アウトドアスポーツをもっと楽しく!
どんな瞬間でも気軽に話せるデバイスで。

ウェアラブルトランシーバー「BONX(ボンクス)」の開発を行う宮坂さん。ものづくりの経験もなく、エンジニアでもなかったのに、なぜウェアラブルデバイスの開発を始めたのか。お話を伺いました。

宮坂 貴大

みやさか たかひろ|ウェアラブルトランシーバーの開発
ウェアラブルデバイス「BONX」を開発するchikeiの代表取締役を務める。

価値観を広げてくれた海外での出会い


僕は神奈川県川崎市で生まれ育ちました。勉強はわりと得意な方で、中学受験して私立の中高一貫校に進学。将来は、サラリーマンにはなりたくないと、何となく思っていました。

高校2年生の時に、海外旅行に行くために初めて飛行機に乗りました。その時、「空を飛ぶのってすごいな」と感じ、深く考えずに将来はパイロットになろうと決めました。パイロットなら、サラリーマンっぽくない働き方だとも感じたんです。ただ、進学校に通っていたこともあり、大学は航空大学ではなく、色々勉強できそうな文系の大学に進みました。

将来は英語を使うだろうし、自分の世界を広げたいと思っていたので、大学4年生の1年間は交換留学に行こうと考えていましたが、その前の3年生の夏に、3週間ほど海外へ一人旅に出ることにしました。スノーボードが好きだったので、行き先は日本の夏にスノーボードができるニュージーランドにしました。

しかし、現地には想像以上に日本人が多くて、最初はげんなりしてしまいました。雪山に人生を懸けているような人が集まっていて、小さな町に100人以上は日本人がいたんです。何のために海外に旅に出たのかと思いましたね。

ところが、そこにいた人たちは、これまで自分が出会ったことがない価値観を持っていて、大きな衝撃を受けました。テストで高い点数が取れるとか、お金を多く稼げるとかではなくて、「自分のスタイルを持つ人」がカッコいいという空気。みんな自分の軸を持っていたんです。それも、「将来の仕事のために」というキャリア的な思考ではないんですよね。

そんな人たちと話すと、今までいかに狭い価値観の中で生きていたかを実感し、見えていた世界がガラッと変わりました。また、彼らは生き方だけでなく、スノーボーをする姿もとにかくカッコよくて、僕自身、彼らのようになりたいと思いました。

スノーボードを続けるための休学と院進学


留学もスノーボードを軸に考え、ニュージーランドに行くことにしました。夏学期に授業を詰め込み、冬には3ヶ月ほど雪山に篭っていました。うまくなりたくて、メーカーやスノーボードショップからウェアやボードを協賛して貰える「ライダー」のレベルを目指していたんです。

一方で、留学中は大学受験以上に勉強もしましたし、世界中の人と触れ合うことで、視野も広がっていきました。その中で、やっぱりパイロットは自分には向いていないと気づきました。

しかし、他にやりたいことは見つかりませんでした。この時、人生で初めて「自分は深刻に悩んでいる」と気づきました。それまでは深く悩むことは無かったのに、将来どんなことをしたいかと、存在意義を問われる質問に答えられなかったんです。

将来のことに答えは出ないものの、スノーボードはできる限り続けたいという思いははっきりしていました。そこで、大学を休学して、冬は日本で、夏は南半球の国で山に篭もることにしたんです。春や秋にはアルバイトをしてお金を溜めたり、将来何をしたいのか見つけるために勉強をしていました。環境や健康に興味を持ち、農学部で一学期間に18コマも授業に出たりしていましたね。

さらに、子どもにフィールドスポーツを教えながら環境教育も行うNPOに参加することにしました。ただ、そんな生活を1年半ほど続けても、やりたいことは見つからないし、スノーボード中心の生活はまだ続けたいと考えていたので、大学院に進学することにしました。

しかし、進学先の研究室も決まって冬山に篭っている時に、彼女の妊娠が発覚したんです。子どもは大好きでしたが、正直、スノーボード中心の自由な生活が終わることには抵抗もありました。でも、実際に子どもが生まれて顔を見た瞬間、それまでのネガティブな感情は一気に吹き飛びました。かわいい顔を見たら何とかなると思えたんです。

「GoPro」の創業ストーリーから着想を得て


山に篭もる生活に終止符が打たれ、大学院では、興味があった農業に打ち込みました。仲間と農家を手伝いに行ったり、自分の畑を耕したりしていました。そんな中で、ある新しい農法に出会い、その農法を世界に広めることが、自分のすべきことだと感じたんです。

世界中に広めるためには事業化しなければならない。そこで、ビジネスの力をつけるために、大学院卒業後は外資系コンサルティングファームに入りました。

しかし、働き始めて半年ほどした時に、その農法はすぐには実現できないことが分かってきました。そのため、コンサルティングの仕事を続けながらも、長期休みなど考える時間があると、「自分は何をしたいんだろう」と悩むことも多くあり、何かできないかとアイディアは考え続けていました。

そんな思いを抱きながら3年ほど働いていたある時、ウェアラブルカメラ「GoPro」の創業ストーリーを知りました。創業者がサーフトリップに行った時、自分が波に乗っている時の様子を手軽に撮影できないことに気づき、もっと簡単に撮影できるようにするため、サーフィンしている本人が身につけられるカメラを作ったという話でした。

その話を知って、僕もスノーボードをしている時に、「こうしたらもっと楽しくなる」と潜在的には思っているけど、気づけていないことがあるのではと考えました。そして、その週末にスノーボードに行くと、たまたまGoPro米国本社の社員と出くわして一緒に滑ることになり、何だか強い縁を感じたんですよね。

そこで自分の経験を振り返って考えてみると、スノーボードをしている時、「滑りながら喋れない」ことが大きなストレスになっていることに気づきました。仲間と一緒に滑っている時に、どっちのルートに進むかも言葉では指示を出せないし、仲間を見失ったら見つけるのも大変。時には命の危険も伴います。

また、単純に、気軽に喋りながら滑れたら、もっと面白くなるとも感じていました。ゲレンデ脇の地形などで何か技を決めた時に、普段の会話のように「今の見た?」「カッコいい!」と言い合えたら良いだろうと。

そこで、耳に装着することで、スノーボードをしながらも普段通りに会話ができる「ウェアラブルトランシーバー」を開発しようと決め、3年ほど働いた会社を辞めることにしました。一足早く起業した先輩を見ていると、大変そうだけど何とかなっているし、勢いは大切だと感じたので、すぐに決断しました。家族が全面的にサポートしてくれたことも僕の背中を大きく押してくれましたね。

未経験からのものづくりでの起業


ものづくりに関わったこともなければ、エンジニアでもなかったので、どうしたら製品が作れるかはよく分かりませんでした。それでも、まずは、アイディアが実現可能なのか調べるために、様々な原理検証をしていきました。

例えば、雪山で滑っている時はスピードが出るので、その中でも風の音に邪魔されずに会話できるのかの検証など、一つひとつ実際に試していくんです。ハンダゴテを使い、検証用のマイクも自作していましたね。

ひとりではできない実験もあり、周りの人に協力してもらったり、ロボットの開発をしている人や、製造の知識がある人にアドバイザーになってもらったりもしました。また、国の機関から助成金をもらえることになって、貯金もなく3人の子どもを育てながら起業した僕は、かなり助けられましたね。

そして半年ほど経った時に、ずっと探していた、技術のわかるビジネスパートナーと巡り合いました。ある時、ふたりで自転車をこぎながら試作品で会話をすると、普段通りに話すのと近い感覚を持つことができて、「この体験だ」と完成品のイメージが強く湧きました。

また、スノーボードに行った時に、スマートフォンのトランシーバーアプリを使って、簡易的に話しながらみんなで滑ってみると、新感覚ですごい楽しかったんです。これは絶対にいけると、確信を持てた瞬間でした。知り合いのプロスノーボーダーの人にアイディアを話しても好感触だったので、後は、実際に質の高い製品を作るだけでした。

ユーザーの反応が分かる売り方


そして、最初の構想から1年半ほど経った2015年10月、ウェアラブルトランシーバー「BONX(ボンクス)」を正式に発表しました。元々、最初から世界展開しようと考えていました。ただ、日本発の製品ということもあり、世界で発売する前に日本でのコミュニティを作ったら良いのではとアドバイスをもらい、まずは日本でクラウドファンディングをすることにしました。

絶対に良いものだと思っていたものの、本当に世の中の人に求められるかは、不安もありました。ところが、クラウドファンディングには想像以上の反響があり、1週間で500人以上の人から、800万円以上の資金の支援をしてもらえたんです。

「期待してます」とか、「こういうものを待っていました」とコメントをもらえるだけでも、すごく嬉しいですね。お店で販売しているだけだったら、どんな反応をしてもらえているのか分かりづらいですから。

また、元々はスノーボードやスキーなど、ウィンタースポーツでの利用シーンを考えていたのですが、「釣りで使いたい」など、ユーザーが使い方も提案してくれて、発想もどんどん広がっています。雪山という過酷な状況でも使えるように製品を作っているので、色々なシーンで使えると思います。

まだ出荷前なので、実際に商品を使ってもらわないと本当の反応は分からないという不安はもちろんあります。ただ、海外に進出したり、製品をどんどん進化させていったりと、これからのことを考えると興奮しますね。スポーツのシーンに限らず、「どういう瞬間でも快適に話せる」というものは普遍的に求められていると感じるので、この軸を中心として事業は展開していきます。

昔から抱いていた、スノーボードを続けたい気持ちと、社会の役に立ちたい気持ちが、今やっと融合した感覚です。この会社で独立してからは、スノーボードの幅も広がって、家族との時間も増えて、会社で働いていた時よりライフスタイルも理想に近いものになりました。

スノーボードにかぎらず、スケートボードやサーフィンなど、「横ノリ」のスポーツ全般は深めていきたいと思っています。遊んでいる時の身体感覚だけでなく、そのスポーツが持つカルチャーも含めて好きなんです。そして、3人の息子と一緒に海や山で遊ぶのが、僕の夢の一つです。

BONXを通じて、フィールドスポーツをより楽しいものに変えていきつつ、僕自身も起業家として楽しく生きていければ、それ以上言うことはないです。

2015.11.10

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