医学部の時には何故勉強するか分からない部分もあったのですが、卒業して実際に現場に立つと、人の命に直接関わることを実感し、ものすごく勉強するようになりました。病院の近くに住んで、家に寝に帰るか、当直室で寝るかという生活で、とにかく働き、勉強しました。世のため人のためになっている感覚や、何かに一生懸命になることの楽しさを感じながら、ひたすら仕事に没頭していました。さらに、父親へのライバル心から、もっと偉くなりたいという気持ちが原動力になり、論文を書いたり学会発表をしたりと、毎日忙しく過ごしました。

ある時、妻から、「そんなに偉くなってどうするの?」と言われました。答えに詰まってしまい、それからは思い悩むようになりました。好きなスポーツから離れてしまっていることに対しての寂しさも感じました。

そんなことを考えながら仕事をしていたある時、『パッチ・アダムス』という映画を見て衝撃を受けました。「お医者さんの映画だから」と気軽なノリで見たのですが、映画の中の医師が笑いを用いて人を元気にするのを見て、元気になることをサポートする医者がいるということに、本当に驚きました。「治すことだけが医者じゃないんだ」と。

それ以来、何度も映画を見直し、モデルとなった医師の講演会にも参加しました。その中で、人生には「質」があるということを学び、「QOL(Quality Of Life)」が自分のテーマとなりました。病気になった患者さんの治療をすることよりも、人が元気になるサポートをしたいと考えるようになっていきました。

パッチ・アダムスにとっての笑いは、自分にとって何なのだろうと考えると、思い浮かんだのがスポーツでした。私自身の経験からも、スポーツは、QOLの向上に役立つ素晴らしいものなのにも関わらず、それを結びつけて考えている人が少ないように感じました。ちょうど、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターという施設ができたこともあり、すぐに病院に辞表を出すことに決めました。

31歳という年齢もあり、周りからは驚かれましたが、偉くなることよりも好きなことをしたいという思いの方が勝りました。それからは、当直のアルバイトをして生活費を賄いながら、スポーツ医学の中でも、選手の怪我を治す整形外科とは異なる、ライフスタイル・マネジメントやコンディション・サポートと呼ばれる領域を学んでいきました。