしまうような感覚をもつようになりました。情報を受け取る感度がガラッと変わったんです。

よく子どもができると価値観が変わるといいますが、まさにそれを実感することがありました。社員の知人の女性が性犯罪被害に遭われたという話を聞いたんです。性犯罪被害にあうと、6〜7割はPTSDやうつ病を患うと言われています。その女性も1ヶ月ほど家から出られなくなったのだそうです。少し時間が経って友だちが集まって食事会を開いた時は、その女性に笑顔も戻ってきたし良かったね、なんて話をしたそうなんですが、それから1週間後、自殺をされたという話を聞き、衝撃を受けました。

その女性の気持ちはもちろんですが、私自身が親になるというタイミングだったため、女性のお父さんの気持ちになってその話を捉えていたのだと思います。

いろいろ調べてみると、福岡県は子どもや女性が被害にあう性犯罪の発生率が全国的に見ても毎年ワースト常連でした。また、私の想像していた以上に不安を感じながら生活している方が多いことも知りました。デイサービス事業の検討で知った高齢者の課題も大変なことですが、子どもや女性を取り巻くこの課題を解決する何かができないかと考え始めていました。

正直にいうと、社会とか日本とか福岡とか大きな話ではなく、自分の娘が安全に安心して暮らせるようにするために何ができるのか、というところからスタートしたのです。

安全で安心した生活を確保するのに、ホームセキュリティをうまく活用できないかと考えましたが、既存のホームセキュリティには課題が多すぎました。まず何より、高い。初期費用も高いし、月額も高い。お金持ちのためのサービスになってしまっているんです。

さらに、一般的な契約は5年縛りがついてくる。単身女性は、賃貸住宅に住みはじめて数年で引っ越してしまうことがほとんどですし、大学生の場合2〜4年程度で転居することが多いことからも、サービスの形が合っていないという問題もありました。

実は、ホームセキュリティの機器自体は、ホームセンターなんかでも売っているんです。警備会社の人が来るわけではないので、自主警備という領域なんですが。新規事業にお金を使えなかった初期は、それを使って何かできないかを考えるところから始めました。手っ取り早く携帯電話のアプリを連携させるかたちで試してみたところ、そのサービスがけっこう売れて。これは世の中にも求められていると確信を持てたこともあり、そこからオリジナルのデバイスの開発を進めました。

とはいえ、自主警備だと、携帯電話などに通知が飛ぶだけ。警備員が来なければさほど意味がない、何とか警備会社と組めないかと思ったんです。しかし警備会社につながりがあったわけではありませんでした。

仕方ないのでFacebookで警備会社を探して、そこに「いいね!」しているおそらく従業員であろう方たちの自分との共通の友だちを探し、その友達にお願いしてアポをとったりと地道に活動しました。割と堅い業界なので開拓は難しかったですが、担当してくださった方のお力添えもあり、最後はお世話になっている先輩経営者から警備会社の役員の方を紹介してもらえたことで何とか提携までこぎつけました。

お守りのようなサービス


私が今取り組んでいる事業は、スマートルームセキュリティです。「大切な人が安心して暮らすことのできるまちをつくる」という理念を掲げています。いわゆるホームセキュリティの10分の1程度の価格で提供することにより、誰でも使えるセキュリティをコンセプトにしています。

ワンコインという安価を実現できたのは、自前の機器を開発しているというのがひとつ。警備員や車両を自社で抱えるとコストがかかるため自社では持たず、そのかわり、既存の警備会社さんのリソースを借り受けることで成り立たせています。

一般的なホームセキュリティと違うのは、機器が異常を検知したらすぐに警備員が駆けつけるのではなく、事前に登録しておいた5人のユーザーのスマホにまずメールとアプリで通知がいくこと。緊急地震速報のように、マナーモードを飛び越えて通知するようになっていたり、通知に気づかれないと次は自動で電話が掛かってき続けます。通知を受け取ったユーザーが警備会社に出動依頼した場合にのみ警備員が出動します。一般的なサービスでは誤作動や誤操作により警備員が出動するケースは多いのですが、スマートルームセキュリティはそういった無駄なコストが省けます。

既存の警備会社さんは、そんな単価が低い上に手間の掛かることを積極的にはやりません。弊社はベンチャーで固定費の低い「持たざる経営」ができるのが特徴です。

私たちは、社外の方々のご支援に非常に恵まれていると思います。これは回線販売の事業をしている時には考えられなかったことです。以前はお金を稼ぐために働いていて、「通信回線を売ることで人を幸せにできる」というところまで思いを乗せることができていなかったからかもしれません。その頃と比べて、この事業になってからは周りの方が力を貸してくださることも増えましたし、仕事の充実感もぜんぜん違います。

今は、安全安心に生活できる社会にしたいですし、それに寄与できるんじゃないかという思いがあります。社会というと崇高なように聞こえますが、もっと身近なもので、この事業を通して「大切な人が安心して暮らせるまち」をつくるということに繋がっていくんだと感じています。この事業は私のライフワークです。お金の多寡ではなく、自分の人生の限りある貴重な時間を使う価値のある事業だと確信しています。

私たちが提供しているのは、防犯サービスというよりも、お守りのような安心感や絆を強くさせるサービスなのかもしれません。初めて一人暮らしをする娘さんを送り出した親御さんから感謝のお言葉を頂いたりすると、本当に嬉しいです。

また、お客様のご自宅に設置する防犯機器の親機は拡張性があり、ドアの開閉だけではなく、温度や湿度などを取り込んでいく機能も組み込んでいくことができます。他にも、他社のIoTサービス、例えば電子錠のスマートロックや防犯カメラと連携できますし、インフラとなるガスや電気、通信事業者さんと連携する事例も出て来ています。デバイス上で得たデータをAIを用いて分析することで、さらなるビジネスチャンスが生まれるとも考えています。

基本的に個人宅のセキュリティに軸を置いているのですが、住宅にあるさまざまなシステムやサービスと組み合わせることが安全安心の強化に繋がるのであれば、協業してサービスを拡充したいと考えています。

ちょうど最近、全国展開も始めました。さまざまなサービスの事業者さんと連携して事業を展開していければと思いますが、主軸となるのはやはり、大切な人が安心して暮らすことのできる社会の実現です。

2017.04.25

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