生活の中心にあるのは、愛なんです。大切なメッセージが込められた絵本を日本語に。

英語の絵本を日本語で出版するため、奮闘するStephanieさん。本職は英語の講師。英語の講師をしながら、絵本の翻訳版を出版しようと考えた背景には、どんな想いがあるのでしょうか。

Stephanie Yu

ステファニー ユウ|英語講師
英語の講師として働くかたわら、『Give me a hug』の日本語版の出版エージェントを務める。

香港生まれ。15歳でアメリカに


私は香港で生まれました。中国に返還される前のイギリス統治下の香港で、中国語と英語の両方で教育を受けました。何となく、英語のほうが好きでしたね。

小学校3年生から6年生まで担任してくれた先生が好きで、将来は先生になりたいと思っていましたね。自分の経験を人に伝える先生の仕事って素敵だなと思いました。

15歳の時、交換留学生としてアメリカのオハイオ州に行きました。英語が好きでしたし、海外に興味がありました。不安は全くなくて、ワクワクしかありませんでしたね。

ホームステイ先は田舎で、タクシーもバスも電車もないような場所でした。それまで都会で暮らしていた私には衝撃的でした。こんな環境でどうやって生活するのかと思いましたね。

それでも、現地の人は優しい人ばかりで、居心地の良い生活を送れました。アメリカは危険だと思っていましたが、私のいた地域は安全でした。みんな玄関に鍵をかけず、車の窓も開けっぱなしで、私が大丈夫なのかと心配するほどでした。

ホストマザーと散歩に行くと、ホストマザーはすれ違う人みんなに「ハロー」とか、「ハーイ」と声をかけます。「みんな知り合いなの?」と聞くと、「いや、違うよ」。友達でなくても、誰にでも声をかける。相手にどう思われるかを考えて躊躇するのではなく、自分から積極的に声をかけることが大切。そんなことを感じました。

アメリカの高校に2年通い、飛び級で1年早く大学に進めることになりました。大学に早く入れるのはラッキーだと思い、香港に戻らずそのままアメリカに残ることにしました。

彼を追いかけて日本へ


大学では、最初の2年間はビジネスを学び、途中から微生物の研究に専攻を変更して、合計5年間通いました。医学部に進みたいと思いましたが、試験に落ちてしまい、叶いませんでした。

興味があって選びましたが、微生物の研究は、あまり好きになれませんでしたね。微生物の研究室は地下にあって、窓もない部屋でした。薄暗い研究室にこもって、誰とも会話せずにただひたすら顕微鏡を覗くだけの研究生活は、性に合いませんでした。

大学卒業後は、日本企業のインターンシップに参加するために、日本で暮らし始めました。数ヶ月のインターンシップを終えた後は、日本の英語学校で働き始めました。昔から先生になりかったことに加えて、英語が好きだったので、自分に合っていましたね。日本人と結婚して、日本で暮らすことにしました。

最初は日本語をあまり話せなかったので、苦労しました。顔が日本人とよく似ているためか、いきなり日本語で話しかけられ、何を言われているのかさっぱり分からず、戸惑うことがよくありました。夫の両親に色々助けてもらいましたね。

子どもが生まれてしばらくは専業主婦をしていましたが、日本に来てからほぼずっと英会話学校や高校で英語を教えていました。

未就学児から大人まで様々な年代の方に英語を教える中で、小さい子に英語を教える時は、教科書よりも絵本を使った方が理解してもらいやいと感じました。絵本は、文章自体が面白いので、読んでいても眠くなりません。

ただ、私が働いていた場所では、絵本を買う予算が取れませんでした。それでも絵本を使いたかったので、英語の絵本を個人的に買い集めるようになりました。自分の子どもに絵本を読むのが日課だったこともあって、部屋がいっぱいになるほど大量の絵本が溜まりました。

一冊の絵本との出会い


ある時、香港旅行をしていた友達がNick Vujickさんが書いた『Give me a hug』という絵本を買ってきてくれました。

その本は、著者Nickさんの自伝でした。手足がない状態で生まれ、人の何倍も苦労しながら、両親への愛と感謝を持って、たくましく生きてきたNickさんのストーリーです。Nickさんは、生まれつき手足がないことで、周りからいじめられ、自殺を考えたこともあります。それでも、「never give up」と強い心を持って生きてきました。

その絵本の原作本は、以前、読んだことがありました。ですが、絵本で読むと、その本に込められた家族への愛や、希望を持つのは素晴らしいというメッセージが、テキストよりも分かりやすく伝わってきました。感動して、電車の中で涙を流してしまったほどでした。

もっと多くの人に、この本を読んでもらいたい。この本には、今の日本に必要なメセージが込められている。そう感じました。

それまで、ニュースで、いじめを苦に自殺してしまう子や、家族から虐待されてしまう子の話を聞くたびに、心を痛めていました。私は英語講師として子どもたちと毎日接しているので、他人事だとは思えなかったんです。悲しいことを起こしてしまう人や社会への心のケアとして、この本が必要なのではないかと思いました。

このメッセージを多くの人に伝えたいと思って、英語教材として使い始めました。分かりやすい英語で書かれているので、子どもたちにはすぐに内容を理解してもらえました。子どもたちが生きていくのにとって大切なメッセージが伝わるので、幼稚園の先生たちからも好評でした。

高校の校長先生からは、ぜひ生徒全員に読ませて欲しいと言われました。その高校の国語の先生から、日本語版もあればいいなと言われました。

日本語版を作ろうと、出版社に持ち込んで、日本語版を作ってもらえないか交渉しました。何社か回ったのですが、本の良さを伝えることができずに、どの会社からも出版してもらえませんでした。出版業界の人が集まるブックフェアでも本を見てもらったのですが、それでもダメでした。

そんな時、クラウドファンディングという仕組みがあれば、自分たちでお金を集めて、出版できる可能性があることを知りました。出版社を通さなくても、自分たち次第で出版できるかもしれない。クラウドファンディングで出版する前提で、著作権を持つ香港の会社と交渉し、日本語版を出版する権利を得ました。

生活の中心にある愛


現在は、英語の講師として働きながら、『Give me a hug』の日本語版を出版するための活動をしています。まずはクラウドファンディングで資金を集めて、初版を出したいと思っています。

この本を通して、家族の愛や諦めずに希望を持ち続けることの素晴らしさに加えて、人に頼る大切さを伝えたいですね。この本の中に、Nickさんが、背中を蚊に刺され、痒くて痒くてどうしようもなくなってしまった時のエピソードがあります。自分では掻けなくて人に頼る話なんですが、大変な時は、ひとりで悩み続けるのではなくて「誰か助けて下さい」と言ってもいいんですよね。

ひとりぼっちではない。ひとりで悩まなくていい。相談していいんだということを伝えたいですね。

このプロジェクトは、100%チャリティです。プロジェクトで得られた収益は、全て障害者のための施設や教会などに寄付しようと考えています。私はキリスト教徒ですが、キリスト教には「汝の隣人を愛せよ」という教えがあります。身近な人を愛し、自分以外の人のために何かをするのは、生活の中心にあること、あたり前のことです。人のために何かしたい、何かしなければと思うんです。

最近は、昨年常総市で起きた洪水被害の支援ボランティアもしています。私は常総市の近くに住んでいます。普段通っている道が水没していて、そこで暮らしている人のために何かしたいと思ったんです。ボランティア作業に行ったり、古民家の改修をするプロジェクトも立ち上げたりしているところです。

何かを始める時に、問題なくできるかどうかは、あまり考えていません。やってみて怒られたら止めればいいんです。

英語の先生として働くことも、チャリティをすることも、私の中で共通していることは、誰かのために生きていきたいということです。『Give me a hug』の日本語版を出版して、大切なメッセージを、より多くの日本の人たちに伝えていきたいですね。

2016.04.18

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