ユーモアのあふれた社会作りに貢献する。多面的な背景で作り上げる、ここちよい生き方。

コーポレートブランディングを中心としたブランドコンサルティングファームにて働く傍ら、ユーモアのあふれた社会作りに貢献するというテーマで、サイエンティスト・マーケッター・クリエイターとして社外でのプロジェクトも進める大畑さん。「ここち」の研究を行う大畑さんが、ユーモアというキーワードで活動を始めるまでにはどのような背景があったのでしょうか?

大畑 慎治

おおはた しんじ|ブランドコンサルタント
ブランドコンサルティングファームで働く傍ら、サイエンティスト、マーケッター、クリエイターの共創による社会貢献団体「ここちすとスタジオ」の代表を務める。

科学者志望から一転、マーケティングの道へ


私は和歌山県和歌山市に生まれ育ちました。小さい頃から科学の本を読んだり、地域の自然に触れたりすることが好きで、将来は科学者になりたいと考えていました。学校では数学や化学が得意で、数学は自分の職業とするイメージが持てないのに対して、化学は白衣を着てフラスコを振って、更にはノーベル賞を受賞してという科学者のイメージを持つことができました。

そんな背景から、高校卒業後は大阪大学の工学部に進学しました。大学では更に化学に没頭していき、歩きながら本を読むことさえありました。それまで自分は勉強が好きだと思っていなかったのですが、そうではないことに気づきましたね。化学は色々な要素を組み合わせたパズルのような感覚が好きで、特に実験よりも机上の化学の方に関心がありました。逆に、細かい作業が得意ではなく、実験で試薬を少量(0.1mg)を計り分ける作業等は苦手でした。

その後、有機化学の分野の研究室に入り、新薬のベースとなる化学反応の研究や、光化学反応という世の中でまだあまり解明されていない分野の研究を行いました。そして、そのまま研究を続けたいという思いから卒業後は大学院への進学を決めました。

しかし、大学院で研究を続けていると、次第に実験をする前から答えが見えることに、物足りなさを感じるようになっていったんです。自分の思考よりも実際の反応結果が出る方が遅く、やりたいことばかり膨らんでいく状況でした。解が見えていないものを解いていくということに面白さを感じていたので、刺激が足りない感覚を抱くようになりました。

ちょうどそんなタイミングで就職活動が始まり、色々な会社の説明会を回る機会がありました。初めは日常生活で目にする事が多い食品や化粧品の分野の研究者を志望していたのですが、ある時、たまたま話を聞いた広告代理店の説明会で、「ヒトと広告の関係は化学反応と似ている」と感じ、興味を持ち始めました。ヒトの化学反応には同一の反応が無く、内容もより一層複雑であるが故に、それを解いていく楽しみが大きいように思えたんです。また、ヒトや社会は変わり続けるため、化学反応も変わり続ける。「マーケティングの様な分野は一生を投じるに値する分野じゃないかな」と感じました。そして特に、イメージの世界であるブランディングに関心を抱くようになりました。

とはいえ、これまで学んできた化学の分野でどれだけ活躍できるのか一度は社会で挑戦してみたいという思いもあったため、片足は自分の強みである化学で社会に貢献し、もう片足は業務を通じて新たな領域を学ぼうと考え、卒業後はインテリアメーカーの研究職で働くことに決めました。消費者向けで化学が行かせる領域、かつトレンドやクリエイティブが強そうなところという基準で絞り込んでいった結果、インテリアの分野に決めました。

「ここち」の研究で見いだした、ユーモアというキーワード


入社社後は世の中のありとあらゆる技術を調査して商品開発に活用していくチームで、サイエンティストとして業務に携わるようになりました。例えば、全く汚れない技術処理等、展示会や学会で技術シーズを見つけてきて商品開発に活かす仕事で、サイエンスが軸にありながらビジネス思考も鍛えられる分野で非常に充実感がありました。

そして、仕事を続けるうちに、今後、途上国が発展しても自社の競争優位性を持てるものはなんだろうと考えた結果、「ここち」の研究を始めるようになりました。快適さを生む要素を研究することは市場での大きな価値につながっていくという思いがあったんです。ところが、社内ではお金になるか分からないという意見もあり、当初は有休を取って自費で学会に参加することもありました。

それでも、協力して頂ける大学教授の方々やコンサルタントの方々との出会いもあり、途中からは社内公認の業務として研究を実施できるようになりました。さらに、公的なプロジェクトに参加させていただいたり、学会で発表をしたり、セミナーや講演などの機会をいただいたり、社外での活動も増えていきました。自分の経験や学びを発信していくことに手応えや自信を掴んでいきました。

また、ここちの研究をしていると、人の幸せについて議論することが多く、中でも、「ユーモア」は人の心を豊かにするのではないかと感じるようになりました。元々、ここちの良さにはマイナスからゼロに戻る「不満の除去」とゼロからプラスを得る「満足の付与」の2パターンがあり、日常のここちの良さの多くは前者の「不満の除去」です。例えば、「忙しいから日曜日が楽しい」、「お腹が空いたからご飯が美味しい」というような。そして、ここちには「一様なものや状態は飽きてここちが悪くなっていく」という特性もあります。そう考えた時に、日常の不満である一様さに変化をもたらし、アクセントとしてここちの良さに寄与する「ユーモア」を、大きなテーマとして意識するようになりました。

10年×4タームのキャリア計画、ブランディングの道へ


研究と並行して、仕事ではより一層ビジネスの世界に入りこんでいきました。自分の研究がどうやって社会に生きるのか考えるためにも、週1冊は必ずマーケティングの本等を読み、仕事の内容としても次第に企画やマーケティングが増えていきました。

しかし、元々サイエンティストとして入社している分、企画やマーケティングのプロとしては見てもらえない感覚もあり、「こんなに勉強をしているのに」と悔しさを感じることもありました。そこで、マーケティングのプロとしての更なる一歩を踏み出すために、仕事を続けながら大学院に通い、MBAを取得しました。
また同時に、戦略コンサルへの転職も考えたものの、そちらは途中で考えが変わってきました。世界を代表する外資系戦略コンサルティングファームの方々とのディスカッションはいつも刺激的でしたが、それでも何かモノ足りない。もっと感性とロジックが融合している領域の方が、プロとして大きく活躍できるという実感が強くなり、自分のキャリアの軸をブランディングにしようと決めました。

それからは引き続きインテリアメーカーで新製品や新規事業に携わり、社会人になってから10年を迎えました。元々、学生時代にキャリアを考えた際に、10年×4タームでキャリアを築いていこうという計画がありました。最初の10年は自らの強みである化学の知識で会社に貢献しながら、徐々にビジネス(マーケティング)の分野にシフトしていくことを考えており、次の10年はぼんやりとですが、学術と産業の2つの領域をまたにかけて、互いに効果的なフィードバックをさせるような働き方ができたらと考えていました。

実際に10年が経ち、思った以上にビジネスの分野に携わらせてもらうことができ、社内ではとても良い環境で働かせてもらっていましたが、会社の期待としては研究職やエンジニアのリーダーを目指して欲しいという側面も強く、「ここでブランディングのプロになるのは難しいかもしれない」という感覚もありました。

そこで、悩んだ結果、ブランドコンサルティングファームの戦略プランナーに転身することに決めました。

人がここちよく生きていくために、ユーモアのあふれた社会作りを


現在はブランドコンサルティングファームにて、大企業のコーポレートブランディングに携わっています。企業理念やブランドコンセプトの開発、それらを訴求するための社内への浸透の計画や社外プロモーションの計画、グローバルブランディングの様な戦略の策定から、ロゴやステイトメント、商品や店舗、広告・動画・ウェブサイトの様なアイテムの制作まで、経営戦略に基づいた企業ブランディングの一連をコンサルティングしています。

また、ユーモアにあふれた社会作りに貢献するという自分のテーマに基づき、サイエンティスト、マーケッター、クリエイターの共創による社会貢献活動をする団体「ここちすとスタジオ」の代表を務めています。

例えば、東京で忙しく働いている人のメンタルヘルスに貢献したいという思いから、「ここちくん」というキャラクターが登場する絵本を作り、カフェや公共の場所で置いてもらっています。他にも、忙しい方々の心の癒しに少しでも繋がればと思い、ラインスタンプや4コマ漫画を作って配信等も行っています。また、ここちすとブログでは、私の専門であった脳化学のトリビアみたいなものを、ここちくんで小難しさを緩和しながら伝えたりしています。

また、自分が目指す社会を実現するためには、クリエイターの方々の活躍が重要であると考え、クリエイターのための駆け込み寺のような活動も始めました。周りの知人でも、ビジネス活動が苦手なクリエイターが多いため、ボランティアで右脳派のためのロジカルシンキング講座を開いています。クリエイターの方々がもっとうまく自分たちの価値をプレゼンできると、もっと世の中で活躍できるという思いがあるのですが、彼らはロジックの必要性を感じながらを毛嫌いをしている所もあるので、直感的にロジックを体得できるプログラムと場を提供したいという思いで立ち上げました。

どの活動も、ユーモアのあふれた社会作りに貢献したいという思いが根底にあり、本業では活かしにくい知識や経験を社外で活用したり、反対に社外の経験を本業に生かしたりし、本業と社外の相乗効果を生み出しながら活動を続けています。また、まだ実現できていませんが、今後は学術と産業のサイクルも回せるようにしていきたいですね。自分の強みを生かしながら新たなことも学んでいき、次の10年も活動のインパクトを大きくしていきたいです。

2015.12.01

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