アルパカのニットを通じて心も身体も暖かく。大量生産の時代に、手仕事で切り拓く多様性。

アルパカの繊維を用いた手編みニット商品のブランドを運営する吉田さん。 国際協力に関心を抱いた学生時代から、フェアトレードへの関心を通じてアパレル業界へ。個人で学生時代から続けていた活動で独立を決めた背景にはどのような思いがあったのでしょうか?

吉田 彩子

よしだ あやこ|アルパカの手編みニットブランド運営
株式会社碧嘉(ピッカ)ジャパンにて、アルパカの繊維を用いた手編みのニット商品のブランド「Maite(マイテ)」を運営する。

国際協力に関心を見いだした高校時代


私は埼玉県深谷市に生まれ育ちました。父は商社に勤めており出張が多い仕事をしていたため、「海外を見るべきだ」という意見から、中学2年の時に初めての海外旅行として、家族でアメリカに行きました。私自身はあまり話せないのにも関わらず、現地では周りの方がフレンドリーに接してもらえることにとても驚きました。特に、話す人が皆「将来は何になりたいの?」と尋ねてくるんです。それまではあまり考えたことがなかったのですが、それ以来ぼんやりと自らの進路について考えるようになりました。

そんな経験もあり、もっと海外の人たちと話が出来るようになりたいという思いから、高校生になり県内の女子校に進学してからは、新聞で募集がかかっていたオーストラリアへの3週間の語学留学のプログラムに申し込むことに決めました。

実際に現地を訪れてみると、日本とは異なる部分を知ることがとても楽しかったです。水は普通に飲めないし、お皿を洗剤で洗うのに流さない、算数の授業に参加する生徒の学年がバラバラというように、生活の中の小さな違いなのですが、様々なことに好奇心が湧きました。しかし、聞いてみたいという疑問は浮かぶものの、語学力が足りない状況。もっとコミュニケーションを取れるようになりたいという思いが募っていきました。

そんな中、ある時、図書館でたまたまUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のトップだった緒方貞子さんの本を見つけたんです。そして、その本の中で「国際協力」という分野があることを知りました。なんとなくテレビで目にすることはありながらも、詳細までは知らなかったため、途上国の現状を記した内容に触れて、「同じ人間なのに、こんなにも違う環境で生きている人がいるんだ」と驚きましたね。特に、政治的な事情等、個々人の理由や事情ではない部分で貧しい境遇に置かれていることは初めて知る所でした。

そして何より、国際協力分野で女性一人で戦うような日本人がいるんだということに感銘を受けました。私自身女子校にいたこともあり、女性が海外に出て活躍していくことに尊敬を抱いていたんです。

それ以来、海外への漠然とした興味は国際協力への関心に変わっていき、高校を卒業後はそういった分野が学べる環境を探し、津田塾大学の学芸学部国際関係学科に進学しました。

フェアトレードとの出会い、卒業後は社員4名の外資系企業へ


大学では国際協力に関心を持っている人が多く、学外でNPOに携わったり、学内外のイベントに参加したり、切磋琢磨して視野が広がっていきました。特に、国際協力の中でも何か分野を絞って掘ってみようと考えていたところ、フェアトレードに関心を抱くようになりました。

元々、所属していたゼミの教授が、ペルーで現地の貧困地域の方が編み物を作るプロジェクトを運営する方と知り合いで、その商品を日本で販売する活動をゼミで行うことになり、学園祭等での販売を始めました。その他にも、1年間休学してイギリスのフェアトレード認証団体でインターンをしたり、国内のフェアトレードを行うアパレル企業でもインターンを経験しました。

その後、就職活動の時期を迎えるも、大学院や非営利組織に関心があり、方向性を迷っていました。しかし、大学院は後からでも行けるという話や、非営利組織は新卒を採りにくいというアドバイスもいただき、まずは一般企業で経験を積もうと考えるようになっていきました。

ただ、どんな仕事が良いのか考えても分からないため、色々な業界を受けて周ると、なんとなく共感をしたのがメーカーでした。中でも、作り手さんと繋がることができる生産管理の部分に関心を抱くようになりました。実はフェアトレードに携わる中でも、一番興味があったのは現地の生産者の方とのコミュニケーションだったんです。海外では日本のものづくりが高く評価されていたこともあり、そんなものづくりに携わりたいという思いもありました。

そんな折、以前スタディツアーで出会った知人から、全社員が4人の、香港のアパレル会社の日本支社を紹介されました。大きな会社では出張や海外での勤務は数年後で、行ける場所も限られる中、ここだったらすぐ経験を積めると思えるような環境で、日本の大手アパレルブランドの生産管理に携われる業務にも惹かれ、その会社に入社を決めました。

入社してからは、商品ができるまでに必要なサンプル管理や本生産から納品までのフォローアップに携わるようになったのですが、とにかくやることが沢山ある中、英語ができても、そもそも日本語での意味が分からない専門用語が飛び交う環境で、自分は何も出来ないなと感じました。まずは業界の知識から勉強していき、スピード重視の環境で時には混乱したり涙を流したりしながら、必死に仕事に打ち込んでいきました。

28歳で訪れた機会、迷い無く独立を選択


そんな風に働いていると、会社の日本支社が閉じてしまうことになりました。事前に知らされたことで周りの同僚は転職していき、私も2年半という期間ではまだ未熟だからもっと経験を積みたいという思いがあり、転職を考えるようになりました。

そこで、アパレル関係の転職エージェントと相談もしながら、同じ生産管理の業務で、より営業力が求められる香港の会社に入社をすることに。より知識と経験が積める環境で、生産管理の仕事をやり切りたいという思いから、25歳のタイミングでの転職でした。

実際に働き始めてからは、前職よりも一人でみる仕事の範囲が広く、お客さんである大手ブランドの企画にもより深く携われて、仕事に対する責任も大きく感じるようになりました。上司にも恵まれて仕事にもやりがいを感じ、非常に働き易い環境で居心地良く感じましたね。

しかし通勤時間も長く、毎日帰宅が遅くなる生活が続き、子供ができてからもこの働き方は続けられるのだろうかと考えると、そうではない感覚があり、今後の身の振り方を考えるようになっていきました。

そんな時、大学卒業後も個人的に細々と続けていた、ペルーの編み物を日本に紹介する活動を応援してくれるという方が現れたんです。元々、完全な個人の活動として、マフラー等を自ら買い取って近所のカフェに置いてもらったり、興味がある友人に販売をしたりしていました。特に、社会人になる直前に生産地のペルーで作り手の方の現状を直接見てからは、「もっとできるはず」という感覚があったんです。編みたい人は多く技術も向上しているのに、管理や販路が整っていないということにもったいなさも感じていました。そんな背景から、利益のでない個人活動として行っていた活動に対して、ある方が、その方の関連会社で新規事業として試してみないかと声をかけていただいたんです。

転職して3年経った28歳のタイミングにその誘いをいただき、「やります!」とすぐに決めました。正直、全く事業計画等もありませんでしたが、チャンスが降ってきた時に、「ここでやらなかったらじゃあいつやるのか?」という思いが背中を押しました。自分と同世代の知人が突然亡くなったこともあり、自分の中で死を身近に感じていたことも一つの理由でした。そんな背景から、考える間もなく、やりたいことをやろうと決めたんです。

アルパカのニットを通じて心も身体も暖かく


それからは、Maite(マイテ)というブランドを立ち上げ、ペルーのアルパカの繊維を使ったニット製品の企画・販売を始めました。販売はオンラインストアを中心に行いながら、なるべくお客様と直接携わりたいという思いから、百貨店の催事などでもキャンペーンを行っています。

製品はマフラーやショール・ニット帽などの服飾雑貨が中心で、全てペルーで取れた糸を現地で編んでいます。作り手の方は現地の貧困地域で暮らす女性が中心となっています。

とはいえ、そういった文脈というよりも商品の特徴自体を評価して購入していただける方が多く、長持ちする素材であることや、空気を含む繊維であったかく、冷え性や寒がりの方が購入されるケースもあります。欧米では既にメジャーになっていますが、日本ではカシミヤほどの認知度がなく、「ちくちくするんじゃないか?」というイメージを持たれることもあります。だからこそ、催事等で直接触れて驚いて買っていただけるというケースもあります。

実際に自ら事業を始めてみて、拡大も改善も思ったように行かないことが沢山ありました。特に、現地では働くことの感覚が日本と異なるため、どこまで働くことを求めるかを悩むこともありました。また、アルパカ素材だけだと秋冬しか売れないこともあり、春夏はアクセサリー等の展開も始めていきました。

そうやって試行錯誤しながらも、実際にお客様が喜んでいるのが嬉しいですね。商品を買うだけでなく、背景を知って「大事にします」と言っていただける方もいらっしゃり、その話を作り手の方に伝えて喜んでもらえることが一番嬉しい瞬間です。

小さい頃からものへの愛着や関心が強く、大事に長く使うタイプだったこともあり、前職の時から使い捨てになりつつある大量生産にもったいなさを感じていました。だからこそ、現在の活動を通じて、手仕事の製品がずっと使ってもらえるような社会になってほしいという思いもあります。そうすることで、人も社会ももっと多様になっていいんじゃないのかなと思うんです。

今後もペルーのアルパカという切り口を使って、心も身体も暖かくなるような活動をしていきたいです。今は商品だけですが、イベント等も含め活動の幅を広げていき、多様性を受け入れる社会を作っていきたいです。

2015.12.02

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