人に寄り添うロボット技術を。世界のものづくりに貢献する仕事。

始動 Next Innovator CH】ロボットの「チョット使いにくい」を変えるため、ソフトウェアの開発を行う吹野さん。日本とアメリカで様々な仕事を経験する中で、自分の中でぶれなかった思いとは。お話を伺いました。

吹野 豪

ふきの ごう|自ら考え動くモノづくりロボットシステムの開発
リンクウィズ株式会社の代表取締役を務める。

※本チャンネルは、経済産業省新規産業室の協力でお届けしました。

Thinker(考える人)からDoer(行動する人)へ
日本最高のグローバルに通用するイノベーター育成プログラム
始動Next Innovator

バイクで機械にハマる


千葉で生まれ、幼少期を東京で過ごし、料理人である父の独立を機に、父親の地元である静岡県浜松市に引っ越しました。

高校生の時に、中型自動二輪の免許を取り、バイクを買いました。 YAMAHAのSR-400というバイクです。最初は走ること自体が楽しかったのですが、次第にバイクをもっと知りたくなり、組み立てや分解をするようになりました。改造するのではなくて、分解して元通りに直すだけですが、構造や仕組みが分かるのが面白いんです。

バイクに関わるような仕事をしたい。工学部に進むと決めて、東京の大学に進学しました。料理人の道を継げと言われることもなかったので、将来はそれぐらい漠然としか描いていませんでしたね。

大学で、同じ学部に留学生が多くて、留学生と仲良くなりました。彼らは、非常に優秀で、日本語も英語も現地の言葉も喋ることができます。何もできない自分と彼らを比べて焦りを感じました。彼らは、勉強して将来どうなりたいとか、社会を変えたいとか夢があって、それを恥ずかしがらずに語るんですよね。最初は何を言ってるんだと思っていたんですけど、格好いいなと思い始めて。

一方で自分は、バイクをいじったり数学の問題を解いたり、自分が好きなことをして楽しんでいるだけでした。楽しんでいるだけじゃダメで、学んだことを何に活かしていくのか。留学生と触れ合ううちに、自分の考え方が変わりました。

とりあえず何かをやろう。一緒に同じ教室で勉強している学生なので、学問的な知識はそれほど変わらない。ただ、語学を使えるのはすごい。そう思い、留学することに決めました。それまで英語が嫌いで、全くできなかったんですが、まずはそこから変えようと、休学してカナダの大学に編入しました。

勢いで留学してみたものの、英語を全く喋れず、最初の1週間は帰りたくて仕方がなかったですね。話せなくても交流できるプログラミングとかスノーボードとか、最初はそういうもので仲を深めていき、次第に英語を喋れるようになりました。

家族のために地元に帰る


1年半ほどの滞在で一番大きかったのは、「日本はこうだから」みたいな考え方がなくなったことでした。例えば、「普通はこうする」と日本で言われても、「確かにそうだけど、日本はちょっと特殊だよね」という考え方が自分の中で持てました。

帰国後、金融系の数値シミュレーションソフトウェアを作る会社でインターンを始め、大学卒業後、そのまま就職しました。工学系のソフトウェアなら、金融でも、ものづくりでも何でも良いと思っていたんですが、仕事に慣れてくると、自分のやっていることの意味を感じられていないことに気づきました。ただお金を数えるだけで、何の意味があるのだろうと思ったんです。

自分が社会に提供したい価値とは違うなと、入社4ヶ月ほどで退職しました。昔から興味があったものづくりの仕事をするため、地元浜松の電機メーカーに転職しました。

地元に戻った理由には、家族の側にいたいという気持ちがありました。両親が飲食店を経営していたので、小さい頃は祖父母に面倒を見てもらうことが多かったのですが、祖父は私が留学中に亡くなってしまいました。祖母の体調があまり良くなかったので、祖母の側にいてあげたかったんです。

転職先では、新規事業として、3次元カメラや3次元スキャナーを作りました。ソフトウェアの開発から、ハードウェアのメンテナンス、海外営業まで、とにかく色々なことにチャレンジできました。

自分たちの作った製品が、大手自動車メーカーの品質管理用の標準検査装置に導入された時は嬉しかったですね。自分の仕事が、社会で多くの人が使う製品の品質や安全に寄与している。寝ずに働いていてもいいと思えるほど、最高に楽しかったです。

ロボットに3次元センサーを


ある時、ものづくりの工場で使われている、産業用ロボットの存在を知りました。ロボットは基本的には教えたことを毎回繰り返すんですけど、ものづくりの中では色んな誤差が生まれるので、同じ通りに動くだけだとその誤差に対応できません。誤差に対応するため、人が張り付いて細かく調整する、ロボットティーチングと呼ばれる作業が必要でした。つまり、ロボットを使うための職人が必要なんです。

それを知った時、ロボットに3次元カメラをつけるというアイディアが浮かびました。ロボットのアームの先に3次元カメラをつけて対象物がどういう状態か認識すれば、それに沿ってロボットが自動で動きを作れると考えたんです。

これができれば、ものづくりを大幅に効率化できます。他の会社を巻き込んで、3社でプロジェクト化しました。実際に導入を決めてくれる工場もあったのですが、技術的な難しさや、3社の権利関係が複雑で、プロジェクトは頓挫しました。悔しさを感じましたが、仕事が山積みで落ち込んでいる暇はありませんでした。いつかチャンスがあったらまた挑戦しよう。そう心に決めていました。

1年半ほど働き、3次元カメラの販売先のアメリカにある玩具メーカーに転職しました。自分たちが作った製品が、ものづくりの現場でどう使われているか見たかったんです。

転職先では、本物の車と同じくらい精密なミニカーを作っていました。私の仕事は、リバースエンジニアリングと言って、 完成した車の動作を観察したり分解したりすることで、構造を理解して設計図を作ることでした。その時に、3次元カメラが活用されるんです。

精密なミニカーなので、ただ玩具として使われるのでなく、自動車メーカーのプロモーションにも使われていました。世界中の自動車メーカーから注文があり、ありとあらゆる自動車メーカーに行き、車の設計図を作りました。メカ好きとしては楽しかったですね。ただ、どこかでアメリカでの生活に区切りを付けようと思っていましたし、ものづくりの他のプロセスも見てみたいと思っていたので、4年半ほどで会社をやめて日本に戻りました。

挑戦しない理由なんてない


それまでの仕事で携わってきたのが、ものづくりの設計や製造、販売のプロセスでした。今度は、ものづくりを支えるソフトウェアを作る仕事をしたいと思い、浜松のソフトウェア会社に入り、3次元設計開発支援ソフトの開発を始めました。

社長に惹かれたのも入社理由の一つでした。プログラマーとして天才的な所と、新しい挑戦に前向きな姿勢に魅力を感じたんですよね。

転職後しばらくして、社長に、以前考えていた、ロボットに三次元カメラをつけるアイディアについて話をしてみました。「ロボットに三次元カメラをつけるって、面白くないですか。もう一回やりたいと思っているんですよね」と話した所、「そう思っているなら、やらない理由はないでしょ。今の会社にいたら安定するし給料も増えるかもしれない。でも、それってお前楽しいの?」と言われたんですよ。

その話を聞いて、「やらない理由はないんだ」と、嬉しい気持ちが湧いてきました。それまで、やらない理由をすぐに考えてしまっていましたが、やりたいことを我慢する必要はないんじゃない、単純にやりたいことをやっていいんだと思えて。嬉しさ、喜びに近い気持ちでしたね。

それから独立のために動き始めました。以前の会社で検討した、ロボットに3次元カメラをつけるプロジェクトのメンバーに声をかけると、ふたりが一緒にやってくれることになりました。チャレンジへの不安は人並みにはありました。売上の目処が全くないのに、従業員2人分のお金は自動的に出ていきますから。でも、もう一回やってみたいという気持ちの方が大きかったので、2015年3月、3人で会社を立ち上げました。

最初はオフィスにテーブルも届かず、キャンプ用のテーブルを広げてのスタートでした。会社の名前が知られていないので、社外の人に会う時に難しさを感じましたね。会社名を言っても伝わりませんし、「3人の会社?なにそれ?」という反応をされるんです。

それが、経産省のイノベーター育成プログラムに選抜されてからは、風向きが変わりました。媒体に出たり、経産省のプログラムに参加していると、3人の会社でも会ってもらえるんですよね。また、そこに参加する他の企業の人との繋がりで、会いたい人に会えるようになりました。

経産省のプログラムに参加している周りのメンバーは、大企業の新規事業担当者ばかりで、事業規模の差に圧倒されましたね。私たちは2年で2億円の事業にするとか、ゆっくり成長すればいいと思っていたのですが、周りのメンバーは、1年で1000億円の事業にするとか話していて。正直、自分と周りのメンバーを比べてしまって、プログラムにあまり行きたくないと思うこともありました。

ですが、それくらい大きな目標を持たないと、事業は成長しないということがよく分かりました。それからは、自分の中でも、より大きな成長をイメージできるようになりました。

人に優しいロボット技術を


現在は、リンクウィズ株式会社の代表取締役として、産業用ロボットの「チョット使いにくい」を変えるソフトウェアを提供しています。

ひとつは、ロボットに3次元センサーを取り付け物体形状を自動で認識し、あたかも人が作業しているようなロボットを実現する「L-Robot」です。作りたいもののデータを取り、対象物をスキャンしてコンピューターがロボットの動きを作り出します。複雑な曲面の場合、人が調整すると何時間もかかりますが、システムを通すことで10分程度に短縮できます。

そこから派生した、「L-Qualify」というソフトウェアも展開しています。データを取って動きを作れるなら、データを使った検査システムだってできるんじゃないかと思いついて、検査用のプログラムを作りました。

例えば、「ビード」と呼ばれる溶接部分の盛り上がりは、設計書には入っていませんが、盛り上がりの高さや形状についての品質基準はあります。しかし、基準は人の目で見て綺麗かどうかだけなんですよね。だったら3次元カメラでデータを集めて、定量評価しましょうというものですね。

日本のモノづくりとはいえ、どうしてもばらつきがでます。ロボットは高性能でも同じ動きしかできないので、ばらつきに対応できないと、微妙な差が蓄積されて不良品が生まれます。部品がばらついているなら、ロボットもそのばらつきに合わせて毎回動きを変えるしかありません。それが、最終的な品質の安定に繋がります。そのためのツールが、L-RobotとL-Qualifyです。

今までは生産した後に品質検査をするのが普通でしたが、3次元カメラで生産している間にデータを取れば、どんな品質のものができ上がるのか作る前に把握できます。それぞれのロボットが、データを収集するデバイスに変わるんです。

1500台以上ロボットが入ってる工場もあるので、ロボットから情報収集できるようになれば、リアルタイムで工場の状態を把握できます。そんなことが、今やりたい最終的な目標なんですよね。

現在は個別のソフトウェア単位で販売をしていますが、今後は、ものづくりの現場で誰もが使える、統合型ロボットシステムを展開していけたらと思います。

ロボットを効率よく使う技術は、これから職人さんが引退していく中で、より重要になると思います。ロボットは人の仕事を奪うと言われたりもしますが、そうじゃないんですよね。人がどんどん減る中で、ロボットが人を助けていかなければ、ものづくりは成り立ちません。

人に寄り添うロボット技術を提供したい。創業メンバー3人とも、根っからのものづくり好きだから、ものづくりに貢献する何かを作りたい。それがミッションです。

2016.03.08

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