覚悟を持てば仕事は楽しくなる。コンサルタントとして医療業界にできること。

歯科医院向けのコンサルティングを専門で行う「経営戦略研究所」の代表取締役を務める岩渕さん。新卒で大手コンサルティング会社に入社。事務仕事の山に耐えられず、2年目で会社を辞めようと思った時に訪れた、考え方の転機とは。お話を伺いました。

岩渕 龍正

いわぶち りゅうせい|歯科専門のコンサルティング
歯科専門経営コンサルティングを提供する経営戦略研究所株式会社の代表取締役社長を務める。また、夫婦経営の正しいやり方と考え方を広く世の中に伝えていく夫婦経営研究所株式会社の代表取締役も務める。

自分の足で立てる生き方を


私は神奈川県横須賀市で生まれました。小学生の頃から高校卒業までは、剣道を続けていました。父に「一度始めたものを途中で投げ出してはダメだ」と言われていたので、途中からは嫌々でしたけどね。それでも、手ぬぐいに書かれていた「忍耐」「努力」「向上心」の言葉が好きで、自ずとその考え方は身につきました。

ある時、父が中小企業診断士の資格を取り、会社を辞めてコンサルタントとして独立しました。「会社に依存するのではなく、自分の力で仕事をできる人になれ」と言われて育ち、私もそんな生き方をしたいと思っていました。ただ、独立しようとは考えておらず、サラリーマンとして個人の力をつけたいと考えていました。

大学では、将来の仕事に役に立つことを勉強したいと考え、経営学部に入りました。中でも、マーケティングにのめり込みました。企業の考え方を知れることや、マーケティングの概念が面白かったんです。

また、マーケティングを教えてくれる先生にも惹かれました。先生は、私の通う大学で講師をしながら、他大学でも教授をしたり、企業のアドバイザーをしたりしていました。大学に属さず、自分の道を歩む。その生き方に惹かれたんです。大手証券会社の倒産のニュースが世間を騒がせていたこととも相まって、どこに行っても通用する力をつけなければと、一層強く感じましたね。

就職活動では、「力をつける」ことを軸にしつつ、大学時代に学んだマーケティングを活かせる仕事を探しました。大手の総合職では、どこの部署に配属されるか分からず、希望が通らない可能性がある。そこで、最終的には、専門的な仕事ができる大手経営コンサルティング会社へ就職しました。

2年目で仕事を辞めることに


入社してからの仕事は、予想に反して事務仕事ばかりでした。クライアントの元には連れて行ってもらえず、名簿の入力やダイレクトメールの送付など、単純作業の繰り返し。しかも、夜遅くに上司から仕事を頼まれ、週に数回は会社に泊まり込む状況でした。コンサルタントとして必要な能力がつくのか、疑問を感じましたね。

雑用ばかり続ける中、2年目の5月の連休に久しぶりにゆっくり休みをとり、旅行に行きました。楽しかった旅行のことを会社の先輩に話すと、「旅行の話なんて、なに普通の人みたいなこと言っているの?力をつけて、自分の足で立ちたいんじゃなかったの?」と言われてしまいました。

その言葉を聞いて、会社を辞めると決意しました。人権も無視する狂った会社だと感じてしまったんです。

ただ、辞めることを大学時代の恩師に話すと、「じゃあ辞めたら?でも、このまま辞めたら転職はできるだろうけど、君が必要だから来てくれと言う会社はないよ」と言われてしまいました。予想外の反応に戸惑いました。

でも、先生の言う通りでした。振り返ると、1年間、事務仕事しかしていないし、いつも指示をもらってから取り組んでいただけ。仕事に対して受け身で、受験勉強の方が主体的に取り組んでいたと思えるほど。そんな状態では、力がつくはずなんてないと。

そこで、会社を辞めるのを止めて、自分が「無理だ」と思うところまでは全力でやってみよう、と決めました。勝手に限界を決めない、事務仕事だからと手を抜かない、とにかく全力で取り組む。それでもダメならその時にまた考えればいい。仕事に対する覚悟が固まりました。

前人未到の歯科業界向け事業


まずは、会社に泊まることを前提に、泊まっても最大限の力を出せるような環境を整えました。また、「あの件はどうなっているの?」と言われる前に、取り組むことを心がけました。仕事とプライベートの両立は厳しいと考え、趣味なども止め、全ての時間を仕事に費やしました。

そうするうちに、業務内容は変わらず、労働時間が増えたのにもかかわらず、仕事を楽しめるようになっていきました。仕事に対するスタンスが変わったことで、成果が出る。すると、評価もされる。やる気が出て、さらに工夫をする。良い循環に入れたんです。

そんな時、「歯科業界」向けコンサルティング事業の立ち上げをすることになりました。元々は、所属していたチームとして、いくつかの業界に進出する予定でしたが、セミナーの告知をして人が集まったのは歯科業界だけでした。それなのに、セミナーの準備が全くできていなくて、その様子に疑問を呈したところ、「じゃあお前がやってみろ」と言われ、私が歯科業界向けコンサルティング事業を立ち上げることになったんです。

しばらくは、結果を出せずにかなり苦労しました。暗闇の中にいるような気持ちで、どうしたらお客さんが満足いく成果を出せるか悩み続けていました。しかも、私に業界の知識はなく、社内に相談できる人もいませんでした。会社として医療業界向けのコンサルティングは提供していなかったので。

それでも、諦める気はありませんでした。歯科業界でコンサルティングニーズが高まることは予測できたし、「歯科業界で日本一の経営コンサルタントになる」と決めていたので、とにかくがむしゃらに働きました。

父の会社を引き継ぐことに


立ち上げから2年ほど経ち、ひとつの成功パターンを見つけてからは、事業は一気に伸びました。会社の中でも圧倒的な成長事業となり、個人としても社長賞を受賞するほどの評価を受けていました。

一方で、父の会社の経営状態が悪化しており、会社を継ぐべきかどうか考えていました。私の勤めていた会社では、「独立しても失敗する」というジンクスがあったので、独立に前向きではありませんでした。しかし、歯科業界のコンサルティング事業を一人で全て仕切り、お客さまに「岩渕さんが社長なんですか?」と言われることもあるほどで、自分の力でやっていくことに多少なりとも自信はついていました。

また、仕事人生のピークを迎える時期に、会社の外で挑戦してみたい気持ちも少なからず湧きました。会社では業績目標が厳しく、どうしても目先の利益のために時間を費やす必要があり、将来の種まきとなるチャレンジングな仕事がなかなかできない。それなら、自由に挑戦してみたい、と思いました。

そこで、7年半ほど勤めた会社を辞めて、父の会社を引き継ぐことにしました。会社は1年前に結婚した妻と一緒に経営することにしました。両親の姿を見ていて、起業をするなら、夫婦で同じものを見た方が、家庭にも会社にも良いと感じていたんです。歯科医院でも、院長夫人が運営を手伝ってくれる方がうまくいきやすい、という実績もありました。コミュニケーションを円滑にしてくれたりと、女性の力が経営において重要な役割を果たすんです。

実際、妻は客観的な視点をくれたり、新しく採用した人の教育をサポートしてくれました。意見が食い違った時でも、妻なら前提の信頼感があるので、とことん話し合えます。自分の悩み全てを共有できる人が、家庭でも会社でも側にいてくれるのは、生きていく上で非常に良いことでした。

医療業界全体を良くしたい


独立してから10年。現在、私たち経営戦略研究所では、歯科専門のコンサルティングサービスを提供しています。他の業界にも展開できるサービスを提供していますが、歯科専門にしています。今は開業医向けの集客支援がメインですが、採用や訪問医療向けの支援など、他にも取り組むべきことがたくさんあるんです。

やりたいことの多さに比べて、コンサルタントがまだまだ足りません。現在は、7名体制ですが、2020年までに20名体制を組めるように、採用を強化しています。

また、夫婦経営を広める活動も始めています。夫婦で経営されている歯科医院向けに成功例を提案しながら、他の業界でも夫婦経営を取り入れてもらおうと思っています。私たち自身が夫婦経営の効果を実感しているので、まずは選択肢として考えてもらえたらと思いますね。

コンサルタントとして、医療業界全体に良い影響を与えられる仕事をしたいと考えています。この業界の中に入って驚いたのは、歯科医院のスタッフには、仕事への情熱がない人も多かったことです。業界の中に入るまでは、全ての医療従事者が熱い想いに駆られて仕事をしていると思っていましたが、幻想でした。

歯科医で働く歯科衛生士に、仕事を選んだ理由を聞くと、「安定しているから」「国家資格だから」と返ってきます。「仕事が楽しくない」と文句ばかり言う人も少なからずいました。実際、離職率も高いんです。

そんな状況では、診療される患者さんが可哀想です。いくら外部から「こんなことをしましょう」と言っても、実際に診療に関わる内部のスタッフが嫌々やっているなら、良い方向に向かいづらい。だらかこそ、働く人たちの仕事のスタンスが変わる必要があると感じています。

私は、支援先の歯科医院で働く人たちに、「何のために仕事をしているのか」を明確にするように働きかけています。生活のためだけでなく、仕事そのものに夢とか生きがいを持てたら、もっと生活が豊かになると話すんです。

もちろん、考え方を受け入れてもらえない人もいますが、仕事への向き合い方が変わる人が何割かいます。患者さんに意識が向くようになり、もっと良い治療を提供したい、患者さんのためになることをしたい、と考え始めてくれるんです。働く人の意識の変化は経営にも直結します。そう考えると、患者さんの数が増えることだけではなく、満足感を持って働くスタッフが増えることが、とても大事なんですよね。

私の仕事の目的は、「無限の人に、無限の気付きと無限の豊かさを提供する」こと。会社の理念も同じです。もちろん、クライアントの業績を上げることも大事ですが、それは経営者にとって大事なだけ。業績を上げるだけではなくて、クライアントのスタッフが幸せかどうかが大切だと考えています。

仕事の楽しさや働く意味を感じられる、幸せな人を増やしていく。売上が増えることがゴールではなく、関わる人すべてが幸せに、豊かになる。そういう価値を提供していく。それが、私が仕事を通じて実現したいことなんです。

2016.01.05

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